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JAPET&CEC海外調査部会 オーストラリア視察研修報告1「オーストラリアの教育制度とカリキュラム」

 2018年6月2日~9日の日程で、日本教育情報化振興会(JAPETCEC)海外調査部会のオーストラリア視察研修が行われました。この視察は毎年JAPETCECの会員を対象に参加者を募って行われるもので、昨年はイギリス、一昨年はアメリカへの視察を行っています。今回のオーストラリア視察には11団体から計18名が参加し、公立の小学校や高校、教育省を訪問しました。このように、海外の学校や教育行政機関を訪問して世界の最新の教育事情について直接触れることは、自国の教育システムやサービスを見直し、今後を考える上でも大いに役立つ希少な機会となります。そこでこの連載では、実際に現地で視察してきた様子についてレポートさせていただきます。

オーストラリアの教育制度

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外務省HPより

 オーストラリアでは義務教育は11年間で、日本と同じく6歳から初等教育が開始されます(※タスマニア州は5歳から)。小学校に上がる前の1年間(※日本では幼稚園の年長に相当)は準備期間として就学前準備学級(Prep)に通います。多くの小学校にはこの就学前準備学級が併設されており、子どもたちは小学生と同じ校舎に通ったり、時には一緒のクラスで活動したりしながら学校の環境や集団生活に慣れていきます。
 後で紹介する全国統一カリキュラム(Australian Curriculum)では、この準備学級についてもきちんと内容や目標が示されており、集団生活や遊びなどの活動を通して基本的な生活習慣を身に着けさせるとともに、文字の読み書き、簡単な計算能力を養うことになっています。

カリキュラムと評価

 オーストラリアは、もともと州ごとの権限が強く、州によって、カリキュラムや教育制度が異なっていました。しかし、2008年に出された国家教育方針「メルボルン宣言」によって、世界水準の全国統一カリキュラムの開発が進められることになりました。試用期間(2012年)を経て、2013年から統一カリキュラムへの段階的な移行が進められています。
 この統一カリキュラム(Australian Curriculum)では、英語、数学、科学などの教科(学習領域)に加え、教科横断的に養うべき汎用的能力(リテラシーやニューメラシー、ICT能力など)や、学際的カリキュラム優先事項(先住民の歴史と文化、アジア地域との関わり、持続可能性)が示されています。
 これら「①学習領域」「②汎用的能力」「③学際的カリキュラム優先事項」の3つは、3次元的に組み合わさった形(3次元カリキュラム)として示されており、①~③の区分ごとに異なる見方でカリキュラムを捉えることが可能になっています。
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(参考)
ACARA:https://www.acara.edu.au/
奥田久春(2016)「オーストラリアのナショナル・カリキュラム開発とグローバル化に関する考察-コンピテンシー型の能力を中心に-」、『三重大学教養教育機構研究紀要』第1号

 このオーストラリアン・カリキュラムはWebでも公開されています。それぞれの項目には個別のIDが振られており、各項目における理念・目標・内容・到達スタンダードなどが示されています。(https://www.australiancurriculum.edu.au/
 また、各内容の中で関連付けて扱うべき汎用的能力や、学際的カリキュラム優先事項がアイコンで示されています。
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 さらに、学習領域ごとの生徒の到達度別のポートフォリオ例まで提示されています。

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 今回訪問した学校の1つであるAshmore State Schoolでは、デジタルポートフォリオを日常的に活用して、児童個別の改善計画を立てているそうです。

全国学力調査(NAPLAN)

 オーストラリアでは、2008年からNAPLAN(National Assessment Program–Literacy and Numeracy)と呼ばれる全国学力調査を実施しています。これは、Year3(8‐9歳)、Year5(10-11歳)、Year7(12-13歳)、Year9(14-15歳)の児童・生徒に対して、公立・私立の区別なく悉皆で行われているもので(ただし保護者の意向で拒否することも可能)、「読解(reading)」「作文(writing)」「言語(language conventions)」「算数/数学(numeracy)」の内容について調査が行われております。
 結果は、州別、地域別、学校別、性別、保護者の学歴・職業別、先住民の該否別等、様々な観点から集計され、公開されています。

 My Schoolhttps://www.myschool.edu.au/ )というサイトを見ると、全ての学校の基本情報やNAPLANの成績を閲覧することができます。日本で公立の学校に入学する場合は、学区ごとに学校が指定されている場合がほとんどですが、オーストラリアでは学校も選ぶことができます。その際には、こういったWeb上で公開されている情報も判断材料となります。
 また、学校ごとにコミュニティ社会教育的アドバンテージ指数(Index of Community Socio-Educational Advantage:ICSEA)というものが公開されています。これは、児童生徒の学力に影響を与え得る要因(保護者の職業や学歴、学校所在地の地理的条件、先住民児童生徒の割合など)に関する学校ごとのデータに基づき、各校がどの程度有利な環境にあるかを定量的に示した指数で、全国平均を1,000に設定し、数値が大きいほど有利な環境にあることを示しています。例えば、仮にAとBの2つの学校のNAPLANの成績が同じくらいだったとして、Aの学校のICSEAのスコアがBの学校のスコアよりも小さかった場合、Aの学校の方が環境を考慮すると頑張っていると評価することができます。このように、成績だけではなく様々な観点から学校を評価できるようになっているのです。

 ただ、今回訪問した学校の先生に全国学力調査についてお話を伺ったところ、全ての学校の成績が見えてしまうため、先生方にとっては非常にプレッシャーが大きく、テスト実施反対の声も少なくないそうです。また、どうしても試験実施の時期が近づくとテスト対策のための授業が多くなってしまうとのことでした。実際、テスト対策のワークブックのようなものも多数発売されています。このあたりの話を聞くと、日本もオーストラリアも同じだな、という感じがします。

 今回は教育制度やカリキュラムの概要についてご報告しましたが、これらは全てWeb上で誰でも閲覧することができます。こういった様々な情報がオープンになっており、誰でも利用可能という点がオーストラリアの教育の特徴の1つです。例えば上で説明した全国統一カリキュラム(Australian Curriculum)には個別のIDが付与されており、そのIDを核として教材の検索や、LMSによる児童・生徒の学習状況の管理などができるようになっています。学校評価までが公開されてしまうことの是非はともかく、オーストラリアではそうやって様々な情報やサービスを連携させていく方向に進んでおり、情報の蓄積や活用が進んでいる印象を受けました。そういった点でも日本が学ぶべき点があるのではないかと思います。

 第2回に続きます。
blog.ict-in-education.jp


(東京書籍:清遠)