8月5日に、「アクティブ・ラーニングに向けたICT活用のツボ」に参加してきました。
ワークショップが4つ同時に開催されていて、どれも参加したかったのですが、泣く泣く1つに選んで参加してきました。選んだのは、大阪教育大学大学院の木原俊行先生のワークショップ。タイトルは、「特別の教科「道徳」の授業づくりを考える」でした。
以下、簡単なメモを公開します。
教材として使うのは「ココロ部!」
- 途中まで見た後で、「え、この後、どうするの?」という声が上がる教材。
- こっちなの?あっちなの?と悩み、考え、議論する道徳、というのが文科省の方向性。
- 「ココロ部!」を使ってのアクティブ・ラーニング、新しい方向性が見えてくればいい。
ココロ部!は、初めて見たのですが、アンジャッシュがMCなのですね。対象が小学校3年~6年と中学生なので、親しみもあり、落ち着いて一緒に考えられるタレントさん、という感じなのだろうか、と思いました。
http://www.nhk.or.jp/doutoku/kokorobu/www.nhk.or.jp
木原俊行先生(大阪教育大学大学院)による教科「道徳」について
- 新しい指導要領は、目標において「道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を通して、」という部分が増えている。
- 最終的な道徳的な判断力を育てるまでの、ステップが増えている。
- 内容については、大枠は変わらないが、C「主として集団や社会との関わりに関すること」とD「主として晴明や自然、崇高なものとの関わりに関すること」の順序が逆になった。
- 指導の基本方針としては、「問題解決的な学習」が力点の置かれているところ。
- これまで考えられてきた、「問題解決的な学習」に収まるところ、収まらないこところがあるだろう。
- 「ココロ部!」でも問いかけをして、子どもたちの話し合いにつながりやすいようになる。
道徳の授業こそ、「問題解決的な学習」には適していると思いました。どうも「はいはい、こっちのほうが正しいんでしょ」という決まりきった答えなら、道徳の授業は押し付けになってしまうし、おもしろくもなんともなくなってしまうので。新しい指導要領の方向性としては納得できるな、と思いながら聞いていました。
その後、草柳譲治先生(全放連)による「ココロ部!」の模擬授業を受けました。
- ココロ部「こまったプレゼント」を見て、それから話し合う。
- 長年の友人からもらった困ったプレゼントを、開店する自分の店に「かざる」「かざらない」「わからない」で挙手してみる。
- ココロ部の心得「相手も大事、自分も大事」
- それぞれの選択にドアを当てはめるのはおもしろい。
- 「さあ、君はどう考える」でスタッフロールが出て、そのまま番組が終わる。
- 番組を見た後で、「田の字チャート」を使って、それぞれの意見を「いい」「悪い」で整理する。
- 空欄を埋めたくなるので、自分の気持ちは決まっているけど、新しい考えが出てくる。
- 1人ずつでもできるし、グループでもできる。
- グループでやることで、意見が変わる人もいる。
- 「はっきり言うのがいいと思う」→「友だちにはっきりものを言える?」と先生からの問いかけあり。
- 「本当の友だちとはどういうものか?」「どうしてそう思うのか?」「保護者からのコメント」をワークシートに記入。
実際にアクティブ・ラーニングを体験してみましょう、というワークショップでもあったので、同じテーブルだった先生方とディスカッションをしながら模擬授業に参加しました。
会場からの模擬授業へのコメントは以下のようなものでした。
- 模擬授業の指導案については、視聴後の児童の反応を見て、4つの展開を準備。
- それぞれの展開を想定。
- 田の字チャートは、大人なら書けると思うが、児童は書けないのではないか?
- 空欄のグループもいるのではないか。共有するようにした方がいいかも。
- 急に「本当の友だちとは?」という問題が出てくる気がする。
- 「0分スタート」=何の説明や導入もせずに、そのまま教材に出会わせた方がいいのだろうか?それとも導入部分を持つほうがいいのか。
- 「ココロ部!」を使いたいとは思うが、毎回は使いたくないと思った。先生の出番がなくなる。
- 教師の指導力という点で、のびしろがあるだろうか、と考えもする。
- 教材として葛藤状況をやり過ぎるくらい明確に描いている。わかりやすく、そのことをもとにした議論は進むが、それは指導したことになるのか、と思う。
ここで、番組制作サイドからのコメントもありました。
- 新しい道徳番組を作るのに、子どもたち、先生方にヒアリングをした。
- 取材した中学生たちの声「道徳の授業が楽しく感じるのは?」
- 人の意見を聞くことができるから
- 友だちの意見を聞いたりして、新しい発見があるから
- しっかり考えることが興味深いから
- つまらなく感じるのは?
- 先生がいい子ちゃんの答えを求めるから。
- 自由と言いつつ、道徳的価値へ先生が誘導していくから。
- 中学生は気づいている。
- 人間関係、そして実社会に決まった正解がなく、最適解(時に複数)を求めることが求められているということを。
- ポイント
- 考えて、話し合う活動、課題解決型学習、体験学習(ロールプレイ)にも対応した新時代の教材
「ココロ部!」のサイトには、10分ほどの教材動画だけでなく、資料やワークシートなども用意されています。制作側がポイントとして挙げている点を実現するような工夫がされていると感じました。
実際、このワークシートがどれくらい使われているのか、ダウンロード数なども管理しているのかな。ダウンロードして、参考にして、自分でワークシートを作ったり…というふうに自分ならやるだろうか…とも思いました。
ここで質疑応答・意見交換をしました。質問は会場の先生方から。解答はNHKのディレクターさんからです。
- ケーキ屋の開店、天狗のプレゼントなど、デフォルメして場面を描いているのはなぜ?
- 道徳の資料には2種類あると思う。近い資料と遠い資料。
- 「手品師」という人気コンテンツがある。手品師は子どもにとっては遠い資料だが、日常に埋没しないで心に残すことができる。
- 日常から離れている方が、自由に考えられるのでいいのではないかと思う。
- 子どもが考えるときに、意図した方に進めるためには、離れたテーマがいいと思う。
- 状況をゲーム的に設定することができる。
- 近いテーマだと、自分の経験と重ねすぎて、いろんなところにいってしまうということもあるのではないか。
「遠いテーマ」と「近いテーマ」というのは非常におもしろかったと思います。クラスによってどちらが適しているかも分かれるだろうと思います。ラインナップのなかで、「遠いテーマ」と「近いテーマ」を両方入れている、とのことでした。
授業での創意工夫についてもコメントがありました。
- 教材を提示する工夫
- 発問の工夫
- 話し合いの工夫
- 書く活動の工夫
- 田の字チャートが、考えるきっかけにはなった。
- クラス全体での問題解決には役立てられていないか?話し合いとのつながりで考えるべきだった。
- 動作化、役割演技など表現活動の工夫
- その他
これらの点を踏まえて、グループで授業プランを作りました。「おくれてきた客」の利用プランの作成をしました。
自分は警備員。閉館時間を過ぎた美術館に、遅れてやって来たお客さんを入れてあげるか?という問題。遅れてきたお客さんは、病気をしているおばあさんがようやくやってきて、思い出深い絵を見たいのに見られない、という設定でした。
僕は、「決まりだから入れない」という意見でしたが、それをどう見せるか…というのでディスカッションをしました。
- 基本、分割視聴を想定している。
- 話し合いに慣れていない児童先生のために、モデルを見せるためにそうしている。
- ストーリーの中で途中で分けたらいいと思う。
- ストーリーが進むに連れて、意見が変わっていくとなおいいと思う。
- 最初は「遅れてきたから入れない」。そこから、だんだんおばあさんの境遇が明らかになり、どれくらい深刻だったらルールを曲げて入れてあげたいと思うか、というグラデーションが出るようにしたらおもしろいのではないか。
これ、おばあさんがどれくらい不幸(そうに見えるか)によるなあ、と思っていたら、制作前にNHKで模擬授業をしているそうで、そこでも「おばあさんを入れる」という票がたくさん入ったため、描き方を調整したそうです。
会場で3つのグループがプランを発表してくれました。
- グループ1:
- ディベートにしたらどうかと思う
- 「入れる」「入れない」の理由をグループで論理的に考える
- 反論を想定し、用意をする
- 「おもいやり」「親切」などでまとめたいと思う。
- まとめとして番組の最後の部分を見る
- グループ2:
- 黒板で気持ちを表して、ネームプレートを貼る
- 最後に、劇をクラスでやってみる。断り方にもいろいろある、規則の中にもおもいやりや親切がある、という話に繋げられる
- グループ3:
- きまりを問い直し、その意味について考えることができる。思いやりのある伝え方ができるか、を目標に設定。
- 自分だったらどうするか、個で考える→全体で交流。
- コジマくんはどうすべきか?自分だったらどうするか?グループで話し合う
これらのアイデアに対して、NHKのディレクターさんからのコメントは以下のようなものでした。
- 「なんでこの資料を見なければいけないのか?」という動機づけが必要。
- 先生方がみなさん、動機づけをしているのがよかった。
- 決まりを守るためにも、おもいやりが必要、というところへ行き着く。模擬授業でもそこに行き着いた。
- 決まりを守るにも、どうおばあさんに伝えるか、というところに話がいく。
- AかBかでなく、C案を考えるというふうにすると授業に広がりが出る。
最後に木原先生による最終まとめです。
- しっかり考えたのはよかった
- 道徳科に活かす教材
- 児童の発達の段階に即し、ねらいを達成するのにふさわしいもの。
- 多様な見方や考え方のできる事柄を取り扱う場合には、特定の見方や考え方に偏った取り扱いがなされていないもの。
- 「導入があれば」「子どもたちの直接経験とつながるものがあれば」などの条件を持ちつつ、多様な教材の中のひとつとして位置づけることができればいいのではないか。
- 主発問、補助発問が何か、という図式が整っていないような気がする。
- 道徳の授業作りの発想を変えるべきか、こうした点は、まだこれからの議論。
「授業づくり」という面にフォーカスして、そのために動画教材をどう使えるか、というのをディスカッションできて、非常に楽しかったです。これに反転授業とか、オンラインでのディスカッション機能、投票機能などを組み合わせることができれば、いろいろと幅が広がるのではないかと思いました。
「おもしろい」コンテンツというのは、教育にとって本当に大切だな、と思いました。エンターテイメント性は大事です。NHK Eテレの番組は、そのあたり上手なものが多いですよね。先生方にとっては、ライバルでもあり、強力な武器でもあるな、と思いました。
(為田)