教育ICTリサーチ ブログ

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シチズンサイエンスプログラム「サンゴの好きを探し出せ!」 イベントレポート No.2(2023年8月19日)

 2023年8月19日に日本科学未来館で 7階 ドームシアターロビーで開催された、小学生・中学生向け体験型シチズンサイエンスプログラム「サンゴの好きを探し出せ!」に参加しました。シチズンサイエンスとは、「職業科学者ではない一般の市民によって行われる科学的活動」を指す言葉だそうです。
 この日は、参加してくれた小学生・中学生がサンゴ礁の海を守るための研究として、「サンゴが何を好んで食べるのか?」という世界初の実験をします。

 今回のプログラムは、株式会社イノカのスタッフが先生になります。イノカは、研究者ではない一般の人たちに簡単な研究体験プログラムを提供していて、参加者が自然科学への理解を深めながら、科学技術の発展に繋がるプログラムを実施しているそうです。

 事前に株式会社イノカ 代表取締役 高倉葉太さんに、今回のプログラムで取り組むテーマ「サンゴの食」について説明をしてもらいました。
 サンゴは光合成で自身の8割の栄養を作っていて、残りの2割の栄養を触手でプランクトンを捕食して生成しているそうです。しかし、サンゴが環境の変化で光合成の能力を失ってしまうと餓死してしまいます(白化現象)。そこで、捕食に関して効率を上げられる食べ物を見つけることができれば、白化現象で光合成ができなくなっても栄養を捕食から得ることができ、サンゴの死滅を防げるかもしれない。だから、サンゴを守るために、サンゴの食を研究してみよう、というプログラムになっているそうです。

 今回のプログラムに参加した子どもたちは、アラムコ・アジア・ジャパン株式会社と株式会社イノカからの依頼として、サンゴ礁の海を守るために見習い研究員になり、2つのミッションに取り組んでいきました。

ミッション1 サンゴの基礎知識をマスターせよ!

 ミッション1は、「サンゴの基礎知識をマスターせよ!」です。子どもたちにワークシートを配布して「サンゴは動物?それとも植物?」「サンゴは人間にとってどんな役割があるでしょう?」などの問題を考えていきます。自分たちなりに考え、先生の解説を聴くことで、サンゴにさまざまな役割があることがわかるようになっていました。

ミッション2 サンゴの「好き」を探し出せ!!

 ミッション2は、「サンゴの好きを探し出せ!」です。サンゴはいつもはプランクトンを食べていますが、それよりも好きなものを探してみる実験に取り組みます。
 今回は、短い時間でもサンゴの捕食反応がわかりやすく観察できるクサビライシを使って実験をします。クサビライシは真ん中に口があって、触手や粘液を使って口に運んでいきます。
 先生が「プランクトンを口から離れた場所にあげてみたところ、クサビライシが触手や粘液を使って口に運んで食べた!」ということを伝えて、クサビライシが食べ物を食べているタイムラプス動画をみんなで見ます。動画のなかで、2種類の食材をクサビライシの上に置いてみると、1つは口の方へ運び、1つは口の方から遠ざける様子が見られました。

 5名で1グループを作ってミッション2に取り組んでいきます。ワークシートには、とうふ・しらす・米つぶ・ゆで卵の白身・にんじん・じゃがいも・マグロ・イカ・タコ・エビ…など20種類の餌が書かれています。
 この20種類の餌から、クサビライシが好きそうなものを選び、実験してみます。先生は、「直感で選ぶのではなく、仮説をたてましょう。クサビライシが好きなのは何か、なぜその食べ物なのかを考えましょう。どんな仮説がありますか?」と子どもたちに質問します。子どもたちからは、「ゆで卵の白身。匂いも食感もいい感じだから」というふうに仮説がたてられていきます。

 先生が、研究員の考え方として、「1.仮説をたてる 2.実験する 3.実験結果を考察する」という順番で考えていくことを明確に子どもたちに伝えていました。実験をすること以前に、仮説をたてることの大事さが強調されています。子どもたちも20種類の餌を前に仮説をたてていきます。

 仮説をたてたら、先生たちが実験のための餌をクーラーボックスからもってきて実験の準備をします。

 世界初の実験なので、20種類の食材すべてをクサビライシが食べても大丈夫かどうかはまだわかっていないため、食べそうなところで餌はピンセットで回収していました。こういう「どうなるかわからない」ことを実験する体験はとても大切だと思います。

 どのグループがどの餌をあげたのかというデータを、スタッフはスマートフォンGoogleフォームで記録して共有していました。

 先生は「1回目の実験結果をもとに、次の仮説をたてよう」と言います。自分たちですべてを実験しなくても、他のグループがどんな餌をあげたのかは、Googleフォームを見ればわかります。他のグループがたてた仮説も考えて、自分たちで次にどの餌をあげてみるかを決めることもできます。こうした実験中の結果の共有は、次の実験の精度を上げることにも繋がります。
 この日以降も、同じ実験が日本科学未来館でも実施をされる予定になっていました。別の日に実験をする子どもたちは、この日の実験結果をデータとして見て、自分たちの仮説をたてることができるようになります。こうして結果が積み上げられていき、わかったことが増えていく、そうしたプロセス全体が「シチズンサイエンス」の経験になっていくと感じました。

 最後にワークシートに考察をします。自分たちで仮説をたてて行った実験の結果を真剣に考察している様子が印象的でした。

(為田)