教育ICTリサーチ ブログ

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福井県の学力・体力がトップクラスの秘密を、「×ICT」で擬似的に再現できる?

 いま、日本で学力ツートップといえば、全国学力調査を見る限り、秋田県と石川県だと言うことができるでしょう。「学力を上げる」ということだけが学校の役割だとは思いませんが、「学ぶ楽しさ」を子どもたちに知ってもらうために、「学力を上げる」ということは非常に重要だと思っています。もちろん、21世紀型スキルのように、“正解のない問題に取り組む”ということが求められているとは思いますが、最初からそこには行けず、基礎知識だったり「調べたら分かる」「知識を積み上げて全体像をつかむ」などは、これまでの授業形態でも教えることができるのではないかと僕は思っています。(そこで終わってはならず、学校・先生がこれから目指すのは、さらにその先なわけですが)

 そうした意味で、秋田県と石川県が、どのようにして学力を上げているのか、という方法論に非常に興味があります。もし、横に展開できるノウハウや仕組みがあるのであれば、他の都道府県でも実施ができるのではないかと思うからです。秋田県は、全県で同じスタイルを築いていて、異動になっても同じ教え方をしている。福井県は、オーソドックスな教え方を貫いている、というふうに教育系の雑誌等では書かれていることが多いように思います。

 そうした問題意識を持ちながら、志水宏吉+前馬優策『福井県の学力・体力がトップクラスの秘密』を読んでみました。注目しておくべきと思う箇所を簡単にまとめてみます。

 本の執筆当時、福井市中央公民館長の川端喜彦氏(2012年度まで福井市内で校長先生)に聞いた、まったく初めて聞く福井の教育文化。代表的な3点というのが書かれています(p.36-38)。

  1. 教科指導における「縦持ち」。福井の中学校では、初任者を除けば、各教科の担当教員は、1~3年のそれぞれの授業を持つことが一般的だという。
  2. 通知表の渡し方。福井では全部保護者に手渡すという。子どもに対する教師の評価をしっかりと一人ひとりの保護者に伝えるため。
  3. 高校入試の位置づけ。福井では、県立高校の合格発表は、中学校の卒業式の前になされることが多いという。

 とくに、一点目と二点目はおもしろいなあ、と思います。一気にこうした仕組みに変えられるかというと、なかなか難しいと思うのですが、ICTが学校現場に入るタイミングで、これらの点を擬似的に行うことはできるのではないかと思いました。
 一点目の「縦持ち」については、学年をまたいで、どんな単元をしているのかを見ることもできると思いますし、学年をまたいで学習のめあてを一元管理するデータベースや学習履歴、指導録を簡単にタブレットで記録させる、ということもできると思います。
 二点目の「保護者に通知票を渡す」というのも、わざわざ保護者に学校に来てもらうのは大変でも、玉川大学のCHaT Net(Children, Homes and Teachers Network)のような仕組みを入れることで、保護者をより巻き込めるかも知れません。文字で書くのが大変ならば、授業の様子を録画して、それを毎日10分くらいでも見られるようにする、などもできます。

 また、もう一つ、先生方が「切磋琢磨する」土壌がある、という話も書かれているのですが(p.38)、これも他の先生の授業を見る(特に、他校の先生の授業を見る)というのは、時間がかかるし難しいですが、授業を録画して、学校間で見合うようにすることもできます。

もう一つ、川端氏が語ってくれたことがらで強く印象に残っているのが、教師同士での「切磋琢磨する」土壌、あるいは「一人だけ独立してというのではなく、チーム・組織として動く」風土である。福井県の施策で「授業名人」というものが始められたが、客観的には授業がうまくても、「名人」と名乗りたがる人は多くないのだという。「お互いの支え合いの中で名人が成り立つ、名人は組織としてやっていく中での成果だ」という発想。別の校長先生は、福井では「自分はすごいと思っている教師はいないだろう」と語ってくれた。

 ICTで多くのことが実現可能になっているので、あとはそれを「何のために使いたいか」という軸ができれば、この福井県で実現している方法を、擬似的に再現することもできるのではないかと思います。「何のために使いたいか」を最も現場に近いところで言葉にできるのは、当然ですが学校の先生方ですので、ぜひそうした声をたくさん伺いたいな、と思います。そのための一つの素材として、とても参考になる本でした。関心をもっていただけたなら、ぜひ書籍を手にとって読んでみてください。

(為田)