教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

2019年は、東北6県で年間52回の学校サポートを実施しました

 教育公務員から民間企業に職を変えてから、あっという間に1年半が過ぎようとしています。2019年は仙台市を拠点として完全なテレワークでした。社内会議も日常的な報連相も文書共有も「やればできるもんだ」と改めて感じます。

 今年はさまざまな企業や省庁などのみなさんとも、お仕事をご一緒させていただいたりご支援いただいたりしました。宮城県を中心に多くの学校や市町村教育委員会にも訪問させていただきました。振り返ってみると、のべ52回、実に27校 9市町村教育委員会にお邪魔させていただいていました。東北地方に限定して集計したところ、下記のようになりました。

2019年1月~12月 学校等訪問実績 集計(東北地方)
訪問回数 のべ52回(学校数:27校、市町村教育委員会数:9市町村)

  1. 研修会講師等 16回(プログラミング10回 その他ICT活用6回)
    • 校内研修会 11回(11校)
    • 市町村教育研究会主催研修会 3回(3市町村)
    • 市町村教育委員会・教育研究所主催研修会 2回(2市町村)
  2. 学校・市町村教育委員会へのICT活用・環境整備に関する助言等 19回
  3. 授業実践 4回(3校 7コマ)
    • プログラミング 3回(2校 6コマ)
    • 情報モラル 1回(1校 1コマ)
  4. その他 13回
    • 取材等 7回(4校 2市町村教委)
    • 公開研究会参加 4回(4校)
    • ICT環境整備 2回(2校)

研修会講師

 研修会講師ではプログラミング教育についてお話しさせていただく機会が多かったです。来年度の新学習指導要領完全実施に向けて、東北でも「具体的な教材例や授業事例等を学びたい」という機運が高まったためと思います。
 プログラミングやICT活用について、首都圏ではさまざまなセミナーや研修会が毎日のように行われていたと思いますが、地方ではそれほどチャンスがなかったりタイミングが合わなかったりすることも少なくないのが実情です。首都圏等での実践が、そのまま最良・最先端という訳ではありませんが、それでも情報量としては格段に多かった印象です。私がキャッチした先導的な事例やマインドなどは、研修会を通して、東北の先生方にもお伝えできたかなと思います。これからも学びの機会を求める先生方の手助けをしていければなと思います。
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学校・市町村教育委員会へのICT活用・環境整備に関する助言

 市町村教育委員会の方々とはICT環境整備についてお話しさせていただくことが多かったです。教育の情報化調査の結果を受けて、次年度の予算要求に繋がるような先行事例や時勢の動きを知りたいというご希望がほとんどでした。
 先頃からの報道にあるように、政府方針によって急速に学校ICT環境が進展しようとしていることから、市町村教育委員会が中心となって計画的な整備方針を固めていかなければならなくなってきています。補助金の対象は「地方公共団体」(公立を対象としてみた場合)となっています。これが「市町村」を指すのか「県」を指すのか、よく分からないのが現状ではあります。とはいえ、公立小中学校の場合、設置者は市町村なので、整備方針が不明瞭のままでよいはずがありません。
 現状では、どういう手順で機器やOS、アプリケーションの選定を進めるのか、学校wifiやそれ以外の通信ネットワークの初期費用及びランニングコストは今回の補助金の対象なのかなど、具体的な中身について明らかではありません。しかし、子どもたち一人1台の時代に近づいていることは、まず間違いないと考えられます。であれば、これを良い機会として、学習者用デジタル教科書の導入をどう見据えるか、教育クラウドの整備と同時に各個人に紐付けられるアカウント情報の管理は、どうすることでストレスなく安全に運用できるのか、子どもたちの学習情報をeポートフォリオとして有効活用するにはどのようなシステムが適しているのかなどといったことも、主たる利用者である子どもたちの立場に立って、考え準備することが重要だと思います。
 教室での個別学習や協働学習はもちろん、学校外での利活用も想定されるタブレット端末に関して言えば、本体があれば子どもたちの学習が充実するというものではないことは明らかです。100台以上がストレスなく繋がるネットワーク環境や大型提示装置、授業支援アプリや適応学習アプリなどのソフトウェアの整備も一体として考える必要があります。既設の有効活用といっても、単に「これまでの校内ネットワークにwifiルーターを付けて無線化すればよい」というわけにはいかなそうです。

 学校では、例えばプログラミング一つとっても、先生方が体験し学んだ事柄をどのようにして授業に落とし込むかといった、いわゆる教材研究の重要性がますます高くなると思います。プログラミングの体験と教科での利用は、資質能力の一つである「情報活用能力」の育成という観点からとても重要です。先生方による体験を、紙と鉛筆・チョーク&トークを超えた、より広く深い学びを作るための授業改善に直結させる取り組みが必要だと思っています。この話は働き方改革の流れとも、学びの個別化・効率化という文脈とも密接に繋がっています。これまで進めてきたカリキュラムマネジメントの成果も、これを機に運用+改善のフェーズに進むことになろうと思います。
 日々たくさんの業務を同時進行でやりこなしている先生方にしてみれば、「分かっちゃいるけど、手を付けられない」が本音かもしれません。「では、どうするか?」という具体的な取組には、私が教育公務員として積んだ25年の経験や、現職で得られた学びや人脈、ツールなどがお役に立てるのではないかと思います。これからも東北の各教育委員会の方々や学校の先生方とたくさんお話しさせていただきたいなと思っています。
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授業実践

 研修会講師や助言等に比べて回数は少なかったとはいえ、実際に子どもたちと一緒に授業ができたことはとてもうれしい機会でした。子どもたちが「あーでもない、こーでもない」と頭を使って「そうか!」「なるほど!」「できた!」に行き着く姿を、自分事として見られるのは授業者の醍醐味でした。
 プログラミングの体験を重視した授業の場合、特に心掛けたのは、子どもたちの活動が時間の大半になるようにすることでした。ある学校では教材としてドローンを使いました。アプリケーション上で「動かす」のもいいのですが、実際にモノを動かすことができる体験は、大人も子どもも感動します。ドローンは近未来感が味わえるだけでなく、平面だけでなく空間を意識することで今までと少し違った「見方・考え方」をするきっかけになるなど、教材として魅力的でした。子どもたちがほしくなるのは当然と言えば当然なのですが、先生方の中にも刺激を受けて「自分でも買ってみようかな」となる方もいました。(研修会でちょっとデモをしただけでも、後日「買っちゃいました!」とご連絡を下さった校長先生も!)
 学校で使う教材として、比較的安価であることや安全であることは重要な条件ではあります。しかし、子どもたちが「おもしろい!」「また使いたい!」「何ができるか試したい!」と思えるような教材が身近に整っていることは、次の段階の「これを使って、こんなことができるかもしれない!」「これを使えば、この問題は解決できるかもしれない!」に向かっていく、かなり強めの動機づけになるのではないかと感じました。
 私個人を振り返ってみると、いくら「これはいいものですよ!」と紹介されても、実際の授業での活用を見てみないことには、なかなかモチベーションが高まらなかったように思います。先生方が体験することだけでもテンションが上がるような教材を、実際の授業で使うと子どもたちには何が起きるのか、東北の先生方や教育委員会の方々にご覧いただく機会をもっともっと増やしていきたいと思います。来年度から使われる教科書に登場するような教材についてもしっかり勉強して、学校や子どもたちのニーズに対応していきたいと思います。
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まとめ

 今回の整備について、一部では「経済対策としてのバラマキだから良くない」とか「前例のように宝の持ち腐れになる」とかの懸念があるようです。後者について当時を振り返ってみると、私のまわりでは「中途半端な数なので、使いたいときに使えない」「取り回しが煩雑で休み時間内に準備が整わず使いにくい」「モノはあっても授業を想定していないのでどう使えばいいのかイメージできない」といった声が多かったことを思い出します。今回の整備ついて学校や教育委員会からは「前例を踏まえるからこそ、現場でちゃんと使えるだけのハードやソフトを揃えられるようにお願いしたい」との声が聞かれます。一見するとニワトリが先かタマゴが先かのようにも見えますが、いずれにせよ、新学習指導要領の完全実施と相まって、公教育の大転換点が目の前に迫っていることは事実です。これまで以上に教育行政と学校現場が両輪となりつつ、それぞれの立場でしっかりと立って「待ってました!」と言えるように準備しなければならないと思います。そのためには民間企業等を補佐役もしくはパートナーとして迎え入れていくことも、しっかり視野に入れておく必要があると思います。
 整備でも運用でも、中長期的に教育の進展を捉えた好事例が、全国各地で生まれ、定着し、進化しようとしています。東北には東北固有の課題があることは承知していますが、先んじて得られている知見を有効活用することで、ステップアップしていける可能性は十分あると考えています。私自身もその一翼を担うつもりで経験と見識を深め、多くの企業や省庁、学校、教育行政のみなさんとともに、よりよい教育を目指して進みたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。

(佐藤)