2018年2月23日に、京都教育大学附属桃山小学校の教育実践研究発表会に参加してきました。テーマは、「主体的に情報を活用しようとする子の育成 ~各教科の学びを深めるメディア・コミュニケーション科~」でした。
今回は、シンポジウム「各教科で育む『情報活用能力』について考える」をレポートします。シンポジストは、堀田龍也先生(東北大学大学院 教授)、黒上晴夫先生(関西大学 教授)、長野健吉先生(京都教育大学附属桃山小学校 研究主任)、山川拓先生(京都教育大学附属桃山小学校研究部)の4人、コーディネーターは、浅井和行先生(京都教育大学教授)でした。
皆さんのプレゼンテーションと質疑応答から、気になったところのメモを公開します。
MCでの教科書開発と情報活用能力
山川先生から、メディア・コミュニケーション科の教科書開発と、メディア・コミュニケーション科における「情報活用能力」についてのプレゼンテーションがありました。
- メディア・コミュニケーション科
- 教科書は2年目。
- 2016年11月に試案を出した。すべての学年をいま作っている。
- 4年生まで、いま示すことができるようになった。
- メディア・コミュニケーション科で21世紀型情報活用能力の育成
- 文科省の3観点8要素は、20年前のもの。今のままでいいのか?という問題意識。
- 相手意識と、批判的思考を新たに追加して、21世紀型情報活用能力と定義している。
- 6年生のメディア・コミュニケーション科では20時間を超える単元。それくらいの単元にならなければ、学習目標を達成できない。
- 系統的な学びにつなげるために、【ふりかえる】から新たな【であう】へ
- 領域と系統性を考えてMC教科書を作った。それを一般校で活用する際には、各教科等とどう関連付ければいいか?(堀田先生から質問)
- 学ぶ資質・能力というので関連付けている部分もあるが、題材で繋いだりもする(国語の「手紙」の単元とつながる、などのように)
6年生のメディア・コミュニケーション科の授業は、20時間を超える単元もあるとのことです。身につけさせるべきスキルを身につけさせるために、それだけの単元がいるのならば、そのための設計をする、というのが素晴らしいと思いました。教科書を通じて、我々もその恩恵を受けることができ、桃山小学校での実践から多くのことを学びたいと思いました。
一人1台タブレットPC活用実践、教科横断的な「情報活用能力」の育成
長野先生から、一人1台タブレットPC活用実践、教科横断的な「情報活用能力」の育成についてのプレゼンテーションがありました。
- 各教科等の指導におけるICT活用
- どのように使うのか、が重要
- メディア・コミュニケーション科でメディアのことを学ぶことは、タブレットPCを導入するうえで、時間を効率化している。
- ICT活用のイメージ【単元設計】
- 単元の学びの蓄積 俯瞰して取り出す
- 大きなマップの中に、単元ごとに学習成果が並んでいる。=構造化
- 子どもが学習履歴を学びに役立てるためにどのような指導をしてきたのか?(堀田先生から質問)
- 「比較する」「構造化する」などの言葉は子どもたちの中に浸透している。
- めあてで「○○について考えよう」というのは一歩深める。授業の中身をタイムスリップのようにふり返って見る。これを毎時間のように行う。自分の考えた履歴を行ったり来たりすることと、学習内容がセットになっていることで、学習が繋がるようになる。
- 見方・考え方として働かせるためにはICT/思考ツールが有効であるが、その際に行う教師の言葉かけはどのようなものか?(堀田先生から質問)
- 子どもがわかりかけているときに、声掛けでゆさぶっている。
- 目の前に、グループのメンバーが書いたものや実験データがあったりする。「わかったつもり」になってしまう。これはICTを活用した授業の弱点かも。
ICT/思考ツールを使うだけでなく、それにあわせて、声かけでどうゆさぶるのか、ということが本当に大切だと思います。それと、「授業の中身をタイムスリップのようにふりかえる」というのは、長野先生の授業にはよく見られるシーンだと思います。
教科で育む「情報活用能力」と教科横断的な「情報活用能力」育成
黒上先生から、教科で育む「情報活用能力」と教科横断的な「情報活用能力」育成についてのプレゼンテーションがありました。
- 主体的・対話的で深い学びとは…
- 自分の考えをもち、そこから「他者の考えとのすりあわせ」「試行錯誤」を通じて、考えが更新されていく。
- ICTで最初の答えをみんなに共有されるようになると、とにかく考えを書かなければならなくなる。
- 対話的な学びとは何か?
- 子ども同士の協働
- 教職員や地域の人との対話
- 先哲の考え方を手がかりに
- 自己の考え方を深める
- メディア・コミュニケーション科の授業によって、ただ情報を受け取る側ではなく、発信もするようになる。そうして世界形成に関わるようになる。
- 思考スキルと教科のなかでの言葉の違い
- 汎用的な思考スキルでの「比較する」はベン図を使ったりする活動。一方、教科の「比較する」は、算数:数の大小/図形の分類、社会:奈良と平安と大仏→何が違うか、国語:よく似た2つの俳句を比較する
- 「構成を考える」「要因を考える」などいろいろな思考ツールがある。「主体的・対話的で深い学び」で考えが更新されることが重要。対話で情報が増幅されてしまうことに対し、思考ツールがどう役立つのか。(堀田先生から質問)
- シンキングツールは、「なんでもいいから、思いついたものを書け」というもの。あとで、それをもとにして自分の考え方を作っていくプラットフォーム。シンキングツールは、計算用紙のようなもの。答えは答案用紙(別のところ)に書く。
- シンキングツールは、すべての情報を乗せるのではない。インデックスとして書く。説明するときには、インデックスの裏側にあるものを引っ張り出して伝える。
- 紙のシンキングツールと違って、デジタルのシンキングツールだと、カードをめくっていくときに出てくるものしか説明に使われない。これはもう少しだな、と思う箇所。
- 一般的な思考と教科ならではの特徴的な思考がある。どこまでが基盤でどこからは教科の役割と考えればよいか?(堀田先生から質問)
- 絞り込んで学校独自にやっているところはいい。いくつにでもわけることはできる。まとめてみたら、「思考」になる。学校がどう分けるか。
- 教科にどのように教えるのか、ということによって、シンキングツールを分ける。
思考ツール、シンキングツールの活用について、たしかに一般教科での「比較」と思考ツールでの「比較」は違うな、と気付かされました。シンキングツールを授業の中に組み込んでいる学校の実践をもっともっとたくさん見てみたいと感じました。
多くの学びを得ることができた教育実践研究発表会でした。お世話になりました先生方、どうもありがとうございました。
(為田)