教育ICTリサーチ ブログ

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早稲田中学・高等学校の情報科の授業(『高校生が学んでいるビジネス思考の授業 ロジカル・シンキングから統計、ゲーム理論まで』を読んで)

 以前、メールマガジンで紹介されていたのを読んで以来興味を持っていた、大森武『高校生が学んでいるビジネス思考の授業 ロジカル・シンキングから統計、ゲーム理論まで』を読みました。

 大森先生は、私立早稲田中学・高等学校教諭で情報科を担当されています。当初は数学科の先生として勤務されていたそうですが、高校で情報科が必修となった2003年からは、数学科と情報科を掛け持ちで担当しているそうです。
 著者紹介によると、情報科の授業では、生徒はおしゃべり可、立ち歩き可とのこと。早稲田高校にはパソコン教室はなく、図書館で情報科の授業をやっているそうです。そして、徹底的に「考える」ための道具を与えることを情報科で実践しているとのことです。

 大森先生は最初に、こんなことを言っています。

情報科は「コンピュータの使い方を学ぶ教科」ではない。

 ただアプリの使い方を教えるだけではもったいないと思います。情報科でプレゼンテーションを教えている学校は多いですが、残念ながらプレゼンテーションを教えているのではなく、「PowerPointでのスライドショーの作り方」を教えているだけになっているケースも多いのです。
 説得力を増すための論理構成は国語に関連することですし、どういうデータを用意したらいいのかは数学に関連することですし、そもそもテーマを設定するときには広く社会に目を向け、好奇心を持っている方がいいでしょう。そうした、教科を横断する授業をいちばんやりやすいのは、情報科だと思います。
 そうした前提で、大森先生は以下のように情報科の授業を定義し、そのなかでの先生、生徒の役割の変化について言及しています。

  • 情報をインプット(受信)して、アレンジ(企画・分析・編集)して、アウトプット(発信)するまでの一連の流れをひっくるめて扱う教科。
    • インプットでの先生の役割は、「教科の内容を教える人(Teacher)」から、「情報を選び取る際の交通整理係(Navigator)」になる。
    • アレンジの際、生徒がやることは、「理解・暗記」から「編集」になる。
    • アウトプットの際、成果は「○×判定」から「何をどのように表現するか」になる。


 大森先生の授業は、情報をインプット→アレンジ→アウトプットするという流れの中で、ICT(コンピュータ+インターネット)を道具としてどう使うのか、ということを実践しているようです。

  1. デジタル論理式
    • 日常で使う文章や会話を論理式で表して、前提から正しく結論を導いているかを判定する。
    • 議論の論理を扱う。(真偽判定でなく、多様な見方・考え方を取り込む論理)
  2. 1行作文
    • 書き方のひな型(最初に結論、1行で書く、論理をたどる)
    • 根拠と反論を1行で書く。
  3. ゲーム理論
    • 戦略思考、駆け引き体質を鍛えるためのトレーニン
  4. マインドマップ
    • 昔話を10字程度に要約し、そこから枝を伸ばすなど。
    • 放射モードと収束モードを行ったり来たりする
    • 魔法の9マス紙
    • パワポで1枚企画書
  5. モデル化とシミュレーション
    • 条件設定→図解モデル→数式モデル→シミュレーション→グラフ化
  6. 統計
    • ザツから始めてマシにする

 上記の6つの内容を、各4~5時間で実施しているそうです。(全部合わせても30時間足らず。情報科の授業時間の半分足らず)

 早稲田は中高一貫なので、6年間で情報科を教えているために可能になっている部分もある、と大森先生は書かれています。