2018年7月23日に東京大学 伊藤国際学術研究センターで開催された、Adobe Education Forum 2018に参加してきました。今回のフォーラムのテーマは、「AI時代を生きる力 ~企業が求める創造的な学校教育とは」でした。
今回は、パネルディスカッション「企業×創造的破壊」の様子をレポートします。ファシリテーターは、立教大学 経営学部 教授 中原淳 先生。パネリストは、ソニー銀行株式会社 執行役員 ルゾンカ典子 氏、キリン株式会社事業創造部 部長 佐野環 氏の2人です。
最初に、中原先生から、どうして企業は創造性を重視するのか、という話がありました。
- 企業は「創造性」を重視する!
- ちょっと昔は、みんながほしいものが「ひとつ」で、なかなか変わらない時代だった。高度経済成長期の3種の神器:洗濯機、テレビ、冷蔵庫。
- 「あれほしい」という人が多くて、「あれをつくれ」と言って作らせればOKだった。
- だから、「基礎学力があり、指示のもとでやりきる人材」さえ育てればOKだった。(1970~80年代)
- 時代は変わりました
- 以前は、黒と赤のランドセルしかなかった。
- 今はニーズが多様化&市場の変化が速い。みんながもってない、わたしに合ったランドセルをください!となっている。
- 市場を探索して、革新的なアイデアを作り課題解決をしなければいけない。だから、企業は創造的な課題解決ができる人がほしい。
- 新規事業の成功のポイントは「既存事業の人とのコミュニケーションやネゴシエーション」=他者と向き合う力にある。そうした人たちは、大学でもアクティブラーニング型の授業・課題に参加している。
続いて、キリンの佐野さんのお話の中から、興味深かった部分を個人的にしたメモを公開します。
- 30歳以降、前任のいる仕事についたことがない。
- キリンも、かつてはベンチャー。
- ビジネス環境の変化
- 必要な人材像の変化
- デジタルもなければお話にならない。
- さまざまな情報、さまざまな知見を、自分に繋げる能力=Plug-inする能力が必要。
- Plug-inする力は、外から引き入れる力。自前主義では、今の世の中、スピードが追いつかない。外と組んで行く方がよっぽどはやい。外とつながって交換できるものを自分たちで持たなければいけない。
ここで出てきた、「Plug-inする力」というのは、本当にそのとおりだなと感じました。中原先生は、「伝統的にはコミュニケーションはコストだと、経営学では考えている。今の時代はコミュニケーションは価値を作る源泉」とおっしゃっていましたが、まさにそのとおり。そして、このコミュニケーションを促進し、自分たちが外と交換する何を持っているのかということを広く発信するのに、デジタル/インターネットが非常に強力だと感じました。
続いて、ソニー銀行のルゾンカさんの話です。同じく、興味深かった部分を個人的にしたメモを公開します。
- 今から習得できるスキル
- コミュニケーションは大事
- デジタルは、できなければ話にならない。ひとつでも、テクニカルな素養があるとプラスになるというのは現実。
- クリティカルな思考=新しく聞いた情報を、自分の中でプロセスすること。
デジタルは最低条件で、さらにテクニカルな素養(プログラミングとかデザインとかSNSでのコミュニケーションとかでしょうか)があると、プラスになるという感じでしょうか。ここも、なかなか学校教育では養うことが難しい部分なようにも思います。
この後、創造的な問題解決能力についてのディスカッションが進みます。3人のやりとりをメモとして公開します。
- 創造的な課題解決で、どんな仕事、どんな活動を思い浮かべますか?(中原先生)
- 仕事とは、さまざまな問題を解決すること。毎日、どうやって問題を解決するかということ。だから毎日、創造性を求められると思っている。(佐野さん)
- 「どうしましょう?」という質問を部下から受けたら、「あなたならどうする?」と返事。創造力豊かに、どうやったら解決できるのか、それを考える。問題の大小に限らず、自分で問題を解決する力は、朝から晩まで必要だと思う。(ルゾンカさん)
- 「問題1 解くに値する問題を設定せよ。 問題2 解決せよ」だと思いますね。だから、日々日々、課題解決だろうな、と思いました。(中原先生)
- そういう人材って、企業にいるの?足りてるの?(中原先生)
- 常に足りていないな、と思って求めている。できていないことができるようになる、もっと早くできるようになる、巻き込む力を。(ルゾンカさん)
- お客様は待っている。そこに私達はソリューションをお届けする責務があると思う。次々と問題を解決する、満足させるサービスを提供しなければならない、と思います。(佐野さん)
- 創造的に課題解決ができるようになるためには、何が必要ですか?(中原先生)
- そこに問題があるとわかる力(ルゾンカさん)
- 人の気持ちがわかること。人のことがわかること。それが教育や教養を吸収すると、過去の人がどういう事を考えてきたか、未来の人がどういうことを考えるだろう、ということがわかる礎になるのではと思う。(佐野さん)
- 両者に共通しているのは、外の世界を理解しようとすることから始まる、ということですね。(中原先生)
最後に、学校に望むこと、社会に望むことについてのディスカッションです。
- 学校に望むこと、社会全体に望むこと、産官学でやっていかなきゃいけないこと、(中原先生)
- いちばん最初に考えるべきは、「なんで?Why?」。なんでこの人はこういうことを考えているのだろう?なんでいまあるものはあるんだろう?と、「Why?」と問う生徒さん、学生さんを育ててもらいたいと思います。(佐野さん)
- モーリーさんが話していた、derail(線路のないところを走れるようになろう)というのが大事だと思う。課題が与えられていた時期から、「自由に研究したまえ」になったときに、頭が真っ白になる。そこから時間がかかった。自分で課題を見つける、その解き方を探す、そのプロセスって、学校の中だときちんと答えのあるものを答えるというのが得意だったが、自分でレールを敷きながら走るというのは苦手だなと思った。課題の中で自由研究のような、自分で課題を見つけて解く、まとめる、そうした力が大事だと思う。(ルゾンカさん)
実際に社会で活躍をされている方々のコメントを、中原先生のコメントつきで聴くことができたのが非常に勉強になりました。中原先生は、「革新的なアイデアを作って多くの人を巻き込んでいく人を育てるには、経験学習だと思う。そうしたことをどれだけ企業に入る前からやっていけるか。そこにかかっているように思います。社会全体で学校教育との良い関係ができればいいと思います。」とおっしゃっていましたが、まさにそのとおりだと思いました。
学校と社会を繋いでいく仕事を、先生方の目線で授業に活かせるように活動していきたいと思います。
▼中原先生の著書、勉強しようと思います。
No.5に続きます。
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(為田)