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『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 自分の言葉でつくるオタク文章術』ひとり読書会

 書評家の三宅香帆さんの『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 自分の言葉でつくるオタク文章術』を読みました。タイトルからしてもうすごく好きなのですが(略して「推しやば」というらしい)、僕が小学校で授業をしていて、子どもたちにできるようになってほしいな、と思うことがほぼ書いてあった気がします。それをこんなに読みやすく、楽しく、軽やかに書く三宅さん、すごいです。

 推しを語るための文章術がたくさん書かれていて、それも勉強になったのですが、そもそも大事なのは、「自分の言葉をつくる」ことなのです、と「はじめに」に書いてあります。

推しに感動したとき、
「推しについて誰かに語りたい!」
「推しの魅力をみんなに知ってほしい!」
「推しの素晴らしさについて、発信したい!」
と思う。

けれども、いざ語ろうと思うと
「やばい!」という言葉しかでてこない。

平凡な言葉しかでてこないから、
「まあ、じっくり考えてから書こうかな」と後回しにして、
結局なにも書かないまま、時間だけがすぎていく。
そんな経験をしたことはありませんか?

ああ、私には語彙力がないからダメなんだ。
観察力も分析力もないから言葉がでてこないんだ。
言語化することが自分は下手なんだ。
そんなふうに思ってしまったかもしれません。

でも、あなたが落ち込む必要は、
まったくありません。

なぜなら、自分の感想を言葉にするうえで大切なことは、
語彙力ではないからです。
もちろん、観察力でも分析力でもありません。

必要なのは、自分の感想を言葉にする「ちょっとしたコツ」です。
(略)

自分の大好きなものについて、
自分の言葉で伝える。
その面白さを、ぜひあなたにも知ってほしいです!
(p.3-5)

 「自分の言葉で伝える」面白さ、子どもたちに感じてほしいと僕も思っています。自分の言葉で伝えることは、自分の言葉をつくること。それが重要だけど、簡単ではないということが続けて書かれます。

必要なのは、語彙力でもなければ、大量の読書でもありません。
推しについての発信で一番重要なこと。
それは、
自分の言葉をつくること。

ただそれだけです。

「自分の言葉? そんなの普通にみんなできてることじゃないの?」と思われた方もいるかもしれません。でも今の時代、自分の言葉をつくるのはなにより難しいことなんです。というのも今は、SNSを通して「他人の言葉が自分に流れ込みやすい時代」だから。
(p.7-8)

 いまは、「他人の言葉が自分に流れ込みやすい時代」というのは本当にそうだと思います。小学生と一緒にいると、SNSよりはYouTubeからたくさんの他人の言葉が彼らに流れ込んでいるのを感じることもあります。そんな彼らに「自分の言葉」をどんどん発する機会をあげたいな、そんな機会を一緒に楽しみたいな、といつも思ってます。

面白い映画を観たあとに、他人の感想を読む。すると、自分の感想を忘れてしまって、他人の感想がまるで最初から自分の言葉だったかのような錯覚を覚える……なんて経験をしたことはありませんか?私はしょっちゅうあります。SNSを見ている人にとって「あるある」ではないでしょうか。
他人の言葉に、私たちはどうしても影響を受けてしまうのです。

でもこれって、危険なことですよね。
他人の言葉を、自分の意見だと思いこんでしまう。
自分の意見が本当はなんだったのか、よくわからなくなってしまう。
(略)

そんなとき重要なのが、「自分の言葉をつくる」技術です。

他人の言葉と、距離を取るために。
自分の言葉をつくる技術が、今の時代には不可欠です。

本書では、現代において必須スキルである「自分の言葉をつくる」技術について、お伝えします。
(p.9-10)

 「自分の言葉をつくる」技術を僕が知っていれば、自分の言葉をつくる楽しさを子どもたちに経験させてあげられるんじゃないかな、と思います。

 「自分の言葉をつくる」技術として、クリシェについて説明がされていました。

クリシェ」という言葉を聞いたことがありますか?
ある言葉がいろいろな場面で乱用されたことで、その言葉の本当の意味や新しさが失われてしまったことを指す用語です。ありきたりなシチュエーション。ありきたりな台詞。ありきたりな言葉。それらをフランス語で「クリシェ」と呼びます。

日本語には、残念ながらクリシェにあたる用語はありません。あえて挙げるなら「常套句」でしょうか?もしくは、「ありきたり」という言葉が一番近いかもしれません。このクリシェは、感想を話したり文章を書いたりするにあたって、最も警戒すべき敵です。
クリシェこそが、あなたの感想を奪うんです!
(p.29)

 例として出されているのは、「この漫画、泣けてやばい。すごく考えさせられた。」という感想です。あるある…っていうか、僕も書いている気がする。言われてみれば、クリシェだな…これを書いておけば感想を書いたような気持ちになる(何なら、ちょっと賢そうに見える)

クリシェは、あなたの言葉を奪う敵だと思ってください。
よく見る、それらしい言葉。その言葉を使うだけで、なんだか文章自体が、それっぽくなる。感想っぽくなる。だから、つい使ってしまう。
「考えさせられる」なんて、使うだけでなんだか「かっこいい感想っぽくなる」言葉だとおもいませんか?
でも、そういう言葉こそ、いったん忘れてほしい。「クリシェ=ありきたりな表現」は、あなた自身の表現を奪ってしまうから。(p.31)

 子どもたちに授業のふりかえりを書いてもらうときにも、だんだん「クリシェ」が多くなっていくような気もしています。最近は授業支援ツールでお互いの感想を読むことができて、気をつけないとみんな感想もテンプレート化してくる恐れもある。クラスメイトの書いた文章を読んで、「こんなふうに書いたらいいんだ」と言葉の使える幅を広げてほしいけど、「こんな感じで書いておけばOKなのね」とクリシェを覚える場にしてほしくはないな、と思いました。
 これは僕が意識して、いろんな表現を拾い上げて価値づけして、みんなが書いた自分自身の言葉を認め合う場を作らないといけないなと感じました。

さて、あなたがクリシェに負けず、自分の感情を言葉にできたとしましょう。
それだけで推しを語る文章は、完成するのか?そう聞かれると、残念ながら答えはNOです。じつはまだ必要なものがあります。
それは「工夫」です。もっと詳しく言うと、「工夫しようとする志」です。

「志」とか、さっきから大げさな言葉ばかり使っていますが、これはすごく大切なことなんですよ。先述したように、日本の作文教育には、ありのままの感情を書けば作文になる信仰があります。けれども、実際はそんなことはない。
文章の核が、「自分だけの感情」だとすれば、その核を包むものとして「文章の工夫」がなければ、他人には伝わりません。(p.35)

 文章を「工夫」して伝えようとする子を育てるのも、やっていきたいと思っていることです。推敲や工夫を楽しんでやって、「伝わった!うれしい!」と思える子を増やしたいんですよね。

この大SNS時代、人の感想を見てしまうことは避けられません。
だからこそ重要なのは「他人の言語化に頼らない」という意識そのものではないでしょうか。
他人の言語化に頼りすぎず、自分の言語化をする。その意思をもって日々を過ごしてみる。言語化の具体的なコツはこれからお伝えしますが、最初に「他人ではなく自分の言葉が重要なんだ」ということを理解してもらえたら嬉しいです。

他人の言葉を拝借するんじゃなくて、自分の言葉をつくりだす。
その姿勢が、あなたの、自分自身への「好き」への信頼を生みだす。(p.67-68)

 大人の大SNS時代はたしかにそうで、そのなかで「他人の言葉を拝借するんじゃなくて、自分の言葉をつくりだす」は本当に大事です。子どもにとっては教室で使う授業支援ツールが擬似的にSNSの役割を果たして、他人の言葉にたくさん触れられるようになってきているので、その環境のなかで「他人の言葉を拝借するんじゃなくて、自分の言葉をつくりだす」ことができるような授業をしていくことが大事だな、と感じました。

 タイトルの「推しの素晴らしさを語りたい」の部分をすっ飛ばして、小学校の授業に引きつけて書いてしまいましたが、でも自分にとってはそこに響いたのだからしかたがないのです。新年度の授業が始まる前に読めてよかったです。日々、意識して、頑張ります。

(為田)