2019年12月21日に、株式会社内田洋行 新川本社 ユビキタス共創広場 CANVASにおいて開催された、 日本教育工学会 SIG-04「教育の情報化」主催のワークショップに参加しました。タイトルは、「ICT?EdTech?テクノロジーは子どもの学びをどこまで支援できるのか?」で、適応学習(アダプティブラーニング)型の教材を体験しながら「学びの個別最適化」がどの程度、実現可能なのかを考えるワークショップでした。
参加者全員が、4つのサービスをそれぞれ使ってみた後、日本教育工学会 SIG-04「教育の情報化」の先生方が、サービス事業者の皆さんに質問をしていくコーナーへと続いていきます。「研究者ならではの鋭い切り口、研究者ならではの採算や現場ニーズを度外視したコメントが出てくることを期待します」という挨拶で、「研究者からの質問」コーナーがスタートしました。
先生方からのコメントと、それに続いての事業者への質問について、メモにまとめて公開します。
倉田伸 先生(長崎大学)からの質問
長崎大学の倉田先生は、ご自分の研究分野である、「情報システム」の観点からコメントをされました。
そのうえで、Qubena、インタラクティブスタディ、やるKey、リブリーのそれぞれのアプリケーションが、どの考え方に近いかを質問しました。
Q:
紹介したCAI、ITS、ILEは、それぞれにいいところがありますが、4社のアプリケーションは、この考え方のどれに近いと思いますか?
倉田先生は、システムには「モデルドリブン(=学習のいろいろなモデルをバックボーンに持つアプローチ)」と「技術ドリブン(=最新の技術(テクノロジー)を導入するアプローチ)」の2つのアプローチがあると言い、システム開発論文の査読でもらったコメントを紹介して、アンケート結果だけで評価をするのではなく、研究者と一緒に「どんなやりとりがあったのか」「システムのどの部分の恩恵によるものなのか」というのを研究の中に入れていく、一緒に考えていくことができればと思います、とコメントをされました。
泰山裕 先生(鳴門教育大学)からの質問
鳴門教育大学の泰山先生は、「考える力をどう育てるか」という自身の研究に関わるコメントをされました。
- ここまで来ているんだな、ここまで来ていれば、考える時間をとれそうだな、という感想を持った。
- 考える力を学校教育という文脈の中でどう育てるかを研究。思考スキルやシンキングツールをどう使うか。
- 知識を習得することと、それを選び出して解決する、ということに分けて考えることを考えている。
- どのシステムでも、いろいろな知識を間違いなく正確に習得させるということを大事にされている。そのための方法はいろいろ。紙ではできないことがあり、速く効率的にできるようになっている。そうした知識を前提として考えるということは、システムの外でやるのかな、と思ったりした。
- 「個別最適化」という言葉が何度も出てきているが、何を個別最適化するのか。
- 目標は同じだけど、たどり着き方が違う、ということか?
- 一人ひとり目標が違う、ということまで想定しているのか?
- 個別の知識は習得できるのが前提だとすると、知識を結びつけるのはどうするのか?学習を支援する機能(やるKeyで目標を設定する機能など)はすごいと思ったが、自分に必要なことは何か、というのはどうするのか?
泰山先生は、コメントの最後にあった、「知識の習得」が個別最適化された後に、どうなるのか、ということについて質問をされました。
Q:
教科の個別の知識の習得支援はこれで問題なくできそう。その先は?
- リブリー
- 目標に対して最速で進めるように支援できるようなシステムであることが現状。それ以外に知識をどう活用するのか、には対応できていない。
- 今後は、自分で目的を決められるか、自分の可能性を信じられるか、が重要。
- 学習履歴を元に、「君にはこんな可能性が広がっているんだよ」と示していきたい。
- やるKey
- 目標設定は、時間と問題数であることが現状。正解をすればトロフィーをもらえるというのも目標設定になっている。
- 今後は、知識の部分だけに制限してしまうのではなく、ワクワクするコンテンツを開発していきたい。
- 算数が苦手な子が途中で離脱してしまっている課題もある。課題に対して、コメントやインプットの動画を見せることで理解をさせて自己肯定感を育むなどは、追加で開発していく余地があると思う。
- インタラクティブスタディ
- Qubena
- 知識・技能の獲得をいかに効率よくするか、を目指しているのが現状。
- 思考力、人間性の部分は別なところで学ぶ。会社としてSTEAM教育にも取り組んでいる。そのための時間を生み出すようなシステムと捉えている。
泰山先生は、各サービスの答えに「(知識を得た後のことは)関係ないよ」というのがなかったことを評して、「知識習得だけ、ということは企業も研究者も良しとはしていないので安心かな。どういう学びが起きるのかな、というのを連携して探求していけるといいと思う」と質疑を締めくくりました。
後藤康志 先生(新潟大学)からの質問
新潟大学の後藤先生は、ご自身が1989年に今日体験したようなサービスを手でやろうと思ってコースウェアを作ったことがあるそうです。そのときの知見を含めてのコメントをされました。
- 「分数をわからせる」などのように、ゴールが決まっている学習を個別最適化することについて考えたい。
- 小学校の先生はトイレに行く暇もないくらい忙しい。丸つけしてくれるだけでもありがたいのが実際。
- 小学校で教えていたときに気付いたのは、同じ間違い方をする子がごろごろいるということ。
- 子どもの間違いにはそれなりの理由がある。1989年に、今日体験したサービスを、手でやろうと思ってコースウェアを作った。
- 間違う子どもは、同じように間違えてそこから抜けられない、ということもある。誤答が出たときに、どういう診断をするのか、どういうことをやろうとしているのか、というのを見ることができた。いまはAIでやっていることを、手計算でやってきた。
- 理論上ではうまくいくのに、うまくいかなかった。でも、今日見たところ、うまくいっているようだった。データサイエンスの力かもしれない。
- 一方で、データサイエンス化してブラックボックスになってしまわないか。なんとなくシステムがうまく導いてくれて、できちゃった、というのでいいのか?先生はそれでいいのか?
後藤先生からは、コメントの最後にあった、「個別最適化された学び」によって、どうやってわかるようになるのか、というところが学習者がわからなくなったり、先生がわからなくなったりしないか?というところに関連した質問がされました。
Q
これまで全員ができなかった問題を、全員ができるようにすることを目指すのか?それじゃ便利な道具がないと学べなくならないのか?
メタ認知的活動の支援ツールの開発まで視野に入れるのか?
学習履歴は誰のものか?現状は教師のもの。学習履歴を子ども自身が見ることで、「自分がこのあたりは苦手だ」とわかったら、最適化された学びが自分のものになるのではないか?
- Qubena
- 学習データは、その子のものだと考えている。
- 自分で自分のつまずきを見られるようにもなっている。メタ認知のきっかけになればいい。
- 先生とコミュニケーションをとりながらやっていくのが大事だと思っている。教材だけで完結するのではなく、授業の中で先生と一緒にやる。Qubenaは、先生をサポートしながら、学びのスタイルを作っていく、というふうになればと思っている。
- インタラクティブスタディ
- 生徒の画面で、「ここができていないね」「こういう間違いが多いよ」と生徒の側から見られるようになっている。
- 教材でも、「これがわかっていないから、解いてみよう」というような画面が出るようになっている。
- 子どもたちが自分で気づける、認知できるようなしくみになっている、と思っています。
- やるKey
- ツールで全部をまかなうのは難しいだろうな、と思っています。
- つまづきポイントを子どもに見せることは、今はしていない。「ここがつまづいているからこの問題ができないんだね」と、そのまま見せてもいいかどうかわからない。学校によっては、習熟度の画面を先生が見せているところもある。先生との対話の中でメタ認知的な活動をしている学校もあるので、システムでやるのがいいか、先生の運用でやればいいか、というところ。
- リブリー
後藤先生は各社の答えを聴いて、斎藤喜博 先生の「〇〇ちゃん式間違い」について触れられました。これは、授業で○○ちゃんの間違い方をみんなで議論するやり方です。
「自分の学習履歴を見て、自分の間違いを“○○ちゃんの間違い”とみなして考えるというのもあるといいな、と感じた」と言い、各社の今後に期待します、とコメントされました。
小池翔太 先生(千葉大学教育学部附属小学校)からの質問
このコーナーの最後は、研究者であり、現職の小学校の教員である小池先生からのコメントと質問です。小池先生は、「4社の最新の教材を体験しながら比較できるのは貴重な体験」だと言い、「授業活用」の観点と「おもしろさ」の2つの観点からのコメントをされました。
- 学校の授業に活用するサービスとしての可能性に期待したい。せっかく学校で使うのであれば、先生がコーディネータとして使えるといいなと思う。サービスとしてそうした方向性の機能改善や事例があるか、訊きたい。
- 自宅ではできない学校ならではの学び。異質な他者が学び合うこと。
- 「おもしろい」が保障されたサービスの可能性はある?
- ゲーミフィケーションは自発的学習・参加を誘発する。
- 学校教育は義務的な空間、ゲームは自発的。やるかやらないかは子どもたちが選べる。
- 内発的動機づけと外発的動機づけ。
- 学校放送番組なども。ただ見て終わりではなく、番組コンテンツのなかに、授業で活用できるプラットフォームが埋め込まれているのが最近のトレンド。インタラクティブ性なども保障されていて、先生が授業の中で使いやすくなってきている。短時間集中でインプットができる、かつ無償でできる。楽しく、協働的な学習ができる。
小池先生からは、「授業活用」と「おもしろさ」の観点にしたがって、4社への質問がされました。
Q
小学生にはどこまでできる?開発の可能性はある?
- リブリー
- 今のリブリーのUIだと厳しいかな、と思っている。
- 小学生と中高生は学習に対するモチベーションの源泉が違うのではと感じている。中高生は自分ができるようになりたい、という想いが強い。小学生は、純粋に楽しいというところなども求められる。
Q
先生を呼びなさいアラート、なかなか出なかった…。先生が全部に対応できるの?
- インタラクティブスタディ
- 「先生を呼びなさい」は簡単には表示されるようになっていない。長年の実績のなかで、勘所を見極めて仕込んでいる。先生がその子の考えを聞く機会として生かす事例がある。
- 目先のご褒美機能はいかがなものかと思っている。教材のなかに理解できる仕組みを組み込んでいる。理解できたと思えるところが楽しい、を特徴にしたい。
Q
がんばりコイン、逸脱行為にどう対応する?
- やるKey
- 逸脱行為はある。子どもたちはいろいろなことを考える。先生方がどう見とって対応していくかが大事。システムで停止することが是なのかも考えている最中。
- そもそも、わかる楽しさを感じてもらいたい、と思っている。違う学習体験をすることで、おもしろいと思ってもらえるようなコンテンツを検討しているところ。
Q
復習も楽しいと思えるようなシステムってどんなの?
- Qubena
- 教材はツールでしかない。授業の中でどう使うかが大事。これですべてがまかなえるものではないのが前提。
- システムを提供するだけではなく、授業の構成をどうするか、どういうシーンでQubenaを使うかなど授業づくりにまで入り込んで先生方と協働している。
- 練習でQubenaを使った後で、「みんなで発表」というコーナーを作って、みんなで「解き方」について発表するように使ったりもしている。
- 授業の構成としてグループを組ませて、問題数をたくさん解いたところの勝ち、というようなゲーミフィケーションをしたり。どうやって使っていくのかが重要だと思う。
小池先生は、「開発のストーリー、機能改善の話なども聞けてよかった。開発者の方と話しながら、活動を考えていくのも大切だと思った」と質疑を締めくくられました。
まとめ
今回、ワークショップに参加してくれた4社のサービスは、あちこちの公開研究会やEdTech系のイベントなどで何度も見たこともありますし、そこでされる質問などもだいたいは同じようなものなのですが、今回の研究者の先生方からの質問は、あまり聴いたことがないようなことが多く、非常におもしろかったです。担当の方々が熱心にメモをとっている様子が見られ、すごく濃密な質疑応答だったと思います。
こうして、研究者の先生方と企業と現場の先生方との交流がもっともっと起こるといいな、と感じました。
No.4に続きます。
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(為田)