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Computer Science World in Asia 2019 カンファレンスレポート No.3(2019年10月27日)

 2019年10月27日に、東京大学本郷キャンパス ダイワユビキタス学術研究館で、アジア規模でプログラミング教育のビジョンを考えるカンファレンス「Computer Science World in Asia 2019」が開催されました。

アジア各国からの報告

 日本を含めた、アジア各国代表によるプログラミング教育についてのパネルディスカッションが行われました。司会は東北大学の堀田龍也 先生です。堀田先生は、「プログラミング教育は、日本ではまだこれからですが、アジアではすでに進んでいます。プログラミングを覚えればそれでいい、というのではなく、もっと視野を広げる必要があります」と言い、日本をはじめ、アジア各国からの状況報告がスタートしました。
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 最初の報告は日本です。宮城教育大学の安藤明伸 先生が、英語で日本のプログラミング教育についてのプレゼンテーションを行いました。Scratchを使ったスライドになっていて、プレゼンテーションが始まるとタイマーが作動し、ネコが画面左上からだんだん右に歩いていきます。しかも、残り時間などに応じてメッセージを英語で言ってくれる機能つきで、各国代表にもウケていました。
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 その後、各国からの報告が行われました。主なポイントを以下にメモとしてまとめます。

  • 小学校で、選択授業として「Computing for Fun(楽しむコンピューティング)」を2019年から実施。4000万人の生徒が、13,000ある島に散らばっている。40,000人のコンピュータの先生がいるが、なかにはITバックグラウンドがない人もいる。プログラミングスクールが拡大している。(インドネシア
  • 先生のマインドセットを変えるのが難しい。(シンガポール
  • 「Prepare Taiwanese students for jobs of the future.」=将来、仕事を得るためにはプログラミングが必要である、という認識。プロトタイピングのために、micro:bitを使っている。(台湾)
  • 2017年にコア・カリキュラムの中に入り、必修となっている。(タイ)
  • どうやってインパクトを大きくするかが課題。デジタルメイカーハブを大学内に設置し、PCや3Dプリンターを使うことができる。先生も使えるようにしている。全国で75ヶ所以上!(マレーシア)
  • 若い国で、ITがどんどん発展している。(トルコ)

 堀田先生は、すべての報告を聞き終わった後に、アジア各国で具体的に挑戦が始まっているが、日本との相違点として、以下の2つを挙げていました。

  • 「Coding(コーディング)」という言葉がたくさん出てくる
  • 若い国が多い

 例えば、台湾の報告にあった「Prepare Taiwanese students for jobs of the future.」という表現は、どんな温度でこの言葉を言うかによると思いますが、「プログラミングをできないと、将来の仕事がない」と、真正面から言い切っているのがすごいと思います。「Coding(コーディング)をできるようにするのではなく、プログラミング的思考で…」というようなことではなく、明確に「仕事をするためにCodingをできるようにする」ということを目標に置いている印象を受けました。
 以前、別の教育カリキュラムの国際会議に出た時にブラジルの教育省の方が、同じように「今のままの学校では、将来、ブラジルに仕事はなくなってしまう。だから、教育を変えなければならない」と正直に言っていたのを思い出しました。明治初期の殖産興業のようなイメージで、日本では「プログラミング教育が必要だ」と言ってもいいのかもしれないと思うこともあります。
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 もうひとつ、マレーシアの報告のなかにあった、デジタルメイカーハブについての話も印象に残りました。デジタルメイカーハブは大学内に設置し、そこでPCや3Dプリンターを使うことができます。地域の先生もそこへ行き、PCや3Dプリンターを使えるようになっていて、新しい知識に触れられる場を作っているのは素晴らしいと思います。
 デジタルメイカーハブが、近くで学べる、知をシェアできる場となっていて、「Connect Teachers(先生を繋げる)」機能を果たしているのだと思います。日本で言えば、教育委員会の教育センターが、こういった役割を果たすようになるといいな、と思いました。
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 また、教材を広げる施策としては、シンガポール情報通信メディア開発庁(IMDA: Infocomm Media Development Authority)が紹介されました。サイトを見てみると、「Computational Thinking and Making」など、テーマ別に教材を提供しているページがありました。
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www.imda.gov.sg

 こうした各国の施策などを知ることで、コンピュータ・サイエンス教育を広げる手段のアイデアが生まれてくると感じました。

 No.4に続きます。
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(為田)