教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

渋谷タブレットの日 レポート(2019年11月8日)

 2019年11月8日は、渋谷タブレットの日ということで、渋谷区内の全小中学校で、タブレットを活用した授業が公開されていました。渋谷区では、2017年9月から全小中学校で一人1台のタブレット端末が配備されており、そこでどんな授業が行われているのかに興味があったので、見学に行ってきました。

渋谷区立千駄谷小学校での授業見学

 午前中、渋谷区千駄谷小学校で授業を見学させてもらいました。できるだけたくさんの授業を見るために、授業全体の流れを追うというよりは、いろいろなところで気になったポイントをメモとして公開したいと思います。
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  • タブレットを使って工業製品を分類する社会「工業生産と工業地域」(5年生)
    • 先生からの「分類は迷ってもいいよ」という声かけ。何度も簡単にやり直しができるのが、ICTの良さ。せっかく一人1台でやっているのだから、こうしてどんどん自分の思考を整理し直したり、何度も試行錯誤をする場面が増えるといい。
    • 一人1台持っているからこそ、一人ずつの分類が全然違うというようなことが起きてもいいと思う。そうした活動にあった単元などが学校での実践として蓄積していけばいい。
    • 最後に感想を入力していた。キーボードでローマ字入力している児童も、ペンで手書き入力パッドを使っている児童も、どちらもいました。
    • 千駄谷小学校学習リンク集が用意されていて、授業アンケートや検索エンジンなどをどんどん使えるようになっている。
  • スリーヒントクイズ大会をする外国語活動(3年生)
    • PowerPointで写真をトリミングして、一部だけが見えるようにする。その状態でスライドを表示して、それが何かを当てるクイズ。ヒントを少しずつ与えていく。
    • 「おもしろいのやりたい!」とプレゼンに立候補する児童がたくさん。
  • 地図をみんなで見て方向を表す表現に慣れ親しむ英語活動(2年生)
    • コラボノートに地図を表示して「Go Straight」「Turn Right」などの表現を使って、目的地へ行けるように、というアクティビティ。
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  • 小学校の思い出をふりかえる(6年生)
    • 先生の卒業文集の作文のページを写真で投影して、先生が自分で読み上げる。それを聞きながら、児童はWordの方眼紙に入力をしていく。こうして12月の終わりまでかけて、卒業文集の作文を書くよ、ということを先生は紹介する。
    • 先生が書いた作文を提示してくれるのは、子どもたちのモチベーションを上げるのに効果的なように感じた。

 率直な感想としては、先生方が教材などを提示したりする部分としては、どの学年も使っている感じがして、教科教育や単元の特性と重なり合っていけば、いろいろなことがさらにできるようになっていくのではないかと感じました。
 一方で、一人1台持っているからこその、思考や表現の手段としてタブレットを活用する、ということに関しては、まだあまり進んでいないように思いました。卒業文集の作文(6年生・国語)や自分なりの分類作業(5年生・社会)のような使い方が、児童の思考や表現の試行錯誤をするマインドセットを育ててくれたり、PDCAを素早く回していく姿勢を育ててくれるように授業の中に取り入れていければ、ICTを思考と表現のためのツールとして使っていける児童が育っていくように思いました。

研究発表会

 午後、渋谷区立上原中学校にて、研究発表会に参加してきました。ここで配布された資料のなかに、「渋谷のICT機器を活用した教育」という資料があって、そこに、授業におけるICT機器活用の目的がまとめられていました。

  1. 課題の提示
    プロジェクターで本時の学習問題を提示したり、ねらいを示したりするなどして、クラス全体で「何を学習するのか」を共有する際に有効である。
  2. 動機付け
    学習課題に関連のある映像やデータ、資料等をプロジェクターやタブレット端末に映し出すことで、児童・生徒への興味・関心や、学習への動機付けを高めることができる。
  3. 説明資料
    教師はタブレットやプロジェクターに資料等を提示して、児童・生徒の見る場所の焦点化を図ったり、考える視点の明確化を図ったりしながら解説することで、分かりやすく説明できる。児童・生徒は、タブレット端末を活用して、自分の考えなどを分かりやすく説明・表現することができる。
  4. 反復を通した知識やスキル等の定着
    スタディサプリ等の教材を活用して反復学習を行うことで、学習内容の定着を図ることができる。また、個々の学習状況や習熟の程度に応じた問題の配信や動画(講義)を通した家庭学習を行うことで、授業の予習・復習や各自の課題の克服につなげることができる。
  5. モデルの提示
    モデルとなる映像を提示することを通して、児童・生徒にイメージをもたせることができる。また、何度も繰り返して動きを確認することで自分の動きとの違いに気付いたり、細かな動きを発見したりすることができる。個々のタブレット端末の活用で、自分のペースに合わせて学習を進めることもできる。
  6. 実験や体験等の記録による想起
    静止画や動画として残すことで、色や音、変容の要素を必要に応じて見直すことができるとともに、新たな発見に繋げたり、考察に深まりをもたせたりすることができる。その瞬間を見逃してしまった、見えなかったということを防ぐことができる。また、実験中の児童・生徒の「つぶやき」を録音する(拾う)こともできる。
  7. 比較
    複数のグラフや図、写真等を比較することで違いを発見させたり、移り変わりを考えさせたりすることができる。紙媒体に比べ、視覚的に見せることができることから、違いなどを理解させやすい。
  8. 振り返り
    作品の提示、録画・録音をすることで、学習の内容を振り返ることができる。児童・生徒は客観的に自分たちの制作物や演奏、演示等を見る・聞くことができるため、個人・全体で振り返り、工夫や変容等を共有することができる。

 この8つの目的には、「学習者(児童生徒)が活用する」という視点での目的はあまり書かれていないように感じました。先生がどのように使うのか/使えるのか、という視点がメインになっているので、ここが今後、渋谷区モデルでのICT活用でだんだん学習者(児童生徒)中心になっていくといいな、と感じました。

 このレポートを、千駄谷小学校の鍋谷正尉 先生に読んでいただいて、コメントもいただきました。以下、鍋谷先生のコメントです。

 渋谷区の教員は積極的に使っています。教科の中でICT活用の具体的な効果を見出していくことは、日々の教材研究に新しい視野を開きつつあるように感じます。今回の授業公開は、児童の実態や教員のこれまでの経験に基づく授業づくりに、社会や時代の必然的な要請を活かす視点が加わりつつある、過渡期の姿です。
 現段階では、教員によるICTの特性を生かした活用を起点として児童の活用がなされ始めている段階。今後は児童が思考や表現の手段として活用することを基盤として、学習者中心の活動を目指して教員が授業観を変えていく段階。その先に、新しい時代の授業の展開がなされる段階を目指していきます。

 渋谷区の未来像として、「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」というのがあるそうですが、この未来像を実現するために、ぜひICTを学習者の思考ツール、表現ツール、そして繋がっていくためのツールとしてどんどん活用してほしいと思いました。DeNAサイバーエージェントGMOmixiなどがプログラミング教育を支援してくれていますが、まさにこれらの企業の働き方などは、渋谷に学ぶ子どもたちの学び方と相通ずる部分も多いのではないかと思います。
 渋谷区の実践は、注目を集めていますし、今後も注目していきたいと思っています。

(為田)