この連載では、八王子高等学校の情報科の授業の様子と共に、そのカリキュラムの開発秘話を紹介いたします。今回は、1学期のガイダンス後、スマホ利用における問題の解決策を小論文にまとめる授業についてです。
今回は、計2回(4コマ)の授業のうち、1回目の授業内容について紹介します。1回目では、小論文を書くにあたって必要となる要素・情報を調べたり、設定したりと、小論文を書く準備が主となり、大まかに以下のような授業の流れを立てました。
小論文で、論理的にまとめる意識を持たせる!
情報科で小論文を書かせるのは、珍しいことですが、小論文を最初に書かせるポイントとしては、文字だけで問題はなにか、解決策はなにか、どうしてその解決策がいいのか、その根拠を示すデータはなにかなど、論理的にまとめる意識を持ってもらうことを狙いとしています。
高校1年生の段階で、PowerPointで面白そうなスライドを作ったり、アイデアとしてはおもしろいものを提案できる生徒は何人かいますが、それを相手にわかりやすく説明できたり、納得がいくような論理的な説明ができる生徒はほとんどいません。スライド作成のように見た目の要素があると、どうしてもそちらに意識がいってしまいがちなので、敢えて文字だけの小論文を書かせることで、見た目はなしで、論理的にまとめるということだけを意識させるようにしました。
経験知から問題を設定しやすい
問題の設定は、問題解決を考えるよりも重要であると言われていますが、高校1年生で最初に取り組む内容なので、アイデア出しの段階で比較的出しやすいテーマになるように、「スマホ利用における問題」としました。中学生ではまだスマホを持たない生徒もたくさんいますが、高校1年生になると、9割以上の生徒がスマホを持つようになるので、生徒にとって身近なテーマです。「LINEいじめ」や「歩きスマホ」など、ニュースにも取り上げられている問題があるので、自分の経験知だけでなく、見聞きしたことのある問題をあげることもしやすいと思います。また、インターネットを使って「スマホ 問題」と検索すると、さまざまな問題を調査することもできるので、そこでキーワード検索や情報の信ぴょう性なども説明することができます。
実際に、生徒たちが問題をあげるときは、なかなかアイデアを出せなくて困っている生徒はほとんどいないようでした。逆に、そのあとのグループでのKJ法で問題を分類するところで、まだ仲良くなりきれていない他の生徒との協働作業で多少のぎこちなさがあったように感じました。
▼個人個人で問題のアイデア出し
▼グループで情報共有
▼グループでKJ法で分類
スマホ利用における問題を意識する・解決策を自分たちで考える
このテーマのもう1つのポイントは、座学やビデオ講習、ゲスト講演などで一方的な知識として学ぶことが多い情報モラルについて、「スマホ利用における問題と解決策」というテーマを通して、生徒自身で問題を考え、理想となる目標を設定し、解決策を考えることです。一方的に知識を与えられるのではなく、自分たちで調べ、自分たちでアイデアを出し、その根拠となるデータを探すことで、生徒の主体的な学びになるように設計しています。
アイデア出しのところまでは、グループで進めているので、自分だけでは思いつかなかった問題や解決策も共有できているようでした。ただ、時間的な問題もあり、グループ内でしか情報共有ができていないので、クラス全体で出てきた問題や解決策のアイデアを共有できると、より深みが出るだろうなと思いました。授業内での実施が難しければ、アイデア出しした付箋の写真データを印刷して配布したり、1人1台のタブレットがあれば、印刷せずともそのデータを配信することもできるのにな…と思いました。
八王子学園では、高等学校ではまだ1人1台のタブレットはありませんが、中学校では昨年度から1年生だけ1人1台のタブレットを利用しているので、いずれ高校でも同じような環境になるのではないかな…と思います。
▼根拠となるデータがないかインターネットを使って調査
▼三角ロジックの根拠と引用元をまとめている様子
中学生に解決策を提案するという設定で考える
今回のような社会問題となっている問題の解決を考えさせる授業でありがちなのが、「そもそもスマホがあるのが悪いからスマホをなくす」「スマホは便利だから問題はない」などのような解決策になっていないことを言う生徒が出てくることだと思います。こういった現象を防ぐために、解決策を提案する対象を設定することが重要だと思います。対象がないと上記のような主観的な考えにいってしまいがちですが、「初めてスマホを持った中学生に対して、スマホ利用における注意点やアドバイスをする」と設定されていると、具体的に考えやすいと思います。八王子学園は中高一貫校なので、いずれは生徒たちが考えた解決策を中学生に提案したりするような時間が取れれば、中高での生徒同士のつながり強化や、高1の生徒にとっては、人に伝えるということの練習にもなると思います。
▼対象の中学生がどうなっている状態を目標とするのかを設定
1回目の内容は、生徒が考える部分が多く、1学期はネットワークの調子が悪かったことも重なって、想定以上に授業数が延びてしまったので、もう少し考えさせる部分を絞り込む必要があったなと感じました。特にアイデア出しとKJ法を2回ずつ実施するようにしていたので、2回目は口頭ベースでブレストするくらいにしてもよかったと思いました。
次回は、後半2回目の授業内容を紹介します。
(前田)