教育ICTリサーチ ブログ

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小林昭文『アクティブラーニング入門』 ポイントメモ

 アクティブ・ラーニングを学ぶシリーズ、第3回。前々回前回に紹介した本と同時に買った、小林昭文『アクティブラーニング入門』を紹介します。

 著者の小林先生は、まだアクティブラーニングという言葉が日本に入っていなかった2007年から、今でいうアクティブラーニング型授業(以下、「AL型授業」と表記)を高校物理で開発し、実践してきた方です。高校を定年退職した後も、実践と研究を続け、全国の多くの学校や教育委員会でAL型授業に関するワークショップ型研修会の講師をつとめておられます。
 「はじめに」のところで、どういった意図でこの本が書かれているか紹介されています。

昨年(2014年)11月のニュースで「アクティブラーニング」という言葉を聞いて驚いた方や不安になっている方が多いのではないでしょうか。この本はそんなみなさんのために書きました。
正確な言い方をすれば、これから私たちがやらなくてはならないことは「アクティブラーニング型授業(=AL型授業)」なのですが、これは小学校・中学校・高校ではそれほど新しいものではありません。また、意識しなくてもすでに皆さんが見たり、聞いたり、実践してきている授業がAL型授業であるといえる部分もあるのです。
同時に、敢えて文部科学省がこの言葉を使っている理由は、時代に即応した授業が求められているからであり、これまでとは違う方法を開拓する必要もあります。この本では、それらについても解説しました。

機能と定義を混同しないで、アクティブラーニングで授業を変える

 まず、アクティブラーニングの定義から行いましょう。溝上慎一先生の『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』から、定義が引用されています。

一方的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う。(溝上慎一 2014)(p.18)

 この定義で大事なことは、「どんなに面白い講義でも生徒が黙って聞くだけではアクティブラーニングは起きない!」としたことだと書かれています。小林先生のいうAL型授業(アクティブラーニング型授業)の定義では、「学習者にアクティブラーニングが起きることを含む全ての授業形式」となっています。つまり、形式・スキルの縛りがないため、実践者にとってはさまざまな使い方ができるものだということだと思います。ここで、ただ「面白いだけではだめだ」というのにつながるのだと思います。また、p.19では、定義と機能という項目で、次のように書かれています。

定義に関わって提案したいことがあります。しばしば「AL型授業はキャリア教育だ」という声を聴きます。これは定義と機能の混同です。「AL型授業はキャリア教育の機能をもつことができる」と言うのが正しいです。こうすると「居眠り防止の機能に重点を置いたAL型授業」や「学力向上の機能を重視したAL型授業」「インクルーシブ教育の機能を強化したAL型授業」などができます。それぞれの学校や地域の課題に応じて必要な機能を強化したAL型授業を開発していくことが大事になります。(p.19)

 僕自身は、この考え方に非常に同意します。「AL型授業は◯◯の機能を持つことができる」→「◯◯の機能を重視したAL型授業」というふうに授業を設計することができる、というのは、学校ごとにさまざまな学力の児童生徒がいて、また学校・教室文化ごとにそれぞれ目指すべき機能を明確にして、AL型授業を取り入れるということができるようになるからです。
 小林先生が書かれているように、「居眠り防止の機能に重点を置いたAL型授業」が必要な学校もたくさんあります。居眠りしている生徒が多い教室で教えたい先生などいないと思いますので、「居眠りさせないためにAL型授業をすることで、今よりも授業が良くなる!」とモチベーションを上げられると思うからです。

▼参考図書

小林先生の物理の授業プロセス

 小林先生が実際に物理の授業をされていたときのプロセスが紹介されています。(p.21)

1.学習内容の説明(15分)
(1)パワーポイント&プリント配布
(2)インタラクティブ・インストラクション(双方向のやりとりを重視)
  ↓
2.問題演習(35分間)
(1)問題と解答・解説プリントを配布
(2)ピア・ラーニング(質問、おしゃべり、立ち歩き自由)
  ↓
3.振り返り(15分間)
(1)確認テスト
(2)相互採点
(3)リフレクション・カード記入

 実際に、どんなふうに授業をするかについて、また気をつけるべきことなど、実践的に説明が書かれています。興味深かったところのみ、メモしていきたいと思います。(他にもたくさんのポイントが紹介されています。)

態度目標(ルール)と内容目標の設定

 どんなふうに授業を始めるのか、最初にパワーポイントを提示し、プリントを配布すると書かれています。(p.82)

「始業のチャイムが鳴ってすぐに説明を始めるとともに授業のスライドを投影します。最初に「態度目標」、次に「内容目標」を示します。最初に「態度目標」を提示するのは「内容目標」よりも「態度目標」の方を重視していることを示すためです。

  • 態度目標:
    • 「しゃべる」「質問する」「説明する」「動く」「チームで協力する」「チームに貢献する」
  • 内容目標:
    • 理解すること
      1. <用語を理解する>熱、熱量、熱平衡、熱容量、比熱、熱量の保存
      2. <イメージを描く>熱(量)が移動して温度が変わることをイメージできるようにする。

 また、最初の15分間の説明で気をつけていることとして、以下のようなポイントが挙げられています。実践的で参考になります。(p.90-p.97)

  • 板書・ノートをしない
  • 必ず15分で終わらせる
  • 短時間の話し合いを入れる
  • 生徒の発言を否定しない
  • 評価しないで生徒の発言を促進する
  • 聴いていない生徒に注意しない
  • おしゃべりを注意しない
  • 質問で介入する
  • 選択させる
問題演習のときの練習問題

 問題演習のときに配布する練習問題の作り方についても、典型的な失敗例と、そこから試行錯誤の末にたどりついたパターンが紹介されています。(p.98-100)

  • 問題演習の際の練習問題の作り方
    • 問題が簡単すぎて時間が余る失敗
    • 問題数が多すぎる失敗
    • 難しすぎる失敗

  ↓

  • 試行錯誤の末にたどりついたパターン
    • 基本は4題。易しい問題から難しい問題へと並べる。
    • 一番は大半の生徒が自分一人でできる問題、徐々に難易度を上げて、最後の四番は大半の生徒が一人では自信をもって解くことができない問題。

これは話し合いの活性化にも効果的でした。一、二番に取り組んでいるときは、教室は静かです。生徒の集中力を感じます。三番に差し掛かるあたりから徐々に騒がしくなります。四番では確認テストの時間も迫ってくるので、話し声も大きくなるし、立ち歩きも増えます。逆に言えば、この騒がしさの変化に注目することで、問題の選択と配置が適切かどうかもわかります。

 非常におもしろいと思いました。ここで教えてあげたくなるのをぐっと我慢して、立ち歩いて話し合いをする様子を見取っていくのですね。

よく受ける質問

 授業プロセスの後に、よく受ける質問も紹介しています。僕もまさに、この質問をしたい!と思っていました。

よく質問をうけるのは「その授業を一年の中で何回くらい実施するのですか?」でした。私はこの形式の授業を一年間通して毎時間、行っていました。その結果、「居眠り皆無」「成績向上」「選択者倍増」等の成果をあげました。
また「それで教科書が終わるのですか?」との質問も数多くうけます。私の授業の進度は年を重ねるごとにどんどん早くなりました。旧課程の「物理Ⅱ」は四月に始めて、教科書の全ページを解説して十一月第一週には終了していました。(p.23)

 AL型授業の成果についても書かれています。たしかに、進度が終わらなさそう…とは思ってしまいますよね。

どんなに楽しい授業でも「教科書が終わらない」「大学受験に役立たない」では生徒たちは不安です。私はこのことを強く意識していましたが不安でもありました。
しかし、その不安は杞憂に終わりました。センター試験の平均点は徐々に確実に向上していきました。更に物理選択者も増加しました。三年生の「物理Ⅱ」は三倍増、二年生の「物理Ⅰ」は二倍増でした。先輩から後輩への口コミ効果も大きいようでした。また、外部からの見学者や雑誌等の取材の増加は、生徒たちの自信にもなりました。(略)
そして何より成果として上げたいのは、毎日放課後、生徒たちが自主的に物理室に集まったことです。彼らが「ふぃじ☆かふぇ」と名付けた学習会は毎日続きました。そこで生徒たちは、友達たちと協力して学ぶ楽しさと効果を味わいました。卒業生から「大学に行っても同じように勉強しています」の声を聞き、生涯学習の基盤づくりにも貢献できたのではないかと自負するところです。(p.27)

 

まとめ

 小林先生の授業観を変えた3種類の感想が紹介されています。(p.26)

  • 「先生に教えてもらうより自分でわかる方がうれしい」
  • 「友達になら質問できる」
  • 「友達に教えるともっとよくわかる」

 学び合いや、アクティブラーニングを実践している先生方の多くが、こういった児童生徒の感想に触れて、自信をもって突き進んでいるように思います。実際に(最初は少しずつでも。西川先生がおっしゃるように、週に1回とかでも)こういったスタイルをそのままやってみて、児童生徒たちの様子を見てみるといいのかもしれません。

 ただ、すべての学校、すべてのクラスがそれぞれの事情を持っているのは事実ですし、担当されている先生方こそが、その事情をいちばんわかっていらっしゃるので、上で紹介した「機能」=何のためにAL型授業をしたいのか、というのを明確に決めて、その視点から授業後に振り返りをすることが必要だと感じました。

 とてもシンプルに実例も挙げて説明がされている本ですので、興味ある方はぜひ!

(為田)