教育ICTリサーチ ブログ

ICTを教育にどう活用できるか、現場目線でリサーチします。

JAPET&CEC海外調査部会 オーストラリア視察研修報告3「自分らしく輝く子供を育てる~Ashmore State School~」

 6月5日には、ゴールドコースト近郊の公立小学校Ashmore State Schoolを訪問しました。
 この学校はゴールドコーストの中でも富裕層の多い地域にあります。もともとはそこまで学力の高い学校ではなかったようですが、前校長が就任してから様々な改革を行い、現在では地域内でもトップクラスの学力を誇る学校になっているそうです。
 第3回となる今回は、このAshmore State Schoolの取り組みについてご紹介させていただきます。

ルーブリックとポートフォリオで個人の課題を可視化 ~year4合同クラス~

 最初に見学させていただいたクラスでは、4年生の2クラスが合同で学習していました。テーマは、「ゴールドコーストの海岸の環境を守るためのアクションプランの策定」です。
 前日に訪問したHilliard State Schoolでは、紙のワークシートやノートはそこまで使っていませんでしたが、この授業ではかなりびっしりと紙のワークシートを使って書き込みがされています。
f:id:ict_in_education:20180905212700j:plain

 児童の机の上には、学習到達度を示す評価基準が示されたルーブリックが置かれており、児童はこれを見ながら自分の今の状態と、よりよい評価を得るために何をすべきかを確認しながら学習しています。こうすることで、教師から下された評価と児童の認識のずれをなくすことを意図しているそうです。
f:id:ict_in_education:20180905213135j:plain

 加えて、児童の机の上には「ASK Me… What am I learning? Why is it important? How is it going? Where to next?」と書かれたカードが置かれています。このカードを見ながら学習の目的を意識化し、客観的に振り返るための足場となっています。
f:id:ict_in_education:20180905213208j:plain

 また、この学校では、Seasawというアプリを使って、学習の記録をデジタルポートフォリオ化し、それを評価に活用しています。例えば学習の区切りごとに、成果物や学習の感想を写真や動画で撮影して先生に送ります。先生はそれを見て一人ひとりの児童の学習の様子を把握し、個々の児童にあった改善計画を立てていきます。以前は紙のポートフォリオを使っていたようですが、デジタル化することで動画や音声を記録として残したり、コメントをつけて返したりといった、よりインタラクティブなやり取りが可能になりました。動画や音声をポートフォリオ化できるようになったことで、書くことが苦手な児童でも質の高い記録を残すことができるようになったそうです。
f:id:ict_in_education:20180905213254j:plain

 ちなみにこのSeasawというアプリ、無料でアカウントを作って利用できるので、興味のある方は試してみてください。日本語には未対応ですが、操作はそれほど難しくないので日本の学校でも十分使えると思います。

個人の進度に応じた課題に取り組む~year3:Writing~

 続いて見学させていただいたのは3年生のクラスです。こちらでは英語の作文の授業が行われていました。

 まず教室で各々ノートを使って作文をします。その後、できたグループから廊下(というより屋外)に出て、iPadを使って自分たちが作った文章を音読し、その様子を相方(バディ)の子に動画で撮影してもらいます。
 撮影した動画は、前述のSeasawを使って先生に送られ、ポートフォリオとして蓄積されます。
 先生はそれを見て個々の児童の学習の様子を把握し、個に応じたアドバイスを送るのです。
 お話を伺った先生は「授業中にすべての児童に付き添うことはできないけど、後から見直すことで、全員に適切なフォローができる」とおっしゃっていました。
f:id:ict_in_education:20180905213338j:plain

 このクラスには、一部全く別の活動をしているグループもありました。このグループでは、週末に課外活動で作るサンドイッチの作り方を調べてPCを使ってまとめています。
f:id:ict_in_education:20180905213406j:plain

 先生のお話ではこちらはやや進度が遅いグループで、内容的には1年生程度ということでした。中には、紙に手で書くことは苦手でもPCを使うととてもよい文章を書く児童もいるそうで、そういった場合にはどんどんPCを使わせているそうです。
 こういった、その子の特性に応じて使いやすいものを使わせるという考えが浸透しているところはとても素晴らしいと思います。

粘土を使ってゲームのコントローラーを作る~year6:Digital Technologies~

 続いて見学したのは6年生の「Digital Technologies」の授業です。この授業ではMakey Makeyを使った授業が行われていました。Makey Makeyとは、ミノムシクリップなどを使って「果物」や「アルミホイル」などの導体(電気を通すもの)をつなぐと、つないだものをキーボードの特定のキーの代わりにすることができるインターフェースボードです。
 今回見学したクラスでは、このMakey Makeyを使って、「Digital Technologies」と理科の学習を絡めた授業が行われていました。

 先生による演示と説明の後、一斉にコントローラー作りに取り掛かります。身の回りにあるもので電気を通すものは何か考え(この部分に理科の学習が生かされます)、それを使ってコントローラーを作ります。
f:id:ict_in_education:20180905213707j:plain

 その後、そのコントローラーとMakey Makeyをつなぎ、Scratchで作られたゲームやピアノなどを操作します。
f:id:ict_in_education:20180905213756j:plain

 児童が使ったScratchのプログラムは、児童自身が作ったものではありません。Mekey Makey用に公開されたものがいくつかあり、どうやらそこから選んで使用しているようです。そういう意味ではプログラミングというよりは理科の学習や、回路設計の方に重点が置かれているのかもしれません。

 ちなみに、児童が導体として選んだものの例としては「粘土(先生に伺ったところ電気を通す特殊な粘土のようです)」「アルミホイル」「鉛筆で書いた線」などが上がっていました。もちろん、単に電気を通すか通さないかを調べるという観点から見ると豆電球を使った方がずっと簡単でやりやすいと思うのですが、こういった「ゲームのコントローラーを作る」という課題の中で扱うことで、児童の意欲や記憶の残り方も全く違ったものになるのではないでしょうか。

Excelを使ってプログラミングの素地を学ぶ~Prepクラス:ICT~

 最後にご紹介させていただくのは、入学準備学級(Prep)で行われていたICTの授業です。全国統一カリキュラム(Australian Curriculum)では、

  • ICTスキル:テクノロジーを活用する能力を育てる
  • デジタルテクノロジー:デジタルソリューションを作るために必要な能力を育てる

 とされており、この授業は「ICTスキル」を育てるための授業、という位置づけになります。
 実際に行われていたのはエクセルを使ったビンゴです。あらかじめ児童は教師から配られたファイルの5×5のマス目の中から3つを好きに選んで色を付けます。
 その後先生が例えば「Bの4」などとセルの場所を指定します。児童は指定されたセルまで矢印キーを使ってカーソルを移動し、指定されたセルに「X」の文字を入力します。
 最初に塗った3か所すべてにXが入るとビンゴとなります。
f:id:ict_in_education:20180905214010j:plain

 矢印キーを使って移動する、というところがポイントで、今いるセルから上下左右に何回キーを押せば目的のセルにたどり着けるかを考えながら活動します。そうすることで、プログラミングの入門として扱われることが多い迷路抜けゲームなどの活動の素地になっているそうです。
 また、それと同時に、先生に指定されたセルを見つける活動は座標の概念の素地にもなります。一見何でもない活動ですが、Prepの段階からそういった細かい積み重ねをしていくことで入学後の学習が円滑に進められるように配慮されています。

きめ細かい評価とフィードバック

 Ashmore State SchoolではまだBYODは実施されていません。
 各教室に入っているデバイスもその都度買い足してきたため、教室によってバラバラで、先生が操作の違いに戸惑うこともあるそうです。
 ICTの先進校である点では同じですが、前日に見たHilliard State Schoolではまるでアプリや教材の見本市のようにありとあらゆるものが準備されていたのと比べると、Ashmore State Schoolはより必要性の高いものを厳選して使っているイメージです。
 しかし、それだけにかえって綿密に練られたカリキュラムと決め細かい評価・フィードバックの仕組みに凄みを感じます。
 この学校では、先生方が集まって教科ごとに単元計画を立てた後、カリキュラムのヘッドである副校長先生がその計画をチェックして改善点を指摘します。
 日本で言うところの教科書がないので、どこで何をどんな教材を使ってやるのか、またどうやって評価するのかも全て先生方が自分で考える必要があります。
 それはとても大変だそうで、お話を伺った日本語の先生(Ashmore State Schoolでは第二外国語として日本語を教えています)は、「クイーンズランド州が用意している教材もあるが、あまり使い勝手がよくないのでYouTubeで探してきた日本の幼児向け動画を使っている」とおっしゃっていました。
 また、週に1回のティーチャーラウンジで教科の内容やICTの活用についての研修会などが行われるほか、ICTやSTEMのコミュニティーがあり、そこで情報交換をしながら日々情報をアップデートしています。
 そういった細かい積み重ねによって日々先生方自身も学び続けているのです。

 Ashmore State Schoolのスクールモットーは「Proud to Shine」。
 それぞれの子供たちがそれぞれの輝きを発揮できるように。先生方の努力と情熱が、この学校と子供たちの未来を支えています。

 第4回に続きます。
blog.ict-in-education.jp


(東京書籍:清遠)