2018年9月19日に、山形県中山町立長崎小学校の、5年1組の道徳の授業(担当:高橋恵人 先生)を見学させていただきました。この道徳の授業は、ポプラ社の出版した『答えのない道徳 どう解く?』という書籍を教材として使った授業でした。
「“どう解く?”と訊いているこの授業には正解はなくて、どう思うかを考える授業です」と高橋先生は言い、『答えのない道徳 どう解く?』のなかから、「多数決ってどう思う?」と児童に問いかけます。小学校の教室では、多数決は何度も行われています。この授業の前の週だけでも、5年1組では、お好み給食、リクエスト曲、小小連携でのダンスのふりを話し合い、多数決で決めてきたそうです。
ここで、高橋先生は、「賛成3、反対21、僕の意見は通らなかった」という『答えのない道徳 どう解く?』の中にある文章を、このクラスの人数に合わせて読み、どう思う?と児童に問いかけます。教室のあちこちで、「最悪」「悲しい」というような声があがります。
ここで、高橋先生は、黒板にチャートを書き、多数決について○か×か、自分はどのあたりの意見か、またその理由はどうしてかということを、配布したワークシートに書いてもらいます。
ワークシートに取り組み始めた様子を見ていると、すらすらと書ける児童もいますが、なかなか書けない児童もいます。こうして、考えながら文章を少しずつ書いていくことが、考える道徳の授業への第一歩です。まずは、自分がどう考えるのか。正解がある問いではないので、自分の中から言葉を引っ張り出す作業になります。
ある程度の時間をとった後で、名前の書かれたマグネットをもって、黒板に自分の意見を貼ってもらいます。○と×と中間に多くのマグネットが分かれて貼られました。「迷っている」にも2名いました。ここで児童に自分の意見を言ってもらう時間をとります。たくさん手が挙がり、理由を聴いて、高橋先生がどんどん板書をしていきます。
しばらくすると、黒板は児童の意見であふれてきます。以下のような意見が児童からは出てきました。
- ○の方の意見
- みんなの意見がわかるし、新しい意見も聴ける。
- 自分の意見を通したい。
- 中間の意見
- 自分の意見が通らなさそうだと、自信がなくなることもある。
- 5対6とかで負けるとくやしいときもある。
- ×の方の意見
- 意見の通らなかった人は悲しい。誰も悲しまないような決め方がいい。
- 意見をたくさん言える人が有利だ。
- 速く決まって便利だけど、決まらなかった人がいやな気持ちになってしまう。それくらいなら使わない方がいい?
- すぐ決まるけど、反対が多いとショック。
- 自分の意見が通らなかったら、いや。
- 悲しい人がいる。
ここで高橋先生は、「友達の意見を聴いて、マグネットを動かしたい人、いる?」と言います。こうして、意見が少しずつ変わっていくのを、黒板で可視化できるのはとてもいいなと思いました。また、“マグネットを動かす”という活動が黒板の前で実際に見られるので、「人の意見を聴いて、意見が変わってもいいんだ」ということを感じられると思いました。これは、ICTなどを利用して見せると、こういう可視化は難しく、教室で黒板を使って行うからこそのものだな、と思いました。
最終的に、クラスの半分くらいは途中で意見が変わったように思います。身近な「多数決」というテーマについて、自分で考えて意見を作り、意見をクラスメイトに伝え、クラスメイトの意見を聴いて、「あ、ちょっと自分の意見に付け足したい」というふうに考えを変えていくことができるのは、非常に大切なことだと思います。
最後に、高橋先生は「それじゃ、多数決はやめる?」と訊きました。児童からは、「いや、それはできない」という声が出ます。「では、多数決をこれからはどういう気持ちで、どういうふうにしていくのか、プリントの感想に書きましょう」と言いました。
実際に黒板に並んだ意見を見てみると、×に近い方には多数決の制度的な欠陥もあり、これをどう解決するかという話し合いをするのもおもしろいと思いました。
児童からは、「区別して使う方がいい」「使ったほうがいいときと、使わない方がいいときを分ける」「選ばれなかった人の気持ちも考える」などのふりかえりが発表されました。
高橋先生は、「これからの5年1組の話し合いがパワーアップしそうだね」と児童に伝えていましたが、本当にそのとおりだと感じました。
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今回のワークシートは、『答えのない道徳 どう解く?』のサイトにある「授業用教材&ワークシート」のところからPDFをダウンロードすることができます。今回の高橋先生のワークシートも、こちらをダウンロードし、発問のところを長崎小学校の5年生用に変更したものだったと思います。このように、書籍を活用して利用できるワークシートが配布されることで、先生方の授業準備の手間を減らすことができると思います。
No.2に続きます。
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(為田)