2025年7月2日に青山学院初等部を訪問し、田中翔 先生が担当する6年杏組の理科の授業を参観させていただきました。この日は3時間目と4時間目の2コマ連続で子どもたちがホウセンカの解剖・観察に取り組む、“観察チャレンジ”という授業でした。
授業の最初に田中先生は「“観察チャレンジ”は、今までの学習を経てどれくらい観察ができるようになったかのチャレンジです。2時間続きだからじっくり観察しましょう。」と子どもたちに伝えていました。

授業の最初に、田中先生は教室の大型モニターに評価ルーブリックを映して、内容をクラス全体で共有します。
ルーブリックには「観察・記録の数」「観察するための技能」「記録の仕方」の3つの項目があり、それぞれレベル(Lv)が1から4まで設定されています。田中先生は、「Lv.1は残念、Lv.2は最低限、Lv.3はできる、Lv.4はよくできている、という感じです」と子どもたちにレベル感を伝えて、それぞれの項目について具体的に説明をしていきます。
「観察・記録の数」の項目では、これまでの授業で学んできた「道管」「師管」「維管束」「形成層」「主根・側根」「気孔」「葉脈」から、いくつ観察・記録できたかが評価されます。Lv.3とLv.4では、それ以外に自分が観察したいものを観察・記録することが評価基準として設定されていました。
「観察するための技能」の項目では、対象を観察するための手順(切り方や使う道具)などを適切に選べているかが評価されます。田中先生は、「見たいものを見るために、どう観察するかを考えてください。どうやってカッターで切ればいいのか、顕微鏡を使うのか、適当な倍率はどれくらいか、ということも考えましょう」と言います。
「記録の仕方」の項目では、田中先生は「写真を撮って貼り付けるだけ、という記録の仕方では、何を見たくてその写真を貼ったかがわからないですよね。だからLv.1です。写真をOneNoteに貼り付けて、そこに部分の名前を書いたり、自分で気づいたことを書き込むところまでいってほしいです」と言います。

子どもたちのOneNoteにも観察チャレンジの評価ルーブリックは配布されているので、子どもたちは自分のタブレット端末でルーブリックを見ながら、田中先生の説明を聴いています。
3つの項目それぞれについて具体的に基準を説明した後で、「全部をLv.4までやるのは、時間的に難しいと思うので、自分のできることを時間内で考えてやりましょう」と田中先生は言います。

子どもたちのテーブルの上には、カッターマット、カッター、ルーペ、ピンセット、顕微鏡、双眼実体顕微鏡が置かれています。田中先生がグループに1株ずつホウセンカを手渡して、観察チャレンジがスタートします。
子どもたちはルーブリックを見ながら、配られたホウセンカで何を観察するのか自分たちで考えます。一人ひとりが自分で何を観察したいのかを決めるからこそ、ホウセンカのどこをどのようにカッターで切るのかなども自分で考えなければなりません。

観察した成果をWindowsタブレットで撮影するために、顕微鏡と双眼実体顕微鏡のそれぞれの接眼レンズをタブレット端末に固定する顕微鏡撮影クリップもたくさん用意されていました。

自分で「何を見たいか」を決めた子どもたちは、ホウセンカの切り方や顕微鏡の倍率の設定など、試行錯誤を重ねて観察をします。なかなか思う通りに見えないこともありますが、グループのメンバーとお互いに撮影した写真を見せ合ったりしながら、試行錯誤を続けていきます。この過程で、「どうやって見たの?」と観察の方法を教え合ったり一緒に考えたりすることも多くありました。
2コマ連続の時間割で実験するからこそ、一人ひとりが観察の時間をしっかりとることができます。だからこそ、自分で見たいものを決めて、自分で準備して観察できるし、子どもたちが「これ見て!」とお互いに観察結果を見せ合ったり、観察の方法を教え合ったりする機会も多くありました。

「先生、これ見てください」と声をかけた子どもの顕微鏡を覗いて、田中先生が「おおー、これはなかなかだね。根毛が見えるねー!」と言うと、他の子どもたちが「見たい見たい!」と言って集まってきます。それぞれが違う観察をしているからこそ、他の子の観察していることを楽しく見ることができるし、それによって周りが刺激されるのだと思います。こうした、一緒に観察を楽しめる輪ができていくのがとてもいいと思いました。

観察チャレンジの間、田中先生は教室中を歩き回って、顕微鏡で観察している子どもたちにどんどん話しかけていきます。子どもたちが観察している顕微鏡を覗き込んで、少し条件を変えてスマートフォンのカメラで撮影して、それを見せながら細かい解説をすることもありました。
逆に、田中先生に撮影した写真を見せて、「これって何ですか?」というふうに質問をする子もたくさんいました。

「自由に観察していいよ」と子どもたちに伝えても、なかなか思うように観察ができない子どもたちが田中先生に質問しに来ます。「見えないです」と言う子どもたちに、田中先生は「何を見たいの?」と質問を返します。「道管を見たい」と言う子に、「道管と言っても、葉の道管なのか、根の道管なのかで観察の仕方は変わるよ」と田中先生は伝えていました。何を観察するのかを決めるときに、「道管」というだけでなく、「どこの道管」というレベルまで具体的に決めないと観察できない、ということを伝えていました。
ここでの、「自分が何を観察しようとしているのか」という目的を問い返すことは、理科の授業の枠を越えて、子どもたちの“考え方”を育むやりとりだと思いました。
子どもたちの観察した成果は、Padletで共有できるようになっていました。田中先生は、上手に観察できている子たちに「これ、いい映像だね!撮影したら、Padletにアップしておいて。みんなに共有したいから」と言います。
また、そうした観察の成果は、教室のモニターに大きく映して、みんなで共有されていました。こうして観察の成果を教室全体で共有することで、「ああいうのを自分でも観察してみたい!」「写真で撮りたい!」という子が増えて、教室全体のモチベーションが上がると思いました。

また、観察を始める前に田中先生は「道管のバネみたいなのが見えるかもしれません。これが見えたら、観察のための高い技術を駆使できたといっていいでしょう」と言っていました。これが子どもたちにとっては、少し背伸びしたストレッチゴールになっていたような気がします。
子どもたちは一人ひとり自分の観察をしていますが、途中から「これ、バネ?」と観察して撮影した写真を田中先生に見せに来る子どもがだんだん増えてきます。田中先生に「お!そう、これがバネ!」と返されると、子どもたちはとてもうれしそうです。
決まった結果をそのとおりに出すための実験ではなくて、自分で「バネを見つけよう」と決めて観察して、それを「見つけられた!」という観察の楽しさがここに出ていたな、と感じました。
授業の後半では、子どもたちは撮影した観察の成果をOneNoteに貼り付けて、説明などを書き込んでいきます。
OneNoteには、これまでの授業で使ったプリントなどのデータも入っているので、子どもたちはこの日の授業で撮影した写真だけでなく、いろんな素材を組み合わせて観察の成果をまとめていました。

授業の最後に田中先生は、「今は完成してなくてOKなので、今週中に仕上げてください」と言います。子どもたちは自分の撮影した写真に解説をどんどん書いている途中でした。ここで提出をさせるのではなくて、「もっと頑張っても大丈夫」と子どもたちに学ぶ時間をあげることは大事だと思います。

田中先生は続けて、「完成のイメージとして、どういうところを目指しているのかをルーブリックで自己評価して○をつけてね」と伝えていました。ルーブリックをここでもう一度見て自己評価をしながら、自分の観察チャレンジのゴールイメージを明確にすることができると思いました。

2コマ連続の授業だからこそ、時間に余裕があり、子どもたちに「何を」「どこまで」調べるのかを考えてもらう余裕をもつことができます。また、自分で決めた観察のプランを実行するだけの時間の余裕があることも大切だと感じる授業でした。
授業後に田中先生にお話を伺ったら、こうした授業のことを「自由“深”度学習」と言えるのではないかとおっしゃっていました。この「自由“深”度学習」という言葉自体は他の先生が使い始めたものだそうですが、どこまで深く学ぶかを、自分でルーブリックを見ながら決められる。そして、そのための時間の余裕と、教材や道具などの環境づくりを先生がする、という観察チャレンジに、「自由深度学習」という表現はぴったりだなと思いました。
(為田)