教育ICTリサーチ ブログ

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『「思考ツール×ICT」で実現する探究的な学び』ひとり読書会

 泰山裕 先生編著の『「思考ツール×ICT」で実現する探究的な学び』を読みました。ICTで思考ツールを活用している授業を多く見ますが、より先生方のお役に立てるように、先生方に伝える言葉を得たいと思って読みました。

 気になるところをメモしましたので共有します。まずは、まえがきのところで泰山先生が書かれている問題意識のところです。

「思考ツール」はすでにさまざまな書籍や実践が紹介されており、その中では、多くの素晴らしい実践事例に触れることができる。
一方で、思考ツールの活用そのものが目的化してしまったり、思考ツールを使ったものの、子どもの思考が全く深まっていなかったりするような実践も散見される。
(略)
思考ツールはその名の通り「道具」である。
「道具」をうまく使うためには、「目的」が必要である。
そして、思考ツールを活用する「目的」は「思考スキルの習得、発揮」である。
それでは、思考スキルの習得と思考力の育成はどのように関係するのか。
本書は、このような思考ツールを活用するための前提となる考え方や思考スキルという視点からみた思考力の育成について論じている。(p.1-2)

 「思考ツールの活用そのものが目的化」という言葉は、本当に考えさせられます。自分自身でも思考ツールを使う授業を行うことが多いですが、気をつけなくてはならないと思っています。また、教える立場にある自分は目的化はしていなくても、学ぶ子どもたちが「埋めればいいんでしょ…」みたいになってしまう経験もしています。奥深いと思っています。楽しく思考ツールを使うことで、「思考スキルの習得、発揮」ができるような授業をしたいと思います。

 思考ツールは思考スキルを習得・発揮するためのものですが、そうなるとそもそも「思考力」とはどう捉えるのかということも考える必要があります。学習指導要領を分析して、「考える」という言葉が具体的にはどんなことをするのか具体的な言葉として落とし込むことをしています。個人的には、この作業こそがすごく大切だと思いました。

学習指導要領の分析を進めていった。(略)どの教科等でも出てくる「考える」には19種類のパターンがあることが明らかになった。そして、これが教科等横断的な「思考スキル」である。この思考スキルの一覧は「考える」ということを分解した結果であり、研究的に検討され、授業中の思考を捉える枠組みとして整理されたものである(略)
大事なことは、まずは、これくらいの具体的な言葉として「考える」を捉えることによって、授業の中で児童生徒に期待する「考える」をイメージすること、そして、それによって、授業中の支援の方法を検討することが可能になることである。(p.32-33)

 「考える」を言い換えた19種類のパターンは以下の通りでした。

思考スキル19種類

  1. 多面的にみる
  2. 変化をとらえる
  3. 順序立てる
  4. 比較する
  5. 分類する
  6. 変換する
  7. 関係づける
  8. 関連づける
  9. 理由づける
  10. 見通す
  11. 抽象化する
  12. 焦点化する
  13. 評価する
  14. 応用する
  15. 構造化する
  16. 推論する
  17. 具体化する
  18. 広げてみる
  19. 要約する

いろいろな意味をもつ「考える」を「考える」という言葉を使わずに、具体的な思考スキルの言葉を使って捉えることで、授業設計や支援、評価の方法について検討することが可能になる。
うまく考えることができない児童生徒に「よく考えてごらん」と声かけをしても、何をどう考えていいかわからない子にとっては、その言葉は支援にはならない。そうではなく、「考える」を具体的に捉え、考えられない原因を適切に捉えた上で、それに応じた支援を行うことが重要である。(p.33-34)

 「考える」ということをより具体的に捉えることで、思考スキルに具体的な名前を与え、思考スキルを習得・発揮できるように思考ツールを選ぶことができるようになります。

思考ツールとは、思考を補助するための道具であり、思考スキルを明示的に発揮させ、指導するための枠組みである。(p.36)

 思考ツールを活用した授業づくりをするときの注意も書かれています。とても大切な視点だと思いました。

思考スキルの視点を抜いて思考ツールを選択すると、授業が失敗してしまうことがある。「この授業にはどの思考ツールが適しているか」を検討してしまうと、思考ツールの活用自体が目的になってしまうことが多く、思考ツールは埋まったけれど、思考が深まらない授業になってしまうことが多い。
そうならないようにするには、まずは、今日の授業で児童生徒に考えてほしいことは何か、それはどの思考スキルの発揮が期待されるのかを明確にする必要がある。(p.46)

 「第Ⅳ章 思考スキルを促す思考ツールの例」では、19種類の思考スキルを促す思考ツールが19個紹介されています。その後の「第Ⅴ章 思考ツール×ICTの実践例」では、全国各地の小学校と中学校のさまざまな教科で先生方が実践した42の事例が紹介されています。

 思考スキル、思考ツールについて詳しく解説を読んだ後で、思考ツールを活用した実践事例を読むことができ、授業づくりへと繋げていくことができる本だと思いました。何度も読み返して、思考スキルについても思考ツールについても解説を読みながら授業づくりをしたいと思いました。先生方のお役に立てるようにするのはもちろんですが、それ以前に、自分自身の授業でも活用したいと思っています。

(為田)