特別対談:自立した学習者と「ふりかえり」〈後編〉
2025年10月18日に東北学院大学五橋キャンパスで開催された、未来を創る教育セミナー 2025 in 仙台(主催:一般社団法人 日本教育情報化振興会(JAPET&CEC))で行われた、東北学院大学 教授 稲垣忠 先生と東京学芸大学 准教授 登本洋子 先生が登壇した「特別対談:自立した学習者と「ふりかえり」」の様子を〈前編〉・〈中編〉・〈後編〉に分けてレポートしています。
どれくらい「ふりかえり」をしたらいいのか?
ここから、参加者が事前に答えていたアンケートと、質問やコメントを書き込んだPadletから、稲垣先生と登本先生がピックアップしたコメントについて対話をしていきました。最初は、「ふりかえり指導を行っていますか?」という問いから、ふりかえりの頻度についての対話です。
稲垣先生:
「ふりかえり指導を行っている人」は87%です。すごいですね。「いつどのタイミングで」という問いへの回答は、「毎時」がいちばん多くなっています。ただ質問として、「最もあてはまるもの1つ」という書き方にしてありますので、毎時でもやっているし、単元でもやっているし、ということも当然あり得ると思うんですね。
ふりかえりを「毎時」やっている方がいちばん多かったのは、なるほどなと思いました。この話は先ほど登本先生がおっしゃっていた、「じゃあ毎週30回ふりかえりしていたら大変ですよね」というその話ともつながっていきますね。
中学校の場合は教科担任が各教科で見ているので、子どもたちが毎週どれくらいふりかえりをやっているのかは、けっこう見渡せないことがあると思うんですね。小学校だと、今は教科担任とか専科の先生がいらっしゃるんですけれども、1週間を見た時にどのくらいふりかえりを書いているのかというのはある程度見えるんじゃないかなとは思います。
そうした時に今の分量というか頻度というか、それがちょうどいいのか、それともふりかえりさせすぎなのか、そういったところをちょっと考えるきっかけになるかなと思います。登本先生:
とても質高く、ふりかえりを毎時間されている学校は「小学生でもこんなに深くふりかえりができるのか!」というところもありますよね。
ただ生徒の書いたふりかえりを見て、多くの生徒がほんの一言しか書いていないという場合はあまり意味がないなと思います。そういうときはふりかえりを見直して、ある程度まとめてしっかりふりかえりを行うためにどうするのか、ということを考えてみるといいかもしれません。稲垣先生:
じゃあ、学校の状況によっては週30回びっちりふりかえりをしているのも、やれるんだったらOKということですか?登本先生:
それはOKだと思います。ただ「良かった」とか「分かった」ぐらいしか書いてないふりかえりだったら、それはどうなのでしょう。

「ふりかえり」で感情はどう扱ったらいいか?
ふりかえりの頻度についての話から、ふりかえりで子どもたちが書く内容、とりわけ「感情」について、どう扱ったらいいか、という話になりました。
稲垣先生:
ふりかえりに書くと言えば、「感情」っていうのがありますよね。ふりかえりでは「感情」ってどう扱ったらいいですかね。登本先生:
例えば、総合的な学習の時間や探究の時間で、先ほど紹介した『学びの技』の「Chapter 6 評価の技」で、「感情で振り返る」というページを設けています。
学習をふりかえるときに「自分はどこが大変だったのか」「どうしてそう思ったのか」「どうしてつらかったのか」というように、自分の感情がどうなったのかに気づければ、ふりかえるときのひとつのきっかけになるかと思います。稲垣先生:
さっきのすごく短いふりかえりのときにありがちなのが、「~が楽しかった」「~が難しかった」「~が簡単だった」で終わるふりかえりじゃないですか。そこってやっぱりもう一歩深めてあげない限りはあまり感情といっても意味はないみたいな話になっちゃうんですかね。登本先生:
ふりかえりが授業のいちばん最後にあって、先生方がバタバタと「はい、書いといて」くらいで終わると、生徒たちも一言でふりかえりを終わらせてしまいがちです。教員がちゃんとふりかえりを活かして「こんなふりかえりが書けているといいです」と、生徒に紹介していくことも大切です。
児童生徒はその授業の中でどんなことをふりかえることができていたらいいのか、教員が想定できているのかも大きいと思います。
どうフィードバックをしていくのか?
子どもたちから書いてもらったふりかえりを、教員側はどう受け止めて、どんなフィードバックをしていけばいいのか、ということについて対話が進んでいきます。小学校・中学校・高校・大学まで校種をまたいで、フィードバックについての論点がたくさん提示されました。
稲垣先生:
今日のセミナーに参加している先生方から書いてもらったPadletには、「フィードバックは、どこまで、どのくらいやったらいいんだろう?」という質問が多くありました。
これは小学校・中学校・高校でけっこう文化が違うかなと思います。小学校の先生はまめなフィードバックを得意としているのか、使命感に駆られてやってるのか、慣れちゃってるのか、何とも言えないところもありますけれども、やっぱり中学校・高校の先生に比べるとすごくまめですよね。
でも、小学校、中学校、高校、大学と上がってくると、フィードバックのやり方とか質とか量っていうのは、変わっていくんですかね?登本先生:
ふりかえりに対するフィードバックという捉え方だと、授業中にもいろんなフィードバックはできると思っています。教員は基本的に授業を連続で行っているので、前の授業のことを繋げてフィードバックすることができます。また、生徒が書いてきたふりかえりにだけフィードバックするのではなくて、次の授業でそのふりかえりを活かしながら、次の学びに繋げていくこともできます。その意味では、ふりかえりが次の学びのスタートになります。「ふりかえりに答えを返す」ということだけではなくて、いろいろなフィードバックの方法があると思います。稲垣先生:
授業設計に組み込んじゃう、みたいな側面ですかね。私はいま、東北学院大学の学長特別補佐の仕事として、TG-folioという大学全体のポートフォリオの設計をやっています。TG-folioは半期に1回ずつやっていて、「半期に1回、こういうフィードバックをしなさい」という方針を学科ごとに作ってマネジメントをしています。
この時に文字ベースでフィードバックするのはけっこう大変なんですが、半期に1回学生と面談するときに、「こういうこと頑張ってるのね」とか「こういう力がついてきてるんだよね」という対話のきっかけにするんだったら、文字ベースでのフィードバックでなく面談をするのも一つの方法かなと思ってます。
うちのゼミではスプレッドシートでフィードバックをやってるんですけど、ちょうど今は教育実習でお休みの学生が多いので、「前回ここまで行ったよね。じゃあ、次はどうしようか」というのを確認するために使っています。ここではフィードバックは、「学びを続けていくための素材」としてのふりかえりになっていると思います。登本先生:
いろいろな授業を拝見して、授業を展開しているのは教員だけではないと思うんです。ふりかえりにとてもいいことを書いてくれている子どもがいたり、書かれたふりかえりから他の子どもが発展していったりもします。
教員も、子どもが書いたふりかえりを読むことで、自分が思っていない方向に捉えている生徒がいることに気づいたりすることもありますよね。全然違う方向に行っていることに気がつければ修正ができますし、教員にとっても、生徒のふりかえりが自分のふりかえりになることがありますよね。自分の授業のふりかえりを読んで「(生徒が)分かってない」と思うのではなく、「自分がそういうふうに伝えてしまっているんだな」という意味でのふりかえりにもなります。稲垣先生:
大規模の講義だと、ふりかえりを書いてもらって、そこからいくつかピックアップしてコメントを返すことがあります。その時に実名でやるべきか、匿名でやるべきかということもあるんですが、そこではけっこう内容によってもバランスをとるときがありますね。
あと、ちょいちょいAIにまとめさせるというのを何回もやったりしてたんですけども、AIに学生のふりかえりをまとめさせて、「すごくいいこと書いてきてくれてるな」と思って、誰が書いてるんだろうって見たら誰も書いてなかった、みたいなこともけっこうあったりとかね。
そういうことも考えるとフィードバックをどうやっていくかっていうときに、今後AIの活躍ってもっと入ってくるかなと思いきや…。フィードバックにAIを使っている良い例とかありますか?登本先生:
東京学芸大学でもフィードバックに生成AIを使っている例が出てきています。内容にもよりますし、向き不向きもあると思いますが、例えばデータサイエンスなどの学習で「ここがわからなかった」などとふりかえる際に、生成AIはとても向いていると思います。
学生がフィードバックに満足するかどうかは、そのフィードバックをもらって心がちゃんと動かされて次に向かっていけるか、というのが大きいです。その点で、生成AIで効果が出る場合もありますし、これからも生成AIがもっとサポートしてくれるようになっていくと思っています。
ただ一方で、うまくいっている授業では、子どもや学生が止まらないくらい、思い余るようにふりかえりを書いてくれるな、と思うんです。子どもや学生が、生成AIを使いたいとも思わないような、自分が思ったことを話したくなるような授業ができると、ふりかえりも変わってくるということも感じています。そういう授業にしたいですね。稲垣先生:
それは読む側の教員としてもうれしいですし、多分いいポジティブサイクルに入っているというかね。多分それが大講義とかになると、「ふりかえりってAIがそもそも書いてんちゃう?」みたいなこともあるじゃないですか。AIが書いたフィードバックをAIがフィードバックして、教員も見てないという、誰も見てない意味の分からないサイクルみたいなね、生成AI同士がやっていて人間どこ行った、みたいなね。ちょっとそういうのをどうするのかっていうところは、多分今後ツールがより良くなればなるほど、考えなきゃいけないのかなって思っています。
まとめ:ふりかえりは「学習内容のまとめ」と「学び方」の両方を
最後にアンケートの結果とPadletへの書き込みを見て、改めて、ふりかえりに何を書いているのか、「学習内容のまとめ」にとどまるのではなく、「学び方」もふりかえってくれるといい、ということが話して、対談が終わりました。
登本先生:
今回のアンケートのまとめを見ていて、「ふりかえりを多くの学校がしっかりやっている」ということと、「学習内容をふりかえっているところが多い」というのは、興味深いと思いました。稲垣先生:
そのへんですよね。学習内容や、学習の前後を比較してどういう進捗があったか、ということをふりかえっているのが多いということですかね。
学習内容をふりかえると、結局「まとめ」にどうしても近くなっちゃいますよね。「授業のまとめ」として書くのが、内容としてのふりかえりになり、それが「ふりかえり かつ まとめ」という感じになる。たぶんそれで行くと、「学び方」はあまりふりかえりとして書かれないですよね。
もうちょっと、その日の学習内容のまとめがあった後に、「じゃあ、自分としては、そこにどう向かっていったのか」「自分としてはどう関わったのか」という、学び方のふりかえりになるためには、2段階あるのかもしれない、というところですかね。それを両方、毎時間やるというのはたぶん大変ですが。登本先生:
そうですね。だからやっぱり全体的な「学び方」についてのふりかえりは、ある期間でいいように思います。また、その学校が何を目標にして進められているのかも大切だと思います。
稲垣先生は対談の最後に、Padletに書きこまれたたくさんの質問の答えが、この後のポスターセッションで行われる9校の事例発表のなかで見つかるはずです、と言っていました。
参加者の先生方が、ポスターセッションでそれぞれの学校が先生方と児童生徒で一緒に取り組んでいる「ふりかえり」の実践事例を聴いて、それぞれの学校が何を目標にして「ふりかえり」を行っているのかを考えるための基盤が、この対談でできたように感じました。

No.4に続きます。
(為田)