L. デビッド・マルケ『最後は言い方 これだけでチームが活きる究極のスキル』を読みました。原題は「Leadership Is Language」で、現代の組織での仕事の仕方には赤ワークと青ワークの2つがあり、それを理解しないとチームが活きない、ということが書かれている本です。
ビジネス本ではありますが、学校組織の運営にはもちろん、クラスでの授業の組み立て方にも応用できるところがたくさんあるように思いました。章ごとに僕がとった読書メモを共有したいと思います。興味ある方は、ぜひ原典にあたってみてください。
序章 優秀なプレイヤーが優秀なリーダーに変わるとき
序章で、組織(チーム)の中でのリーダーのあり方が変わってきているということが説明されます。産業革命期の工場労働をしていた時代と、いまはどう変わってきているのかが書かれています。読んでみると、「いや、工場でなくても、いまのオフィスワーカーだって、昔のやり方そのまんまなところは多いな…」と思いました。
私たちには、産業革命期の組織のやり方が染みついている。
当時の組織は、働く人々をリーダーとリーダーに付き従う部下、つまりは決断する者と実行する者に分断していた。
決断する者と実行する者が分かれていたため、リーダーは、部下が決定に関与しなかった仕事や、彼らが「受け入れたわけでもない」仕事を実行させる必要があった。必然的に、強要が求められたのだ。
一方、部下から出される意見のバリエーション=異なった意見は、敵とみなされた。
工場労働では、結果を出すために、できる限りの一貫性が必要とされるからだ。よって、そこで使われる言葉も、自然とバリエーションを減らす方向のものが定着していった。
そして、限られた労働時間により多くの作業をねじ込ませ続けた結果、人々はつねに「時計に従う(時間に追われる)」という感覚にとらわれるようになった。
だが、いまはそのすべてを変える必要がある。組織が生き残るには、実行する者は同時に決断する者にもならないといけない。私たちに染みついた過去のリーダーシップのあり方を根本から変える必要があるということだ。(p.7-8)
かつて、「決断する者と実行する者が分かれていたため、(略)必然的に、強要が求められたのだ」というところ、なるほどなー、と思いつつ、「でも大きい組織になればなるほど、決断する者と実行する者は分かれるじゃないか!?」と読み進めていきます。
続けて、「リーダーとなる人のための6つの新しいやり方」が、古いやり方と対比して並べられていました。そして、「どのやり方にも、要となる言葉遣いがある」(p.9)と書かれています。これが、この本のタイトルにもなっている「最後は言い方」に繋がります。
リーダーとなる人のための6つの新しいやり方(p.8-9)
- 時計を支配する(古いやり方:時計に従う)
- 連携をとる(古いやり方:強要する)
- 責任感を自覚して取り組む(古いやり方:服従する)
- 事前に定めた目標を達成したら区切りをつける(古いやり方:終わりを決めずに続行する)
- 成果を改善する(古いやり方:能力を証明する)
- 垣根を越えてつながる(古いやり方:自分の役割に同化する)
第1章 古いリーダーシップで使われる言葉
古いリーダーシップで使われる言葉を具体的に読者が想像できるように、沈没した貨物船での船長と船員たちのやりとりが紹介されています。そのなかで、どういう言葉遣いをすべきだったか/すべきでなかったか、が描かれます。
人は他者がすべきことにばかり目を向けがちだ。自分の行動を変える努力に時間を費やすより、他者に行動を押しつけるほうが簡単で、認知機能を使わずにすむ。
耳を傾ける気などない態度を示しておきながら意見を募る、というのもその一例だ。
周囲に発言を促そうが、「ためらわずに進路を変えろ」と「権限の移譲」まで行おうが、トップダウンで決まる環境下では、効果は見込めない。
リーダーがそうした発言をするのは、自分の良心を満たすためだ。それに、失敗したときに、発言を促したのに誰も意見しなかったと周囲のせいにできる。
だが、リーダーシップとは周囲のために力を発揮することなので、リーダーがまわりを責めることがあってはならない。他者の人生に影響を及ぼす自らの言葉と行動にひたすら責任を持つ、それがリーダーの務めである。(p.22-23)
「耳を傾ける気などない態度を示しておきながら意見を募る」とかは、何人かで取り組むプロジェクトで自分でリーダーをしたことがあるので、自分もそうでなかっただろうか?と考えてしまいました。発言をみんなに促すけど、自分のやりたいようにやっていたりしていないだろうか?そして、それは「失敗したときに、発言を促したのに誰も意見しなかったと周囲のせいにできる」と書かれていて、ものすごく刺さりました…。
第2章 上からの圧力と忖度の空気を壊すには
第1章で説明された「古いリーダーシップ」で運営されている組織では、「上からの圧力と忖度の空気」に支配されることになります。その空気を壊すために、反対意見(バリエーション)をどう捉えるかということが書かれています。ここでも、「決断する仕事」をする人と「実行する仕事」をする人にとって、反対意見の捉え方が反対になる、と書かれていました。そのうえで、決断する仕事を「青ワーク」、実行する仕事を「赤ワーク」と分けて呼んでいきます。
意思決定(考えること)と実行(行動すること)は種類が異なる仕事であり、バリエーションのとらえ方も正反対になる。
よって、意思決定と実行ではまったく異なる頭の使い方が必要になり、使う言葉の種類も変わる。自分がどちらの仕事をしているかを判別する呼び名があると便利だ。
そこで、バリエーションを歓迎する、考える仕事や意思決定を行う仕事を「青ワーク」と呼ぶことにしよう。
一方、バリエーションを抑える必要のある、実行する仕事を「赤ワーク」と呼ぶことにしよう。
実行に「赤ワーク」と名づけたのは、赤が活力や決意を表す色だからで、思考に「青ワーク」と名づけたのは、青が冷静さや創造性を表す色だからだ。
仕事を進めるには、赤ワーク、青ワークのどちらかだけでは不十分だ。どちらも適切な量を行う必要がある。そのバランスを見つけて、両方を効果的に行うために、チームとして意図的に仕事のやり方を変える必要がある。
赤ワークから青ワークへ、あるいは青ワークから赤ワークへと、意識して仕事のモードを切り替えるのだ。(p.41-42)
この、赤ワークから青ワークへ、青ワークから赤ワークへと意識して仕事のモードを切り替える、というのって大事だと思います。自分がいま青ワークと赤ワークのどちらの仕事をしているのか、一緒にしている仲間に青ワークと赤ワークのどちらの仕事をしてほしいのか、それを意識して使い分けることが大事です。
仕事の効果を高めたいなら、思考と実行を行き来する必要がある。ところが、私たちが職場で使っている言葉は行動を促すものばかりで、思考は促さない。最初から、バリエーションを減らすことが前提となっている。(略)必要に応じて赤から青へと仕事のモードを切り替えるには、言葉を変える必要がある。(p.43-44)
p.41-46で、赤ワークと青ワークの違いが書かれていた部分をまとめてみました。
- 赤ワーク
- 赤ワークは、できるだけ定められたとおりに行動することが望ましい。必然性や達成感が生まれる作業に、人はのめり込みやすい。「やり遂げた」ことで生まれる高揚感に丸め込まれてしまう。
- 回答する側に認知能力はほとんど必要ない。「はい」か「いいえ」の二択で回答すればいいから。
- リーダーがよく使う言葉:「やり遂げろ!」「現実にしよう」「これを終わらせよう」
- 青ワーク
- 青ワークは、意思決定をはじめ、認知能力を使う仕事。
- 意識を向ける対象を広げ、静かに内省し、他者の視点や考えに興味を持ち、現実的な選択肢を増やすことが有効。
- リーダーがよく使う言葉:「君はどう思う?」「これについて、われわれはどの程度準備ができている?」「もっといい方法をとれないか?」
赤ワークと青ワークの違いを理解するだけでなく、仕事をはじめ誰かと協働して何らかの知的生産をするときには、赤ワークと青ワークが両方ないとうまくいかない、ということを理解するのが大事だなと感じました。
この後、何かを実行するときの思考心理として2つの側面があるという話が出てきます。ここ、仕事でプロジェクトのメンバーのパフォーマンスについても頷ける部分が多かったですが、学校の授業で先生と児童生徒の関係にも似た感じがあるかなと思いました。
パフォーマンス(何かを実行するとき)の思考心理には2つの側面がある。ひとつは自分の能力をまわりに証明したいという証明の思考心理(「自分にならできる」)、そしてもうひとつが、自分の無能さが露呈することから自分を守りたいという自衛の思考心理(「自分の能力のなさを誰にも知られたくない」)だ。
証明の思考心理はいい部分を知らしめたいという動機から生まれ、自衛の思考心理はダメな部分を隠したいという動機から生まれる。(p.52)
- 証明の思考心理を表す言葉:「やったぞ!」「できると見せつけてやるんだ!」「決まったな」
- 自衛の思考心理を表す言葉:「あれは自分らしくなかった」「いや、自分は大丈夫」「時間の許す限り精一杯やった」
証明の思考心理は赤ワークと相性が良い、という説明が続きます。
短時間で赤ワークに一気に取り組むとき、証明の思考心理はパフォーマンスの向上を促す。この思考心理になると、最終目標に集中し、気が削がれることをシャットアウトし、自分の認知能力を「やり遂げる」ことに捧げようとするからだ。
1回限りの作業や、短期間で行う小さなタスクは、証明の思考心理と相性がいい。だが、ミスを避け能力のなさを隠す動機から生じる自衛の思考心理は、同じように機能しない。ミスをしない最善の方法は「何もしない」ことなのだから当然だ。
ストレスのせいで自衛の思考心理に陥っている組織には、何もしないいでおこうとする姿勢が表れる。つまり、パフォーマンスを重視するときにふさわしいのは、(自衛ではなく)証明の思考心理ということだ。(p.53-54)
では、青ワークと相性が良い思考心理は何か、というと改善の思考心理だそうです。
青ワークの目的は、学習し成果を改善することにある。よって、青ワークは「改善の思考心理」と相性がいい。
改善の思考心理は、批判やフィードバックを歓迎し、広く求める。その開放性によって、過去の働きに縛られることなく改善に向かうことができるのだ。(p.54)
- 改善の思考心理を表す言葉:「どうすればもっとよくなるか?」「どうすればもっとうまくできるようになるか?」「何を学んだか?」
青ワークと赤ワークに相性が良い思考心理になるようにメンバーに語りかけるのがリーダーの役割である、と続けて説明されます。
青ワークと赤ワークでは脳の使い方が異なる。リーダーとしてのふるまいや思考心理も明確に異なるほか、なんといっても使う言葉が変わる。使う言葉の種類や職場でのものの言い方に目を向けると、現状使われている言葉は、赤ワークに向けられるべきものがほとんどを占めている。
(略)
あなたにとって自然に聞こえる言葉は、赤ワークに最適な言い方として生まれたものだと思う。青ワークに正しく取り組むには、必要に応じて言い方を変える必要がある。
赤ワークに適した言葉を青ワークで使ってしまうと、青ワークが果たすべき役割、すなわち、バリエーションを歓迎し、改善の思考心理を育むことができない。(p.55-56)
- 知識産業の企業なのに「会議は全員参加が義務」になっている。
- 企業に属する社員が、「リーダーと部下」「ホワイトカラーとブルーカラー」「経営陣と労働者」「非組合員と組合員」というように二分されている。
- パフォーマンス重視の「なせばなる」という精神をチームに求めている。
- 上司が命令し、部下が報告する仕組みができあがっている。
赤ワークと青ワークで仕事を分ける考え方、とてもおもしろいと思いました。どちらが偉い、という話ではなく、仕事の種類が違う、ということを理解することが大事です。
第5章 メンバーの他人事感を感じたときは
リーダーとして「メンバーの他人事感を感じたときは」というのがタイトルになっている第5章。こういう愚痴は仕事をしているとけっこう聞きます。
産業革命期に定着した構造では、作業を実行する人(赤ワーカー)は、どんな仕事をいつどのように行うかを選ぶことはできない。そのため彼らに責任感は生まれず、あるのは服従だけだ。
しかし前章で述べたように、正しく連携をとれば、実行に移すことへの責任感が生まれる。青ワークから赤ワークへの移行について、責任感が生じるのだ。
ここでカギとなるのが選択の有無だ。選択の自由がなければ責任感は生まれない。「イエス」と答えるしかない状況に置かれれば、人は服従するしかない。
服従は人々に考えることをやめさせる。別の誰かが決めたルール、指示、行動内容に従うことしか求められないからだ。思考や意思決定という厄介なプロセスから解放されるのだから、服従すればラクができる。おまけに責任まで回避できるときている。(p.111-112)
いまの時代に求められているのは、決断する人(青ワーカー)と実行する人(赤ワーカー)の連携であり、「正しく連携をとれば、実行に移すことへの責任感が生まれる」(p.111)と書かれています。
責任感をもつことで現れる3つの変化について書かれていた(p.114-123)ので、まとめておきたいと思います。
決断する人と実行する人を分けていた産業革命期では、服従が生まれるのは自然な成り行きだった。しかし、いまの時代に求められているのは、連携から生まれる「責任感を持った取り組み」だ。「責任感を持って取り組む」と、次の3つの変化が生じる。
- 実行するだけではなく、何かを学ぼうとする
- 学ぼうとするメリット1:赤ワークへの関心が強くなる
- 学ぼうとするメリット2:証明より改善を強く望むようになる
- 学ぼうとするメリット3:失敗や遠回りへの嫌悪感が和らぐ
- 信念よりも、やるべきことを優先する
- 責任感をもって取り組もうとするときに、全員の思いまで同じにしようとするのは間違いだ。行動の足並みを揃えるのはいいが、考え方まで変えようとしてはいけない。
- 誰かの考え方を変えるには、「自分が間違っていました」とその相手に認めさせなければならない。
- 反対や異論を唱えた人に間違いを認めさせようとしてはいけない。
- 作業を小さく分けてすべてやり遂げる
- 「作業を小さく分けてすべてやり遂げる」方法は、責任感の過熱という精神状態に陥るのを防ぐ役割も果たす。
- 小さな作業の積み重ねを意識して取り組めば、短い時間とはいえ、眼の前の作業に完全に没頭できるようにもなる。
気づき(というか感想)
『最後は言い方 これだけでチームが活きる究極のスキル』は、ビジネス本ではありますが、学校組織の運営にはもちろん、クラスでの授業の組み立て方にも応用できるところがたくさんあるように思います。
赤ワークと青ワークって、学校の勉強になぞらえて考えてもおもしろいかなと思いました。「作業する時間(赤ワーク)」は、知識を習得したり、漢字や計算を練習したり、公式を覚えたり、英語の文法を覚えたりするのにも近いように思いました。「考える時間(青ワーク)」は、プロジェクトに取り組んだり、探究をしたり、協働したり、表現などクリエイティブな活動に近いのではないでしょうか。
そう考えたときに、赤ワークと青ワークを行ったり来たりする授業を作っていくことは大事だと思いますし、それぞれのワークをしているときにどんな言葉遣いを教室のリーダーである先生がするのか、というのも大事なポイントだと思いました。
(為田)