教育ICTリサーチ ブログ

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東京学芸大学附属小金井小学校 授業レポート(2017年5月11日)

 2017年5月11日に、東京学芸大学附属小金井小学校の守屋先生の図画工作の授業を見学させていただきました。見学させていただいたのは、4年生の3・4時間目の授業で、「本からとび出したお気に入りの場面」というテーマで、紙粘土と本型の段ボールを使って立体的な場面を制作するという授業でした。

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図書室にある本(マンガ以外)の1シーンを作り、図書室前で展示もするので、図書室にある本を読んでどこのシーンを作るか考えさせたり、観た人にどう感じてほしいかも考えて制作します。図書室と連携している点もいいですね。


授業での活動目的に沿って、無理なくICTを活用されていた

 昨今、ICTを活用した授業実践事例で紹介されるものはタブレットを活用した授業が多いですが、1人1台分導入している学校はまだまだ少なく、1クラス分の台数のタブレットを導入し、それを全体で共有している学校や、そもそもタブレットはまだ導入していないという学校が多いと思います。前述のように、生徒自身が使用する授業事例が多いからか、「ICTを活用した授業を見学させてください」とお話すると、「児童生徒は実際触らないですが、いいですか?」という返信をいただくことが多い印象です。研究会などでも、先生がICTを活用した事例よりも、児童生徒が活用した授業事例の発表の方が多いのだろうかと思いました。

 今回、見学させていただいた守屋先生の授業は、児童が活用するのではなく、先生が授業内で説明したり、授業内の様子を共有するために活用されていらっしゃいました。その活用方法が、授業の活動目的に合った無理のない活用だと感じたので、ご紹介させていただきます。


先生が作った見本の作品を、書画カメラで遠くからでも見えるように

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 どういったものを作るのか、児童たちにイメージさせるために、先生が作った見本の作品を実物自体も見せつつ、書画カメラを利用して遠くの席からも見えるようにして活用されていました。書画カメラは、後ろの席の児童にも見やすくわかりやすく説明できたり、実物を見せながら説明できるので、図画工作ではいちばん活用されているICT機器ではないかと思います。昔から使われている機器ですが、やはり実物がリアルタイムで大きく投影されるだけで、どの部分を説明しているのかがわかりやすいですし、「あとで実物を近くで見てみたい」という気持ちにもなるので、単純に興味喚起など学習意欲の向上にもつながるのではないかな…と思いました。


教室内を見て回りながらデジカメで作品を撮影し、電子黒板でスライドショー投影

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 実際の制作に入ると、守屋先生はカメラ片手に教室内を見て回り、児童の質問に答えたり、声をかけたり、制作の様子を見ながら、児童たちの作品をカメラでいくつか撮影していました。そして、ある程度撮影できた段階で、データをパソコンの方へ移し、電子黒板上でスライドショーで投影していました。児童は自分の制作に熱中・集中しているので、なかなか他の児童の作品やどうやって制作しているかを観ることはできません。観れても自分の席の近くの数人くらいですが、こうやって先生が教室を見て回りながら撮影した作品を、電子黒板でスライドショーで投影して「見える化」してあげることで、自分だけでは思いつかない制作方法や表現方法を共有することができるなと思いました。

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 実際に制作の様子を観ていると、ダンボールに下書きをして構成を考えてから作り始める児童や、粘土に絵の具の色がきれいに混ざるまで一生懸命練っている児童、パレット上で一度色を作ってから粘土に混ぜる児童、粘土に直接絵の具の色を混ぜる児童、指に絵の具をつけて描く児童、背景から作る児童、キャラクターから作る児童、定規で平らな背景を作る児童、分度器で角度を測る児童など、1人1人がそれぞれで考え、工夫をして制作しているのがいいなと感じました。今回は作り始めたばかりということもあるかもしれませんが、撮影された写真はスライドショーで投影されただけでしたが、次回の授業始めなどで、〇〇さんはこういった制作の工夫をしていたよと紹介や説明をして、情報共有をすることもできるなと思いました。

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 児童自身がカメラを使って自分たちの作品の過程を記録する授業は、図画工作以外にもありますが、今回のような児童自身は制作に集中させ、先生が撮影する活用方法は、図画工作ならではの活用方法ではないかなと感じました。児童は制作に集中したまま、先生も教室内を観て回るのは今までと変わらないので、その中で「あ、これ、クラス全体で共有したいな」と思った作り方だったり作品を撮影するだけなので、先生の負担自体も少なく、なおかつICTを活用することで情報共有が容易になっていると感じました。


制作途中の作品に、電子黒板上で描き込み、計画性を持って制作することを説明

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 制作の時間が終わり、まとめの時間で、この先どういったものを作っていくのかを考えながら作っていくことを意識させるために、ある児童が作った制作途中の作品を電子黒板上で投影して、例えばどういったものを作っていくのかをペイントで例を描き込み、説明されていました。この使い方もデジタルならではできる指導法だなと思いました。作品実物自体に付け加えたり描き加えたりすると、どうしてもそのイメージが植え付けられて引っ張られてしまいますし、そもそも自分の作品に手を入れてはほしくないものです。また言葉だけで説明すると、うまくイメージできない児童もいると思います。その点、デジタルだと実物には一切手を付けずに、イメージで説明することができるので、とてもいいなと思いました。

 また授業後に、この活用方法について守屋先生にお話を伺った際に、仰っていたことにもとても共感しました。「平面的な作品のときは、デジタル上でも描き込みはしません。今回は紙粘土を使った立体作品なので、イメージに引っ張られすぎずに説明することができると思います。」こういった守屋先生の発言から、ICTを使うことを主軸として考えているのではなく、「こういった授業をしたい」「こういったことを教えたい」という目的に合った、無理のないICT活用が実現されているのではないかなと感じました。


(前田)