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愛光中学・高等学校 授業レポート No.1(2023年9月28日)

 2023年9月28日に愛光中学・高等学校を訪問し、松下直樹 先生が担当する高校1年D組の地理総合の授業を参観させていただきました。

 授業の最初で松下先生は「最近、AIにはまってるんだけど」と言って、「ひげ 黒縁めがね」というキーワードでAIが作った自分そっくりのキャラクターに、自分で入力したセリフを読ませていました。話すセリフに合わせてキャラクターの口が動いて、生徒たちの目は画面に映る松下先生に似たキャラクターに釘付けです。松下先生と生徒たちは、「気持ち悪くて、何も内容が入ってこなかったでしょう?」と笑っていました。こうして最新のテクノロジーを示すことで、生徒たちは社会の動きを感じることができると思います。

 この日の授業のテーマは「シェール革命」です。教科書には「アメリカによるシェールガスシェールオイルの採掘量が増え、大きな影響を与えている」というふうに書かれています。
 今回の授業では「シェールは、アメリカや世界に何をもたらしたか?」という謎を解き明かしていきます。松下先生は、この謎を「ミステリー」*1と呼んで、14枚のカードをロイロノート・スクールで生徒たちに配布しました。
 14枚のカードには、「従来型の石油とシェールオイルの採掘のしくみ」「原油貿易の流れ」「世界の石油生産量」などの情報がヒントとして書かれています。このヒントを参考にしたり、解説を補足したりしながら、「シェールは、アメリカや世界に何をもたらしたか?」を解き明かしていきます。

 最初は1人で配布されたカードを読み込みます。その後で2人ペアで考える時間をとり、さらに4人グループで考える時間をとる、というふうに周囲の人と考えを交流しながら考えていきます。

 生徒たちは、まとめて配布された14枚のカードを一度バラバラにして、それぞれのカードに書かれている文章、地図や統計資料等の情報を読んで、「シェールは、アメリカや世界に何をもたらしたか?」というミステリーを解き明かすために、カードがどう繋がっていくのかを考えて、自由にカードの順番を並べ替えていきます。カードには、読みながら気づいたことや、クラスメイトと議論したいことなどを書き込んでいきます。
 生徒たちは、ロイロノート上でカードに書かれた情報を繋げて、ストーリーを自分の思う通りに考えていきます。自分でストーリーを考えていくときに、カードにある情報をどう読み、どう解釈するかは個人によって違うので、似たストーリーを考えていても、論理展開によって繋げる順番も変わります。

 松下先生は生徒たちが考える時間を十分にとりながら、「難しいと思っている人は、アメリカの視点で資料データを見てみるといいかもしれません」「前提として、石油、天然ガスシェールガスシェールオイル、この中に含まれていることを考えてね」というふうに、生徒たちのサポートになる言葉をかけていきます。

 個人で考える時間が終わった後は2人ペアになって、一人でカードを読み込んで気づいたことやたてた仮説を伝えてフィードバックをし合います。
 松下先生は、「”こういう話なんじゃないの?”というのを話し合ってください。補足資料が欲しい人、検索もWelcomeです。どんどん検索してください」と言います。お互いの仮説を交流して、情報を自分たちで調べて補足して、また仮説をたてていきます。
 どうしても繋げられないカードがあるときには、「つながらなかったカードは、浮かせておいていいよ。次の時間にフォローアップします」と松下先生。いきなり全部のカードを正しい順番に並べられなくてもよい、というマインドを育てていく気がします。

 2人ペアで話す時間が終わった後、一度クラス全体でストーリーを考えます。最初に松下先生が「登場する国は?」と質問すると、生徒たちから、中国、ロシア、中東諸国、欧州…と国の名前が挙がっていました。「ロシア」の名前が挙がったときには、松下先生は「ロシアは資料の中に文言としては入っていなかったので、よく気づけていますね」と評価していました。書かれている情報を読むだけでなくて、書かれていないことを推測することの意義を松下先生は伝えていたと思います。
 登場する国について考えを共有した後で、松下先生がこの後の展開について質問すると、「アメリカでシェールが見つかって、たくさんあるんで、輸出国に変化している」「原油は生産が増えているけど、そんなに輸出してない」というように、生徒たちは自分たちで考えたストーリーを発表していきます。松下先生は、その都度、生徒たちが考えたストーリーに関連する情報が書かれているカードを提示しながら補足説明をしていきます。

 全体で前提やストーリーを共有してから、4人グループで話し合う時間となります。それぞれのグループで、自分が繋げたストーリーを伝え合い、「それって、こういうことなんじゃない?」「このグラフを見ると…」というふうに、情報を繋げていく話し合いが行われていきます。その間、松下先生が教室を回って、どんどん問いを投げかけていきます。

 途中で、松下先生は全体で理解を共有する機会もとっていきます。教室全体で「石油の供給が増えていくと、価格はどうなっていくかな?」「アメリカはシェール関連事業を拡大しようとしたが、採掘のコストはどちらがかかるか?」というような問いを生徒たちに投げかけていきます。
 生徒たちは、松下先生から正解を与えられるのではなく、問いのたて方と考え方を受け取っていきます。松下先生の問いを聞いた瞬間に教室の中で何人かが「あー」と気づきの声をあげていることもありました。

 授業の最後に、「できたところまででいいので、グループで月曜までに提出しておいてください。議論できていないところは続けてもらって大丈夫です。月曜日の授業で補足します」と松下先生が言って、この日の授業は終了しました。

 松下先生が作っている授業の、グループでの協働学習と教室全体で行う情報共有のバランスがとてもいいなと思いました。
 教科書に書いてあること全部を知識として教えてしまうのではなく、「シェールは、アメリカや世界に何をもたらしたか?」というミステリーを解き明かすために、どんな情報があって、その情報をどう繋げたらストーリーになるのかを、生徒たちがみんな自分たちなりに考えて、伝え合っている授業だったと思います。

 No.2に続きます。
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(為田)

*1:ミステリーについては、こちらのページが参考になると思います。