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『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』 ひとり読書会 No.5「第5章 カリキュラムの新しいパラダイム」

 C.M.ライゲルース、B.J.ビーティ、R.D.マイヤーズ『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』をじっくり読んで、Twitterハッシュタグ#学習者中心のID理論とモデル 」を使って、ひとり読書会を実施したのをまとめておこうと思います。

 今回は「第5章 カリキュラムの新しいパラダイム」を読んでいきます。第5章を書かれているのは、マーク・プレンスキー先生です。「デジタルネイティブ*1という言葉を作った人です。あとは、ゲームを教育にどう使うか、ということについての本もこれまでに読みました。

 章のタイトル「カリキュラムの新しいパラダイム」にふさわしく、現在のカリキュラムについてばっさり斬っていきます。

 カリキュラムが「これからの社会を生きていくのに必要なことを身につける」ことを目指すのであれば、科目の内容語に組織化されず、スキルセットによって整理されるようになる、というのはわかります。では、どんなスキルセットを身につけることが必要なのか。そのためには、子どもたちにどんなことを学んでほしいかを考えていかなくてはならないので、話はそちらへ進んでいきます。

 ここを読んでいて、「効果的な(effective)」という形容詞が不思議だと思ったのですが、っっこでは「非効果的(ineffective)でない」という意味で使う、と書かれていました。そのため、逆を返して意訳すれば、1. 非効果的な思考をさせない 2. 非効果的な行動をさせない 3. 非効果的な関係づくりをさせない 4. 非効果的な達成を目指さない となるのかな、と思いました。

 そのうえで、「表5.1 効果的な思考、行動、および関係づくりの下位分類」(p.128)が示されます。以下、自分が関心があるものを抜き出して並べてみますが、広範に渡るので、この表は全体を何度も何度もじっくり見ていきたいと思います。

表5.1 効果的な思考、行動、および関係づくりの下位分類(抜粋)

  • 効果的な思考
    • コミュニケーションの理解
    • 定量的およびパターン的思考
    • 科学的思考
    • 批判的思考
    • 歴史的展望
    • 問題解決
    • 好奇心と問うこと
    • 創造的思考
    • 財政的思考
    • 探究と議論
    • 判断
    • 転移
    • 前向き思考
    • 自己認識
    • ストレスコントロール
  • 効果的な行動
    • 高度に効果的な人の習慣
    • 身体と健康の最適化
    • 機敏性
    • 適応力
    • リーダーシップとフォロワーシップ
    • 不確実性下の意思決定力
    • 実験
    • 前向き思考
    • 起業家精神
    • 方略と方術
  • 効果的な関係づくり
    • コミュニケーションと協働(1対1、チーム内だけでなく、オンライン、仮想世界でも)
    • 傾聴力
    • ネットワーキング
    • 共感
    • 寛容性
    • 倫理
    • 政治
    • 市民性
    • 衝突の解決
    • コーチング/コーチングされること
    • ピア間指導

 この表に挙げられていることを教えてくれている先生もたくさんいらっしゃいますが、これを体系的に公教育のなかで教えようと思ったら、大変革が必要です。簡単に制度を変えられない。たとえ制度を変えることができても、教室でそれを届ける先生のマインドセットやスキルセットまでを一気に変えられない。だから表5.1に書かれている要素が入るように現在の教科教育をアップデートしていくのがいいと僕は思うのですが、それでは間に合わないのでしょうか?

 テクノロジーが、この新しいカリキュラムについてどう貢献するのかということについても書かれていました。上の表のなかでも、効果的な関係づくりの下位分類にある「コミュニケーションと協働」のところには、「オンライン」も「仮想世界」も入っています。こうしたところまで視野に入れたカリキュラム作りが必要です。

 さらに、先生の仕事はどう変わるのか、ということについても書かれていました。

 そして、「指導者の多くは、国語・算数・理科・社会の専門家ではなく、思考・行動・関係づくり・達成という4つの新しいトップレベルスキルの専門家になる」(p.136)とも書かれています。

 すごく同意できるところもたくさんありますが、「じゃあ、これがうまくいくのか?」というきっと何度も何度もくりかえし訊かれただろう質問も書かれていました。

 「カリキュラムの新しいパラダイム」、すごく魅力的だと思いましたが、だからといって一気に「教科の勉強なんて意味がない」からスタートすると、どっちつかずになって大変なことになるだろうな、と僕は思っています(意外と保守的なんです)。それよりは、こうした新しいパラダイムのことを知って、これを教科の授業のなかに入れていけないかどうか、そうした形でアップデートしていくことからスタートするのがいいのではないか、と思います。

 No.6に続きます。
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(為田)

*1:対応する我々旧世代は、「デジタル移民」です。