教育ICTリサーチ ブログ

ICTを教育にどう活用できるか、現場目線でリサーチします。

「未来の教室」と EdTech 研究会(第3回) 苫野一徳先生の資料“公教育の「本質」から未来の教育を構想する”

 2018年5月7日に経済産業省で開催された、「未来の教室」と EdTech 研究会(第3回) の配布資料経済産業省のサイトにアップされました。
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 民間の立場から教育に取り組んでいるスピーカーの資料は読み応えがあります。なかでも、僕が興味をもったのは、熊本大学の苫野一徳先生の資料でした。タイトルは、“公教育の「本質」から未来の教育を構想する”でした。
 公教育の目的を、苫野先生は以下のように書かれています。

全ての子どもに、「自由の相互承認」の感度を育むことを土台に、「自由」に生きるための力を育む。

 自由の相互承認は、法では整備されていますが、それだけでは充分ではなく、社会全体でそれを実現するために、公教育があるといいます。公教育は手段なのです。手段はひとつである必要はないと思います。目的を達成するために、特に社会に属する多様な人々を対象として目的を達成するために、手段は単一ではないと思います。学び方について、なるべく多くの選択肢をもつ公教育がいいと、僕は思っています。

 「学びの個別化・協同化・プロジェクト化の融合」へ、と資料にも書かれていますが、学び方の選択肢を多くするためには、こうした方向性が必要だろうと思います。
 こうした教育方法は、公教育の現場では実現するのがかつては大変だったと思います。でも今は、テクノロジーがあります。テクノロジーによって、個別化を進めることもできる。協同化を進めることもできる。プロジェクト化を進めることもできる。目的に照らし合わせて有効だと思うテクノロジーを組み合わせて、公教育の場を作ることができる。

 テクノロジーによって学びの個別化・協同化・プロジェクト化を融合する、というのは、先日紹介した書籍『情報時代の学校をデザインする 学習者中心の教育に変える6つのアイデア』の中でも書かれていました。
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 苫野先生の本、ひさしぶりにいろいろと読み返そうと思います。『教育の力』はOneNoteにつけていた読書メモを読み返すと、2014年に読んでいました。

 いつの時代にも、教育界にはさまざまな方法論の激しい対立が渦巻いてきました。学力向上のためにはドリル学習こそが重要だ、と主張する人たちと、むしろそれこそが子どもたちから学ぶ意欲を奪っているのだと主張する人たちとの対立、子どもたちの「学び合い」こそが重要だと主張する人たちと、むしろ教師の授業力をこそ向上させねばならないと主張する人たちとの対立など、数え上げればきりがありません。
 適切で建設的な相互批判はもちろん重要ですが、時に好き嫌いのレベルで繰り広げられることもあるこうしたさまざまな対立については、いい加減、対立から相互補完的な関係へと、次の一歩を踏み出した方がいい、そうわたしは思います。どちらの方法が正しいかをめぐって争うのではなく、教育の目的を達成するために、状況に応じて、それぞれの方法をどう選択したり組み合わせたり、補完し合ったりすればいいのか、わたしたちはそう考える必要があるのです。
 今、わたしたちは教育の最も根本的な「目的」を手に入れました。それは、すべての子どもたちに、<自由の相互承認>の感度を育むことを土台に、<自由>になるための<教養=力能>を育むことです。とすれば次にわたしたちが考えるべきは、ではこの「目的」を達成するために、現代という「状況」においては、そしてその時々の子どもたちや学校の「状況」においては、どのような教育のあり方が最も妥当かつ有効化という問いになるはずです。(p.42-43)

教育の力 (講談社現代新書)

教育の力 (講談社現代新書)

教育の力 (講談社現代新書)

教育の力 (講談社現代新書)

 今回の資料の中には、「目的と手段を取り違えない(工藤勇一校長)」と、麹町中学校の工藤校長先生の言葉が書かれています。目的を達成するために、どんなテクノロジーを学校に届けることができるのか、自分がどのようにそこに関わっていけるのかを考えたいと思います。
 年初に挙げた行動目標「学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをする」に立ち返って、頑張っていこうと思わされる資料でした。大いに刺激を受けました。

(為田)

東京書籍×凸版印刷:福生市の算数学習履歴データを読み解く対談レポート No.4

 今回、東京都福生市で小学校3年生が2017年9月~3月の間に凸版印刷アダプティブラーニングシステムやるKeyを使って学んだ学習履歴を見ながら、東京書籍の清遠和弘さんと対談を行いました。
 今回の対談の相手である、清遠さんをご紹介したいと思います。清遠さんは、東京書籍株式会社 教育文化局 教育事業本部 ICT第一制作部に所属されています。以前は算数の教科書編集にも携わっており、やるKey開発時に、教科書編集経験者の立場から参加していただきました。

デジタルドリルでの難しさ?

 デジタルドリルが紙のドリルにすべて勝っているかというと、当然そんなことはありません。デジタルドリルならではの難しさについても、話が展開していきました。

清遠さん 意外だな、と思ったところとしては、わり算とかが、もうちょっと上位に行くかな、と個人的には思っていましたけどね…。単元4「あまりのないわり算」と単元7「あまりのあるわり算」ですけど、単元7「あまりのあるわり算」は今回のランキングには入っていませんね。
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為田 福生市では2017年9月からやるKeyを始めたので、「プリントを終わった人はやっていいよ」とかやると、◆ドリルまでやっていないこともあるかもしれません。このあたりは、数字をしっかり見ると、もっと仮説が立てられるかもしれないですね。
 たとえば、わり算の◆ドリルがここのリストでランクインしていないのは、わり算のドリル問題が出題されていないからなのか、わり算のドリル問題はたくさん出題されているけどみんなわかっているから◆ドリルが出題されていないのか、まだわからないんですよね。
 それと、このリストは、◆ドリルの出現回数であって、◆ドリルの出現率ではないんですね。このあたり、まだ見えてこないところですね。学校によって、やっている単元/やっていない単元もあるでしょうし。完全なデータではない。そこまで見たいな、と思いますね。

清遠さん 量と測定のあたりは、全部の単元が入っていますね。

為田 単元2「短い時間」と単元3「長さの単位」と単元12「重さやはかり」のところですね。「はかりの使い方」のあたりとか、ドリルを作るのに苦労した記憶があります。

清遠さん このあたりは、デジタルで問うのが厳しいところなのかもしれないですね。量は「さわって体験してなんぼ」の世界なので。実際の授業でも、そのあたりは弱いところではありますね。どうすればいいか、というと難しいですけど。

為田 デジタルの中にあるという時点でハンデがあるのかもしれませんね。デジタルでも、アニメーションになったりインタラクティブになったりしたらわかりやすくなりますかね?

清遠さん 量と測定のあたりは、作るのも難しくて、どんなに一般的なものであっても、眼の前のものでないとイメージがつきにくいんです。6年生のおよその面積で、東京ドームのおよその面積を求める問題があるんですけど、地方の子どもたちは東京ドームのイメージがつきにくい。本当は、自分の学校とか、そういう身近なものでやればいいんですけど、そこまでやるのは難しい。量の単元はそうした難しさもあると思います。

為田 デジタルで、アニメにしたらわかりやすくなるかもしれない、ということについては、◆ドリルを開発しているときにも話題になりました。わり算の説明で、お皿に分けていく、先生の授業の説明方法をアニメにして、授業の形に近づけようか、という話もしましたね。東京書籍が出しているタブレットドリルは、インタラクティブではないんですか?

清遠さん 解説の動画が入っています。

為田 やるKeyの◆ドリルと、タブレットドリルの解説動画をつなげるというのもありかもしれませんね。

まとめ:これからの展望

 やるKeyの学習履歴のこうしたデータを見て、東京書籍の教科書編集部と共有したいことがあるか、対談の最後に清遠さんに訊いてみました。

清遠さん 大問ごとに、すべての履歴があるので、急に間違いが多くなっている大問とか、そういうのを数値として出せれば、教科書づくりに活かせるし、誰かに説明するときにも、「こうした実績があって…」と説明ができそうですよね。
 教科書もいろいろな先生方の意見をいただいて作っていますが、「ここは難しいよね」というのはどこかで、経験的に判断をして線をひいている部分があります。その経験的に判断した部分が、実際に学習履歴を見て正しかったのかどうかを、もう少しデータが出てきたら、編集部と話をしていきたいですね。

為田 そういうのって、先生方向け、教育委員会向けに、正答率を出したり、誤答を見せたり、そうした状況の解説を作ってレポートしたりということもできるかもしれませんね。

清遠さん やるKeyのドリルを解いたときの誤答がどんなものがあったかを見たいですよね。1問ずつの解答欄に何を入力したかの記録を見ることができるのであれば、誤答だったのか、どんな誤答があったのか、または無答だったのかを見たいです。

為田 無答率って、先生方はそんなに気にしているんですかね?学力的にわからない結果としての無答なのか、無気力な結果としての無答なのか。どちらも先生が対処しなければならない問題だけど、対処の方法はまったく違いますよね。

清遠さん 「ここ数年の小学校3年生の実績で、無答が多い問題はこれです」とか「こういう誤答例がよく出ます」といった情報を、デジタル教科書に入れるというアイデアは出たことがあります。

為田 指導書にはそういったものに近いコメントもついていますよね。やるKeyを使っている先生方にもそういったフィードバックをするとか、教育委員会にもそういったフィードバックをするとかが実現すれば、凸版印刷のやるKeyと東京書籍の算数の教科書とで、算数の授業をより良くするということができそうですよね。
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清遠さん これを見た時に、どんな誤答があるのかな、とは思いましたね。それは先生が分析する上でも有効だと思うので。実際に何を書いているのかというのがわからないと分析のしようがないところがありますから。
 単元的には、□の式とかが入っていないのは意外でしたね。ここは意味を考えなければできないところだし、文字式の基礎になる難しいところなので、個人的にはもっと来るのかと思っていましたけど…。出現回数は36回ですけど、何人がやっているのか、という母数の問題もありますよね。

為田 あとは、□の式の単元を教える時数が少ないから、やるKeyを使っていない、ということかもしれませんね。

清遠さん これ、学習者が、どこの単元とどこの単元で、◆ドリルを出題されているかはわかりますか?例えば、小数の単元で◆ドリルが出題されている子どもは、整数のところでも◆ドリルが出題されている、とか。それもわかるといいですよね。

為田 ここがダメで◆ドリルやっているんだけど、そこでしっかりできるようになったから、後でみんながひっかかっているところも大丈夫だった、というのもわかりそうですよね。

清遠さん 単元の親和性もわかりますよね。そういうのを考えると、いろんな学年があるといいですよね。5年生で学力が低くなっているけど、実は3年生のときにすでにもうつまずいている、とか。そうすると、3年生のところには指導力のある先生を配備しましょう、とか対応もできます。3年生はすごく大事な学年なんです。四則の計算をすべて習って、上の学年で使う考えがほぼここで出揃う。逆に言うと、ここでつまずくと上は大変になります。
 教科書会社的には、立式がきちんとできれば、割合でつまずかないとか。そういうのが出るとうれしいですね。位取りがきちんとできれば、小数のかけ算わり算のつまずきが少ないとか。そういうのが出ればうれしいですね。

為田 指導書にもそういう系統性についてのコメントは書いてあるわけで、やるKeyの学習履歴は今までの算数教育と全然違うことをするわけではないんです。でも、実際に「自分の学校でもやっぱりそうなんだ」と、学習履歴から関係性が見えるようになればいいですよね。そして、それをやるKeyを通じて改善させることができる、というのが見えるということだと思います。


 清遠さん、今日はどうもありがとうございました。

(為田)

電子図書館サービスを提供するRakuten OverDrive・田島さんインタビュー まとめ

 電子図書館サービスを提供するRakuten OverDriveについて興味があり、OverDrive事業の日本代表をつとめる、楽天株式会社の田島由美子さんにインタビューをさせていただきました。

 電子図書館がどのような仕組みのものなのか。学校の図書室で使うとどんなことができそうなのか、ということについて伺ってきました。
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(為田)

東京書籍×凸版印刷:福生市の算数学習履歴データを読み解く対談レポート No.3

 今回、東京都福生市で小学校3年生が2017年9月~3月の間に凸版印刷アダプティブラーニングシステムやるKeyを使って学んだ学習履歴を見ながら、東京書籍の清遠和弘さんと対談を行いました。
 今回の対談の相手である、清遠さんをご紹介したいと思います。清遠さんは、東京書籍株式会社 教育文化局 教育事業本部 ICT第一制作部に所属されています。以前は算数の教科書編集にも携わっており、やるKey開発時に、教科書編集経験者の立場から参加していただきました。

どこまで学んだかがわかることの意味

 学習履歴をとることで、◆ドリルを最後までやっている子どもがどれくらいいるか、ということもわかります。それについても、清遠さんに話を伺いました。

清遠さん ◆ドリルを離脱した人数もけっこういますね。

為田 ◆ドリルがいやだから、ということもあると思うし、問題数が多くていやだった、ということもあると思います。このあたりは、先生に寄り添ってもらいたいところですけどね。履歴を見てわかる、「◆ドリルが100人に出題されて、そのうち25人が離脱している」という事実を知るのは、◆ドリルを作った僕らとしては傷つく数字ですよね…。
 ◆ドリルがわかりにくいという可能性はもちろんあると思います。その◆ドリル自体が難しいということもあると思いますし、今までにやった◆ドリルが大変だった経験が離脱させるということもあるかもしれないですね。
 ◆ドリルが、ページ数が多いもの、少ないものがあって、それによってもどう違うかは見た方がいいですよね。

清遠さん やるKeyのドリルで自動出題された問題を間違え続けたときに特定された、学習者のつまずいているポイントを克服するために出題される◆ドリルは、一般的にページ数は多くなりがちです。それで、問題を見て、「いやだ」という子どもは多いと思います。

為田 でも、◆ドリルが大変だからページ数を減らして、長くて読まれないから短くして、その結果としてわからないまま、また問題に戻す、というのでは意味がないと思うんです。ドリルが長いのをどうやらせるかは、デジタルの表現で何とかするか、または、そういう状態を先生が理解してくださって、声掛けしてもらうなど何とかする、というふうにしなくてはならないと思います。
 それとは別に、離脱率が高くて、後ろにつながっているやらなければならない◆ドリルは、「最初に肝です。ここで諦めると来年苦労します」というのをあらかじめ先生に言うのはありかもしれないですね。ここが難しそうですよ、とメッセージを表示するのは簡単ですけど、その裏側にはどういう意図でこうした問題を出しているのか、というのを言えるのが、東京書籍とコンビを組んでいるやるKeyの強みだと思います。
 デジタルドリルで学習履歴を見られるからこそですが、見たい数字がまだまだ出てきますね。例えば、何ページくらいある◆ドリルなのか。◆ドリルが表示されてすぐに離脱しているのか、問題を解き進めて途中で離脱しているのか。そのあたりは、データを読み込まないとわからないところですね。

清遠さん 漢字があると読まない、とも言われますが、それでいいのか?というのは根底にありますね。児童の状態に合わせて「読み替えてご覧」と先生が言うのはいいですけど、一律にシステムで漢字を全部ひらがなにすればいいということではないように思います。

為田 「この子は読めない」というのはシステムでは判断できなくて、そこは先生にやっていただくしかないように思います。だから、やるKeyはスタートは先生であり、授業である、と言っているわけです。先生が一度離脱してしまった子どもに、「ああ、あそこの◆ドリル、ちょっとページ数が多いもんね。でもがんばろうね。」というふうに言ってもらえばいいですよね。

清遠さん 先生は、誰に◆ドリルが出題されているのか、わかるようになっているんですか?

為田 わかります。クラスの習熟度の概要がわかっていて、そこから一人ずつまでフォーカスして見られます。
 でも、個人的には一人ずつのデータを見ていくよりも、授業のなかでやる方が楽だと思っています。授業のなかである程度の時間をかけて、オススメドリルをやってみると、先生たちは、学習履歴のデータを見て「ああ、あの子ね」と分かることが多いのです。見とりができているんです。そうしたら、「あそこの◆ドリルはあの子にはちょっと文章が長過ぎるのかな」というのを先生は分かるし、次にどうするかを先生は考えると思うんですよね。そこで、自動出題・自動採点機能があることで、答え合わせや次の問題の配布などから先生を解放し、次を考える時間を先生に作り出すことができていると思います。
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文章を読んでいない?~概念が大事

 コンテンツの量とか質の問題もある一方で、例えば、問題を読もうとしていない子どもが多いように思います。問題を読もうとせず、直感的に答えてしまう。やるKeyを使って学んでいる児童を見て、ときどきそう思うことがあります。そうした点についても訊いてみました。

為田 問題を読んでいない子どもがいるんじゃないか、という問題点は、実は紙でも同じではないかな、と思うんですよね。これは、デジタル起因なのか、紙でも一緒なのか。また、◆ドリルの離脱も同じかな。先生はどうしているのか。教科書的にはどうにか拾おうとしているのか、とか。

清遠さん それは明らかにそうだと思います。PISA調査でも、日本は誤答よりも無答が多い、というのが特徴でした。かなり問題文が長くなっていて、それを読むのを諦めて次に行ってしまうのが問題になっていました。そういうのもあって、読解力の重要性が言われるようになってきていると思いますし、文部科学省の学力調査が始まった経緯もそのあたりにあります。
 教科書の文章題も、以前は簡単で短かったんです。それに、わり算の単元には、わり算の問題しか出てこなかった。だが、それではだめだ、ということで、読まないとかけ算かわり算かわからない問題文にしたり、わり算の単元にかけ算の問題が出てきたりもするようにしたんですね。

為田 教室に行くと、「問題文の中に“分けると…”って書いてあるということは…使うのは、なに算?」と訊くような先生もいますよね。はじきもくもわも、流れとしては同じだと思う。正解になれば何でもいいのか。概念は後で追いついてくればいいのか。どうなんでしょうね?

清遠さん 概念を疎かにできないのは、そういうところです。例えば、わり算は、3年生までは大きい数を小さい数でただわればいいですよね。そうしたら、問題文を読まなくてもいい。「大きい数÷小さい数」と立式ができれば、日本の子どもたちは計算はできるから、正解になります。そういう子どもたちはわり算ができるもんだと思って、上の学年へ行くんですけど、小数が出てくると、小さい数を大きい数でわるわり算が出てきます。ここで、「どうやればいいの?」とつまずいてしまう。
 かけ算の順番問題は、ネットを騒がすことがありますが、それにも一理あるとは思っているんです。本来数学的にはたし算やかけ算には順序はありません。しかしひき算やわり算には順序がある。ところが小学校低学年段階では、先ほども言った通り、大きい数を前にしておけば正しい式がかけてしまうので順序を意識する必要がありません。ただ、そうやって意味や順序を考えないで立式するという経験をずっと積んでくると、上の学年でつまずいてしまう。もちろん,順序を逆に書いたから一律に×にすべきということではありません。
 ただ、算数では、数式自体が言語だと思っています。それ自体が意味を持った言葉なんです。人に伝えたり、後から見直したりする際には、ある程度意味を考えて書いておいた方がよいという側面もあると思います。
 単なる計算ができる/できないではなくて、桁数が増えたり、小数になったりしたときにわからなくなってしまう子どもは、「式をどう考えて書くのか」というところに本質的なつまずきがあるはずだと思います。

為田 つまずきポイントには、「わる数が大きいときに間違える」というようなのをつけた記憶もあります。

清遠さん 教科書でも、文章題の中に、式には使わない数字が入っている問題を意図的に入れたりしています。そのあたり、なぜその問題が入っているのかという出題の意図がわからないとさらっと流してしまうかもしれません。
 そういうところが、やるKeyのつまずきポイントの傾向を見ることで、指導のヒントになるのではないかと思います。だから、つまずきポイントを先生に見せるのは、意味があると思いますね。問題にどういう意図があるかが分かる、というのはとても大事だと思います。

為田 保護者様にも、面談のときに見せることもできますね。つまずきポイントまで見えれば、「かけ算の筆算のところ、少し間違いが多いですけど、特に部分積に0が入る問題でよく間違えがちですよ」と言うことができますね。


 No.4に続きます。
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(為田)

「Introducing Microsoft Surface Hub 2」の動画が公開

 Microsoft SurfaceYouTubeチャンネルで、「Introducing Microsoft Surface Hub 2」の動画が公開されました。50.5インチの大画面、壁掛けで使うらしいです。オフィスで使う、というイメージを意識しているのかな、という感じがします。

 まずは、一人で一画面で使うイメージです。画面を共有して、Skypeで相手と話しながら打ち合わせをしている様子が提示されます。
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 それから、このSurface Hub 2を4つ並べてチームで使う様子が提示されます。下の画面の出る少し前には、いちばん右側のSurface Hub 2には、Microsoft Teamsの画面が表示されていました。コラボレーションで使うイメージも見えます。
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 発売は来年だそうですが、こうして使うイメージが見えるのはいいな、と思います。会議室などに入れて使う企業はありそうな気がします。教育委員会や教育センターにこうしたモデルクラスルームを作って、Skype Classroomを体験してみたり、コラボレーションをしてみたり、遠隔で研修をしてみたり、先生方にも使ってもらったり、児童生徒に使ってもらう、という自治体が出てもいいかな、とも思います。(議員さんや地域の企業の人にも貸し出すとか、できないかな…)
www.youtube.com

(為田)

東京書籍×凸版印刷:福生市の算数学習履歴データを読み解く対談レポート No.2

 今回、東京都福生市で小学校3年生が2017年9月~3月の間に凸版印刷アダプティブラーニングシステムやるKeyを使って学んだ学習履歴を見ながら、東京書籍の清遠和弘さんと対談を行いました。
 今回の対談の相手である、清遠さんをご紹介したいと思います。清遠さんは、東京書籍株式会社 教育文化局 教育事業本部 ICT第一制作部に所属されています。以前は算数の教科書編集にも携わっており、やるKey開発時に、教科書編集経験者の立場から参加していただきました。
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「どこがわかっていないか」がわかること

 清遠さんとは、やるKeyの開発のなかで、学習者が問題を間違えたときに、何が原因なのかを特定するためのつまずきポイントの設定の仕方を相談させていただきました。また、つまずきポイントを克服するために出題される◆ドリルを、算数教科書の編集方針と照らし合わせながら一緒に作っていきました。その節は、本当にお世話になりました。つまずきポイントをどう設定するか、わからないときにどんなドリルを見せるか。教科書の説明をデジタルドリルとしてどうやって説明したらわかりやすいか。そうしたことをすべて一緒にやってくださった方です。
 今回は、福生市の小学校3年生が一人1台のiPadをもって、やるKeyに取り組んだことによる学習履歴を一緒に見ていきます。具体的には、やるKeyの◆ドリルで、どの単元・小単元の◆ドリルがたくさん出題されているのか、ある程度の学習履歴をとることができたので、教科書を作っている人から見たらどうなのかなというのを伺いたいと思います。
 ◆ドリルは、やるKeyのドリルで自動出題された問題を間違え続けたときに特定された、学習者のつまずいているポイントを克服するために出題されるドリルです。東京書籍の教科書の「今日の問題」に紐付いて出題されます。◆ドリルを作っているときにも、清遠さんと「ここは教科書のページ数の制限があってしかたない」とか「ここはこれ以上の説明は入れられない」という話もしていたので、こうして学習履歴についての対談ができたのはうれしいです。
 個人的には、「やるKeyをする=デジタルで勉強する」というところから、「デジタルで」がとれて、「やるKeyをする=算数を勉強する」というふうに言われてほしいと思っています。やるKeyの学習履歴をこうして見ていくことで、3年生でどこがわかっていないのかがわかることは大事だと思います。


為田 まずは単元登場順のランキングを見てみましょう。福生市の3年生が、この◆ドリルを出現させた人数です。たくさん出題されているのは、教科書のどのあたりの単元・小単元かわかるようになっています。今回は、福生市の小学校3年生のアカウント約400件をもとに、◆ドリルの出現回数を表示しています(先生向けのテストアカウントなども入っていて、詳細は不明)。◆ドリルは、やるKeyで学ぶ全員に出題されるドリルではありません。◆ドリルは、やるKeyの学習履歴とレコメンドエンジンによって特定した学習者のつまずいているポイントを克服するために出題されるドリルです。そのなかから、40回以上出題された小単元、つまりだいたい10人に1人が出現させている◆ドリルが表示されています。
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為田 いちばん多いのは、「0のかけ算」です。これは、なぜこんなに多いのかがわからないですね…。この「0のかけ算」と、「はしたの大きさの表し方」「二等辺三角形と正三角形」は、100回を超えていますので、福生市の3年生の4人に1人はここにひっかかって◆ドリルを出題されているということになります。
 これには、2つの可能性があると思っています。ひとつは、この単元・小単元がそもそも難しいということです。もうひとつは、この単元・小単元がデジタルで出題されると難しいのではないかということです。例えば、角度の問題がそうだと思うのですが、分度器を使ったら角度を測れるけど、やるKey上で出題される問題では分度器は使えないので、そうした形での出題だとわかりにくくなる、という可能性です。そういうのも見えてくるかもしれません。このあたりから、清遠さんの感想をお伺いしたいです。

清遠さん ぱっと見て、ここは難しいだろうな、というのは、「はしたの大きさの表し方」「小数のたし算とひき算」「数の表し方」のあたりですね。
 あとは「短い時間」。このあたりが出てくるのは、量感を問う問題が入っているからではないでしょうか。例えば、「コマーシャルの長さは15(  )」みたいな問題が出て、(  )の中に「秒」などの時間の単位を入れる形式です。こうした問題は難しく、どこでやっても正答率が悪いです。学力調査でもよく出る問題です。
 ただ、この問題がわからないから、量感がないのか、というのはなかなか言えないのです。テストだと、こういう問い方しかできないのです。例えば、私の地元に岸和田城というお城がありますが、岸和田城の周りが何メートルか、と問われても普通の人はわからない。子どもにとってはそれに近いのだと思います。問題を作るときには、できるだけ身近なもので出題しているけど、ふだんは意識していないので、一般的な表現で書かれていることを、自分の目の前のものに変換する力が足りないのかな、と思いますね。目の前にあるものが何cmかを訊けば答えられるかもしれないですが。
 そういうところの難しさはあるかな、と思います。特に時間は、量のなかでもおそらくいちばん難しいです。目に見えないし、感じ方も人によって違いますから。そうした難しさがあって、出現回数上位に来るのかな、という感じがします。


為田 「0のかけ算」は、どうしてこんなに出題されているのかがわからないので、ちょっと置いておきましょう。「はしたの大きさ」とか、「二等辺三角形と正三角形」とかは、出題回数が多いなと思っていています。3年生でこれなら、5年生、6年生どうなっちゃうんだろうと思います。

清遠さん 数の相対的な大きさというか、「0.1の10個分はいくつか」「10000は100の100個分」とかの問題は、基準を決めて、それの何個分と考える力が必要で、難しいところではあるんです。そういう意味でいうと、「数の表し方」とかと近いところです。
 2年生までは、位が1つ上がるごとに新しい名前が出てきます。一、十、百、千、万…と来て、ここで急に4個飛ぶんです。十万、百万、千万と来て、一億になりますよね。新しいルールを学習しなくてはなりません。ここも難しいところなんですね。

為田 このあたりは教科書を編集するときにも、想定している感じですか?

清遠さん 位取りって、大人の感覚だとそんなに難しくないんですけど、子どもたちは意外とつまずきます。特に、ある数が100の何個分とか、1000の何個分とか、このあたりは大人が思っている以上に子どもはわからない。このあたりの感覚がきちんと理解できないと、小数のあたりの単元でもつまずきが出てきます。
 整数のところのつまずきを小数のところはひっぱっていて、さらに表記の難しさと、位取りの難しさが入ってくるので、難しくなっているのかな、と思います。

為田 位取りが、概念操作だからですかね?一覧を見ていて、単元の後ろの方があまり出ていないかな、と思ったんですよね。単元の最初の方は、概念だから、考え方を学びます。その後で、技術(計算手法)の方に行きます。計算手法の方に行くに従って、あまり出ていない感じがしますよね。
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清遠さん まさに、そうだと思いますね。ここに出ている上位の単元・小単元だけでなくて、全部の単元・小単元の表示回数リストを見させてもらいましたが、単元の頭の方が悪いという傾向があると思います。単元の頭の方は、ちょっと難しいことを説明している感じはありますよね。単元の後ろに行くにつれて難しくなっているのもありますが、ちょっと難しいことを説明している感じのする単元の頭の方が正答率が悪いように思いましたね。

為田 実際に◆ドリルをどれだけ最後まで解いてくれているのか、というのもありますよね。データ上は、◆ドリルを1回以上実施したけれど、最後までやりきらなかった子どももわかります。◆ドリルを途中で離脱しなかった子どもが、きちんとできるようになったのか、というのを追いかけていくのは今後の課題ですね。

清遠さん これは3年生だけのデータなんですよね?

為田 福生市は「小4ビハインドの解消」を導入目的としていて、2017年は小学校3年生にだけタブレット貸与だったので、3年生だけしかやっていないんです。やるKeyでは、4年生から3年生の単元に戻って学ぶ、つまり4年生なんだけど3年生の◆ドリルが出題されることもあります。これは、やるKeyの大きな特長です。このときに、3年生と4年生を混ぜて考えるのか、分けて考えるのか、というのはこれから検討すべきところですね。
 4年生から戻って多く出題されている3年生の◆ドリルがどこの単元・小単元かがわかると、3年生のときにしっかりつぶしておかないと、結果的に4年生になって手戻りになる、ということがわかるようになりますよね。
 ここまではまだ言えていないのですが、ここまで言えるようになると、他のデジタルドリルとの違いが見えるようになる気がしています。

清遠さん どうしても普通のドリルだと、○×でしか判定できませんよね。その場合、計算の仕方については、形式に落とし込んでしまえば難しくないんです。意味を知らなくても手続きを知っていれば答えが出せるのが、筆算の良さでもあるので。その段階まで行ってしまって、ある程度習熟すれば、そんなに意味を考えなくても解けてしまう。それはある意味では算数の良さの一つでもあると思うんですが。そういう意味で、わり算の単元やかけ算の単元の◆ドリルがあまり出題されていないのかもしれません。小数のたし算は少し出ているけど…。
 筆算のところは、練習すればなんとかなるところですよね。むしろ2桁-1桁のくり下がり、みたいな問題の方が、筆算より苦手な人もいます。筆算は補助数字を書いたりして、計算しやすい形になっている。でも、例えば12-9とかは、頭のなかで計算しなくてはならないから難しい、という子どももいます。

為田 あとはもしかすると、◆ドリルが出る前に、オススメドリルが何度も出題されるじゃないですか。その過程で筆算はできるようになってしまっているという可能性はありますよね?

清遠さん あると思いますね。そこで回収できているんでしょうね。

為田 それもデータを見れば分かると思うんですけどね。先生方から「オススメドリルから◆ドリルが出るまでに時間がかかりすぎる」と言われることがあるのですが、オススメドリルをくり返し解きながら、つまずきポイントをだんだん減らして特定する過程で、その間にできるようになったりというのはあると思いますよね。

清遠さん あると思いますね。

為田 そうやってアダプティブに出すからこそできるようになる。みんなで同じ練習問題をプリントで解いてもそうはならない、とも言えるかもしれないですね。

清遠さん わり算やかけ算の単元は、問題数もすごく多くて、ひたすら問題を解く単元で、数をこなせば何とかなるところであり、問題を多く収録しているデジタルドリルの良さが出るところですよね。それを全部先生が採点していたら大変だけど、子どもたち一人ひとりに問題を自動で出し分けて出題して、自動採点してくれますからね。そうして適した問題を、くりかえし出題して採点することで、◆ドリルまで戻らなくてもできるようになる、ということですよね。

為田 自動出題、自動採点でできるようになる子どもに関しては、先生は手を離すことができる。でも問題を解いているうちに自分で習熟を上げることができる、それがやるKeyのいちばん得意なところです。こうして見ると、最初の概念でつまずいている子どもたちをどうするか、でしょうね。

清遠さん そこを、計算はできているんだからいいじゃん、というふうに言ってもいいかという問題はありますよね?本当は、そこを理解していないと、3年生の段階では大丈夫かもしれないけど、小数のわり算かけ算のあたりで、意味を考えて立式していかないとだめなところがあるので、丁寧にやらなければならないところですよね。
 とはいえ、普通にやっていると、そうした部分よりは、習熟のところの方が多く時間をとることになってしまうのだと思います。

為田 「くもわ」とか「はじき」とか、点は取れるけど意味がわからない、というのもありました。「できればいいんですか?」とか言いながら、◆ドリルを作りましたね。


 No.3に続きます。
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(為田)

「みんなでつくる!情報時代の学校 ~教師・家庭・地域・民間をICTでつなぐとできること」実践紹介詳細レポート(2018年5月13日)

 2018年5月13日に、「みんなでつくる!情報時代の学校 ~教師・家庭・地域・民間をICTでつなぐとできること」を開催しました。このイベントでは、「情報時代の学校」を議論する手がかりとして、2017年度に富谷市立明石台小学校において行われた、タブレットを用いた「学びの個別化、反転学習、学校で閉じない学び」に取り組んだ事例を報告いただきました。
 会場は、明石台小学校にセルラーモデルのタブレットを提供した、NTTドコモ東北支社の会議室をお借りしました。東北地方の教職員の先生方を中心に、50人を超す参加者にご来場いただきました。会場にはテレビ局や新聞社の方にも多くご来場をいただきました。東北地方での教育の情報化への関心の高さを感じました。

 イベント当日の夕方には、仙台放送にて「NTTドコモなどが実証研究 タブレットPCで点数2倍」とニュースになりました。
 Yahoo!ニュースでも「テストの平均点が2倍に!! タブレットPCを小学校の授業に活用で」とニュースになりました。
headlines.yahoo.co.jp

 アップされるやいなや、SNSなどで多くの方に関心をもっていただきました。SNSでのコメントを読ませていただくと、「ここはどうなの?」と詳細な情報を求める声もありました。
 為田は、この「みんなでつくる!情報時代の学校 ~教師・家庭・地域・民間をICTでつなぐとできること」のイベント事務局もしていました。興味を持ってくださった方に、より詳細に情報を提供する意図で、児童の個人情報にかかわらない範囲で今回の取り組みの意図と授業の概要をレポートしたいと思います。よろしければ、お読みいただければと思います。

実践テーマについて

 今回ニュースでもコメントが取り上げられていた富谷市立明石台小学校 齋藤裕直 先生のプレゼンテーションは、今回の「みんなでつくる!情報時代の学校」のイベントのなかの実践紹介(1)として、「学びの個別化、反転学習、学校で閉じない学び ~反転学習・適応学習・動画制作学習を取り入れて~」というテーマで行われました。
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 最初に、今回の実践については、モデルになる実践をつくることが目的の実証であり、効果検証が目的ではありません。モデルになる実践をつくる目的の実証でしたが、その上で問題ないレベルの習得状況にあることを意味するデータを、齋藤先生はプレゼンテーションとして示してくださいました。
 ニュースなどで「平均点が2倍になった」と報じられた6年生の授業についての基本情報は、以下の通りです。

  • 6年生30名
  • 実施時期は2017年11月下旬
  • 対象単元は、算数科「並べ方と組み合わせ方」

 「平均点が2倍になった」と報じられたことで、タブレットだけで勉強したかのように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の実践では、タブレットを活用して、大きく3つのことを実施しています。

  1. 児童が家庭で授業動画を見てくる反転学習
  2. 児童一人ひとりに合わせて問題を出し分ける適応学習教材
  3. 自作問題の解説動画作成

 これらの活動を授業案に入れており、このどれが効いているかまでは、今回は分かっていません。また、比較対象がある訳でもないので特別に効果があったかどうかも不明です。
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成績の伸びについて

 次に、平均点の伸びについてですが、齋藤先生がプレゼンテーションのなかで紹介したのは以下のグラフです。ここでは、プレテスト(事前テスト)とポストテスト(事後テスト)の正答率=平均点の伸びが紹介されています。
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 プレテストの平均点がちょっと低いのではないかというコメントをSNSなどで見かけましたが、これは、今回の対象単元である「並べ方と組み合わせ方」を未学習の状態でプレテストに取り組んでもらっているためで、低くなることが一般的です。特に、これまでの既習範囲とは独立した単元であるため、筆算の計算問題のように、既習事項から積み上げているものがない単元だからだと考えています。それまでの別の単元でのプレテスト/ポストテストの平均がわかれば、より深く分析することも可能ですが、今回の実践ではそこまでは実施していません。
 このときのプレテストとポストテストは、東京書籍が提供している、教師用ワークシート集に収録されている問題を利用しています。プレテストとポストテストは同じ問題を解いていて、齋藤先生の指導計画案を見ると、2017年11月20日(月)の家庭学習の前に、プレテストを実施し、それから2017年11月30日(木)の授業まで単元の学習を上記の(1)児童が家庭で授業動画を見てくる反転学習、(2)児童一人ひとりに合わせて問題を出し分ける適応学習教材、(3)自作問題の解説動画作成、の学習を行い、ポストテストを実施したことになります。
 その結果として、中位群は正答率43%→96%の伸び。下位群は正答率20%→84%の伸び。上位群まで入れて平均すると、45%→92%となり、これが2倍になった、と報じられました。
 今回の実践に関わられた東北学院大学の稲垣忠 教授は、「事前事後で成績が上がるのは学習指導を行った結果として当然の結果です。事後の平均としては満足できる水準にあるのではないかと思います。下位群は伸び代が大きいため、上昇幅も大きくなることがありますが、どんな観点(知識や技能面なのか、思考面なのか?)が変化したのか、それはなぜかといった要因を検討することが大切です。」とコメントをされています。
学習活動のツールとして、タブレットを使っているのはたしかですが、「成績が上がった要因はタブレット」とまで単純化できる話ではないように思えます。
 例えば、反転学習のところでは、ロイロノート・スクール(株式会社LoiLo)を使って授業動画を見て、家庭でノートにまとめた内容を事前に先生に提出し、先生はそれを見ながら授業設計をするということをしていました。ここでは、タブレットはツールとして、先生の授業をサポートしていることとなります。
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 また、児童一人ひとりに合わせて問題を出し分ける適応学習教材としては、やるKey(凸版印刷株式会社)を使っています。一人ひとりの学習の履歴から、問題を出し分けることができます。学習履歴と習熟度を先生は一覧で見ることもできます。また、学習履歴を個別に見ていくことで、児童のつまずきや学び方のクセというものを見とることもでき、これによって、クラスの理解状況を知ることができます。これもまた、タブレットで問題を解いているからこそ提供できる情報ですが、この情報をどう活用するかは先生次第となります。
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 また、自作問題の解説動画を作成する活動では、自分でつくった問題を楽しそうに解説する子どもの動画に新たな可能性を感じることもできました。

 これだけのことをして授業を作っているわけで、タブレットをいかに先生が活用するか、というところがキーになると言えると思います。

 なお、本実践の概要については齋藤先生が以下(1)の報告を、学習履歴を活用した適応学習に関しては稲垣教授が以下(2)の記事に実践の概要とその意義を報告しています。こちらも、あわせて参照いただければと思います。

  • (1) 齋藤裕直・佐藤靖泰・阿部智・村上壮・稲垣忠(2018)「算数科における1人1台LTE端末を使用した反転・適応・動画制作学習の実践」日本教育メディア学会研究会論集44 pp.25-30
  • (2) 稲垣忠「学習履歴を活用した適応学習の可能性」(2018)学習情報研究2018年5月号 pp.44-45

(為田)