教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

関西学院初等部 授業レポート No.1(2023年11月8日)

 2023年11月8日に関西学院初等部を訪問し、宗實直樹 先生が担当する4年B組の社会の授業を参観させていただきました。宗實先生の社会の授業を見せていただくのはこれで2回目ですが、前に見せていただいた授業に続いて、今回も宗實先生からの「これ、なんでしょう?」という問いかけで授業が始まりました。
 宗實先生はプロジェクタに色が塗り分けられた日本地図を映して、「これは、何の地図でしょう?」と子どもたちに問いかけます。子どもたちはいろいろな理由を考えていました。「いま地震の勉強しているから、自然災害が多いところ?」と言う子に、宗實先生は「そういうふうに文脈を考えるのはいいね」と言います。たくさんの仮説が子どもたちから出た後で、宗實先生が「これは当たらないと思うよ」と言っても、子どもたちは「考えたい!」と自分たちでどんどん答えを言っていきます。
 子どもたちが興味を持てる問いを先生が発して、子どもたちは自分たちなりに考えたことを発信して、それに先生が応える、というサイクルができています。また、子どもたちのいろいろな発信に、宗實先生が「それ、おもろいなー!」と笑顔を見せるのも、子どもたちにとって問いを考えることを楽しくさせていると感じます。

 しばらくやりとりが続いた後、一人の子が「行ったことがある場所?」と言うと、宗實先生は「あたり!すごい!」と笑って、クラスは大きく盛り上がります。
 各県を「住んだ」「泊まった」「歩いた」「降り立った」「通過した」に分けて色を塗り分けていることを説明します。「行ってない」ところは白色になっている、と地図の色の意味を説明します*1

 次に宗實先生は、「この地図で色が塗られている、先生が行ったことがある場所で撮った写真を見せるので、これがどこかを当ててください」と言って写真を見せました。子どもたちは「お墓?」「屋根がある!」と気づいて、そこからたくさんの仮説を考えて先生に伝えます。

 しばらくやりとりをした後で、もう1枚違う写真を宗實先生は見せました。今度はシェルターのような建物の写真です。子どもたちから「北海道?雪がふるから」「広島?戦争があったから」という声があがります。

 宗實先生から子どもたちに伝えられた正解は、鹿児島県でした。子どもたちから「桜島や!」と声があがります。宗實先生が「なんでわかるのかを考えて」と問いを投げかけます。正解がわかることで終了してしまったらただのクイズになってしまいますが、その後にどうして鹿児島だと考えられるのか、どういうところを見て考えればいいのか、あるいは子どもたちがすでに知っている情報と写真を結びつけることができるのかを説明することで、社会的な見方を子どもたちが学べるように思いました。
 一人の子が「熊本に行ったときに似たものがあった。阿蘇山が噴火していて」と自分が旅行で行った経験を話してくれました。クラスの子どもが話してくれた経験を、宗實先生が授業内容と結びつけて、クラス全体に共有しながら授業が進んでいきます。

 阿蘇山桜島の話が出てきたところから、宗實先生が「火山にはメリットってあるの?」と質問します。一人の子が「温泉とか」と言い、宗實先生が「どうしてそう思うの?」と問いを重ねます。すると、「熊本の小学校と交流したときに、“兵庫県には火山がないのにどうして温泉があるのですか?”と質問してくれてた」と言います。宗實先生は「そういうのを覚えているのは、とてもいいね」と言います。他にも、地熱発電などができることなどもメリットとしてあがってきました。

 宗實先生は、「逆に、日々の暮らしでどんなデメリットがあるだろう」と話を続けて、鹿児島の天気予報の画像をプロジェクタで映して、鹿児島では煙の予報が出ていることを伝えます。さらに、季節が違う2枚の煙の予報の図を見せて、季節によって煙が流れる方向が違うことを伝えます。驚いている子どもたちに、宗實先生は「2枚の図のどっちが夏で、どっちが冬だろう?どうして煙が流れる方向が違うの?」と質問すると、子どもたちからは「風!冬の方が風が強い」と声があがります。

 宗實先生は、「これ、5年生で勉強する“季節風”なんだけど、調べていいよ」と言うと、子どもたちは自分のiPadで検索をして調べていきます。「あ、ほんまや。出てきた」と子どもたちは言い、近くの人に表示された情報を見せたり、説明をしたりしています。教室全体で「なんでだろう?」という問いを共有することで、知らないことを調べて考えることが楽しくなる活動になっていると感じました。

 「自分で季節風について調べてみて、意味が書ける?意味が分からない人は助け合って、学び合って」と宗實先生が言うと、ノートにまとめを書いていきます。ただサイトを読むだけでなく、そこでわかったことをまとめる作業も行います。

 「季節風は、兵庫県について勉強しているときにも出てきたよ。大陸から風が吹いてくるけど山を越えてくるときに雪を降らせるから、兵庫には乾燥した風が吹くからマッチづくりに適している、というのをやったね」と宗實先生は言って、これまでの学習との結びつけもしていました。こうしていろいろな観点から学んでいくことが大事だと思います。

 鹿児島で灰が降ることがわかったところで、次は、どれくらい灰が降るのか、どれくらい大変なのかを宗實先生が紹介していきます。先生が話している内容からキーワードをどんどん見つけて、子どもたちは自分でiPadで検索していきます。例えば、宗實先生が灰で埋まってしまった神社の鳥居の写真をプロジェクタに映したら、すぐに自分で画像検索をして、たくさんの写真を見ている子もいました。自分の端末で自由に検索をしていい、というときにはここまで行きたいものだと思いました。

 次に宗實先生は、鹿児島に住んでいる友達から送ってもらったという火山灰を子どもたちに見せて回ります。子どもたちは実際に火山灰を目で見て、匂いを嗅いでいる子もいました。リアルの感覚も大切です。休み時間には触っている子もいました。

 火山灰が入っている黄色い袋には「克灰袋(こくはいぶくろ)」と大きく書かれています。「“克”って、何の字?」と宗實先生が質問すると、「克服とか!」と子どもたちが返します。克の字が、「力を尽くして相手に打ち勝つ。かつ」という意味をもっていることを伝えます。
 宗實先生は「火山灰、捨ててるんだよ。専用の灰捨て場があるんだよ」と言い、鹿児島では、ごみ回収日のカレンダーに、灰を捨てる日が書かれていることも紹介します。

 宗實先生の話を聞きながら、子どもたちは「鹿児島 火山灰 どこに」などキーワードを組み合わせて検索していき、火山灰がいろいろな形で再利用されているということや、火山灰で困っていることなどもどんどん自分で調べていきます。
 あまりに調べることに一生懸命になりすぎてしまうと、各自がバラバラになってしまうので、クラス全体で向かう方向性を調整するときには、宗實先生が「1回 iPadを置いてこっちを向いてください」と言って問いに注目させて共有します。こうして完全にすべてを子どもたちの自由にするのではなく、自由に調べるところと、問いを共有するための全体への声かけとをバランス良くしていく授業の形がとてもいいと感じました。

 宗實先生が「なぜ、克灰袋に入れるんだろう?ごみの日に集められた克灰袋はどこに行くんだろう?予想を言ってみて」と問いかけます。子どもたちは「ごみを利用してリユースする。火山灰アイスとかあった」「灰もごみみたいに処理する場所がありそう」「“火山灰 ハイ!どうぞ”とか、“火山灰粘土”とか、再利用しているものがある」と子どもたちは自分で調べたことをたくさん伝えてくれていました。

 Google Earthを使って、火山灰を集めている処理場を見てみます。Google Earthは全員のiPadにインストールされているわけではないので、インストールしていない子は、見せてもらっていました。

 「克灰袋は、袋ごと捨てるんだよ」と宗實先生が言うと、子どもたちはSDGsの観点から、自然に還るのかを気にしていました。宗實先生は子どもたちのその疑問を想定してあって、事前に調べておいたそうで、「先生が調べてみたら、これは自然に還らないから、残るんだって。でも克灰袋を使うのには、灰がすごく重い・自然に戻るものだと長期保管に耐えられない・お金がかかる、という3つの理由があるんだって」と言います。

 このときに、「克灰袋は自然に還らないからよくないのではないか?」ということだけでなく、何人かの子が「開発するのに時間もお金もかかる」と、処理する側の立場についても考えて発言していました。こうして多角的に物事を観ることを普段からしているのはいいと思います。いろいろな見方をする子が教室の中で一緒に学んでいるからこその良さだと思います。

 でも、自然に戻らない袋を使うのも困るので、どうしたらいいかを考えて、ロイロノート・スクールで提出してもらうことにしました。宗實先生は、「みんなが考えたアイデア、鹿児島にいる(克灰袋を送ってくれた)友達に送るわ」と言ってました。

 鹿児島に住む人の生活と、社会科で学んだ季節風や、ごみの回収やSDGsという学校で学んだことを結びつけてあることで、授業と実世界が繋がる社会科だなと感じました。

 No.2に続きます。
blog.ict-in-education.jp


(為田)

*1:「経県値」というサイトで簡単に作ることができます。