2019年11月26日に、早稲田大学人間科学部にて「教育イノベーション論」でゲスト講師をさせていただきました。この講義は、セサミストリート・カリキュラムのリサーチでもお世話になっている、井上典行 教授が担当されています。
シラバスに書かれている授業概要は、以下のようなものでした。
新しい教育の形を志向した様々な教育イノベーションが提唱され学校、大学、企業、地域の現場において実践が試みられている。本講義では新しい形のICT教育やグローバル教育、課題設定(PBL)型授業など多様な教育イノベーションのケースを紹介し、その成り立ちと意義、技術的・社会的・文化的基盤、教育システムのダイナミックス、評価などについてクリティカルな視点で論じる。同時に教育心理学、認知科学、組織・リーダーシップ論などをベースに人の学びとは何かということの原点に立ち返りつつ、これからの時代における教育のあり方について考究する。
教育は、さまざまな視点から効果や実装などを考えることが重要だと思っていますので、履修している学生の皆さんがどのような視点を持っているのかを楽しみに伺いました。
今回は、自分自身が公教育にどのように関わっているのか、ということを最初に自己紹介をしてから、できるだけ多くの時間をみんなで「公教育ってそもそも何なのか」「公教育が果たせる役割とは何か」について考えたいと思って講義を設計しました。
Mentimeterで「公教育と聞いて、思い浮かぶイメージは?」と質問してみて、みんなで考えてもらいました。履修している学生さんのほとんどがMacを開けている環境だったので、たくさんの答えが返ってきました。全部に触れることができなかったのが残念でしたが、あまりいいイメージを持っていないようでした。特に、「高校までは正解をいかに速く出すか、というルールなのに、大学に入ると、個性的であることを求められる」という発言には、多くの学生がうなずいていました。
僕は、社会を構成する人の大多数が通る公教育をこそアップデートする必要があると思っています。そうすることで、将来自己実現する人を育てることができると思うからです。
そのために、公教育にいまどんな変化が起きているのか、公教育にどんな変化が必要なのか、公教育に広い範囲で変化が起こり、その変化による効果が持続するためにはどういったことを考えればいいのか、ということをみんなで考えたいと思いました。
「教育イノベーション論」というタイトルではありますが、イノベーションを起こしたあとに、それが持続するためにどうすればいいかを考えたかったのですが、そうした意図はある程度学生の皆さんにも伝わったのではないかと思いました。
講義後に学生の皆さんに書いてもらったフィードバックから、興味深かったものいくつか挙げます。
- 自分の中でモヤモヤしていた部分が晴れるようなお話でした。ありがとうございました。自分は文科省系統のプロジェクトに高校で関わっていたのですが、もう少し現場にあったもの、効果のあるものにならなかったのか、というモヤモヤがあったのが事情を聞いてなるほどと思いました。
- 「学習者中心の学びの実現」について、お話を聞かせてもらえた。大学生でさえも、何を将来したいのかが見えていない(自分自身がそうである)のに、小学生にいつか使うから…での学習を教えている公教育はナンセンスだと思った。土台は柔軟に広く取っておくべきなのは間違いないと思った。
- 元々、塾講師をされていたということで、キャリアの考え方についても学ぶことができました。為田さんが自分にできることを分析し、違う対象へその能力を売り出したように、私も働き始めたらその業界以外で発揮できるスキルを見きわめたいです。
- 「1人1台PC」など、現代では、昔に比べて教育のデジタル化が進んでいて、紙の教育と、PCを使った教育のどちらも経験した世代としては、「便利」は怖いなと少し思っています。今は調べれば何でも出てきます。本当にそれは良いのか??と疑問に思うことがあります。実際、自分も、ネットに頼ることが増えて、考えることをやめている気がします。だから、これから先デジタル化を進めていく上で、子どもが“考える時間”を、きちんと設けてあげることが必要だと思います。
また、教育イノベーションの中で、一番大切なのは、「良いものは残す。変える前に考える。」だと思います。一度変えたら、それまでの教育のかたちは大きく変わります。だからこそ、今あるものの良い所をいかに見つけるか、それを見極める力が重要だと思います。変わり続ける教育の中で生きていく世代として、そういった力を身に着けていきたいと思います。- もちろんEdTechは教育のイノベーションとして有効な手段だが、この国を根底から変えるのであれば公教育を良くすることが必要であるし、公教育だからこそできることがあるという話がとても自分の考えには足りないところだなと感じた。
また、技術に適用したり技術の向上を追い求めるだけではなく、学ぶ人間側を一番に考えていかなくてはいけないと感じた。- 公教育について、自分の経験を踏まえてみても、高校から大学への移行段階でのギャップが大きいということを感じていました。高校まで「良い」とされていた姿勢が大学からは通用しなくて、むしろ周りと少し距離があったような、自分の意志を貫いてきた人が充実した、自分の力を伸ばせる場所となっていると思います。
- 本日の話の中で「読み書きできないけどタイピングで作文はできる場合がある。これってすごいよね!」という発言に強くはげまされました。
- ICT技術の発達だけが先走りして、現状では学習者・教育者が追いつけていない、うまく活用できていない感じがあったが、これをどう活用していくかが今後の課題だと改めて感じた。いろんな技術が発達しているが、本当に大切なのはやはり、それを利用する人間自身がどうあるべきなのかだと思った。技術だけでなく、私達が変化していくこと、変化を受け入れること、その中で従来してきたものの中で大切にしたいもの、残したいものは何かを考え、見極めていくことが必要だと感じた。
公教育が子どもの多様性を抑制する場でなく可能性を広げる場であることの大切さを改めて感じました。- Society5.0の動画を観て、私はすごくワクワクしたし、未来がすごく楽しみになりました。すぐに友達にこれすごくない?!とURLを送ってしまったくらいです(笑)ただその中で為田さんがおっしゃっていた「テクノロジーだけが進歩しても教育が時代遅れでは何の意味もない」というのはその通りだなと思いました。本当に大人が変わっていかなくてはならないんだなと感じました。
- 小学校、中学校、高校と1つの答えが決まった問題を解く練習をして、周りと同じ解答をするようにと意識させられてきた。しかし、大学や就職のときには自分だけの、周りと違った意見が求められる。このギャップを生んでしまっている公教育というものに私自身も疑問をもっていたため、今回の話を聞くことができておもしろかった。公教育を最先端のものにしようと活動している人がいるという事実を生で知ることができて、少し安心してしまった。「変わらなければいけないのは大人」という言葉がとても印象に残った。
- 実際に教育イノベーションを実地にされている方ということで、まず私たちを観察というか、現代の学生のサンプルとして興味深げにしていらっしゃるのが印象的でした。
実際に自分でやって、触れてみて、経験から知識を得ていくことは、自信につながるなとも思いましたし、改めて様々なよく聞く問題提起を新鮮に感じられました。
最後のコメントにあった、「私たちを観察というか、現代の学生のサンプルとして興味深げにして」いるというのは、そのとおりで、こうして大学生からの生の声を聞いていくことは、自分のキャリアにとって重要なことだと思っています。
講義の前には、井上先生のゼミ生との意見交換の時間もとっていただきました。現場で忙しくしていると忘れてしまう、大元の議論ができたのは自分にとって学びの多い時間になりました。
井上先生の研究されている、アクションリサーチは、我々のような外部の人間が学校と協働してカリキュラムを作ったり実施したりするときに本当に大切な考え方だと思っています。学校の内側と外側とを行き来しながら、学校がFuture Readyになることを手助けする、そうした仕事をしていけるように、今後もがんばっていきたいと思います。
(為田)