2021年6月28日、オンラインで開催されたまなびポケットEXPO~2021夏~に参加させていただきました。
2部構成のこのイベントの第1部では、東北大学大学院情報科学研究科教授 堀田龍也 先生とNTTコミュニケーションズ Smart Education推進室の稲田友 さんが登壇して、公教育現場の現状や学習データを活用した教育の未来像について講演とクロストークが行われました。
今回は、第1部の後半に行われた、堀田先生と稲田さんのクロストーク「MEXCBTや学習eポータルについて、いつまでに何をするべきなのか?~学習eポータルとMEXCBTとまなびポケットの関係~」をまとめてレポートします。
まずは、MEXCBTと学習eポータルとはどのようなものなのか、についてのトーク部分をまとめました。
稲田さん MEXCBT(メクビット)と学習eポータル について、文部科学省が出している資料があります。MEXCBTは、学校や家庭において学習やアセスメントができるCBTシステムで、2020年度に約300校で実証されています。
オンライン学習システム(MEXCBT)では、文部科学省が作っているテスト、教育委員会が作ったテスト、先生方が作った定期テストを受けられるようになっています。
文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について:文部科学省そのための入口となる「学習マネジメントシステム」が学習eポータルです。ここがポータルになるので、子どもたちや保護者、先生方はこれを見るようになっています。
MEXCBTも大事ですが、本当に大事で「デジタル駆動形の学び」を実現するのは、学校教育に関わる人にとっての「入口」であり、学習データの「集約点」となる学習マネジメントシステム「学習eポータル」になります。
堀田先生 デジタル教科書は、学校によって教科ごとに採択している教科書が違います。教科ごとにユーザーインターフェース(UI)も違うし、IDやパスワードも違うことになります。これを、シングルサインオン(1つのIDで複数のサービスを利用することができる)で利用できるようにもできます。これを実現するためには、ひとつのプラットフォームを使うようになる方が便利になります。そうした仕組みがあるかどうかが非常に重要です。
稲田さん 学習eポータルは競争領域と言われていて、複数の学習eポータルが競争することになりますが、標準規格に基づいて接続するので、どの学習eポータルを使っていても学習データは連携されます。
堀田先生 これまでは、それぞれのツールやサービスが先生や学習者にダイレクトにアクセスしていましたが、これからは中間にある学習eポータルによって、同じ標準のデータ形式になり、いろいろなサービスが使えるようになります。A社の学習eポータルにはこの教材が載っているけど、B社の学習eポータルには載っていない、というのもありえるんでしょうか?
稲田さん ビジネス的には、そうした方向性もありえるとは思います。
堀田先生 ユーザーとしては、全部の教材ができる方がいいとは思いますけどね。
稲田さん ワンソース・マルチユース、という形になると、学習者がA社の学習eポータルからB社の学習eポータルに移っても、使える教材は変わらないまま、というのもできるのではないかと思います。
堀田先生 いまは教科書会社が学習eポータルにあたるものも全部1社ずつ作っている状態です。標準規格で、学習eポータル専門の会社が出てきて、「うちの学習eポータル上に置いてくれればうまくやっていきますよ」というのができるんですかね?
稲田さん 「教材を作るのが上手な会社」と「システムを作るのが上手な会社」は違うと思うので、アウトソースできればいいと思います。
堀田先生 コンテンツはいいけど、あのシステムのセキュリティは…というのはつらいですよね。専門的な仕事をする学習eポータルを作る人たちが出てくればいいですね。
学習eポータルによって、学習者が利用するさまざまなツール、コンテンツやサービスなどが集約されていきます。まなびポケットにもさまざまなツールやコンテンツが搭載されています。実際に、まなびポケットでどんな「データ駆動型の教育」が実現できるのか、についてのトークをまとめました。
堀田先生 「データ駆動型の教育」は、まだ始まったばかりで、少ししか動いていません。まなびポケットでも、データ駆動型の学びは実現されて、いろいろなことがわかるようになってくると思うのですが、どんなことが実際にできるようになってきていますか?
稲田さん 下の「学習eポータルとMEXCBTとまなびポケットの関係」の図を見ていただくと、まなびポケットが学習eポータルとして、デジタル教科書、学習コンテンツ・ツール、民間CBTサービス、オンライン学習システム「MEXCTB」と先生、学習者を結ぶことになるのがわかります。
ドリル教材の学習履歴や、授業支援システムのコミュニケーションログをインプットすることで、学習特性をグループに分類したり、コミュニケーションログのネットワーク分析を見ることもできるようになります。
堀田先生 先生は、一人ひとりの子どもの様子を一生懸命見ているけど、ずっと見ることはできません。ビッグデータがこうして集まってきて、それを解釈し、子どもたちに具体的に先生が対応するようになります。データを使った指導にシフトしていかなくてはなりません。例えば、「この子たちには、もっとゆっくり学習するように助言してください」などのようにレコメンドする技術が、データがたくさん集まることで可能になるのではないかと思います。
ログを分析することで、先生が見ているだけではわからないことが見えるようになると思います。また、アンケートをとるだけではわからないことが、学習者のアクセスログからわかるようになるかもしれません。それを見とって対応するか、しばらく注視するだけにするか、というのは先生が判断することですね。稲田さん これを組み合わせることで、いろいろな見方ができるようになります。こうしたことがわかるようになるためには、たくさん使ってもらうことが重要です。
最後に、今後のMEXCBTと学習eポータルの展開についての話になりました。
稲田さん 国がMEXCBTで対応しているのは、全国学力調査の試験問題がプリセットされています。対象学年は小学校6年生と中学3年生なので、それ以外の学年をまなびポケットCBTでできるように、補完したいと思っています。データ駆動型の教育の実現のためには、日常的に使ってもらう必要があります。それがあってはじめて先生方は見とりができるようになります。
堀田先生 これまでは「本当に必要なときだけ使えばいい」として、先生が指示をしていましたが、本来それは子どもが決めることです。どこで使って、何ができて、何ができなくて、というのがすべてデータになってきます。
稲田さん データがバラバラにたまってしまっては、活用できる形で見られなくなってしまうので、横断的に教材、データ活用が使えるようにしなければならないと思います。
堀田先生 日常的に学習eポータルにアクセスして使う、というのをこれから数年やっていってほしいと思います。
稲田さん 日常的に活用ができるように、サポートしていきたいと思います。
最後に、質疑応答がありました。「コミュニケーションデータはどのアプリでとれますか?」という質問に、稲田さんは以下のように答えていました。データは集めたものを「どう使うか」が大事で、それは事前に設計をしておかねばならないということがわかります。
稲田さん 授業支援ソフトだったり、SNSやTeamsなどのコミュニケーションツールでも取ることができるものはあります。データで分析したものを、先生がどう見るか、ということがすごく重要。データ分析を見て、それを先生がどう見るか、ということがまた分析の精度制度を挙げていく。その繰り返しだと思います。
また、「将来の活用シーンは?」という質問には、堀田先生が以下のように答えていました。
堀田先生 活用シーンは、たくさんあります。例えば、「あなたがどういうふうに学習を進めてきたか」ということを一元的に子どもに返すことができます。また、先生については、自分が担任している子どもたちの状況を一覧で把握したり、助言が必要な子どものレコメンドを受けたり、ここ数日頑張っている子を取り出して見せたり、ということもできます。
自治体レベルで見ると、他の自治体と比べて「ドリルの利用率が低い」「計算練習の点数が低い」などというのを示すこともできます。
また、国レベルで見ると、「5年生の社会科は分量が多すぎるのではないか」とか「地域間格差がこれだけ多い単元は、地域独自の教材が使われていることが多いのではないか」など教科書の複線化というのも考えられるかもしれません。
学習eポータルが果たす機能の多くを、これまでは学校の先生が教室で子どもたちを前にして、自分たちですべてやってきているわけですが、そこにこの「データ駆動型の教育」をツールとして使えるようになることで、先生方の教え方がより良くなり、学習者の学び方の選択肢が増える、というふうになればいいな、とクロストークを聴きながら思いました。
No.3に続きます。
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(為田)