2025年11月30日にオンラインセミナー「学校で使うパターン・ランゲージ」に登壇して、パターン・ランゲージを研究されている井庭崇 先生(慶應義塾大学 総合政策学部 教授・株式会社クリエイティブシフト取締役会長)と対談をさせていただきました。

僕はここ何年かパターン・ランゲージにずっと関心をもっていて、学校の授業でパターン・ランゲージを使いたいと思っていました。
2025年4月に弊社フューチャーインスティテュートが「パターン・ランゲージ授業づくりパートナー」に認定されてから、クリエイティブシフトが開発したパターン・ランゲージを学校の授業へ導入することを進めています。
学校の先生方にパターン・ランゲージについて自分で紹介することも多いのですが、できれば井庭先生ご本人に「学校でパターン・ランゲージを使うということ」について話を伺いたいと思って、今回のセミナーを企画しました。
パターン・ランゲージとは何か?
セミナーのテーマである「学校で使うパターン・ランゲージ」の前提として、パターン・ランゲージとは何かを井庭先生に説明していただきました。井庭先生によるプレゼンテーションの内容を、メモ形式でまとめながら共有します。
パターン・ランゲージは「創造的な実践の支援」を実現する
最初に、井庭先生が取り組んでいる「創造的な実践の支援」の話と、パターン・ランゲージが「創造的な実践の支援」をどのように実現するかについて説明していただきました。
- 井庭先生がしているのは「創造的な実践の支援」。
- 「創造的な実践の支援」を、パターン・ランゲージで実現する。
- 「自分で全部0からやる」のではなく、「みんなで実践の仕方を共有する」ことを実現する社会を目指している。
- 「創造的な実践」は言語化されていないもの。
- 私たちが行う「実践」は、そのかたちの実践として共有されており、自分が生きているなかで身につけてきたものである。
- 実践の例:プレゼンテーション、探究、味噌汁をつくる、論文を書く、など。
- 自分が編み出したものでなく、誰かがやってきたものを自分もやる。社会の中に共有されているものを、社会の中で身につけていく。それを、だんだん内面に取り込んでいって自由自在に使えるようになっていく。
- ケースバイケースなことも多く、「このとおりやればいい」という詳細なマニュアルは作れない(=多くの場合、実践はマニュアル化できない )。
- 人は、試行錯誤と経験から学び、実践できるようになる。それをどのように支援できるだろうか?
- 創造的な実践やその人らしい表現は、毎回同じなわけではない。それをパターン・ランゲージで支援できるのではないか?

井庭先生がおっしゃった、「実践はマニュアル化できない」ということは、学校のカリキュラムにおいても同じようなことが言えるのではないかと僕は思っています。
ある授業のなかの、ある活動のなかの、児童生徒とのあるやり取りに対して、「このとおりやればいい」というのをすべてマニュアル化するのは不可能です。でも、学校現場で共有されている実践はあって、それが学校を形作っています。
学校での「良い授業」「良い活動」「良いやりとり」の支援を、パターン・ランゲージでできるのではないか、というのが僕がパターン・ランゲージに惹かれている理由だと思います。
続いて、井庭先生からパターン・ランゲージとは何かを説明していただきました。
- パターン・ランゲージとは、「よい実践の本質/経験則を言語化したもの」。
- 本質/経験則は、くりかえし見られる・くりかえし現れる・くりかえし行い得るもの=「パターン」。
- パターンを言語化して、共有する。
- パターン・ランゲージは、クリストファー・アレグザンダーが半世紀前に生み出した概念。
- 経験則をパターンとする。状況(コンテクスト)と問題点(プロブレム)と解決策(ソリューション)が書かれていて、それに名前がついている。
- パターン・ランゲージは、よい実践の本質/経験則を言語化した「実践を促す言語(Practice-Inspiring)」。
- 経験則を収集し、本質観取して、言語化する。

ここから、具体的に井庭先生が作った「プレゼンテーション・パターン」を例に、パターン・ランゲージがどのようなものかを説明していただきました。
- 井庭先生が作ってきたパターンには、「パターン名」「パターン・イラスト」「状況」「問題」「解決」「結果」が書かれている。
- パターン・ランゲージは、いくつものパターンで、その実践の質を実現している。
- 「たったひとつで!」とか「7つの○○」みたいにはならない。
- ひとつのパターン・ランゲージが、30個くらいのパターンで成り立つ粒度で作られている。それくらいが状況の多様性をカバーし、かつ扱いやすい。
- パターン・ランゲージは、ほどよい抽象度で記述される。
- ほどよい抽象度の「中空の言葉」になるように作る。
- 「抽象的な理念」は具体的状況に紐づけてイメージしにくい。
- 「具体的な行動指示」は実際に動き出しやすいが、自分なりに考える余地がなく、思考や主体性を奪ってしまう。
- パターンは、その「抽象的な理念」と「具体的な行動指示」の中間の抽象度で書く。そうすることで、多様な具体的な行動・方法を包含するが、具体的なイメージも生成しやすい。
- パターン・ランゲージは、これまでの実践者の経験を活かし、創造的な実践を支援する。
- 本人が試行錯誤する時間を作るのは大事だが、他の人の経験を活かしてより高いレベルで試行錯誤する。
- パターン・ランゲージは、実践、コミュニケーション、認識を支援する。
- 各パターンの内容をヒントにして、自分で実践してみることができるようになる。
- 「パターン名」を用いることで、自分の経験について対話し、学び合い、協働活動の際の共通言語にすることができる。
- パターンが概念として「認識の眼鏡」となり、他者や自分の実践・経験の生成を認識しやすくなる。
- 「なんかすごい」で終わらなくなる。

最後のところで井庭先生がおっしゃった、「パターンが概念として「認識の眼鏡」となり、他者や自分の実践・経験の生成を認識しやすくなる」というのがとても大事だと思います。
例えば、上手なプレゼンテーションをするクラスメイトを見ても、「なんかすごかった」というところまでしか言語化できない児童生徒はたくさんいます。そうしたときに、プレゼンテーションのパターン・ランゲージを授業で活用することで、「何がすごいのか」を「メインメッセージが何かわかりやすかった」とか「図のチカラを使えていた」というふうに、プレゼンテーションの良さを言語化するのをパターンが助けてくれます。これは、児童生徒たちにはもちろん、先生方にとっても助かることではないかと思っています。
教育現場でのパターン・ランゲージの活用事例
パターン・ランゲージとは何かの説明をしていただいた後で、教育現場でのパターン・ランゲージの活用事例を大学と小学校・中学校に分けて紹介していきました。
大学でのパターン・ランゲージの活用事例
井庭先生から、大学でパターン・ランゲージを活用している事例を紹介していただきました。とても具体的で、パターン・ランゲージを使うことでこういうことが起こるのか、というイメージが湧きました。
- プレゼンテーション・パターンを用いたプレゼンテーションの改善
- プレゼンテーション・パターン・カードを参加者にトランプみたいに配る。参加者が1人ずつパターンを1枚ずつ場に出して、そのパターンについて自分の経験談を語り合う。
- 抽象的なパターンと具体的な自分の経験をセットで語ることで、実践についての豊かなイメージをもてる。
- 同じパターンだけど紐づいている事例(経験・実践)が違うケースが出てくることで、理解が深まってくる。
- 自分でやったことのないパターンが手元に残っていくが、それについても「このパターンは、あまりやったことないんですけど、皆さんはどうですか?」という対話に繋げられる。
- プレゼンテーション・パターンを用いた自己紹介プレゼン改善ワークショップ
- 自己紹介のプレゼンを作ってきてもらって、プレゼンテーション・パターンを使って改善のワークショップを行う。
- ポジティブにフィードバック会ができる。
- パターンを使うことで年齢や経験に関係なく、「こういうことできそうですよね?」と伝えることができる。
- コラボレーション・パターン・カードを使った研究室リフォーム
- 研究室の片づけ・リフォームの呼びかけを、コラボレーション・パターンのパターン「創造的な場づくり」を使って呼びかける。
- やっていることは片づけ・リフォームなので具体的だが、そこにパターン名を重ねることで、「どういうものなのか」「どういう意義があるのか」を捉えやすくなる。
- 井庭研究会(ゼミ)でのパターン活用
- 自分の「推しパタ(推しのパターン)」を語ってもらったり、「今学期はこのパターンをがんばります」というのを、カードを持ってもらって写真を撮ったりしている。
- そうすることで、学期中のフィードバックに「こう言っていたけど、どう?」というふうに共通言語として使える。
- 成果だけでなく、プロセスを見ることができる。
- 新入生全員でのワークショップ
- 2011年~2019年には、井庭先生のいるSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)で、全1年生(約1000人)に創造的な学びのパターン・ランゲージ「ラーニング・パターン」を用いて対話をするワークショップをしていた。
- 「ラーニング・パターン」を読んできてもらって、実践したものに丸印をつけて、まだ取り入れていないものに星印をつけてもらう。
- 入学後2週間しか経っていない時期に、自分が取り入れたいパターンについて、できるかぎりたくさんの人から経験談を聴くことで、自分が実践するときのイメージをつかむ。
- 学び方について話すことは楽しい。知りたい人は知りたいから聴いている。しゃべる方は自分にとって当たり前化しているものを「なるほどー」と言われながら話すことができる。
- 相互に経験が違うから、相手から学ぶことができる。
- パターン・ランゲージが「問題(Problem)」を含んでいるので、「そっち側に陥りがち」というようなネガティブなコメントも言いやすい。
- 「自分にとって大したことないと思っていたことが、他の人にとって価値があるというふうに気づいた」という感想が多い。
- ラーニング・パターンを用いた「対話ワークショップ」については、こちらの論文「創造的な対話のメディアとしてのパターン・ランゲージ 」を参照。
小学校と中学校でのパターン・ランゲージの活用事例
続いて、為田が小学校と中学校でのパターン・ランゲージの活用事例を紹介しました。
- 最初に学校で教えるのに使いたかったのは、圧倒的に「プレゼンテーション・パターン」。
- プレゼンテーションは、学校でめちゃくちゃやる機会が多い。
- 「お互いにコメントをし合いましょう」と先生が指導をすることも多いが、プレゼンテーションが本当に良くなる指導がされていない気がしていた。
- プレゼンテーションを良くするためのボキャブラリーがないと思っていた。
- これは、井庭先生が言う「認識の眼鏡」の問題だと思っていた。
- 言葉を知っているから言えるコメントがある。言葉を知らないから、言えない、できない。=「認識の眼鏡」がない状態。
- これまでに、小中学校で全8校・13クラスで自分自身で授業をしている。
- 授業の流れ:
- 「プレゼンテーション・パターン」と言うと子どもたちにわかりにくいかと思って、「プレゼンテーションのコツ」と言って教えている。
- 「プレゼンテーション・パターン」全34個から、8~9個くらいに絞って説明をしている。
- 「プレゼンテーション・パターン」を紹介したあとで、為田がサンプルのプレゼンテーションをして、子どもたちから「このコツ(パターン)はできていたな」と「このコツ(パターン)を使うともっと良くなるよ」というコメントをしてもらっている。
- 子どもたち同士よりも、知らない人(=ゲストティーチャーである為田)の方が、言いやすいのでは?
- 最初はあまり言ってくれなかった。クリティカルなコメントをすることにあまり慣れていない。
- 「プレゼンテーション・パターン」について1時間の授業をした後で、子どもたちに自分たちのいま作っているプレゼンテーションを見直してもらうと、「うちのグループのメインメッセージって何なの?」とすぐにパターン名である「メインメッセージ」という言葉を使うようになる。
- そうすると、「メインメッセージ」という言葉なしに見られなくなる。ポスターとか、先生の授業とか、それも気になって仕方ない。
- まさに認識の眼鏡だと思う。
- 中学生がくれたコメントを紹介。こういうコメントを読むと、プレゼンテーション・パターンは本当に意味があるなと思っている。
- 「今までグループでプレゼンをするときに、全員がそれぞれ違うことを違うスライドにまとめて発表していたので、メインメッセージが全然なかった」
- 「どうしてプレゼンなど発表についてのことを学ぶ機会が学校では少ないのかなと思いました」
- 「今までなんとなくでプレゼンの用意をしていたので、「性向んイメージ」「言葉選び」等、自分では気づきもしなかった見方を知ることができた。
- 為田が行った授業を見て、次は先生方が「自分でやってみよう」と思ってやり始めていくという段階。
- 探究パターンも、小学校と中学校の授業で先生が使っているところを見せてもらった。
- 学年全体で探究をやっているので、いろんな先生が探究の指導をメンター的にやっている。そのときに探究パターンのカードを先生が持っていて、「いまあなたたちに必要なのはこのカードじゃない?」とパターンの言葉を通してアドバイスをしていた。
- そうすると学年全体で同じパターンをもつ、共通言語をもって探究を指導できていた。探究パターンはこれから広がっていく。

No.2に続きます。
(為田)