教育ICTリサーチ ブログ

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書籍ご紹介:『高校生だけじゃもったいない 仕事に役立つ 新・必修科目 情報Ⅰ』

 中山心太さんの著書『高校生だけじゃもったいない 仕事に役立つ 新・必修科目 情報Ⅰ』を読みました。2022年4月入学の高校生から必修化された情報Ⅰ。高校の授業参観に行く機会はあっても「情報」の科目を参観したことはほとんどないので、タイトルにある「高校生だけじゃもったいない 仕事に役立つ」というのがどんな感じなのかを知りたくて読みました。

 どんなことを情報Ⅰの授業で学ぶのか、が紹介されます。また、情報Ⅰで学ぶことが小学校・中学校・高校の学習内容とどのようにつながっているのかもわかる本です。高校生が受験することになる大学入学共通テストの試作問題を解いた中山さんは、「ITパスポート以上、基本情報技術者未満の難易度」(p.8)と書いていました。
 では、「受験のために、情報Ⅰを学ばなければいけないのか?」というと、そこでとどまるものではありません。この本でも、「なぜ教科情報を学ばなければならないのか」ということが書かれていました。学校で理解をしておくほうがいいと思うので、読書メモを共有します。

現代社会はありとあらゆる場所にコンピュータとソフトウェアが普及しています。その結果、現代の業務改善とはいかにソフトウェアの設計・開発・運用・改修を行うかと同義になりました。

つまり、ソフトウェアの設計・開発・運用・改修を実際に行うプログラマーシステムエンジニア(SE)と会話できなくては、業務改善ができない時代になったのです。ITパスポートはプログラマーやSEと会話するための現代のリンガ・フランカ(共通語)なのです。

工場で働いている労働者は、自分たちの仕事を改善するために、自ら治具を作ります。これと同じように、ホワイトカラーも自らの仕事の改善のために、ソフトウェアでできた治具を作らなくてはならないのです。(p.27)

 特に、最後の「工場労働者は、自分たちの仕事を改善するために、自ら治具を作ります」というところがいいな、と思いました。治具とは、「加工をする際に、加工されるものを固定し、加工の案内をしてくれる、補助的な役割をもった装置」のことです「デジタルを治具として使えるようになる」ということが大事、という言い方はとてもいいのじゃないかと思いました。
 思いついたアイデアをラフにデザインしてみるためにCanvaを使ってみる、とか。自分のアイデアを伝えるために簡単にスマホでイメージ動画を撮ってみる、とか。意思決定をするために、スプレッドシートで簡単にシミュレーションを回してみた、とか。そういう「治具的なデジタルの使い方」ができるようになることが大事かもしれないな、と思いました。

 もうひとつ、IT関連技術、特にプログラミングについてコメントされているところで、「ある種の非人間的な考え方が要求されます」と書かれていたのもおもしろいと思いました。

IT関連技術、特にプログラミングではある種の非人間的な考え方が要求されます。例えば、全てをあらかじめ記述する。物事を分解し、分解を繰り返した結果、最終的には2つの数値の演算で全てを記述する。現実の物事の変化と、コンピュータの中の数値の変化が同じであると見立てる、などです。

人間が生来持っている、人の行動をマネする、人と仲良くなってうまくやる、感性でなんとなく柔軟にうまくやる、そういった性質とは真逆な考え方が必要なのです。それゆえに、プログラミングがわからない人が一定数で出てでてくることは、仕方がないことだと考えます。(p.28)

 いままでの学校教育のなかで「ある種の非人間的な考え方」は教えられてこなかったと思います。だからこそ、きちんと教科として学ぶことはたしかに大事かもしれないと思いました。

 もうひとつ、この本のなかでよく出てくるなと感じたキーワードは「アジリティ」でした。

アジリティ(Aglility)とは、「素早さ」や「身軽さ」といった言葉ですが、ビジネスの現場で使わるときには「社会環境の変化に対する企業の適応能力」という意味で使われます。(p.39)

 別のページでは、「現代のアジリティとはソフトウェアの設計・開発・改修」(p.40)とはっきり書かれているのですが、企業が行うビジネスの現場だけに限定するのではなく考えて、変わる世界・社会への適応能力としての「アジリティ」を考える必要があるのではないかと思います。

全ての産業でコンピュータが利用されるようになった結果、多くの職業・業務がソフトウェアによって代替されていきました。そして、現代の業務改善は、いまある仕事をソフトウェアに置き換えることや、すでに動いているソフトウェアの設定変更や改修と同義になりました。現代のアジリティとはソフトウェアの設計・開発・改修になったのです。

実際にソフトウェアを設計したり開発、改修したりするのは、IT技術者です。つまり、IT技術者と会話し、要件定義を行い、指示をしなくては業務改善が行えません。逆を言うと、ITスキルを持っておらず、IT技術者と話をすることができない社員は、業務改善が行えないのと同然の時代になったのです。

(略)

これが情報Ⅰが必修科目となった理由だと考えます。プログラマーになるためにプログラミングを学ぶのではないのです。プログラマーと話をするためにプログラミングを学ぶのです。これが現代の業務改善であり、アジリティの源泉だからなのです。(p.40)

 「ソフトウェアの設計・開発・改修」の方に引っ張られてしまうと、「別にエンジニアにならないから…」というリアクションも出そうです。
 でも、変わる世界・社会への適応能力としての「アジリティ」というふうに考えると、どんどんシステムを変えていくためには、教科「情報Ⅰ」で学ぶデジタルを使いこなす力は大きな意味をもつと思います。

 いまある社会システムを全部イノベーティブに作り直すメジャー・アップデートをかけるのには時間がかかると思います。それよりも、目先のできるマイナー・アップデートをかけて社会システムを良くしていく方法を僕は探したいと思っています。そう考えたときに「アジリティ」は大事な能力だなと思いました。
 「アジリティ」を身につけるための教科として、情報Ⅰを捉え直して先生方・高校生をサポートしていくことができたらいいなと思いました。

(為田)