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近未来の学校教育体験セミナー「アダプティブ・ラーニングは算数/数学の教え方をどう変えるのか?」 イベントレポート No.6 (2019年8月24日)

 2019年8月24日に、仙台のNTTドコモ東北支社にて、近未来の学校教育体験セミナー「アダプティブ・ラーニングは算数/数学の教え方をどう変えるのか?」を開催しました。アダプティブ・ラーニングの3サービスを順に体験してもらった後で、リフレクションの時間をとりました。「アダプティブ・ラーニングに感じた可能性」と「アダプティブ・ラーニングで気になったこと」の2つのテーマを設定して、参加者にスクールタクトにログインしてもらい、それぞれのテーマで書いてもらいました。
 今回は、テーマ「アダプティブ・ラーニングで気になったこと」をレポートします。
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 参加者の皆さんにたくさんのコメントを書いてもらったのですが、すべてのコメントについて会場で取り上げることができなかったので、ここではより多くのコメントを紹介していきたいと思います。

導入の問題

 まず、気になることとして多く挙がっていたのは、導入の問題です。予算の問題、環境の問題、機器整備の問題などについてコメントが多くされていました。

  • 学校で取り組むのには、予算的な問題が大きい、、、
  • バイスの準備状況によっての地域間格差
  • 導入コスト。BYODに頼らざるを得ない現状。オフラインでもOK?
  • LTE端末でない場合、家庭環境に依存する。今ある校内ネット環境だと、開くまで時間がかかりそう。
  • パソコン、タブレットスマホ、どれも全員が持っている、という前提か。
  • 教科書会社の違いとコスト
  • 一人1台の環境が前提なので、現時点で本校の環境では十分な活用ができないが、担当学級あるいは、学年で単元のまとめなどで使ってみたい。
  • 予算確保
  • どの環境下で行うのか。自宅学習として行う場合に「月末にパケ死によって勉強できない」などということは起こらないか。自宅学習を行う環境を各家庭に委ねることで格差が生じれば本末転倒。

どうやって学ぶのかという問題

 どのように授業のなかに取り入れるのかということについても、多くコメントされていました。やるKeyも、Qubenaも、Libryもいずれも教材であると僕は思っています。その教材をどう使うか、ということを考えるときに、授業中なのか授業外なのか、先生はどういった形で関わるのか、そうしたことを考える必要があると思います。

  • 授業にどのような形で取り入れるのかは工夫が必要
  • 学力の変容(統計的に)
  • これらのアプリで、それまでの「わからない」が、わかるようになる子と、それでもわからない子がでる。
  • 到達ベースへ繋げられるか。
  • 小学生だったら、算数が好きな子どもはガンガン進むんだろうな。問題演習という感じだったらいいかも。
  • 高校生の少し高度な問題だと、(Libryの)写真撮影で提出はありだと思う。ノートで複数ページだと写真が多くなるってことですか?
  • 今回の体験では基礎の問題を扱いましたが、文章題など少し応用の問題には対応できるのでしょうか?
  • 設定の仕方によるのだと思いますが、ノルマが設定されていて(単線型)、それをこなす形になってしまうと、負担感が生じるでしょう。また、補充だけでなく、発展問題の種類をいくつか用意しておくと、そうしたこともなくなるかと。ゴールがいくつもある設定だといいと思います。

先生の問題

 アダプティブ・ラーニングで個別最適化された学びが実現されるとき、先生の役割も変わっていきます。どのように変わるのかを考えるために、それぞれのサービスに触れてみて、その仕組みを知り、授業設計やカリキュラム・マネジメントをすることが必要になるでしょう。

  • テクノロジーを活用した授業を苦手とする教員への対応
  • 生徒の思考活動把握をAIに依存しすぎると、若手教員の授業力が向上しない。
  • 「これを使っていつまでもドリルをさせておけば、子どもたちの基礎学力が向上する」と思い込んでしまう教員は出ないか?
  • 一斉授業を否定することが拡大しないか?
  • ドリル学習がメインになると、数学教育の本質が失われてしまう(生徒がICTに依存しすぎる可能性があるので、教員の適切な指導が必要になる)
  • 教員の役割が変化していく。teachingだけでなく、coachingの役割が大切になる。どんなに技術が進歩しても生徒の学びへのモチベーションを与える教員の役割は必要。
  • 活用のしかたには配慮と工夫が必要。知識・技能と思考・表現を別なものとして完全に切り離すのはキケン。
  • 思考のプロセス(手続きではなく)を解析できるような日はくるか…。
  • 各会社によって、アダプティブの仕組みが異なること。最近は、業者さんの説明で「AIで」と簡単に言ってしまう傾向が多いような気がします。しかし、「なぜその復習問題が提案されたのか」をある程度教師が説明できないと、生徒の信頼を失いかねない。その意味で、本日の各業者さんの説明は非常にありがたいと感じました。

要望など

 その他、要望などを書かれている方もいましたので、紹介します。

  • 最初はやはり先生からの働きかけによって学習が始まるのだと思うが、いずれはシステムにログインした時点で、生徒におすすめが表示されて、生徒が自分の目標に受かって学習していけるようなシステムになってほしい。
  • モチベーションをどう保つかが学習を継続するカギだと思うのですが、3社とももう一つ楽しくない…Libryはノートの表紙を生徒の好きなデザインにできるとか、遊びの要素も入れるとよいのでは?
  • 同じ間違いでも、無答・単位モレ・押し間違いが疑われるものが区別されて、異なる誘導が行われるとより指導に活かせそう。
  • 小学生なら、キャラがほしい。反対にキャラが気になる子もいるが。

質疑応答で取り上げたものの一部を紹介

 会場で、やるKeyの一ノ宮さん、Qubenaの穐谷さん、Libryの橋口さんも交えて、質問してみたものもありますので紹介します。

  • 計算問題をphotomath等のアプリで解き、スクリーンショットでその答えを送信するなどの意味のない問題が生じないか?

 こういう「チート行為」は、別にデジタルだから起こることではないと思っています。photomathを使って答えを書き写しても、結果的に数学ができるようになるわけではありません。結局、教材としてアダプティブ・ラーニングをどう使い、授業として何をもって評価するかという話だと思っています。

  • すべて手書き入力できる教材と一部のものがあるが、これは技術的な問題なのか、両方の形が必要なのか、みなさんの意見を聞きたい。

 手書きがいいのか、選択式がいいのか、というのは技術的な問題もまだ大きく存在していると思います。ただ、ここではLibryのCEO後藤さんが以前におっしゃっていた、「高校数学くらいになると、回答も複雑になり、それを適切にレコメンドするために問題形式を変えたりしなければならない。そうなると、回答形式のために問題の質を落とすことになり、そもそも本末転倒だ」という言葉を、僕から紹介させてもらいました。
 適切なレコメンドを出すために回答方式を工夫しているだけでなく、学びの活動が今とまったく違うものになりすぎないように工夫している部分もあります。このバランスを考えるためにも、「どうやってアダプティブな出題を実現しているのか」について知ってほしいと思っています。

  • レコメンドがどのくらい実際機能しているのか?(裏でどんな判断をアプリがして、どう出してきているのかを可視化できるモードがあるとわかりやすい)
  • レコメンドに子どもはどのくらい従ってるの?(ログから「無視した率」とかわかるとおもしろい)
  • 間違いを怖がる子どもへの対応(自宅でタブレットのドリルをやらせているが、「間違いたくない」気持ちが強いようで)

 この、「間違えたくない」という気持ちは、多くの学習者が持っている用に思います。1問でも間違えたらやり直したりする児童生徒もよく見かけます。ですが、アダプティブ・ラーニングの教材は、たくさん間違えてこそ、適切な問題が出題されるようになります。であれば、「間違えることは、習熟するための正しいプロセスだ」ということを、先生が授業の雰囲気として作ることが必要だと思います。授業の文化を作ることは、システムではできず、先生がいてこそ実現することだと僕は思っています。

まとめ

 最後に、コメントのなかに応援メッセージがあったので、紹介したいと思います。

  • 気になったことではなく、開発に対してのお礼の気持ち…従来、我々教員が行っていた、問題プロセスの分析、それの授業への組み込み、問題集としてのまとめ等を、一つのアプリとしてまとめてくださったこと。すごいです。これが、社会の認知を得られることを願うし、普及の一助を担いたいです。

 こうして、アダプティブ・ラーニングの教材を、今までの伝統的な学校教育の側に位置づけて話をしてくださっているのが大変うれしいです。算数/数学の授業をより良くするための武器として、アダプティブ・ラーニングの教材が役立つように、業界として切磋琢磨していければいいと思っています。

 No.7に続きます。
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(為田)