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書籍ご紹介:『地理学で読み解く流通と消費 コンビニはなぜ集中出店するのか』

 土屋純さんの『地理学で読み解く流通と消費 コンビニはなぜ集中出店するのか』を読みました。地理総合の授業を見るときの視点を増やせるかな、と手に取ったのですが、期待していた以上におもしろかったです。

 サブタイトルには「コンビニはなぜ集中出店するのか」とありますが、それだけでなく、幅広くさまざまなテーマが扱われています。本の最初に書かれている文章にワクワクしました。

地理学の観点から、コンビニやユニクロ、イケアの出店戦略や販売手法が分析できるといったら驚かれるでしょうか。これらの流通企業は、多くの消費者を引きつけるために日々新商品を開発し、事業を革新させています。そうした流通企業の成長は、私たちの消費生活を時代とともに変化させてきました。実は、こうした流通や消費の変化は、日本の地理的環境や変化に影響を受けたものなのです。例えば、1990年代に日本の地方都市が大きく郊外化すると、ユニクロが急成長しました。つまり、日本の地理の変化に注目することで、様々な流通や消費の実態がみえてくるのです。
一般的に地理は、遠い世界、例えば、ヨーロッパやアフリカなどの世界の様子を学ぶもの、と思われている方が多いでしょう。中学校や高校の地理では、世界だけでなく日本も学びますが、授業では九州地方、四国地方……、最後に北海道地方、というように、地方ごとに自然や人間社会の有様を扱います。このように中学校や高校の地理では、自分やその周辺から離れ、世界や日本を大きく地域区分した上で、地理的知識を体系的に学んでいきます。しかし本書では、このようなアプローチを採用しません。身近な存在である流通や消費をテーマとして、地理的状況との関わりを解説していきます。(p.3)

 目次を見ても、いろいろなテーマが扱われていることがわかります。

  • 第1章 日本地理の特徴と流通・消費との関係
  • 第2章 3大都市圏の郊外市場はいかにして形成されたのか ――人口移動と地域市場①
  • 第3章 東京の都心回帰がもたらす流通・消費の変化 ――人口移動と地域市場②
  • 第4章 「中心地理論」で読み解く流通・消費 ――都市階層と買い物空間①
  • 第5章 地方都市の百貨店や商店街はなぜ衰退したのか ――都市階層と買い物空間②
  • 第6章 県外に影響を及ぼす最上位の地方都市 ――都市階層と買い物空間③
  • 第7章 「ショップ」で読み解く東京の都市構造 ――都市階層と買い物空間④
  • 第8章 モータリゼーションが変えた流通・消費 ――国土空間の圧縮と流通革新①
  • 第9章 コンビニの出店戦略からみる流通 ――国土空間の圧縮と流通革新②
  • 第10章 急成長するネット通販と情報化 ――国土空間の圧縮と流通革新③
  • 第11章 「買い物弱者」はいかにして生まれたのか ――高齢化社会と流通・消費①
  • 第12章 買い物弱者を支配する流通とは ――高齢化社会と流通・消費②
  • 第13章 スーパーやコンビニの品揃えはどのように決まるのか ――地域性の消失・再構築①
  • 第14章 なぜロードサイドや商店街は同じ風景になるのか? ――地域性の消失・再構築②
  • 第15章 災害時に流通はどうなるのか ――持続可能な社会と流通・消費①
  • 第16章 人口減少時代に流通は維持できるのか ――持続可能な社会と流通・消費②
  • 第17章 人が集まる小さな中心地の作り方 ――持続可能な社会と流通・消費③

 いろいろとおもしろい内容も含まれていました。紹介されていたイオンの出店計画の戦略も本当におもしろかったです。

1990年代中頃よりイオングループでは「キツネやタヌキが出るところに出店せよ」という戦略が共有されるようになり、全国各地にショッピングセンターを出店していきました。(p.141)

 イオンモールがどんな分布で出店しているかなども、Googleマップで道路や地形と重ね合わせて見たりすると気づきがあるかもしれません。関東地方でやると、「やっぱり国道16号線ってすごいな」と思ったり。

 第11章の「買い物弱者」のところで出てきた「フードデザート」という言葉は全然知りませんでした。地理学でもあり、社会学でもあり、こういったテーマを社会の授業で紹介できたらおもしろいかな、と思いました。

フードデザートとは、健康的な食生活を送るために必要な食材の購入や食事(生鮮食料品など)が困難となり、そのために健康が悪化している人々が多い地域(あるいはコミュニティ)および状態のことをいいます。また、ソーシャル・キャピタル社会関係資本、社会的なつながりとそこから生まれる規範や信頼関係のこと)が薄いために生活意欲が減退し、食生活の悪化を招いている人々の問題も含まれます。フードデザート問題は、様々な問題が関わっていることから、栄養学、社会学、地理学など、様々な分野の研究者が関わる学際的なテーマです。
(略)
日本のフードデザート問題は、高齢者問題の一つとして考えられています。地方圏を中心に、車を運転しない、運転できない高齢者は買い物弱者になりやすく、十分な食材を購入できない人々がふえているのです。また、高齢者の中でも、貧富の差が拡大しており、孤立して貧困状態に置かれた高齢者が食生活の悪化に陥りやすいのです。特に、ひとり暮らしの高齢者に顕著にみられます。すなわち、フードデザートの発生は、(略)大都市圏では孤立や貧困などの社会的要因が強く、地方圏、そして国土の縁辺部では、買い物先の消失、公共交通機関の減少などの空間的要因が大きくなっています。(p.188-189)

 参考文献に挙げられていた『フードデザート問題 無縁社会が生む「食の砂漠」』は、10年前の本でした。読んでみたいと思います。

 「流通」と「消費」を考えると、ほとんどの人の生活に関わることだと思うので、中学校の社会の授業や高校の地理の授業におもしろく組み入れられる先生がたくさんいるのではないかと思います。そんな授業も見たいですね。

(為田)