2019年12月12日に、関西大学初等部で行われた、Think × Act × Creation 2019に参加しました。公開授業とセッション・ワークショップの後に、経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課長 浅野大介 氏の講演「「未来の教室」に向けて ~第四次産業革命を活かす学び、そんな時代を生きるための学び~」が行われました。講演のメモをまとめ、そこにコメントをつけていきます。
「未来の教室」に必要な要素
最初に浅野さんは、「未来の教室」に必要な要素を挙げます。ここでは、「教育は文部科学省」という枠組みを超えて、省庁を超えた協働が必要だというメッセージが伝わってきます。
- これからは、学校教育(文部科学省)と民間教育(経済産業省)が重なる部分=「民間教育×学校教育×産業界×大学」が大きく、豊かになっていくだろう。
- 新しい学習指導要領のメッセージは、「未来社会の創り手を育てよう、そんな教育にしよう」だ。
- 未来に向けての社会の課題と学校の教科が結びついていなければいけない。だが、まだ課題ドリブンでのカリキュラム・マネジメントは始まっていない。それは急速に始めなければならない。
- 社会課題と学校の教科を結びつける動きは、産業界から来る。自動車も、エネルギーも、食も、製薬も、すべて。それを子どもたちと繋がっていなければいけない。
- そのためのカリキュラム・マネジメントをしていこう、というのが2020年の指導要領のメッセージだったはず。それが現場に伝わっているか、不安。
- 関西大学初等部の授業は、情報の編集と発信というところに焦点を当てていると感じた。
「未来の教室」のコンセプト
経済産業省で進めている、「未来の教室」のコンセプトについての紹介がありました。
- 学びをSTEAM化
- Aは、「Art」ではなく「Arts」。真・善・美のセンスや論理、というかリベラルアーツ。より良き社会、より良き人生、誰かをより幸せに、という価値観、哲学を込めながら、STEMをやることで、STEAMへ。
- 「創る」ために「知る」学び、「創る」と「知る」が循環する学びへ。
- PBLではなく、PBLと基礎学力のしっかりとしたインプットが両方なければならない。これまでどおりの基礎基本をしっかり身につけることは重要になっている。理数分野、国語分野でも。
- このサイクルが回って、はじめて社会が変わる。
- 「学びの自立化・個別最適化」という2つの柱。
- 浅野さん自身、一斉授業よりも、自分のペースでビデオ動画で勉強する方が自分でむいていると大学生になって気づいた。当時はテープだったが、いまはビデオで、しかもスマホで見られる。
- これに、AIが加わってくる時代。自分で好きな先生の講義動画を見ながら、わからないところをAIがレコメンドしてくれる。知識の整理を自分で行っていったり、友達と相談もできる。
- 自分のペースで学ぶことができる。
- 標準授業時数の、「標準」という言葉は、個別最適化の時代にどうあるべきか?
- 人はそれぞれ、習得するための時間に差がある。先生が授業をした、というアリバイで学びを完結させることが、時代にあっていない。→そのための道具がEdTech。
- 標準授業時数を、すべてインプットで終わらせようとは、文部科学省は思っていない。そのなかにプロジェクトなども入れてほしいと思っているが、ほとんどの学校で、インプットで終わってしまっている。
- 教科知識のインプットが、大幅に圧縮できることを、公立の先生方が仮説として出してくれた。生み出された授業時数をSTEAM教育に再編。
教育の失敗
続いて浅野さんは、危機時に現れた教育の課題と「学びのSTEAM化」の必要性について紹介しました。
「未来の教室」プラットフォーム
2018年7月にスタートした「未来の教室」プラットフォームでの実証事業例を挙げて、浅野さんは実際にどのように教育が変わりつつあるのかを紹介していきます。
- 麹町中学校×Qubena
- 数学のAI型ドリル教材「Qubena」を使って、数学の授業風景を変える。一人1台のタブレットを持っていて、教科書レベルの授業はしていない。それぞれが解き、説明し合う形。できた子は次の学年にも進んでいる。
- できた時間に、習ったことを使ってプログラミングをしている。
- SPRIX 自立学習RED
- 武蔵野大学千代田高等学院×Catal
- 民間英語教育
- 教員によるコーチング×ICTを用いた英語ライティング指導による4技能型英語教育
- 移動革命/MaasがテーマのSTEAMプログラム
- スマート農業
- センサーを使って水分や気温や湿度など農場の様々なデータをとる。センサーで採れないデータは検体をとる。それらを合わせて解析する。
- そこから、ロボットを作って使おう、というような学びにも発展できれば。そのなかに当然、数学も理科も社会も入っている。
- 今は実証を農業高校で進めているが、そこに単位互換の形で普通科の生徒や、小中学生が参画してくる学習環境を作れればよいのではないか。
「未来の教室」については、サイトにて実証事業の内容などを詳細に知ることができます。
www.learning-innovation.go.jp
こうした実証成果を普及させるためのアクションとして、「未来の教室」キャラバンも実施しています。EdTechを実際に触ってみてもらって、「ああ、こういう使い方ね」と言ってもらうためのもので、教育委員会、PTA、青年会議所(JC)が主催する形で行われています。
「一人1台コンピュータ」が、新しい学習基盤になる
最後に浅野さんは、2019年11月13日の経済財政諮問会議で安倍首相が発言した学校での1人1台コンピュータ利用は「当然」というコメントついても言及しました。
- 経済財政諮問会議における、「1人1台のPCは当然」「国家の意志を示す必要がある」という首相の明言。
- この発言をいただくべく、私たちはがんばってきた。経済対策として必ずやりたかった一人1台PCまでようやく持ってこれた。
- 1人1台端末は、これからの知的活動のための当たり前の環境。
- いまどき、大人が仕事で共有のPCを使うことなどない。ノートのように1人1台持って知的作業に臨むのが当然。
- 情報を的確に収集し、編集し、発信する、基本的な型を、子どもの頃から育んであげたい。
「教育現場での1人1台コンピュータ」を、子どもたちが思考・表現の道具として使えるようにするためのモデルの形として、関西大学初等部の公開授業は非常に有益だったと感じました。2020年、全国での1人1台の学びの環境整備をサポートしていきたいと思います。
(為田)