C.M.ライゲルース、B.J.ビーティ、R.D.マイヤーズ『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』をじっくり読んで、Twitterのハッシュタグ「 #学習者中心のID理論とモデル 」を使って、ひとり読書会を実施したのをまとめておこうと思います。
今回は「第5章 カリキュラムの新しいパラダイム」を読んでいきます。第5章を書かれているのは、マーク・プレンスキー先生です。「デジタルネイティブ」*1という言葉を作った人です。あとは、ゲームを教育にどう使うか、ということについての本もこれまでに読みました。
章のタイトル「カリキュラムの新しいパラダイム」にふさわしく、現在のカリキュラムについてばっさり斬っていきます。
カリキュラムについては、「私が「MESS」(国語・算数・理科・社会の頭文字をとって意味を持つ言葉に並び替えた)と呼ぶもの、もしくは「MESS+」(同上に美術・体育・外国語とその他の選択科目を加えたもの)からなるカリキュラムに私たちはみな、こだわっている」(p.119) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
「このような同じ知識基盤型のカリキュラムをすべての人に、という考え方は、すでに時代遅れのものである。現在では、ますます多くの人がスキル基盤型のカリキュラムを構想することを支持している」(p.119) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
「より良いカリキュラムは、私たちが今教えているよりもはるかに幅広く、そして多くの異なる分野にわたり、より多くの主要なトピックを含むものになる。そしてそれは科目の内容ごとに組織化されるものではなく、スキルセットによって整理されるものになる」(p.119) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
世界で成功するためには、「効果的に考え、効果的に行動し、効果的に関係を作り、そして効果的に達成することができる必要がある(略)しかし、私たちは私たちの学習者たちにそのようなことを直接教えないし、それらを含むカリキュラムを作成しない」(p.120) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
カリキュラムが「これからの社会を生きていくのに必要なことを身につける」ことを目指すのであれば、科目の内容語に組織化されず、スキルセットによって整理されるようになる、というのはわかります。では、どんなスキルセットを身につけることが必要なのか。そのためには、子どもたちにどんなことを学んでほしいかを考えていかなくてはならないので、話はそちらへ進んでいきます。
「教育は「科目を学ぶ」、あるいは数学的思考のような特定のスキルを習得するような狭いことではなく、人が何かになる(becoming)ことである」(p.123) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
「教育とは、進む分野に関係なく、各人が自分の可能性の限界まで、効果的に考え、効果的に行動し、他人と効果的に関わり合い、有用なことを効果的に達成できるようになることであり、そうあるべきである」(p.123) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
MESS(国語・算数・理科・社会)を上位レベルの構成要素としないカリキュラムを、マーク・プレンスキーは4つの主題を持つと信じている:1.効果的な思考 2.効果的な行動 3.効果的な関係づくり 4.効果的な達成(p.126) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
ここを読んでいて、「効果的な(effective)」という形容詞が不思議だと思ったのですが、っっこでは「非効果的(ineffective)でない」という意味で使う、と書かれていました。そのため、逆を返して意訳すれば、1. 非効果的な思考をさせない 2. 非効果的な行動をさせない 3. 非効果的な関係づくりをさせない 4. 非効果的な達成を目指さない となるのかな、と思いました。
そのうえで、「表5.1 効果的な思考、行動、および関係づくりの下位分類」(p.128)が示されます。以下、自分が関心があるものを抜き出して並べてみますが、広範に渡るので、この表は全体を何度も何度もじっくり見ていきたいと思います。
表5.1 効果的な思考、行動、および関係づくりの下位分類(抜粋)
- 効果的な思考
- 効果的な行動
- 効果的な関係づくり
この表に挙げられていることを教えてくれている先生もたくさんいらっしゃいますが、これを体系的に公教育のなかで教えようと思ったら、大変革が必要です。簡単に制度を変えられない。たとえ制度を変えることができても、教室でそれを届ける先生のマインドセットやスキルセットまでを一気に変えられない。だから表5.1に書かれている要素が入るように現在の教科教育をアップデートしていくのがいいと僕は思うのですが、それでは間に合わないのでしょうか?
テクノロジーが、この新しいカリキュラムについてどう貢献するのかということについても書かれていました。上の表のなかでも、効果的な関係づくりの下位分類にある「コミュニケーションと協働」のところには、「オンライン」も「仮想世界」も入っています。こうしたところまで視野に入れたカリキュラム作りが必要です。
新しいカリキュラムでは、「テクノロジーの役割は、基盤、つまり私たちが行うすべてのことをサポートするものである。ここで提案しているカリキュラムの全体が、最近急速にそして継続的に改善されているテクノロジーとともにあり、サポートされている」(p.134) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
「重要なことは、これが未来のためのカリキュラムであっても、テクノロジーに主な焦点を合わせたものではないということである。その目的はむしろ、(略)学習者を助けるために、可能な限り強力で最新の方法でテクノロジーを活用することである」(p.134-135) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
さらに、先生の仕事はどう変わるのか、ということについても書かれていました。
「指導者、特に優秀な指導者は、教育において大きく重要な役割を果たし続ける。そのことは新しいカリキュラムでも同じである」(p.135) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
「すぐにテクノロジーがコンテンツ面では素晴らしい仕事をするだろう。しかし、テクノロジーが教育のすべてを担うことはできないし、また担うべきでもない」(p.135) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
「テクノロジーでは不可能な、非常に重要な役割を果たしてもらうためにも優秀な指導者が必要である。それは、学習者を深く動機づけること、尊重すること、共感すること、そして個々の情熱を呼び覚ますことなどである」(p.135) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
そして、「指導者の多くは、国語・算数・理科・社会の専門家ではなく、思考・行動・関係づくり・達成という4つの新しいトップレベルスキルの専門家になる」(p.136)とも書かれています。
すごく同意できるところもたくさんありますが、「じゃあ、これがうまくいくのか?」というきっと何度も何度もくりかえし訊かれただろう質問も書かれていました。
カリキュラムの新しいパラダイムが、本当にうまくいくのか?については、「唯一の正直な答えは「わからない」である」(p.136) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 13, 2020
「カリキュラムの新しいパラダイム」、すごく魅力的だと思いましたが、だからといって一気に「教科の勉強なんて意味がない」からスタートすると、どっちつかずになって大変なことになるだろうな、と僕は思っています(意外と保守的なんです)。それよりは、こうした新しいパラダイムのことを知って、これを教科の授業のなかに入れていけないかどうか、そうした形でアップデートしていくことからスタートするのがいいのではないか、と思います。
No.6に続きます。
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(為田)
*1:対応する我々旧世代は、「デジタル移民」です。