9月16日に大阪市教育委員会が、「学校教育におけるICT環境に求められる要件 -大阪市学校教育ICT活用事業「中間報告」-」を発表しました。平成25年度から平成26年度の2年間にわたる研究のうち、1年間の調査研究をまとめてあります。
報告書内に「学力向上に効果があった事例を紹介している」という見出しをニュースで見たので、PDFをダウンロードして読んでみました。
http://www.ocec.jp/center/index.cfm/35,12495,176,315,html
実証研究の目的
報告書では、最初に実証研究の目的が書かれています。ICTを導入することで、子どもたちに育みたい力として、以下の4つが挙げられています(4ページ)。
- 自分の考えを分かりやすく表現できる力。
- 多様な考えを取り入れ、自己の考えを分析修正できる力。
- 世界の人とつながり情報の共有ができる力。
- 社会の課題について考え仲間と協働して課題解決ができる力。
そして、これらの力の育成するためにどうするのか、という文章が続きます。
これらの力の育成には、学習の場におけるICTの活用が必須であると共に、これまでの一斉指導に加え、グループやペアでの学習や少人数授業等の様々な携帯を取り入れる等、授業の中に多様な授業スタイルを取り入れる工夫が求められる。
子どもたちに育みたい力としての4つはまったく賛成ですけれど、そのために「ICTの活用が必須である」というのは、そんなに言い切らなくてもいいのでは?と思ってしまうのです。どういった点が、ICTの活用を使うことで、「今よりも良くなる」のか、報告書に入れてほしいと感じました。
目的に対応して、「こういうふうに使います。だから、こういう結果が出ると仮説を立てています」と先に出しておかないと、エビデンスを取れないのではないかと思うのです。
ある部分では、「ICTを使ったほうが目的を達成できる」でしょう。でも、別の部分では「ICTを使わず、今の授業形式を少し変えるだけでいい」という授業もあると思います。ICTですべてが解決するわけでは当然ないので、どの部分に着目して、どんな成果を目指すのか、をもっと明確にすれば、より実証しやすいのではないかと感じました。
モデル校の実践事例
モデル校の実践事例という項目もあります(13ページ)。
モデル校では、これまでの黒板やノートを使った学習に加え、一つのツールとしてタブレット端末の「普段使い」が定着してきている。「デジタル」のよい部分を、従来の授業の中に取り入れ、自然で効果的な授業展開が進められている。
この実践がどんな感じなのかをこそ、知りたな、と思いました。
特に、この後、15ページでA小学校において、算数と国語のCRTの結果が上がった、というのを書かれているので、「どうして上がったのか、理由をどう考えているか」こそ、この報告書を読む人はほしいのではないでしょうか。
また、B中学校では、タブレットを利用していない全国学力テストの結果がほぼ同程度の比較中学校で26時間かけた単元指導を、18時間で行った、というふうに記述されています(15ページ)。ここでも、どうやって効率化を実現したのか、というノウハウを公開してこそ実証実験として意味があるのではないでしょうか。(大阪市内では公開されるのかな…)
結果の考察
16ページの結果の考察において、以下のように触れられています。
モデル校においては、多くの教員が自らの授業に多様な「授業スタイル」が出現したことを実感している。また、子どもたちが、一定期間を振り返って自己の学習について、どのようなスタイルで学んだかを評価することは難しいことではあるが、「集中して取り組んでいる」「学習することが楽しい」「自分の考えをわかりやすく伝えたり、説明したりしている」と多くの子どもたちが、実感として感じていることの意味も大きい。
多様な学び方に対応できる方が、学校としてはいいと思うので、多様な「授業スタイル」がICT導入によって生まれたことは評価すべきことだと思います。
でも、だからこそ、この「授業スタイル」にどんなものがあるのかを知りたいと感じます。
また講習によって教育的効果が違うということも述べられています。小学校と中学校では活用頻度や活用方法においての差も見られるとのことです。小学校の方が肯定的な回答が多くなっています。クラス担任制と教科担任制の違いがあったり、普通教室と特別教室の利用頻度の違いがあったりもするのだと思いますが、前述の「授業スタイル」の違いと結びつけて考察してみて、どんな違いがあるのか、見てみたいなと思いました。