教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

デジタルハリウッド 近未来教育フォーラム イベントレポート No.3(2024年11月30日)

 2024年11月30日にデジタルハリウッド大学 駿河台キャンパスで開催された、「近未来教育フォーラム2024 The Great Transition ~ポストAIは来ない~」に参加しました。今回の近未来教育フォーラムのプログラムは、ブレイクアウトセッション、キーノート(プレゼンテーションとトークセッション)となっていました。

 最後のプログラムであるキーノートトークセッションに、AIエンジニア・起業家・SF作家である安野貴博さんと、筑波大学システム情報系 准教授/株式会社ConnectSphere代表取締役の岡瑞起 先生、デジタルハリウッド大学大学院 卓越教授の藤井直敬 先生が登壇されました。トークセッションの様子をまとめて共有します。

 トークセッションの最初に藤井先生が、「今回のタイトルにあるGreat Transitionはわかるけど、ポストAIがこない、ってどういう意味ですか?」と(杉山知之)学長に訊いたら、社会に実装されたらそれが変わることはあっても環境の一つになるからポスト○○とは言わないよね、と言われたという話をされました。AIは社会に実装されて環境の一つになる時代を見据えてのテーマなのだと感じます。

これからの教育について

 最初のテーマは、これからの教育についてでした。AIが社会に実装されて環境になる時代を見据えながら、いまの高等教育の現場の話も多く出たセッションでした。

  • これからの教育、人を作るということに関して、どう考えていますか?(藤井先生)
  • 最終的に人間に求められる能力は、2つくらいかと思っていて。一つは言語化能力。AIに言語でこうやってくれ、というのを伝えられればできることは増えていく。PCを操作してくれたり、ロボットができれば物理世界にも広がっていく。人間は言語化すること。もう一つは、「何をしたいんだ」と目的を持ち、示すこと。「ゴールはあっちだ」と方向性を決めること。教育はこの2つの能力を重視した方がいいと思う。(安野さん)
  • 言語化は非常に重要だと思う。最近、学生を教えていて卒論指導をしていると、読んでいて何かは書いてあるし、文法的にも正しいんだけど、中身がなくて何を言いたいのかが分からない。明らかにChatGPTを使って書いている。でも、ChatGPTが書いたことについて自分の理解がついてきていないのに、そのまま出してくる。言語化に、身体性というのをトレーニングとしてやらないといけない。一度自分の中に入れることが必要になる。(岡先生)
  • 体験がない言葉の連なりは空虚だ(藤井先生)
  • 「インターネットで調べた言葉は自分の言葉ではない」「自分の筆で書いていないものは自分で書いた言葉ではない」ということはこれまでも言われてきていた。いずれAIが書いたこともわからなくなるだろうと思う。適当にAIを使っていても何も困らなくなる時代が来ると思う(安野さん)
  • 大規模言語モデルの中に、身体的な情報が入っているという噂がある。43箇所の関節が動くアンドロイドにプロンプトで動作などを送ってもちゃんと動いたりする。身体の制約、身体情報も、人が書く文章の中に入っているから、身体性が埋め込まれている。今はその身体性を取り出せていないからハルシネーションが起こるが、これも解決できるかもしれない(岡先生)
  • AIの学習は今は人が準備しているけど、それを野に放って奴らが学んでいく、というのは可能ですか?(藤井先生)
  • 可能だと思う。インターネットでボットがOJTする。(岡先生)
  • 今どう感じているかは学習できる。子どもが泣いているときに、なんで泣いているかを大人が助けてあげないと、悔しいからなのかもっと頑張りたかったのかが分からない。AIにもそういった意味での訓練が可能かもしれない。そのレベルでの感情も訓練できると思うし、なんならAIのほうが得意かも(岡先生)
  • 「感情っぽいもの」はトレーニングできる。でも、それは「感情を持っている」とは別のもの。AIに「意識があるのか?」と訊いたら「ない」と答えが返ってくるのは、そう答えるようにトレーニングをされているから。(安野さん)
  • AIネイティブの子たちは、「これは人として扱っていいのか?」みたいな疑問はもたないのかもしれない。そんな時、教員は何をやればいいんだろうね?(藤井先生)
  • Howを教えるというよりも、目的を教えることの方が重要だと思う。目の前で自分の数十年後くらいの年齢の人が、モチベーションをもっているのを直接見せることが大事だと思う(安野さん)
  • 知識を与えるのはAIの方が得意。論文の書き方を毎年教えているけれど、それはAIのプロンプトを擁してBot化したらいい。「先生が忙しそうだったので聞けませんでした」もなくなる。知識を与える部分やHowを伝える部分はAIに代わってもらう(岡先生)
  • プログラミングと英語の話す領域は、AIをすごく使っている。未踏スーパークリエイターは、プログラムでエラーが出たらChatGPTにどんどん訊いている。情報の先生よりも回答の精度が高い。最高の先生がいるというのがここまで影響を与えるんだと感じるのが、プログラミング教育。(安野さん)
  • プログラマの人たちが、AIで作って、どうなってるか分からないまま納品しているケースもありますよね。中身がよく分からない状態で。(藤井先生)
  • それも過渡期的なものだと思います。5年くらい放っておけば勝手に治るのではないかと思います。(安野さん)

学校がクリエイティビティを育てるためにAIとやれること

 続いて、学校がクリエイティビティを育てるためにAIと一緒にやれることについて話が進んでいきました。

  • デジタルハリウッドは、新しいことを身につけてクリエイティブをみんなに届けるんだ、ということをしている。学校としてクリエイティビティをどのように育んで発展させるか、というのをAIと一緒にやるのはどういった可能性がありますかね?(藤井先生)
  • AIは自分から何かをしない。いまの所、こちらが最初の一手を出して、そのフィードバックを通じて作っていく。AIの時代になって、評価軸が決まっているものは全部自動化した方がよくなる。「誰にも評価されない」という人は、そこに評価軸がないわけだからAIには評価できないし、評価できるのはあなただけだ。すごく狭い範囲の人たちしか評価できない、小さく始まったことに、たくさんの人が寄ってきて、そこに評価軸ができていく、みたいな希望があるのではないか(岡先生)
  • ビジネスとかデザインとかサイエンスと呼ばれているものに関しては、AIによる自動化が働くけれど、アートと呼ばれている営みについては、人間がモチベーションを持って「これをやりたいんだ」というところから始まる。教育機関は、今の美大がやっているような美術教育を取り入れていく、というのは一つの方向性かと思う。(安野さん)
  • クリエイティビティは生活すべてに発揮されるもの。これから大事になるのは「良い問いを作ること」。クリエイティビティとは「良い問いを作ること」。良い問いを作れたら、周りに人が集まってくる。それは人生のあらゆる面で言えること。これからは哲学が大事だと思う。AIは何もしてくれないから、僕らがどう生きていくかを考えなければいけない。(藤井先生)
  • アイデンティティの置き方をAIは破壊しうると思う。AIがアイデンティティを奪うこともある。「でも、あなたはこう考えたらいいじゃない?」とマインドチェンジできるようにするのは、教育ができること(安野さん)
  • 大学がまさにアイデンティティクライシスを迎えている。「高度な知識を与えるところ」という大学のアイデンティティは揺らいでいる。小中学校では、読み書きができてAIと話せるような人にならないといけない。どちらかというと、高等教育の方が深刻だ。急に美術教育ができる学校にはなれないし。(岡先生)

Q&Aから

 トークセッションの終盤では、参加者との質疑応答の時間がありました。やりとりをまとめてみました。

  • 【質問】体験をAIで再現できるようになっても、「会う」という重要性は変わらないですか?
    • メタバース環境でもけっこうなレベルまではいける。身体性を伴うものといえば、一緒にスポーツするとか、近距離で話すとか、そういうのはまだまだできないですけど(安野さん)
    • アバター上とかバーチャルリアリティだと、他のことと並行でできる。内職したりとか。リアルな場であれば、目があったら聞かないといけないとか、意図していない情報を発信していたりとか、リアルな場でのリッチさはまだ再現できないかも。あと、人間は近くにいきたいと思う(岡先生)
    • バーチャルな場では、フィルターバブルもあるので、それぞれのバイアスがある。(安野さん)
  • 【質問】セレンディピティの隠れた法則がOpen-endednessの研究から見つかる可能性はありますか?
    • 研究をしていると、すべての文献を読んでもレビュー論文も書いても、答えはそこにはなくて全然違うところにあった、ということがある。関係のない講義に出ていたり、遊んでいたりする時間がヒントになることも。大事なのは、その分野にダイブインして、それについて議論すること。「どう作るか」のHowに落とし込んではいけない。AIよりも前のクリエイティビティについて語られる言葉の中にある。(岡先生)
  • 【質問】誰もがブロードリスニングができたら、民主主義のアップデートはできますか?
    • 情報技術の発達によって民主主義のアップデートはできると思う。「住民10万人が境界で、そこを越えると政治は全然違う」と言われた。1ホップで全員に届くかどうか。10万人くらいで効果的に意思決定するというのができなくなっていると思う。ここに対する解決策をテクノロジーで作れると思っている。今回作った仕組みは、オープンソースにしているので誰でも使っていいよ、というふうにしている。(安野さん)
  • 【質問】生成AIを導入することは、表面的な理解に止まりがちになってしまう懸念もあると思いますが、いかがでしょうか?
    • AIは単なるプラットフォーム。スマホで言えばOS。AIスタートアップも自前のAIを作っていない。(藤井先生)
    • 裏側を理解しようと思えば難しいけれど、ユーザーとして使うならば誰でも使える。すごく使ってChatGPTの身体性を得られれば、使えば使うほど、一緒に時間を過ごすほど、AIも現象なので理解が進む。(岡先生)
    • AIを現象だと思えば、観察すればするほど見えてくる。火の現象も理解はしていないけど、人間は火を使って料理ができる。「中身を理解する」というのと「使える」というのは別のこと(安野さん)
    • 自然は、学ばないと、接しないと、その中にいないと、理解できない。それは専門家とか関係ないと思う(岡先生)

 4つ目の質問への回答、「AIは現象」なので、使えば使うほど理解が進む、ということと、「中身を理解する」というのと「使える」というのは別のこと、という回答が心に残りました。
 そう考えると、学校でも生成AIを使う時間を増やして、「AIとはどういうものなのか」を子どもたちが観察できるようにしないといけないな、と感じました。火を使って料理をするたとえを安野さんはおっしゃっていましたが、それにはまだまだほど遠いのが現状です(AIどころか、プログラミング教育だってまだそこまでは行っていないし…)。
 AIとどういう出会わせ方を準備するのがいいのかを考えていきたいなと思いました。

登壇者3人の感想

 最後に登壇された3人からの感想をまとめました。まだまだAIについての社会実装も議論も途上なのだ、ということを3人ともおっしゃっていたように思います。

  • ネガティブな要素がない話ができてよかった。僕らが持っているテクノロジーを使って明るい未来をどう作るか。ポジティブな気持ちしか持っていない三人での話だった。AIはすでにあるんだからしょうがないんで、使っていくしかない。たくさん使って、より良い未来を作る、そういう気持ちで向き合うのがいい。(藤井先生)
  • AIをわかったふうに話しているけど、今のAIの進むスピードの速さ、解析されっぷりを考えると、最先端の研究者もいま何が起こっているのかわかっていないと思う。全人類が置いて行かれていると思っている。最先端の研究者と我々とみなさんの間に大きな差はないと思っている。(安野さん)
  • 「AI大好き」なフィルターバブルの中にいるけれど、「いまのAIは、一部の人が騒いでいて、本当に必要なところで何の貢献もしていない」と言うアンチAIの人たちもいる。倫理のことも後付けで入っていくし。技術を作るところから、多くの人が参加することは大事だし、アンチAIの人もその場にいることが重要だと思う。(岡先生)

気づきと感想

 キーノートトークセッションでは、教育や学校とAIを結びつけた話が多くされたので、いろいろと考えさせられました。初等教育・中等教育での生成AIの活用の仕方を考えるときに、「どう使うか(How)」のところに小さくまとまらないようにしないといけないような気持ちになりました。

(為田)