教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

書籍ご紹介:『働くみんなの必修講義 転職学』

 中原淳先生、小林祐児さん、パーソル総合研究所が12,000人の大規模調査を駆使して編み上げた、『働くみんなの必修講義 転職学』を読みました。
 別に転職をしたいと思っているわけではないですし、このブログのテーマであるICTともあまり関係がないのですが、先生方の参考になるところもあるように思ったので紹介します。

 「転職」という選択肢が日本でどれくらい主流になっていくかはわかりませんが、僕は子どもたちが「自分はどんな仕事をしたいのか」ということについて考え続け、自分で自分の身をどこに置くかを決められるようになってほしいとは思います。
 そうなるためには、自分に合っている仕事は何だろうか…とマッチングされるのを待つのではなく、自分が変わっていくことができなければいけません。ここで中原先生が必要だと行っているのが、「ラーニング思考」です。

「マッチング思考」とは異なり、転職における「ラーニング思考」とは、「転職を通じ、学ぶことのなかで自らも変わっていく」という考え方です。時代や環境の変化にアンテナを立て、その都度新しいことを学習していくこともその一つですし、転職活動のなかでそのやり方をチューニングしていくこと、そもそも自分が「なぜ転職したいのか」という動機づけを変えていくことまでも、そこには含まれます。(p.43-44)

 この「ラーニング思考」は、転職云々ではなく、子どもたちに身につけてほしい思考です。こう考えると、「何を学ぶか」と「学んだことをどう活かすのか」ということが重要です。

 最近はICTの発達によって、子どもたちに限らず勤め人も学び直しがしやすい環境にはなってきていると思います。でも、「学び直し」に踏み出せない人もいます。この本のなかでは、「学び直し」の意欲にマイナスの影響を与える3つの因子がまとめられていました(p.148)。

  • 地頭重視因子
    • 生まれもった知能はほとんど変えることができない
    • 知能とは生まれつき決まってしまうものだ
    • 知能を変えようと努力しても無駄だ
  • 仕事は運次第
    • 人の職業人生は、いくら計画しても計画どおりにいくことはない
    • 人の働き方は運や偶然に大きく左右される
    • 必要なスキルや技術は激しく移り変わっていく
  • ほどほどキャリア因子
    • ある程度の地位にとどまっておくほうが無難だ
    • 波風立てず、仕事人生を全うしたい
    • いまの仕事の範囲や規模が自分には合っている

 ICTでいかに教材を拡充して、いろいろな学びの機会があっても、結局踏み出さなければ何も始まらないので、こうしたマイナスの影響を与える因子について意識したカリキュラムを作っていく、ということは必要ではないかな、と思いました。
 この3つの因子に対してポジティブな影響を与えていくことは、授業のなかでの先生からの声掛けや、プログラミングの授業での試行錯誤の成功体験の積み上げや、失敗をポジティブに捉える体験の積み上げなど、学校の授業のなかで変えていく契機を作ることができるのではないかと思います。

そもそも学びの本質は、内にこもるものではなく、外部に向かって「開かれている」ものなのです。
同時に、学びは「未来」に対しても開かれています。本講の冒頭で「転職時にリフレクションを通してセルフアウェアネスを高めることができるのは、『平時からも学び続けてきた人』なのです」と述べました。もちろん、それは「人は生まれつきの才能によって学んだり変わったりしている」という意味ではありません。学びに積極的なマインドセットをもっている未来志向の人が学び続け、変わり続けている、という意味です。(p.160)

 外部に向かって「開かれている」学びを子どもたちに提供するために、学校教育ができることはたくさんあるのではないか、と思いました。「転職学」という言葉から、ちょっと先生方には遠い感じの本ではありますが、先生方が読んで教室での子どもたちと紐付けてくだされば、活かせる部分がたくさんあるのではないかと思いました。

(為田)