前回に引き続き、7月11日・12日に開催された、異才発掘プロジェクトROCKETのスクーリングの内容と感想をレポートします。今回は、12日午後に実施された宇宙飛行士の山崎直子氏による「宇宙、人、夢をつなぐ」というテーマの講義の様子をレポートいたします。11日に実施された「今の世界情勢を議論する」にて、子どもたちがISやイスラム教やテロなどをもとに、何が問題なのか、ルールとは何か、命より大事なものはあるのかということを熱くディスカッションした様子や、その後に受講したアラブ研究者の池内恵氏による「イスラーム世界からみた世界」というテーマの講義のレポートは、前回までにまとめているので、そちらも合わせてご一読いただければと思います。
▲子どもたちに講演する山崎直子氏
宇宙の様子
山崎氏は、2012年4月に、国際宇宙ステーションに行った経験から、宇宙での生活がどんなものだったのかを最初に話されました。
- 発射から8分で到着するくらい早い。
- 上に自分と同じ体重の人が3人乗っている感じ。
- もともと自分たちも宇宙のカケラでできているということから、ふるさとへ訪ねていく感覚とも似ている。
- 55年間で、560人が宇宙へ旅立っている(1年間に10人。これはずっと変わっていない)
- エンジニア、研究職、宇宙食、カウンセラー、経済、法律家など、さまざまな業種、さまざまな性格の人が関わっている
- そういうバラバラな個性の人が集まって共同生活をしている
- 宇宙飛行士になる条件が、だんだんとゆるくなってきている(70歳の人が宇宙へいって帰還した実績がある)
- 宇宙ステーションに6ヶ月滞在した。
- 配線などがゴチャゴチャしている。
- 文房具などはマジックテープで壁にとめている。
- 換気ができないので、ホコリが宙に浮いているし、ホコリっぽい。
- 締めきったこもったニオイがする。
- 洗濯機で洗うことができないので、汚くなった服は捨ててしまう。
- お風呂・シャワーはできないが、汗はかくので、タオルに水を染み込ませてふき取る。
- 立って寝ていても普通に寝れるので、4畳半くらいのスペースでみんなで寝る。
- 6ヶ月滞在の人は個室が割り当てられている。
- パソコンやネットもある。
- 宇宙食は、種類が豊富になってきている。
- ごはん、おにぎり、ラーメン、サバの煮込み、栗など。
- 農業も始めていて、赤レタス育てて食べた。
- 生のフルーツが届くのが待ち遠しい。取り合いや勝手に食べてケンカになるくらい。
- 無重力では上も下もないので、「上を見て」だと、きちんと伝わらない。「あなたの上を見て」と言うと伝わる。相手の立場にならないと会話ができない究極の状況。
- ろうそくは、すぐに消えてしまう。空気が動かず二酸化炭素が溜まってしまうので。
- イスラム教の人もロケットに乗る(お祈りの回数を減らしたりしている)
- 下に地球が見えると思っていたら、地球が上にあった。
- 90分ごとに4回日の出を見ることができる。
- 3日で地球から月へ行ける、1週間で行って帰ってこれる。火星までは半年間かかる。
- ペットボトル500mlを宇宙に送ろうと思ったら、50万円かかる(ロケットをとばすのに50億円かかる)
- さまざまな研究がされている。決まりはない。
- 線虫
- 宇宙に行ったことで、老化をコントロールする遺伝子発見
- 他の動物にも同じことがいえるのか研究している
- ロシアは、宇宙に長期滞在することを研究してきた
- バラバラに見える宗教、科学、芸術、マジック、伝統と発展、様々な分野の知識を結びつけていくことに寄与
- 人間の体も変化する
- 重力がないから、背骨と背骨の間が伸びる ⇒座高だけが伸びる
- 体重は?
- 振動のスピードを測ることで体重を測った ⇒減っていた(1日に数パーセント減る)
- ひょろ長い体系になる。(頭大きく、身体や手足が細長い)
- 線虫
山崎氏が実際に体験したお話は、とても興味深く、実際に行ってみた人でないとわからない事柄が多かったと思います。子どもたちもとても興味津々に聴いていました。こういった非現実的なこと、実際体験しないとわからないことに対して、わからない上で自分なりに考える・調べるというワークを組み合わせたらいいなと感じました。
実際の話を聴く前に、グループでインターネットや書籍を使って調べ学習をし、その上で宇宙がどんなところなのかを発表やディスカッションすると、山崎氏の講義を聴く際に、自分たちが調べた内容と話の内容を比較して照らし合わせたり、質疑応答でも、事前に聴く内容を用意しておくということも自然とできます。
そして、講義後に、話を聴く前と話を聴いた後での相違点や自分の考えの変化などをレポートにまとめたり、再度ディスカッションできると、講義を通しての自分の考え方や知識の変化を認識しやすくなるかと思います。こうすることで、自分で考える力・調べる力・情報を比較する力・聴く力・質問する力・分析する力などを養うことができると思いました。
宇宙までの道のり
山崎氏が宇宙へ行くまでの経緯を話されました。どういった経緯で宇宙飛行士になることを目指したのか、宇宙飛行士になるまでにどういったプロセスがあったのかを、丁寧にお話されました。
山崎氏の人生
- 動物が好きで、家の中でさなぎが孵化する様子をずっと見ていたりしていた
- 札幌に7歳くらいまで住んでいて、そこの星空がきれいだった
- その頃は、宇宙飛行士のことはよくわかっていなかった
- 1984年 レーガン大統領が宇宙ステーションを作る計画を表明
- 1985年 日本人3人が宇宙飛行士に選ばれた
- 1986年 スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故を受け、山崎氏は「私も行けたらいいな。亡くなった宇宙飛行士の想いや宇宙の素晴らしさを子どもたちに伝えたい」と思った。
- エンジニアになって、ロケットを作るのに関われたらいいなと思った
- 12歳頃ラーメン屋で、サリーを身につけた外国人が近づいてきてニコッと笑って「世界は広いのよ。あなたも頑張ってね」と話しかけられ、それが心に残っていて、海外にいきたいと思った
- 24歳で、初めて海外留学へ
- 寮に入れたものの、英語が通じず、電気がほしいと伝えようとしたが、電話を切られ、最初の1・2日は電気のない生活をした
- 自家用ヘリを持ち、かつ操縦もできるおばあさんに出会い、「すごいな」と思い、自分もやはり宇宙飛行士になろうと挑戦した
- 1回目は受からなかった。周りは、6回目・7回目でやっと受かったと言っていた。あきらめずにやることの大切さを学んだ
- 宇宙飛行士のテストは、タスクベースのテスト
- 必要なスキル、基礎を身につけることが大事で、変わった実技が多かった
- 例:絵がない真っ白のジグソーパズルを3時間で完成させる
- 外側はなんとかできるが、内側は難しい
- うまくいい方法が見つからず、誰も完成できなかった
- 完成したかどうかではなく、そのプロセスを見ている
- 知識だけで最後まで通用するわけではない
- 大人になっても、ずっと続けるということが大切
- 「伸びしろの方が大切です」という言葉が印象的だった
- 例:絵がない真っ白のジグソーパズルを3時間で完成させる
- 必要なスキル、基礎を身につけることが大事で、変わった実技が多かった
- 1999年 宇宙飛行士候補者として訓練スタート
- 他2人が訓練している間、待ちなさいと言われて、エンジニアの仕事を続けた
- 人工呼吸、注射の打ち方、宇宙服をきた訓練、蘇生練習などなど
- 2002年 妊娠していたので、医学的不適合と判断され断念
- 保育園に通いつつ、また訓練を続けた
- 2003年 スペースシャトル・コロンビア号の事故
- 事故のせいで、しばらくスペースシャトルが飛ばなくなり、宙ぶらりん状態になった
- ロシアにて訓練を続けた
- 2004年 アメリカNASAにて訓練をした
- 19期生は「くじゃく」と呼ばれた。くじゃくは飛べない鳥ということから、「おまえらは飛べない」という皮肉も込められた名前だった(洗礼)
- そうこうしていると、またスペースシャトルが飛ぶようになった
- 2010年 スペースシャトルディスカバリーに搭乗
- WODWER(未知)+FULL(たくさん) = すばらしい
- 宇宙飛行士になる道のりや、宇宙に行ってみて感じたことは、道はひとつじゃないし、新しい道もある。ということ。
学校でも、著名人の方などに特別講演をしてもらうことが何回かあるかと思いますが、そういったときに、その講演者の方がどんな人なのかを事前に調査するといいなと思いました。どんな人なのかを知らないまま話を聴くのと、知った上で話を聴くのでは、内容の受け取り方や講義後の質疑応答の内容の深さなどが変わってくると思います。
質疑応答
山崎氏の体験談や宇宙飛行士になるまでの経緯について、お話いただいたあとに、質疑応答の時間がとられました。
- 「宇宙には天国や神はいますか?」
- 今の技術では、今はわからないです。
- 将来、技術が発展したら、発見できるかもしれないですね。
- 「もし神様がいたら、見つかる前に人間を滅ぼすと思うな」
- どんな神様かわからないのでわからないですね。
- 生物学者の人が言うには、最初の生き物を作ることは、1億円の宝くじが1万回あたるくらいの確率のようです。
- 神さまではなく、サムシンググレイトが作ったという人もいる。
- 天国があるのかどうかと考えて、牧師になった人や、芸術家になった人もいます。
- あなたが宇宙に行ってから、実際にどう感じたかを話してみたいです。
- 「宇宙飛行士になるのに選ばれた理由はわかりますか?」
- 選ばれる理由・答えはない・わからないです。
- こんな人を選ぶぞと決めているわけでもないみたいです。
- 人に会って、今までにない新しい人や新しい価値を提供してくれそうという人を選んでいるのではないかなと思います。
- 心臓に弱い人はダメというわけでなく、むしろ宇宙にいったら快適だったりします。
- 「宇宙の良さは、未知以外にありますか?」
- 価値観がガラッと変わります。
- 上も下もない世界。
- モノの見方が大きく変わります。机の上だけでなく、裏側を使ったりもするので、モノの使い方自体が違うので。
- 逆に、地球に戻ってきたときに、今まで当たり前だった景色や、草のニオイなどに気づくようにもなります。
- 今まで気づかなかったことにも気づくようになりました。
- 「宇宙船内でケンカはありましたか?」
- 大きなケンカはないですが、会話が少なくなったり、グループができたりとかはあります。
- でも、何があっても夜ご飯はみんなで食べるというルールを決めていたので、そういったルールのおかげでうまくできていたと思います。
- 協調性はある程度必要だけど、みんなが同じになるのではなくて、みんなが一人一人のやることを認め合うという感じです。
- 「宇宙酔いはありますか?」
- 「大西さんがネズミを持って行きましたが、寿命が延びる以外になにか結果はあると思いますか?」
- 私が行ったときも、実は持って行ったのです。
- 免疫が弱くなるという結果をとろうとしていると聞きました。
- 「いちばん長くてどのくらい滞在した人がいますか?」
- ロシア人の400日滞在が最長だと思います。
- 「トイレのうんちはどうなる?」
- タンクに貯めたものを徐々にリサイクルしていきます。
- 不純物は、ゴミ用のタンクに貯めて、補給用のロケットがきたら、代わりにゴミを乗せてロケットごと燃やします。
- それが、地球上で見る流れ星の可能性もあります。
- 「ストレスはありますか?」
- 宇宙にいるときよりも、宇宙から帰ってきたときの方が大変でした。
- 45日かけて重力に慣れるようにしていきます。
- 「手塚治虫の火の鳥の話の中に、宇宙自体が生き物で、人間も宇宙に寄生してるというのがある。どう思いますか?
- 宇宙から見たときに、地球が生きてるような感じがしました。
- 星にも寿命があるので、そういう考え方もできますし、実際そうかもしれません。
- 「ワープの研究とかする人はいますか?」
- 大の大人がワープの研究とか、一見ふざけたものや、すぐできなくてもなんらかの形でつながっていくこともあるので、ダメということはないです。
- 渡り鳥の研究をしている人がいて、その研究内容がサーズが流行ったときに役にたったことがあります。
- どこでつながるかは、わからないものです。
- 「研究していて、これだけは実現したいことはありますか?
- 宇宙へ行く方法です。
- ロケットだと高いので、別の方法やエレベーターとか、何か実現したいです。
▲山崎直子氏と記念撮影した様子
まとめ
山崎氏の講演は、スライドを使って、実際に宇宙から見た地球の写真や宇宙ステーションの中の様子、宇宙飛行士のテストなどを見せながらお話をされたので、子どもたちも最初から最後まで釘づけになって聴いていました。11日に講演された池内恵氏のイスラム教のお話もですが、子どもたちにとって「知らない世界」をとても魅力的に伝えていらっしゃいました。11日の大討論会にてキーとなるコメントをしていたAくんが質疑応答の際に、「あの…本当に体験した人の…話とか…すごく……すごく…キレイだと思いました。」と、講演を聴いた上での言葉にならない気持ちや感動を、なんとか山崎氏に伝えようと頑張って言葉にしていたのが、微笑ましかったです。
こういった非日常的な話が聴けるときこそ、感動したり、ワクワクしたりするものですが、それにプラスして「わからない事に対して、自分なりに考える」ということと、組み合わせたらいいなと感じました。情報社会で目まぐるしく技術や状況が変化する時代だからこそ、「わからない事に対して、自分なりに考える」というスキルが必要となってくると思います。自分なりに先を予測したり、自分なりに情報を分析したり、自分なりにアイデアを発想したり、あらゆることに自分事として考えるスキルが必要となると思います。
(前田)