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書籍ご紹介:『人口戦略法案 人口減少を止める方策はあるのか』

 山崎史郎さんの小説『人口戦略法案 人口減少を止める方策はあるのか』を読みました。現代の日本で(新型コロナウイルスの影響なども描かれている)、人口減少を食い止めるために「人口戦略法案」を立案していく小説です。

 著者の山崎さんは、2000年の介護保険制度の成立、実施、改正すべてに携わったことから「ミスター介護保険」と呼ばれる方だそうです。山崎さんの豊富な政策現場の経験をベースに、人口急減の危機の現実をさまざまな資料や政策、他国の政策との比較などを、小説の形式で次々に提示してくれます。こんなにいろいろな問題が絡み合っているのだ、ということがわかります。
 また、介護保険の政策立案に関わってきた方だからこそ描ける、政権内部でどのように政策が立案され、議論され、実現していくのかというストーリーもとてもおもしろかったです。

 小説形式とはいえ、500ページを超えるボリュームで、さらにさまざまな資料が提示されるので、半ばレポートを読んでいるような気持ちにもなりますが、現状への危機感が伝わります。

 特に、終盤の国会論戦での佐野内閣総理大臣の答弁内で、人口減少によって起こる問題のなかでも、世代間対立こそが重要な問題になるのだ、というところ、そのとおりだなと感じました。

そうした若者たちの不満を、民主主義システムが汲み上げ、それを政治的に修復することが可能ならば、救いがあります。しかし、もし政治において、今後ともマジョリティを占める高齢者世代が、従来通り高齢者の利益を優先する社会システムを維持しようとするならば、若年世代は激しいフラストレーションを感じるでしょう。
そして、そうした世代間対立によって、日本社会は引き裂かれていくのではないか、と私は心配しています。さらにこの間隙に乗じて、その対立を煽るようなポピュリズムが台頭してくる恐れもあります。そうすれば、民主主義システム自体が危機を迎える可能性すらあるのです。
こうした危険性は、何も日本に限ったことではありません。世界各国で高齢化と人口減少が始まると、将来に対する不安要素が悪循環を生む危険性があり、特に若い世代が自国の政策が人口の多い高齢世代の要求中心に決まっていくのを目にする場合、その危険性は高まる、と専門家は指摘しています。
生産性の向上を図り、成長を目指すことは重要です。しかし、生産性の向上は、全体のパイは増やしても、人と人、世代と世代の連帯を強めるものではありません。つまり、成長を目指すだけでは、世代間の対立は防げないということです。(p.500-501)

 最後の、「生産性の向上は、全体のパイは増やしても、人と人、世代と世代の連帯を強めるものではありません。つまり、成長を目指すだけでは、世代間の対立は防げない」というところ、DXを進めたり、働き方改革を進めたりするだけでは問題は解決しないということだと思います。いかに世代間の対立を防ぐか。

 それと、答弁の最後に佐野首相が言う言葉。ちょっとエモーショナル過ぎる気はするけれど、いい言葉だ、と思いました。

最後に、私が国民の皆様にお伝えしたいのは、将来世代は、私たちが何を為すのかを見つめている、ということです。この将来世代とは、今はまだこの世に生をうけていない日本人も含めてです。
万が一、私たちが懸命に取り組んだにもかかわらず、人口減少は止まらず、十分な成果を上げることができなかった、と仮定しましょう。そのような厳しい結果でも、何もしないよりははるかに価値がある、と私は思っています。(p.505)

 ここの「将来世代は、私たちが何を為すのかを見つめている」というところ、教育関連の問題もまったく同じではないかと思いました。
 僕らがいましていることは、将来世代に見つめられていると思って仕事をしなければならない、と思わされました。

 政治家や官僚の皆さんをはじめ政策立案に関わる仕事をしている皆さんは、どんな感想をもつのか聴いてみたいと思いました。

(為田)