ここまで4回レポートしてきました、千葉県立袖ヶ浦高等学校 情報コミュニケーション科の課題研究発表会ですが、情報コミュニケーション科長の永野先生に、課題研究発表会を振り返ってのインタビューをお願いしましたので、お送りします。
課題研究発表会を見て、「どれくらい先生がサポートをしているのだろう」と、発表会にいたるまでの授業の内容に興味があったので、こうしてインタビューで授業の進め方などを聞くことができ、非常に勉強になりました。では、インタビューをどうぞ。
Q1.
永野先生から見て、今年の課題研究発表会はいかがでしたか。
A1.
今年を含め1期生から3期生まで課題研究発表会を行ったわけですが,同じ科であっても毎年それぞれのカラーを強く感じます。1期生は荒削りでしたがなんだか勢いがあって本番に強いというタイプでした。昨年の2期生はうって変わっておとなし目だったり,いわゆるPCオタク的な生徒も多かったのですが,ゲームを作りこんだり,授業の理解度を上げる動画教材を作ろうなど,内容的にも動き回ったりするというよりは,作りこむタイプの研究が多かったです。中には私から見ても確かに「研究」と言えるレベルまで到達していた班もありました。(数学の反転学習教材の効果を検証したチームなど。)
今年の生徒はいわば1期生と2期生が混ざったようなクラスで,個性的な面々が多く,面白い面もありますが,グループとして協働していくときに難しいのではないかと感じていたクラスでもありました。しかし,1年生から特に担任の眞山先生にグループ活動を仕込まれていたこともあり,難しいメンバー内であっても「協力しながら一つの目的に向かおうとする」,とか「グループ内で話し合い,各自がなすべきことを分担して取り組む姿勢」は最も評価できた学年と言えます。
発表会そのものは各年度のカラーがあって一長一短に比較できませんが,全体としてチームワーク,協働的な姿勢は最もよかった年だと感じています。
ポスターセッションのときに、誰もがプレゼンテーションをできるようにするには、グループとしてしっかり協働指定なければならないと思います。各年度ごとにカラーがあるというのは継続してやっているからこそ、学校だからこそのものだろうと思いました。
Q2.
ポスターセッションでは、一人一人がプレゼンをできなければなりませんし、掲示物の質も非常に高く、かなり時間をかけているように思えたのですが、テーマ決めから最後の発表まで、だいたいどれくらいの期間で、どのようなことを生徒さんたちはしてきたのか、教えてください。
A2.
4月に各自でワークシートや付箋,ブレインストーミング等で,学校や地域や社会などの問題をピックアップし,そこからどんな解決策があるかなどのアイデアを出します。それらを回収し,KJ法的な形で7つのグループに分けます。5月頃,グループ内のメンバーで自分のアイデアを共有して,グループとして取り組む問題を絞り込んでいきます。その際に先行研究等も調べさせます。
そこから解決策のアイデアを出し合って,教員に向けての企画プレゼンを行い,OKをもらって全体の方向性が決定するのがだいたい6月頃になります。プレゼンの段階で私に「やる気がないならやめろ」と怒鳴られ,全てやり直しになったグループもあります。(実はそのグループが反転学習の検証研究をやり遂げたチームです。)
7月に実際の解決法に取り組み始め,夏休みの間に学校外で取材したり,各自の分担作業を進め,9月から実際に動かしてみたり試してみたりして,利用者などにアンケートを取り,改善等を加えていくのが11月の発表会まで続きます。
同時に11月の2週目頃から研究とともにポスター制作に取り掛かります。この辺りになってくると,研究内容のブラッシュアップとポスターの校正が重なり,かなり生徒も辛い時期になってきます。
同時に発表練習を行い始め,誰か固定のメンバーに説明を任せきりにならないよう,メンバー内で説明事項の共有をします。直前に各グループを教員が回ってリハーサルをし,質問やツッコミをしてそれらをまとめて想定問答集とその回答を用意し,メンバー内で共有します。その後発表会となります。
この後は,3学期に研究内容を卒業論文にまとめます。これは各自全員に書かせますので,個人作業になっていきます。グループでの研究成果を論文という形にまとめることで1年間の課題研究が終わりとなります。論文は学会誌のテンプレートを使って本格的な形で書かせます。引用等の注意,参考文献等の書き方も本物の論文に準じて書かせます。
この添削にとても時間がかかって教員は大変です。1人につき数十回書き直させますので。生徒は泣くのを通り越して,だんだん怒ってきます。いい加減にしてくれと。それでも満足いくものになるまでは添削をし,書き直しを命じ続けます。家庭学習期間までに終わらない場合は登校して卒業までに必ず提出させます。
書き終わった論文は,簡易製本機で綴込み,卒業式にプレゼントします。「一生大事にしなさい」と言って。
課題研究をどのように行なっているかについてもご紹介をいただきました。生徒は一人1冊、課題研究のファイルを持ち、そこにすべての資料、ワークシートなどを綴じ込んでいきます。
- 課題研究でどんなことをしていきたいのかを決めるためのワークシート
- 大まかなスケジュール
- 問題点を考え、その解決策を書いていくワークシート
- 問題点と解決策を表にしていく
- 毎時間、要約トレーニングをして、長い文章から「この文章は何をしたいのか」をまとめる練習。3学期に論文を書くときにも役立つトレーニング。
- 毎時間、活動の記録も書いていく。
- テーマを決めて行くときに、先行研究調べも。以前にしたことがあるものとまったく同じでは意味がない。
- 決めたテーマをどうやって理論的に考えるか、ワークシートを使って方法に沿ってまとめていく。
- ポスターへの赤入れ。日付も書かれていますが、1日に何枚も何枚も書いてる。
ワークシートを綴じ込んだ課題研究のファイルを見せていただきましたが、資料、赤入れされたハンドアウト、びっしり書き込まれているワークシートが綴じ込んであり、課題研究発表会にいたるまでにかけた多くのアクティビティがわかります。生徒たちも、このファイルを開いて、「これだけやってきたのだから…」と振り返って自信を持てるのではないだろうか、と思いました。
Q3.
生徒さんたちが苦労をしていたところは、どんなところだと思いますか?苦労しているところは、どのように先生方としてはサポートをされてきたのですか?
A3.
やはり生徒自身がグループをうまく動かし,まとめていくということです。特にこちらからリーダーを指定することはないのですが,取り組んでいくうちに,誰かがうまく指示したりまとめたりすることが必要だと気づいてきます。今度はそのリーダーが,「誰々が仕事をしない,なぜ自分が苦労をするのか」などという不満を持ち始めたりしてきます。泣きながら訴えてきた女子生徒もいました。その時に,動かない生徒を教員が叱って無理やりやらせてもうまくいかないので,生徒内で解決していけるようにさりげなく誘導していくのが教員にとって重要であり難しいことです。
トラブルが起きたり,グループが空中分解したりするのではないかと思ったグループも,その生徒をサポートしながらうまく付き合いながらやってくれるようになりました。これは私も感心しました。
研究の論理性や技術的な面には教員がうまく補助をしてやらなければなりません。テーマや解決策が彼らの独りよがりにならないように,グループの外から見た印象,疑問等を生徒にぶつけ,あえて困らせるような質問をします。技術的なことに関しては,文献や資料を貸したり,ネット上の情報についてヒントを与えたりするなどのことは,教員側から積極的に行います。それでもうまくいかない場合は直接指導することももちろんあります。
袖ヶ浦高校に限らず、こうした探究的な学びをしている学校では、「研究の論理性」のところの指導が、本当に難しいと思います。研究が進めば進むほど、グループごとに専門性が高くなりますので、1グループごとに指導をしていく時間が長くなるはずで、先生方のサポートの仕方が、先生と生徒との関係性も含めて、大事になってくる部分です。ここは、課題研究の授業だけでなく、学校行事や部活なども含めて見ているからこそ言えることなどもあるかと思い、学校でこうした研究をする良い点だと思います。
Q4.
中川先生が講評の中でもおっしゃっていましたが、1年生も見学に来ているのが印象的でしたが、年を重ねて、変わってきたところ、変わらないところがあれば、教えてください。
A4.
先輩たちの発表を見てきているので,研究の流れや発表会の形式については何となくどんなものかわかるようになってきています。教員側もこの2年で流れがようやくつかめてきたということで生徒と一緒にやり方を学んできたという感じです。「いいなー,私も早く課題研究やりたい!」という生徒もいて,そういう話を聞くと3年生も私も嬉しくなります。1年目は前にやった人がいませんでしたから,私たちの1年目は大変でしたし,1期生も大変だったろうなと思います。どうしたらいいか,誰も知らないんですから。
この2年間,直前になって作業に追われてきたので,今年は早く取り組もう,取り組ませようとやってきましたが,結局直前になっても夜遅くまで生徒と一緒に学校に残るのは変わりませんでした。早く取り組んだら早く終わるということはやっぱりなかったです。締め切りが目の前に迫ってようやく本気でエンジンがかかるみたいなもので。まあ生徒だけでなく大人も同じかもしれませんけれど。(笑
毎年、課題研究発表会の伝統が作られていっている、ということですね。「去年のあのポスターみたいな説明の仕方にしよう」とかを言える生徒が増えてくるとどんどん質が上がっていきます。毎年、ハードルも上がっていくということになりますし。毎年、継続してされていることに本当に大きな意味があると思います。
Q5.
来年へ向けての抱負を最後にお聞かせください。
A5.
まだどんなアイデアが出てくるかわからないので,なんとも言えません。。。
授業は計画を練ってやるべきものですが,スケジュールなどの計画は立てられても,どんな研究テーマがどのようになっていくのかは,本当にその場その場で生徒たちと作っていくものなので,皆目見当がつきません。毎年毎年,「この調子では今年はろくな発表にならない!」と秋が近くなってくると胃が痛くなります。それでもなんとかこれまでの生徒たちは頑張って形にしてきてくれましたから,来年もなんとかなるといいな,と思っています。
また来年も伺いたいと思います。3期生までの実践を踏まえて、4期生がどんな課題研究発表会を見せてくれるのか、楽しみです。
永野先生、お忙しい中、インタビューにお答えいただき、本当にありがとうございました。
(為田)