8月8日にプレミアホテル中島公園札幌を会場に行われた、D-project北海道 創設10周年記念セミナーに参加してきました。中川一史先生(D-project会長、放送大学教授)による基調講演「深い学び・対話的な学び・主体的な学びとICT」について、レポートしたいと思います。文部科学省から出た論点整理を踏まえて、「深い学び、対話的な学び・主体的な学びとICT」の関わりについての講演となりました。
ICT導入について
中川先生は、ICTの導入が段階的に進んでいると言い、その様子を図にまとめて示してくれました。段階的なアプローチとその方向性がまとめられています。
- PCルームのPCをタブレット型の端末に変える、というケースが全国的に多い。
- 固定式から可動式になってきているところ。
- その先に、一人1台があります。
- 使う場所が広がってきた。
- デジタル黒板はどうだろうか?
- 学校数台から、各教室に1台という流れがある。
- アプリ、ソフトなどコンテンツは、指導者用=提示用→学習者用となってきた。
- 全部合わせると、「共有・移動」から「個別・常設」になってきている。上の方が便利だが、なかなかその状況にはならない。(この図の中央にある)黄色い線を超えるのが大変。
たしかに、段階的なアプローチで、ある一定量を超えるところまで行くのが非常に難しいと思います。また、方向性がいくつかあるのもそうで、それらを総合的に揃える方法もあるし、どこかに特化するという方法もあるだろうなと感じました。校種によっても異なりますし、どう評価するかの指標として持っておきたい視点です。
そうした導入の段階について触れたあとは、タブレット端末の可能性について、またアクティブ・ラーニングとの関連について、話が進んでいきます。
アクティブ・ラーニングと何か?については、中教審の論点整理で、だいぶ焦点化されてきましたが、「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」の3つの柱は変わらないと中川先生は言います。「育成すべき資質・能力を育む観点からの学習評価の充実」を図るために、「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」の3つの柱は変わらず、資料を見ると、右下の「どのように学ぶか」の中に、アクティブ・ラーニングがあります。
以下で、主体的・対話的で深い学びを実現するために、「深い学び」「主体的な学び」「対話的な学び」のそれぞれを実現するための過程についてしていただいた説明をまとめます。
「深い学び」を実現する過程とは?
まず、深い学びの過程をどのように実現するのか、と中川先生は問います。そこで、中川先生はオリジナルな図を使って、深い学びの過程の実現には、「子どものスキル」と「教師のふるまい」の2軸を考える必要があると言います。
- 子どものスキルとして、基礎・基本スキルだけではだめ。実践・応用スキルは必要。いつまでも基礎をやっているだけではなく、実践もできるようになる必要がある。(縦軸)
- 教師のふるまいとしても、スパンを考えなければならない。本時だけで実現というのでもなく、単元や年間を通じて考えるということもある。スパンも考えるべき。(横軸)
逆に、「深くない学び」とは何か?中川先生はスライドを示しながらコメントをしていきます。陥りがちな深くない学びについて、以下のようなポイントが示されました。
- 指導案に段取りしか書いていない
- 「何について」「どのように」話し合うのか、までが指導案に書いていない。これでは深い学びにならない。
- 授業に「ため」がない。
- いきなり学習課題に行くのではなく、思考を巡らせる時間をとることが大事。3つ目の「間を取る」ともリンクをしていますが、ここがはしょられているのではないか?深い学びを得るために、一つの考えを提示するまでに、「ため」を作れない、「間」をとらない。
- 教師が論点を整理できない。
- 板書を使って思考の整理をするのはこれからも変わらない。板書が上手な先生のクラスは、子どもたちも理路整然と考えられる。
- 教師が正解を子どもたちの答えから求めすぎる。
- 正解が出るまで、子どもを指名し続ける先生など。
- そうすると、子どもたちは正解を求めるようになってきてしまう。
- 教室に聞き(聴き)合う雰囲気がないとだめ。
- これは学級経営の問題。
- 教師の教材研究が決定的に不十分。
- 授業を深い学びにするには、教師の忙しい毎日の中での教材研究に尽きると思っている。
- 大学でも「教材研究論」というのがない。ここをしていない大学は多いが、ここをしっかりしなければならない。深い学びを実現するためには、ここが大切。
こうした点については、公開授業などの中でもよく見るような気がします。ICTを使っていても使っていなくても、これらのポイントは授業を評価するうえで非常に重要なポイントだと思います。また、自分で授業をする機会があるときには、絶対に考慮に入れておくべきポイントだと思いました。
「対話的な学び」を実現する過程とは?
対話的な学びの過程の実現のところでは、「多様性の理解」と「最適解の追究」というのがキーワードになると中川先生は言います。それに「正解がある」と「正解がない」を加えてマトリクスを作り、示してくれました。
授業の例で言うと、例えば今日の新聞を先生が教室に持ってきて、見出しのところを隠し、記事を大きく表示して、「ここにはどんな見出しがついているかな?」と考えさせる、という学習活動を行います。このときは、正解がある問題となります。
一方で、「学級新聞を作りましょう。よりよい見出しをつけましょう。」という学習活動にすると、そこには正解はなく、児童生徒がそれぞれに考えていく、ということになります。
対話的な学びの過程の実現のところでは、この授業では、学習活動として先生が何を求めているのか、ということを意識することが大事だと中川先生は言います。段階を無理やりつけると、A→B→C→Dとなりますが、6年生がAをやるケースもあるそうです。
とはいえ、だんだんスパイラルに段階をふんで、思考などを経験させていくように、学習計画は組まれているはずだし、組まなければならないと中川先生は言います。
「主体的な学び」を実現する過程とは?
最後に、「主体的な学び」を実現する過程についてです。ここでは、実生活に結びつけた単元計画になっているかどうか、精神的にも物理的にも身近な話題・題材になっているか。ということが説明されました。また、乗り越えるべき学びの壁があるかどうか。問題発見・解決だからといって、5分で解決するような問題ではだめだし、子どもにとって解決策を思いつきもしないような問題でもいけません。みんなで知恵を結集したら乗り越えられそうな課題をどう作るか、ということが肝になります。
また、発表も一方的にするのではだめ。リアクション(「わかったのか?わからなかったのか?」)というのが子どもたちに返るようにしなくてはなりません。
中川先生が最後にスライドに書いていた、「funnyからexcitingへ、excitingからinterestingへ」というのは本当にいいメッセージだと思いました。日本語にするとみんな「おもしろい」ですが、このinterestingに向かう学びこそ、「主体的な学び」になると僕も思いました。
まとめ
「主体的・対話的で深い学び」の過程を考えると、ICTは自分の考えを整理する、共有化する、説明するところに使われるものになります。ICTは思考を可視化するツールとなりますが、これはICTだけではなく、ワークシートやホワイトボードも同じです。それらのOne of themとして、タブレットはあり、どういう場面で使うのかを考えなくてはならない、と中川先生は言います。
また、ICTを大事にすればするほど、教材研究、板書の大事さが際立ってくるというのは、これからICTの導入が進むにあたり、学校の先生方一人ひとりに伝えていきたい言葉だと思いました。そんなことはもちろんわかっていて、実践されている先生もたくさんいますが、一方でICTの方がメインになってしまっているケースもありますので。
中川先生の基調講演は、後編となるNo.3に続きます。
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(為田)