教育ICTリサーチ ブログ

ICTを教育にどう活用できるか、現場目線でリサーチします。

『イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室』×教育ICT ひとり読書会 No.1「第1章 教えることを学ぶ」

 ナンシー・アトウェル『イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室』を読んでいます。ナンシー・アトウェルは、リーディング・ワークショップとライティング・ワークショップを核とした国語の授業を展開している先生です。
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イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室

イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室


 この本を読もうと思った理由は大きく分けて2つです。ひとつには、SNS上で繋がりのある多くの先生方が読んでいるのを見たからです。リスペクトする先生方の目利きであれば、これは読んでみなければ、と思いました。
askoma.info


 もうひとつの理由は、「ライティング・ワークショップ」での「書くこと」が、教育ICTと非常に相性の良い活動なのではないかと思っているからです。僕自身、大学に入ってPCとインターネットを使うようになり、タッチタイピングを大学1年生でマスターしてからは、書き方は大きく変わったように思います(その前段階としての考え方もそれに伴い変わったと思います)。
 学校教育で、みっちりと「書くこと」を実施している学校は残念ながら日本ではまだ多くないですが、教育の情報化を背景として、「書く作業」はICTでサポートしてもっともっと児童生徒にしてもらいたいと思っています。そのためのヒントがあるのではないか、と思いました。

 じっくりひとり読書会ということで、ハッシュタグ「#イン・ザ・ミドル中」を使ってTwitterでメモを書いています。こちらをブログには章ごとにまとめていこうと思います。
 まずは第1章「教えることを学ぶ」から。

 この、「自分が書き手としていかに多くの選択をしているか」がわかったのに、生徒には選択をさせていない、というのはおもしろいと思いました。学校の先生たちも文章をデジタルで考えたり、いろいろなものをネットで調べたりしながら書いているのではないでしょうか。だったら、教室で子どもたちが何か書くときに同じことをできるようにしてあげたいな、と思いました。
 そのために、タッチタイピングが必要なのであればすべきだし、ワープロソフトの簡単な使い方も教えるべきでしょう。どちらも、最初は大変ですが、そのあとは「書きたい!」というモチベーションで引っ張っていけるのではないでしょうか。
 また、最近は音声入力もだいぶできるようになっているので、「手で文字を書くのが嫌い」「タイピングが苦手」という子にもいろいろと対応できるようになりつつあります。「文章を書くのが嫌い」と「書けない」というのは違う場合もあると思うのです。そうした問題を乗り越えられないかな、と思います。

 このあたりの記述も、クラウドを使うことでより効果的になるように思います。

 アトウェルのライティング・ワークショップにおいては、「譲り渡す=hand over」という言葉が使われています。何を書いてもいい、どう書いてもいい、ではなく、そこに教師が柔軟性と目的をもって関わることが大切なのです。クラウドでの書く作業+教室でのカンファランスでどんな活動になるのかを考えていきたいです。

 アトウェルは、ライティング・ワークショップだけでなく、リーディング・ワークショップも行っています。リーディングによって語彙や表現などを学ぶし、知識や興味関心を広げていくこともできます。この2つがどう関わっているか、というのも注目して読み進めたいです。


 アトウェルが設立した学校「教師と生徒のための学習センター(Center for Teaching and Learning)」では、生徒だけでなく教師も学べるそうです。この学校では、すべての学年でライティング/リーディング・ワークショップで国語を教えているそうです。
c-t-l.org

 【追記】あすこま先生による、学校見学記をご紹介いただきましたので、リンクします。
askoma.info


 この後、ワークショップについての解説を読めるので、さらに読み進めていきます。No.2に続きます。
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(為田)

JAPET&CEC海外調査部会 オーストラリア視察研修報告5「Queenslandブランドの教育を世界に~クイーンズランド州教育省訪問(前半)~」

 第5回の今回は、6月4日の午後に訪問したクイーンズランド州教育省で伺ったお話についてです。

 オーストラリアでは、輸出産業として教育が重要な位置を占めています。その規模は2015年時点で約200豪ドル(約1兆6,900億円)にも上り、「石炭」「鉄鋼石」に次いで3番目の規模を誇ります。
 クイーンズランド州においても教育は輸出産業の中で2番目の規模を占めており、Study Queenslandブランドとして海外市場に展開しています。州政府は教育産業の輸出拡大を目指し、向こう5年間で約20億円以上の予算を獲得投入して、クイーンズランド州の教育を国際的に魅力的なものにするための取り組みを展開しています。

 今回は、教育省の中の情報技術局を訪問し、主に教育におけるテクノロジー支援や、生徒のoutcome(学習の結果)を向上させるための教員のサポート、各種研修や資料の提供など、教育省が取り組むテクノロジー関連の取り組みについてお話を伺ってきました。

世界最大級のデータベース~OneSchool System~

 クイーンズランド州では、カリキュラムや成績管理のためのシステム「OneSchool System」を州立のすべての学校に対して導入しています。これはクイーンズランド州教育省が管理する世界最大級のデータベースで、州立の全学校とそこに通う全生徒に紐づく情報、例えば出欠、時間割、個人のカリキュラム計画、評価、全国学力調査(NAPLAN)の結果から家庭の経済状況、障害の有無や必要なサポートなど、ありとあらゆる情報が記録されています。さらに、過去数年間の成績記録や行動の記録などから、退学兆候の予測なども行うことができるそうです。
 各生徒には個別のIDが付与されており、転校しても識別・追跡が可能です。以前は転校時には紙の書類を送っていたそうですが、電子化することで、簡単に共有ができるようになったとのことです。
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 第1回の記事で、オーストラリアでは全国学力調査の結果が地域や学校別だけではなく保護者の職業や学歴別にも集計されているという話をしましたが、こういった、個人の家庭環境等を加味してカリキュラム設計を行うことは日本の感覚から言うと賛否両論あるところかもしれません。
 ただ、昨今よく言われている「エビデンスに基づいた」教育改善を行っていく上では、データがないと話にならない訳で、好む好まないに関わらず、いずれ日本でも同じような動きが出てくる可能性があります。そういった意味では、全州立学校の全生徒のデータが1つのシステム上で管理され、様々な観点から分析ができるクイーンズランド州の取り組みは1歩も2歩も先を行っていると言えるでしょう。
 クイーンズランド州の公立学校は、このOneSchool Systemを使って教育省に報告する義務があるため、全ての学校で必ず使われています。例えば、第4回の記事で紹介したQueensland Academy for Health Science CampusではMyQAというシステムが使われていましたが、成績の管理にはOneSchool Systemが使われています。
 オーストラリアには様々な校務系や学習系のシステムがあり、それらの相互運用性が1つのキーワードとなっていますが、OneSchool Systemは非常に高いセキュリティで守られており、MyQA含む他のシステムやサービスとの連携は現時点では許されていないそうです。

情報モラル教育(Cybersafety)

 オーストラリアでも生徒のインターネット利用は増加傾向にあり、それに伴ってネットいじめや不適切なコンテンツの投稿などオンライン上でのインシデント(トラブル)も増加傾向にあるそうです。そこで、情報技術局の中には、そういったインシデントを監視するための部署があります。年間のインシデントは450件ほど。FacebookInstagramと連携し、深刻なものは5分以内に削除が可能だそうです。

 また、この部署のもう1つの仕事はパンフレットやワークショップを通じて生徒、教師、保護者にネット上でのトラブル防止や対処法を伝えることです。
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 例えば小学生向けには安全なアカウントの作り方や、ネットいじめからの抜け出し方、何かあった時には大人に相談することなどを教えています。また、高校生向けには、大人といえども無条件で信用してはいけないこと、法律に反する行為とはどのようなものかなどについて。先生向けには、先生という職業が尊敬されるものであるということを踏まえた上で、オンライン上での振る舞いやつながりを意識する必要があるということや、学校のSNSを運用する際には教育省のポリシーが関わってくることなどについて伝えています。
 個人的に特に面白いと思ったのは、高校生向けのキーメッセージで、オンライン上でいかにして自分というブランド(=デジタルアイデンティティ)を築くか、またその価値を高めるためにはどうすればよいかという内容を扱っている点です。
 簡単に言うと「他者からどのように見られるかを意識して振る舞いなさい」ということになると思うのですが、どちらかというと日本では「インターネット=脅威」ととらえ、他者の攻撃から身を守るという文脈で話をされることが多いように思うのに対し、積極的にインターネットを使って自分の価値を発信していこうというポジティブな側面に光を当てている点が大変興味深く感じました。

Minecraftの教育利用

 クイーンズランド州では、生徒の創造性やチームワーク、学習意欲を促進させる効果が期待できるとして、いくつかのパイロット校においてMinecraftの教育利用を始めています。現在パイロット校での実践計画はおよそ半分まで来たところで、150名の先生と、計1,780名の生徒(Year2~12)が参加しています。
 パイロット校になるためには、どの学習分野でどのように利用するかといったカリキュラム計画の提出が必要で、教育省から先生方へのサポートや、先生同士の意見交換はオンラインスペースを使って行われます。
 これまでに実施された授業の例としては、例えば理科のバイオームの学習と絡めて火星で人間が生きていけるかを検証したり、算数の知識を活用して学校のスケールモデルを作ったり、英語の学習で読んだ物語に登場するお城をMinecraftで再現したりといった活動があるそうです。

 実際にパイロット校での先生や生徒の意欲には劇的な向上が見られているようですが、一方で、学習の評価(測定)については難しいという認識のようで、現場の先生方からはどのように評価すればよいのか分からないという戸惑いの声もあるそうです。この辺りは日本もオーストラリアも悩みは同じという感じがします。

 第6回に続きます。
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(東京書籍:清遠)

JAPET&CEC海外調査部会 オーストラリア視察研修報告4「世界で活躍する人材を育てる~Queensland Academy for Health Science Campus~」

 第4回の今回は、6月5日の午後に訪問したQueensland Academy for Health Science Campusです。
 この学校はyear10~12の生徒が通う高校で、国際バカロレア(IB)の認定校でもあります。
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 学校に入ると、なんと日本人の生徒たちが我々を迎えてくれました。この学校には日本人の生徒も多くいるそうで、その中の何人かが今回の訪問の補助をしてくれました。
 お陰で、先生との会話で分からない部分や、生徒から見た学校の様子などを直接日本語で聞くことができ、とても助かりました。

 この学校は公立の高校ですが、科学や医療介護関係の産業に従事したいと思う学生の創出を目指しており、理系科目の授業に比重が置かれています。日本で言うところのスーパーサイエンスハイスクールのような位置づけの学校と言えばよいでしょうか。
 キャンパスのすぐ横にある、グリフィス大学(Griffith University)とのパートナーシップによって教育や研究の面での連携を図っており、高校というよりは大学のような高度な内容の授業が展開されています。

 オーストラリアでは公立の高校に進学する場合、一般的には受験はありませんが、この学校に入学するためにはWebでの審査のほか、試験と面接が課されます。これは教師についても同様で、この学校で働くためには審査を受ける必要があるそうです。

year11:知の理論(Theory of Knowledge)

 この学校では、11年生(日本での高校2年生にあたる)の「知の理論」という授業を見学しました。この科目はIBのディプロマ・プログラムの必修科目の1つで、文部科学省のHPによると以下のように記載されています。

知の理論(TOK:Theory of Knowledge)
 「知識の本質」について考え、「知識に関する主張」を分析し、知識の構築に関する問いを探求する。批判的思考を培い、生徒が自分なりのものの見方や、他人との違いを自覚できるよう促す。最低100時間の学習。
(参考)3. 国際バカロレアのプログラム:文部科学省

 授業はホールのような場所で行われ、生徒は1人1台のPCを持って授業を受けています。この学校では、BYODが実施されており、入学にあたってはPCを自費で購入する必要があります。案内してくれた生徒によると、紙のノートを使うときもありますが、長い文章を書くときはPCの方が速いのでそちらを使うことが多いと話していました。
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 また、MyQAという学校専用のアプリが導入されており、授業中に使用するドキュメントや参考資料の閲覧などはこのアプリケーション上で行われます。他にも、授業のたびに出される課題の提出やフィードバック、スケジュールの管理、CASと呼ばれる課外活動の記録まで、学校で行われる学習活動が全てこのMyQA上に記録されるようになっています。
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 ただ、次回の記事で説明するOneSchool System(クイーンズランド州が運営する、生徒の成績や家庭環境などの情報を管理するデータベース)との連携はしていない(することが許されていない)らしく、成績表や個人情報の管理はOneSchool System上で行っているとのことでした。

4000語の課題論文(Extended Essay)

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 次に見せていただいたのは、学校の図書館。ある生徒によると、以前通っていた別の学校では放課後すぐに図書館が閉まっていましたが、こちらでは毎日17:00まで開いており、課題に取り組む際によく利用するそうです。また、隣のグリフィス大学の図書館もよく利用しているとのことでした。

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 図書館の壁には、何やら難しそうなタイトルの書かれた紙が。これは過去の生徒が12年生の終わりに提出した課題論文のテーマが書かれたものです。IBのディプロマ・プログラムでは、12年生の終わりに4000語の課題論文(Extended Essay)を提出する必要があります。

 テーマをちょっと見てみると「ストレスや不安がスポーツ選手のパフォーマンスにどのように影響を与えるか」や、「2015年のフォルクスワーゲン二酸化炭素排出量の偽装問題は、同社にどのような内的・外的影響を与えたか」など、高校生のエッセーというよりは大学の卒業研究のようなテーマが並んでいます。

 課題のテーマについては11年生のころから先生と話し合いながら生徒自身で決定します。世界で1つしかないユニークな論文を発表することが求められ、過去の論文の焼き直しはできません。これは先ほどの「知の理論」の課題についても同様で、毎年課題が変わるため、いくら過去に提出された課題をしっかり読み込んでもそれだけでは評価されません。ちなみにMyQAには、なんと盗作チェックツールが搭載されており、生徒が他者の文章をコピー&ペーストして課題を提出しても、すぐにわかるようになっています。

 12年生の終わりに、論文の発表会があり、そこでその年の勝者が決定されます。審査員には校長先生以外にもパブリックスピーキングの専門家なども招いて行われ、内容はもちろん、話し方や態度なども審査の対象となるそうです。

課題が忙しくていじめをしている暇はない

 この学校では、「知の理論」をはじめ授業のたびにレポートなどの課題が多く出されます。授業ごとに出される課題は相当量が多いらしく、授業自体は14:00には終わるそうですが、課題をこなすのに時には深夜までかかることもあるそうです。実際、課題がきつすぎて、一旦入学したものの、普通の公立高校に転出していく生徒も一定数いるようです。

 参加者が、「日本ではいじめが問題となっているけど、この学校にはいじめはないの?」と聞いたところ、「課題が忙しくてそんな暇がない。それに課題やグループワークをこなすのには他の人の手助けが必要。いじめをしても自分が困るだけでメリットがない」と言う言葉が返ってきました。
 ・・・うーむ。何という大人のような答え。返す言葉がありません。

 今回案内してくれた生徒の学年はバラバラでしたが、皆とても仲がよさそうでした。同じ日本人(といっても日本在住経験があまりない子が多いようでしたが)ということもあるのでしょうが、学年を超えて助け合う文化が自然と醸造されているのかもしれません。

希望の進路に向けて課題を選択する

 オーストラリアでは日本のような大学入試がありません。入学したい大学ごとに履修が必要な教科と、成績の基準が示されており、その条件を満たした大学に出願することができます。従って、将来の進学先を見据えて受講教科を選択する必要があります。
 この学校は、科学や医療介護関係の仕事に従事する人材を育成しているということで、ある高校1年生の生徒に「入学前から将来は科学や医療関係の仕事に就きたいと思っていたの?」と聞いてみたところ、「正直入学したときはそこまで考えていなかった。この学校を選んだのは同じ学校から多くの友達が受験したから。ただ、この学校で勉強して、今は看護師になりたいと思っている。」とはにかみながら教えてくれました。恥ずかしながら自分が高校生のときにはそこまで将来のことをしっかりと考えていなかったように思います。そうやって自分のやりたいことを見つけ、それに向けて努力をしている生徒たちはとても輝いていて、なんだか少し羨ましい気持ちになりました。

 今考えている将来の夢がずっとそのままとは限らないし、必ずしも希望通りにはならないかもしれません。しかし、これからの子供たちには、誰かが決めた道を歩むのではなく、自分自身で道を切り拓いていく力が今まで以上に求められます。そんな時、そうやって自分でやりたいことを見つけ、それに向けて努力した経験は、どの分野に進んでも必ず生きるときが来ると思います。

 「世界で活躍できる人材を」。国際バカロレアとこの学校が目指す理念は、しっかりと生徒の中に息づいていました。

 第5回に続きます。
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(東京書籍:清遠)

近未来の学校教育体験セミナー 模擬授業 夏祭り@仙台 レポート まとめ(2018年8月2日)

 2018年8月2日に、NTTドコモ東北支社にて、「近未来の学校教育体験セミナー 模擬授業 夏祭り@仙台」を開催しました。
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 いますでにあるテクノロジー(アプリやシステムや教材なども含む)が学校に入ると、いったいどんな授業になるのだろうか?ということを先生方に体験していただくために開催している、近未来の学校教育体験セミナー。
 今回は、経済産業省の「未来の教室」とEdTech研究会の話題も出しつつ、学びの生産性もとても大事な考え方だとは思うものの、とはいえ「やっぱり、授業でしょ!」ということで、授業形式で先生方に近未来の学校教育を体験してもらうべく、「模擬授業 夏祭り」というイベントにしました。

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 小学校算数、小学校理科、小学校国語、高校英語、中学校社会と、5つの模擬授業の様子をレポートしました。
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 イベントのまとめとアンケート集計結果もレポートしました。
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 メディアの方々にも取材していただきました。多くの先生方に興味を持ってもらえればと思います。
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(為田)

授業で使えるかも?:投資教育の例として新聞に出ていた「100年大学 お金のこと学部」と「マネーの亀」

 先日、日本経済新聞を読んでいたら、「投資のイロハ、小学生から」という記事の中で、投資教育の一環ということで、「100年大学 お金のこと学部」と「マネーの亀」が紹介されていました。(2018年8月24日)

100年大学 お金のこと学部

 100年大学 お金のこと学部 は、日本証券業協会が作っているサイトです。アクセスしてみると、「お金のセンスを測ってみる」というボタンがあり、クリックすると10問のクイズが出題されました。知識として知っているものについては正解しているけど全体的にひどいな…。
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 10問の問題を解くだけでは、「知識として知っている」のと、「きちんと経済的に合理的な行動ができる」というのは必ずしも一致しないので、ここを入り口にしてここからどういう行動を促すか、考えるのが大切だと思いました。
 10月4日に東大で「100年大学 開学記念特別講座」を実施するそうなので、ここからスタート、という感じなのでしょうか。

 メインキャラクターにアイドルの生駒里奈さんを起用していることからも、高校生から大学生くらいを対象としているのかな?と思っています。

マネーの亀

 「マネーの亀」は、野村證券株式会社とUUUMが運営するブランドチャンネルで、2018年8月15日に開設されました。YouTuberが登場し、さまざまなお金に関するトピックをおもしろく話してくれます。
www.youtube.com

 野村證券なので投資とかの話をするのかな、と思いきや、意外といろいろなコンテンツがあります。作りはYouTuberの動画の作り方なので、楽しんで見られるような気がします。

www.youtube.com

www.youtube.com

まとめ

 こうしてさまざまなコンテンツを使いながら、興味を持ってもらうのもいいかな、と思いました。投資教育がYouTuberが語る番組を通じて発信されるのはとてもいいと思います。子どもたちにどんなふうに受け取られるのか、見せてみたいです。

(為田)

JAPET&CEC海外調査部会 オーストラリア視察研修報告3「自分らしく輝く子供を育てる~Ashmore State School~」

 6月5日には、ゴールドコースト近郊の公立小学校Ashmore State Schoolを訪問しました。
 この学校はゴールドコーストの中でも富裕層の多い地域にあります。もともとはそこまで学力の高い学校ではなかったようですが、前校長が就任してから様々な改革を行い、現在では地域内でもトップクラスの学力を誇る学校になっているそうです。
 第3回となる今回は、このAshmore State Schoolの取り組みについてご紹介させていただきます。

ルーブリックとポートフォリオで個人の課題を可視化 ~year4合同クラス~

 最初に見学させていただいたクラスでは、4年生の2クラスが合同で学習していました。テーマは、「ゴールドコーストの海岸の環境を守るためのアクションプランの策定」です。
 前日に訪問したHilliard State Schoolでは、紙のワークシートやノートはそこまで使っていませんでしたが、この授業ではかなりびっしりと紙のワークシートを使って書き込みがされています。
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 児童の机の上には、学習到達度を示す評価基準が示されたルーブリックが置かれており、児童はこれを見ながら自分の今の状態と、よりよい評価を得るために何をすべきかを確認しながら学習しています。こうすることで、教師から下された評価と児童の認識のずれをなくすことを意図しているそうです。
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 加えて、児童の机の上には「ASK Me… What am I learning? Why is it important? How is it going? Where to next?」と書かれたカードが置かれています。このカードを見ながら学習の目的を意識化し、客観的に振り返るための足場となっています。
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 また、この学校では、Seasawというアプリを使って、学習の記録をデジタルポートフォリオ化し、それを評価に活用しています。例えば学習の区切りごとに、成果物や学習の感想を写真や動画で撮影して先生に送ります。先生はそれを見て一人ひとりの児童の学習の様子を把握し、個々の児童にあった改善計画を立てていきます。以前は紙のポートフォリオを使っていたようですが、デジタル化することで動画や音声を記録として残したり、コメントをつけて返したりといった、よりインタラクティブなやり取りが可能になりました。動画や音声をポートフォリオ化できるようになったことで、書くことが苦手な児童でも質の高い記録を残すことができるようになったそうです。
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 ちなみにこのSeasawというアプリ、無料でアカウントを作って利用できるので、興味のある方は試してみてください。日本語には未対応ですが、操作はそれほど難しくないので日本の学校でも十分使えると思います。

個人の進度に応じた課題に取り組む~year3:Writing~

 続いて見学させていただいたのは3年生のクラスです。こちらでは英語の作文の授業が行われていました。

 まず教室で各々ノートを使って作文をします。その後、できたグループから廊下(というより屋外)に出て、iPadを使って自分たちが作った文章を音読し、その様子を相方(バディ)の子に動画で撮影してもらいます。
 撮影した動画は、前述のSeasawを使って先生に送られ、ポートフォリオとして蓄積されます。
 先生はそれを見て個々の児童の学習の様子を把握し、個に応じたアドバイスを送るのです。
 お話を伺った先生は「授業中にすべての児童に付き添うことはできないけど、後から見直すことで、全員に適切なフォローができる」とおっしゃっていました。
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 このクラスには、一部全く別の活動をしているグループもありました。このグループでは、週末に課外活動で作るサンドイッチの作り方を調べてPCを使ってまとめています。
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 先生のお話ではこちらはやや進度が遅いグループで、内容的には1年生程度ということでした。中には、紙に手で書くことは苦手でもPCを使うととてもよい文章を書く児童もいるそうで、そういった場合にはどんどんPCを使わせているそうです。
 こういった、その子の特性に応じて使いやすいものを使わせるという考えが浸透しているところはとても素晴らしいと思います。

粘土を使ってゲームのコントローラーを作る~year6:Digital Technologies~

 続いて見学したのは6年生の「Digital Technologies」の授業です。この授業ではMakey Makeyを使った授業が行われていました。Makey Makeyとは、ミノムシクリップなどを使って「果物」や「アルミホイル」などの導体(電気を通すもの)をつなぐと、つないだものをキーボードの特定のキーの代わりにすることができるインターフェースボードです。
 今回見学したクラスでは、このMakey Makeyを使って、「Digital Technologies」と理科の学習を絡めた授業が行われていました。

 先生による演示と説明の後、一斉にコントローラー作りに取り掛かります。身の回りにあるもので電気を通すものは何か考え(この部分に理科の学習が生かされます)、それを使ってコントローラーを作ります。
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 その後、そのコントローラーとMakey Makeyをつなぎ、Scratchで作られたゲームやピアノなどを操作します。
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 児童が使ったScratchのプログラムは、児童自身が作ったものではありません。Mekey Makey用に公開されたものがいくつかあり、どうやらそこから選んで使用しているようです。そういう意味ではプログラミングというよりは理科の学習や、回路設計の方に重点が置かれているのかもしれません。

 ちなみに、児童が導体として選んだものの例としては「粘土(先生に伺ったところ電気を通す特殊な粘土のようです)」「アルミホイル」「鉛筆で書いた線」などが上がっていました。もちろん、単に電気を通すか通さないかを調べるという観点から見ると豆電球を使った方がずっと簡単でやりやすいと思うのですが、こういった「ゲームのコントローラーを作る」という課題の中で扱うことで、児童の意欲や記憶の残り方も全く違ったものになるのではないでしょうか。

Excelを使ってプログラミングの素地を学ぶ~Prepクラス:ICT~

 最後にご紹介させていただくのは、入学準備学級(Prep)で行われていたICTの授業です。全国統一カリキュラム(Australian Curriculum)では、

  • ICTスキル:テクノロジーを活用する能力を育てる
  • デジタルテクノロジー:デジタルソリューションを作るために必要な能力を育てる

 とされており、この授業は「ICTスキル」を育てるための授業、という位置づけになります。
 実際に行われていたのはエクセルを使ったビンゴです。あらかじめ児童は教師から配られたファイルの5×5のマス目の中から3つを好きに選んで色を付けます。
 その後先生が例えば「Bの4」などとセルの場所を指定します。児童は指定されたセルまで矢印キーを使ってカーソルを移動し、指定されたセルに「X」の文字を入力します。
 最初に塗った3か所すべてにXが入るとビンゴとなります。
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 矢印キーを使って移動する、というところがポイントで、今いるセルから上下左右に何回キーを押せば目的のセルにたどり着けるかを考えながら活動します。そうすることで、プログラミングの入門として扱われることが多い迷路抜けゲームなどの活動の素地になっているそうです。
 また、それと同時に、先生に指定されたセルを見つける活動は座標の概念の素地にもなります。一見何でもない活動ですが、Prepの段階からそういった細かい積み重ねをしていくことで入学後の学習が円滑に進められるように配慮されています。

きめ細かい評価とフィードバック

 Ashmore State SchoolではまだBYODは実施されていません。
 各教室に入っているデバイスもその都度買い足してきたため、教室によってバラバラで、先生が操作の違いに戸惑うこともあるそうです。
 ICTの先進校である点では同じですが、前日に見たHilliard State Schoolではまるでアプリや教材の見本市のようにありとあらゆるものが準備されていたのと比べると、Ashmore State Schoolはより必要性の高いものを厳選して使っているイメージです。
 しかし、それだけにかえって綿密に練られたカリキュラムと決め細かい評価・フィードバックの仕組みに凄みを感じます。
 この学校では、先生方が集まって教科ごとに単元計画を立てた後、カリキュラムのヘッドである副校長先生がその計画をチェックして改善点を指摘します。
 日本で言うところの教科書がないので、どこで何をどんな教材を使ってやるのか、またどうやって評価するのかも全て先生方が自分で考える必要があります。
 それはとても大変だそうで、お話を伺った日本語の先生(Ashmore State Schoolでは第二外国語として日本語を教えています)は、「クイーンズランド州が用意している教材もあるが、あまり使い勝手がよくないのでYouTubeで探してきた日本の幼児向け動画を使っている」とおっしゃっていました。
 また、週に1回のティーチャーラウンジで教科の内容やICTの活用についての研修会などが行われるほか、ICTやSTEMのコミュニティーがあり、そこで情報交換をしながら日々情報をアップデートしています。
 そういった細かい積み重ねによって日々先生方自身も学び続けているのです。

 Ashmore State Schoolのスクールモットーは「Proud to Shine」。
 それぞれの子供たちがそれぞれの輝きを発揮できるように。先生方の努力と情熱が、この学校と子供たちの未来を支えています。

 第4回に続きます。
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(東京書籍:清遠)

JAPET&CEC海外調査部会 オーストラリア視察研修報告2「BYO iPadで世界トップレベルの学校を目指す~Hilliard State School~」

 2018年6月4日、ブリスベン郊外にある公立小学校、Hilliard State Schoolを訪問しました。この日はとてもいい天気。オーストラリアでは冬にあたる季節ですが、日差しの強さもあり、むしろ暖かさすら感じる心地よい気候です。

 学校に入って驚いたのですが、とにかく広くて緑が多い!
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 校舎も日本のように1か所に固まっているわけではなく、広い敷地の中に点在しています。青い空の下、明るく開放的な雰囲気が漂っていました。

 この学校では、2011年からICT化の取り組みを始めました。計画を推進してきたのは副校長のJason先生で、「世界でトップの学校を目指す」という目標の基、iPadによるBYOD(BYO iPad)を進めてきました。その成果もあって、Apple Distinguished School (Appleが考える、世界で有数の革新的な教育機関)にも認定されています。

教室は大きなおもちゃ箱!~year4:Technologies~

 最初に見学させてもらったのはyear4(4年生)のTechnologiesの授業。図書館のように本がたくさんある教室の中、児童が思い思いの場所で活動しています。

 こちらはDashというロボットを使って迷路を抜けるためのプログラムを作っているグループ。
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 また別の場所では、動画作成をしているグループもあります。教室の傍らにはグリーンスクリーンが設置されており、クロマキー合成ができるようになっています。
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 このように、このクラスでは取り組む課題も、使う道具もグループによって全く違います。教室の中には実にたくさんの教材や教具が所せましと置いてあり、まるで大きなおもちゃ箱のようです。
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 ロボットプログラミング用の教材1つを取っても、上で紹介したDashの他に、レゴやBee Bots、Coder MIPなど実に様々な種類があります。一人一人のやりたいことや、やりやすい方法に合わせて使うものを選択できるようになっているそうです。

 日本の学校だと、ある程度課題も使う教材や教具も統一されていることが多いですが、このように自分の興味ややりたいことに合わせて好きな物を選べると、学習に対する意欲も変わるかもしれません。
 楽しみながら学ぶというスタイルが教室の雰囲気からも児童たちの様子からも伝わってくる授業でした。

個人の進度に合わせた学習~year4:英語、算数~

 続いて見学したのは4年生の英語と算数の授業。といっても、2クラスを見たわけではありません。このクラスでは1クラスの中でいろいろな課題に取り組んでいます。例えばこれは英語のスペリングのゲームに取り組むグループ。
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 また別の場所では、アプリに吹き込まれた音声を聞き取って質問に答える活動に取り組むグループもあります。アプリから流れる音声は、紙のテキストの内容に合わせて先生が自分で吹き込んだものです。
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 さらに奥の小部屋では九九の百ます計算のような活動をしているグループもいました。九九の式と答えが軽快な音楽に合わせて歌い上げられ、それを聞きながら答えの丸付けをしています。
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 このように、全員で同じ課題・進度で学習するのではなく、同じクラス内であっても児童によって取り組む内容も進度も違います。授業の中でどのような活動をするのかは、先生が決めることもありますが、児童自身で決めることもあるそうです。オーストラリアは多民族国家であり、中には英語の理解が十分ではない児童もいます。そういった多様性の高さも背景にはあるのかもしれません。

入学前からICTの活用に慣れさせる~year1・Prep合同クラス~

 続いて見せてもらったのは1年生と就学前準備学級(Prep)の合同クラスです。Prepについては第1回の記事で少し書きましたが、小学校に上がる前の準備期間として通う就学前準備学級のことです。オーストラリアの多くの学校にはPrepクラスが設置されており、小学生と同じ敷地内で学習します。

 この日見学した授業では、Prepと1年生の児童が同じ教室の中で学習していました。日本でもいわゆる「小1プロブレム」が問題になっていますが、こうやって少しずつ学校に慣れていくというのはとても面白い取り組みだと思いました。
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 そして、当然のようにこのクラスでもiPadは大活躍です。グループごとに課題は違いますが、多くのグループではiPadを使った活動が行われています。
 例えばこちらのグループでは、先生が作成したe-bookを教材として児童に配布しています。
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 児童は先生が作成した教材の上にペンを使って書き込みをして、アプリを使って先生に提出します。オーストラリアの学校では日本のような教科書は使われていません。この学校では、こういった生徒に配布する教材なども先生が作り、お互いにシェアしながら授業をしています。
 この学校の先生方も最初からテクノロジーを使いこなせたわけではなく、特に最初のころは教材作成に苦労したそうです。お話を伺った女性の先生は「今ではテレビを見ながらでもできるようになったわ!」と笑っていました。

信頼して任せる文化が大切

 このように、この学校ではPrepの段階から、iPadを積極的に使わせることでその使い方に慣れさせていきます。授業で使うアプリのダウンロードや設定、端末の管理は本人と保護者に任されており、仮に授業中に不具合等で動かなかったとしてもそれは本人の責任となります。日本の感覚からするとやや乱暴にも思える対応かもしれませんが、日本でも学校で使う文具をそろえ、使える状態にして持っていくのは保護者や本人の責任であるのと同様に、「文具としてのiPad」という考えが確立された環境ではむしろ当然と言えるのかもしれません。
 また、インターネットへの接続についても、この学校では原則自由です。全ての児童のアクセスログは記録されており、Jason副校長が全児童のログをチェックしていますが、ほとんど問題は起きていないそうです。
 こういった、端末やアプリの設定、インターネットへの接続についての問題は、日本でのICT活用を進める上での大きな問題となっています。しかし、この件についてJason副校長は「信頼して任せる文化が大事」だと語ります。好む、好まないに関わらず、これからの時代の子供たちはデジタル技術との付き合い方を学び、それを活用していく必要があります。いずれ立ちふさがる壁ならば、小さいうちからしっかりと学んでおいた方が本人のためになるのかもしれません。

 もちろん全てがうまく行っているわけではなく、課題もあります。
 例えば、日本でもタブレット端末やデジタル教材を導入することで学力が向上するのかという点が問題になることがありますが、テクノロジーの活用と全国学力調査の結果との関係についてはまだ何とも言えないそうです。
 また、日本では2年生で学習する九九を4年生に相当するクラスで学習しているなど、授業の進度という観点から見ると日本よりもやや遅く感じられます。また児童の主体性に任せる部分が多いこともあり、中には間違いに気づかずに放置してしまっている場合も見られました。また、公立の小学校でありながらiPadを保護者負担で用意させるという方策をそのまま日本に持ち込むのは相当難しいでしょう。

 しかしそれらを差し引いても、楽しそうに授業を受ける子供たちと教室の様子はとても印象的でした。知識や技能を伝えることの重要性は言うまでもないですが、同時に学ぶことの楽しさを知り自ら学ぶ子どもを育てることは簡単ではありません。この学校を卒業した子供たちが将来どんな大人になるのか、是非見てみたいと思わせられる事例でした。

 第3回に続きます。
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(東京書籍:清遠)