教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

書籍ご紹介:『「対話力」 仲間との対話から学ぶ授業をデザインする!』

 白水始 先生の『「対話力」 仲間との対話から学ぶ授業をデザインする!』を読みました。知識構成型ジグソー法についての紹介、授業での実践などがまとめられています。知識構成型ジグソー法、実際に自分の授業で取り入れてやってみたいと思いました。自分なりに子どもの反応を見ながら試してみたいところがたくさんあります。

 知識構成型ジグソー法について、どんなプロセスをとるのかなど書かれていた部分を抜粋します。

もし、子どもたちが教室でも「十分な答えが出せないから、みんなで一緒に解きたい」と思える問題に出合えて、「答えの候補も考え方も少しずつ違う」と感じられ、それらをまとめると「もっとよい答えが出せそう」という予感をもつことができれば、建設的相互作用はどんな学校でも起きそうです。
そしてもし、児童や生徒に特別なスキルや前提知識がなくとも、対話的な学びが実現できるのであれば、それは誰もが対話を通して学ぶ潜在的な能力をもっていることの証拠にもなります。
そのために東京大学CoREFが開発し、全国のさまざまな教室で実践してきた授業手法が「知識構成型ジグソー法」です。その手法は、次のシンプルな5つのステップからなります。

  1. 先生から提示された問いについて学習者がまず一人で答えを出し、自分の最初の考えを確かめる。
  2. 問いに答えを出すためのヒントとなる「部品」を小グループに分かれて担当して理解する(エキスパート活動)。
  3. それぞれ異なる「部品」を担当したメンバーが集まって新しいグループをつくり、その内容を交換・統合して問いに対するよりよい答えをつくり上げる(ジグソー活動)。
  4. 各グループの答えを教室全体で共有・比較吟味する(クロストーク活動)。
  5. 最後にもう一度、問いに対する答えを納得いくまで一人で出してみる。

クラスで共有した問題に一人ひとりが答えを出して考えを外化し、対話を通して、その考えをつくり変えていくことが授業のねらいです。それによって、一人ひとりの学ぶ力を引き出して学習内容に対する理解を深め、学び方も学んでもらうことをねらっています。(p.58-61)

 知識構成型ジグソー法は、授業支援ツールなども活用できそうだと思っています。一人ひとりが考えを外化する手段の選択肢が広がるし、外化する過程を含めて共有できるのもいい点だと思っています。
 ただ、授業支援ツールを使っているだけの「形だけ」知識構成型ジグソー法にならないように注意をしなければならない、ということも書かれていました。

子どもたちが熱心に話し合っているように見えても、実は何について話し合えばよいのかをわかっていない授業、積極的に立ち歩いて問題を解いているように見えても単に当て物的に正解を探している授業、こうした授業を繰り返していくと、子どもはグループ学習を嫌いになるか、その場をやり過ごす力を身につけるだけになるでしょう。
ここに最先端のテクノロジーが加わると、「形だけ」の評価がより強化されてしまうので、しゃべっていないグループや子どもがいたらすぐ介入したり、次の授業では何とか話し合えるようにグループ編成を最適化したりすることになります。
それに対して、私たちが期待したいのは、黙って仲間の話を聞いているだけで「外形的」には学んでいないように見えても、一生懸命その内容をモニタリングしながら学びを深めている児童・生徒の存在ではないでしょうか。
私たちがやりたいのは、その沈黙の向こうの彼・彼女の声や考えを聞き取ることではないでしょうか。せっかくの先端技術も、私たちの発想が古いままでは宝の持ち腐れになってしまいます。(p.269-270)

 最後の、「せっかくの先端技術も、私たちの発想が古いままでは宝の持ち腐れになってしまいます」は、本当にそのとおりで、デジタルを教室で活用できるようになっても、教える側の学習観が古いままではいけない、ということだと思います。「デジタルを導入して教えているから新しい」というのではなく、学び方・考え方・表現の仕方をアップデートしなければなりません。
 このあたりをうまく組み込んで、授業支援ツールの活用×学習観のアップデートのモデルケースを作れたりしないかな…と思いましたが、ヒントになる箇所がありました。3つのアプローチが紹介されていましたので、まとめます(p.198-204)。

「子どもはいかに学ぶか」という学習観・理論の問い直しを目指して、日々の授業づくりや授業改善をどう進めていくかを考える際に、学習科学における実践研究の歴史が参考になります。

  1. パッケージ化アプローチ
    • 学習科学は、1980~1990年代には「どのような教員でも使うことができる完全なカリキュラム」開発を目指していた。
    • 子どもの能動的で有能な姿を見せられる学習課題や学習活動のパッケージをつくり、それを先生に手渡し実践してもらって、子どもの見方を変えてもらうアプローチ。
    • 典型例のひとつは、ジャスパープロジェクト。ビデオ教材やワークシート、使い方ガイドのパッケージを使って、授業を実施できる。
    • パッケージ化アプローチは、「子どもの学び方」を最大限引き出すことで、先生の目に見える形で「子どもが主体になる学び」を成立させ、カリキュラムの背後にある学習者観や学習観を共有することをねらっていた。
    • 一方で、強い制約は、先生自らが授業をふり返る習慣や、デザインを修正する自由を損ない、目前の子どもの変化を先生自身の学習理論づくりにつなげにくい面があった。評価が「このパッケージは使えるかどうか」という点に集中し、授業が先生のねらいにしたがってどう機能したのかの判断になりづらかった。
  2. ビジョン提示型アプローチ
    • 具体的な教材や授業の型よりも、授業を支える学びの理論やビジョンを手渡そうとするアプローチ。
    • 典型例のひとつは「知識構築(Knowledge Building)プロジェクト)。研究代表者であるべライター(Carl Bereiter)とスカルダマリア(Marlene Scardamalia)が、学習者自身による知識構築の可能性を徹底的に追求する教育哲学をつくり上げ、それを授業のデザイン原則に落とし込み、あとは各学校現場や教室に合わせた実践を展開できるよう支援している。
    • 学習環境を提供しているものの、その具体的な使い方や授業デザインについては制約を設けていない。教員一人ひとりの裁量の余地が大きい。
    • だからこそ、ビジョン提示アプローチは、理想的に機能すればビジョンと学習理論にもとづいた教員自身の創意工夫を促し、多様な文脈に沿った創造的で自由な実践が可能になる。
    • 一方で、制約が弱いからこそ、教室や学校、社会の「反知識構築的な文化」の影響で、期待通りの成果を挙げなかった例も見られる。
    • 具体的な「形」に頼らないため、現場教員と研究者の間で期待する子どもの姿や学びのイメージの共有ができないと、研究者の想定した実践になりにくい。
  3. 中間をねらうアプローチ
    • ある程度、望ましい授業デザインや学習活動のイメージを、授業の「型」などで具体的に共有しつつ、その一方で、各教員に授業づくりの裁量の余地を残し、かつ、実践結果から教員が協働で学びやすくなるようなアプローチを試す価値があると考える。

 この3つのアプローチ、非常に勉強になります。弊社の仕事で言えば、お手伝いをする学校との関係性や、導入したい内容などによって、柔軟にアプローチを選んでいけるようになるのが望ましいな、と思ったものの、最終的な判断は学校が「これいいね、やろう。でもちょっとうちの学校にあわせてカスタマイズしよう」となるのがいいので、3つめの「中間をねらうアプローチ」が近いのかな、と思いました。でも、中間をねらうためには、実はパッケージ化もビジョン提示もできないといけないので、ぐっと身が引き締まる思いがしました。

(為田)