教育ICTリサーチ ブログ

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【イベントレポート】これならできる小学校のプログラミング~プログラミングで学ぶ教科の学習~@教育ITソリューションEXPO(EDIX)

 2017年5月18日に教育ITソリューションEXPO(EDIX)にて実施された、平井聡一郎氏(株式会社情報通信総合研究所 特別研究員)のセミナー「これならできる小学校のプログラミング~プログラミングで学ぶ教科の学習~」を聴講してきました。
※会場は、撮影NGだったので、資料の画像のみとなります。
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 プログラミング教育は、現状中学校の技術で必修、高校の情報で選択履修、大学でも必修としているところもあります。一見関係なさそうな美大でも必修としている科があり、私の出身である多摩美術大学情報デザイン学科も必修でしたし、プロのデザイナー(webやUIなど)として働いている人たちは、簡単なプログラムを知っている必要がある状況です。また、初等教育学科で造形教育を担当されている先生の授業でも、将来的に教える先生自身がプログラミングやデジタル技術などのツールを知っておく必要はあるだろうとのことで、VISCUIT(ビスケット)を取り入れた授業を実施されている方もいます。

 こういった背景もあり、プログラミングは、高校の情報科はもちろん、図画工作や美術教育においても、今後取り入れて活用できるもの、いずれは活用していかなくてはいけなくなるのではないかと考えています。

 個人的には具体例をたくさん知りたいと思って参加しましたが、セミナーの構成自体がとても面白いなと思いました。

  • 先生自身が教わったことがない!でも、やらなきゃいけない!という現実
  • 小学校は、「プログラミングを学ぶ」ではなく、「プログラミングで学ぶ」
  • 具体的な事例の紹介
  • 実際に実施する上での手順の提示

 特に最後の「実際に実施する上での手順の提示」が、その前に紹介されたプログラミング的思考をそのまま転用した感じでつながっていたので、勘のいい先生は、「あ・こういうことを考えるときに、プログラミング的思考が使えるのね!」と先生方に気づかせるような内容になっていたのではないかと思いました。


先生自身が教わったことがない!でも、やらなきゃいけない!という現実

 プログラミング教育については、その是非がさまざまなところで議論されていますが、2020年には次期学習指導要領を完全実施することが決まっています。そして、2018年には小学校で移行措置が始まります。「教わったことがないからどう教えたらいいかわからない」と言って、二の足を踏んでいる時間はない状況であることを、「でも、やらなきゃいけない!」という言葉がずばり言い当てていると思いました。
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 そして、時期学習指導要領の実施に向けて、5つのポイントで従来型の授業スタイルを変えていく必要があると仰っていました。

  • 一斉教授型の授業  → 学習者主体の授業
  • Teacher       → Facilitator
  • 待ちのある授業   → テンポのある授業
  • 一部の子どもの授業 → 全員参加の授業
  • 規則正しい授業   → 動きのある授業

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小学校は、「プログラミングを学ぶ」ではなく、「プログラミングで学ぶ」

 小学校のプログラミング教育でよくある誤解が、小学生にプログラミングを教えるのか?ということだと思います。平井氏も仰っていましたが、「プログラミング教育」という言葉自体がそういう誤解を与えてしまうので、「プログラミング的教育」や「プログラミング的思考」などと言い換えられることがよくありますが、要は「プログラミングを学ぶ」のではなく、「プログラミングで学ぶ」ということだと説明されていました。プログラミングは学習目的ではなく、手段としてプログラミング的思考を使って、各教科の指導内容を学ぶのだと仰っていました。
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 「このプログラミングで学ぶ」は、今回小学校でのことでしたが、例えば鉛筆や絵の具を使った表現が苦手という意識を持った児童生徒にプログラミングを使って、感じたことや発想したことを表現する授業を実施することも可能だと思いました。プログラミングを道具として使うので、技術や情報の教科と連携させることも可能だと思います。現状、図工や美術は授業数が減少傾向にあるので、他の教科との連携やコンピュータ技術についても合わせて学習できるような授業を実施することでも、教科としての重要性を訴えることができるのではないかと思います。


具体的な事例の紹介

 では、具体的にどういった教科でどんな風に教えることができるの?ということで紹介されていたのが、算数で正多角形の作図を行う学習や、理科で電気性質や働きを利用した道具があることを捉える学習、総合的な学習の時間では実際にプログラミングを体験しながら論理的思考力を身につける学習活動を行うなどが紹介されていました。
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 算数の正多角形の作図を行う学習の事例では、正確な繰り返し作業を行う必要があるところで、プログラミングのループを活用したり、その作業の中の一部(角度)を変えることでいろいろな正多角形を同じ様に作図することができるというところで、プログラミングの変数を活用するというものでした。確かに、図形の作図は、ある一定のアルゴリズムやルールがあるので、プログラミングとは相性が良さそうです。

 1~3年生では、タブレットやICTを使わずに、日常的な場面を切り取ってプログラミング的思考であるアルゴリズムを実感させることも可能であることを紹介されていました。例えば、朝ごはんを食べるという動作に対して、どういう手順で行ったらいいかを考えさせるワークは、プログラミングのシーケンスの考え方そのものであり、考えた手順で正しくできるかどうかをチェックするのはデバッグ、問題があればどこに原因があるか分析し、原因の仮説を立てて修正し、再度チェックするということ。正確に伝えるということ。情報を細分化すること。これらすべて、プログラミング的思考であると説明されていました。
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 この日常的な例で、プログラミング的思考が含まれていることを説明されていたのは、とてもわかりやすいなと思いました。「プログラミング=パソコンを使う」「プログラミング=コードを書く」といった漠然としたイメージをもった先生方にとって「え、プログラミング教育ってこういうことなの?」と身近に思ってもらえる例えだったのではないかなと思いました。

 特に、学校の先生の中には、デジタルやICTを使った授業自体を敵視される方もいらっしゃるかと思いますが、そういった先生でも、デジタルを使わないプログラミング的思考を取り入れた授業であれば実施できるのではないかと思います。

 例えば図画工作の授業で言えば、計画性を持って制作することを学ばせる際に、上記のようなシーケンスの考え方をそのまま応用して教えることができるかと思います。単に「先のことを考えて制作しよう」と言われるよりも、手順を言語化して順番に並べて、実際に制作しながら手順を見直すとするだけでも、実行する前に計画を立てる力や考えた計画を状況に合わせて修正する力が身につくのではないかと思います。


実際に実施する上での手順の提示

 具体的な事例紹介の段階で、朝ごはんを食べるという動作に対して、どういう手順で行ったらいいかを考えさせる事例を紹介されていましたが、最後に、先生方が実際にプログラミング教育を実施するにあたって、どういう手順で行ったらいいかを、4ステップに分けて紹介されていたのが面白いなと思いました。まずは、先生方が日常生活において、プログラミング的思考を活用できるということを実感していくことが大事なのだと思いました。
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(前田)