教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

書籍ご紹介:橘宏樹『現役官僚の滞英日記』

 橘宏樹『現役官僚の滞英日記』を読みました。帯に書かれた言葉がとても魅力的です。

大英帝国が没落してなお、国際的地位と持続的成長を保ち続けるイギリスの横顔に黄昏れゆく“課題先進国”日本再生のヒントをさぐる、刺激的な留学ドキュメンタリー。
「ならば、今すぐ日本人共すべてに“英”知を授けてみせろ!」

 橘さんは本のなかで、戦略なきイギリスがとっている5つの戦術を挙げています。この5つの戦術が、イギリスの強さの正体だとしています。

  1. 弱い紐帯」のハブ機能
  2. カンニング」の素早さ
  3. 「乗っかり上手」なイギリス人
  4. トライ・アンド・エラーを厭わない
  5. フィードバックへの情熱

5つの戦術、「弱い紐帯のハブ」「カンニング」「乗っかり上手」「トライ・アンド・エラー」「フィードバックへの情熱」は、互いに深く連動して好循環を形成する構造にあると思います。ストーリーにまとめると、コモン・ウェルスの緩い連携の中心に陣取り、カネ(金融・資本)とコネ(信頼・人脈)とチエ(情報・技術)が集うハブとして機能するなかで、パクれそうな方法論や、上手にやってくれそうな人材を移民から調達する。そして、成功しそうな方向性が見えてきたら、事前検討もそこそこにトライ・アンド・エラーで自分たちに合ったやり方を模索する。その際には、失敗からの反省も含めた豊かな学びを次のトライにすぐさま必ず反映する。
さらに、そうやって間断なく変化していくイギリス社会自体を積極的に肯定する気風を維持することで、希望と活力を維持する。それを可能にするイギリスとコモン・ウェルス・ネットワークは好ましいので、52カ国24億人は引き続き活用していく――こういう好循環構造にあるのではないかと思うわけです。(p.161-162)

 ここで書かれている「イギリス社会」を“日本全体”や“公教育システム”と読むこともできます。また、“〇〇市教育委員会”と読んでみてもいいと思います。「移民」は、“学校外の企業関係者”というふうに読むこともできるでしょう。学校を変革していき、新しい教育を実践しているところは、この橘さんが描写している、イギリスの5つの戦略に近いことをしているように思ったのです。

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 また、発売記念エッセイを読むことができて、このタイトルにも出てくる「コンサバをハックする」という言葉にも大きく惹かれました。
ch.nicovideo.jp

 コンサバな環境にあって、とれる選択肢は(1)おもねる(2)闘う(3)秘める(4)無視する(5)ハックする、の5つというのを見て、公教育システム、学校環境が、まさに“コンサバな環境“であり、そこで「(2)闘っている」実践者である先生方をたくさん見ているわけですが、そうした実践者である先生方の活動を、横に展開していかないと、大きな公教育システムはなかなか変わっていきません。そこで、「(5)ハックする」というのは、まさに自分が目指していきたい道だと感じたのです。2018年の行動目標として挙げた、「学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをする」ために、「ハックする」ことが大事だと思ったのです。
blog.ict-in-education.jp

 コンサバな環境で闘っている人たちと一緒に読んでみたい本です。公教育システムの周辺にいる方々、学校関係の方々で読んだ人と、語り合いたくなる本でした。

(為田)