C.M.ライゲルース、B.J.ビーティ、R.D.マイヤーズ『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル』をじっくり読んで、Twitterのハッシュタグ「 #学習者中心のID理論とモデル 」を使って、ひとり読書会を実施したのをまとめておこうと思います。
今回は「第6章 メイカー基盤型インストラクションのデザイン」を読んでいきます。この章から第2部 学習者中心の教育パラダイムのより詳細なデザインになります。メイカー基盤型というのも、テクノロジーあってこそのものです。
まず、メイカー教育とは何か?→「「メイキング(making)」として知られるようになった文化的・教育的な現在の減少は、ニール・ガーシェンフェルド(Neil Gershenfeld)が考案したMITのFab Labに根ざしている」(p.149) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
学校内にFab Labをもっているところもあります。3Dプリンタなど「自分で作る」ことができるようになる。そのためにデジタルを活用する。それによって自分で世界に関わっていくことができる。プログラミングと似ているのは、自分で作って世界とどんどん関われるところ。プログラミングと違うのは、実際に形のあるものを作るので、適用できるところがリアルな世界で端末もプラットフォームも何もいらないところ、だろうか。
メイキングとは「芸術と設計、工学、伝統工芸の交差点に位置する実践により、結果的に物理的な作品が作成されること」(p.149)であり、「オープンソースの知識と技術を使って個人が作品を創造することを可能にするという目的と価値観」(p.149)をmaker movementと共有する。 #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
「メイカー指向のプロジェクトは、工学指向のリテラシーを開発するだけでなく、製作過程でのまさしく「つくる」という活動によって、それぞれの子どもが意味と個人的な価値を感じるものを創造する機会となる役割も果たす」(p.150) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
このメイカー教育の文脈を、プログラミング教育と組み合わせることがあまりされないのってなぜなのだろう。うまく組み合わせられればいいのにな、と思うのだけど。
僕はメイカーについては、『MAKERS』で初めて知ったように思うのですが、ぽっと出てきたものではなく、古くからある学習理論と共鳴していると言います。
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メイカー教育は新しく画期的なものではない。→「メイカー指向のプロセスは1世紀前の学習理論と共鳴している。デューイとヴィゴツキーが真正で経験的で全体的な問題基盤型学習やプロジェクト型学習の体系化を通じて学習を改善する可能性を語ったのは1920年代」(p.150) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
メイカー文化の文脈の中では学習は、「経験的及び審美的プロセス」「最近接発達領域内の知識に学習者が触れる社会的に位置づけられたプロセス」(p.150)として考えられる。 #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
「協働的なデジタルテクノロジーを介して問題基盤型やプロジェクト型のプロセスに頻繁に取り組む学習は、状況的認知論の中の活動システムとして捉えることもできる」(p.150) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
メイカー教育に反映されている価値観:「学習は意味のある文脈で何かを行うことによって促進することができる」「メイカー教育での学習は、コミュニティ内に位置づけられている」「メイカー教育での学習は、大部分が能動的で自己主導型でなければならない」(p.151) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
「メイカー教育の多くは、製作のための学習という方向よりも、学習のための製作という方向に価値を見出している。これは、できあがった作品よりも作るプロセスに重点を置く考え方である」(p.151) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
この「できあがった作品よりも作るプロセスに重点」というのは理解できるけど、学校教育との相性が悪いところかもしれないと思っています。作るプロセスに没頭して膨大なムダをする、ということがとても大事だけど、なかなか学校教育の中でその余裕はない(評価もしにくい)ように思んですよね。
続いて、メイカー教育の実践のために、教育環境をどのように整えるべきか、その土台にある価値観について書かれています。
- 行うことによる学習:
学習は意味のある文脈で何かを行うことによって促進することができる- 共同体の中に位置づける:
メイカー教育での学習は、コミュニティ内に位置づけられている
- 「人の学習は、その環境の文脈の中にある」(p..152)
- 「モデルや文章、その他の知識表現を作成することを学習者に要求するプロジェクトでは、コンピューティングの要素を追加することで、知識とスキルをコミュニティ全体に分散できるように変形させることができる」(p.152)→作ったものを社会に対して投げかけられる=分散できる、というのは社会という文脈に学びを接続するのでとてもいいと思っています。いま関わっているプロジェクトも、まさにこういうふうに考えてカリキュラム書いてます。
- 能動的で自己主導的:
メイカー教育での学習は、大部分が能動的で自己主導的でなければならない
- 「指導者やその他による制御を外してやることではなく、むしろ、手引された環境で価値を感じられるものを追求する自由を学習者に与えることによって、自己制御が促進される」(p.152)
- 「メイカー教育の活動は、生産性の低い活動、あるいは非生産的な活動へさえも発展する可能性があることに留意することが重要であり、したがって、インストラクショナルデザインの重要性と役割を考慮する必要がある」(p.153)
- プログラミング教育の授業で、「うーん」と僕が思うことの多くは、ここに起因していると思う。この「非生産的な活動」になっちゃっているけど、でもプロセスは素晴らしいということがときどきある(もちろん、いつもではない)。それをどう見つけてあげられるか。
続いて、メイカー基盤型インストラクションのデザインを実践する際の普遍的原理が紹介されていました。
メイカー教育のための環境設計のための普遍的原理(p.153):1.出発地点 2.道具、材料、資源 3.設計のゴール 4.設計課題の構造化 5.プロトタイプ製作、失敗、改良 6.意味のある質問から始まる学習者による問い 7.学校を超えた価値 #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
項目を抜粋し、それぞれ関心があったところをまとめておきます。上の7つとそのまま対応する訳語をあてればいいのに…。もしかして原文では違う単語をあてられているのかな…(すみません、原本にあたる元気はなく…と白状します)。
章の最後に、「おわりに:積み上げること」と出してあって、指導者=先生の役割についても触れられていました。
「メイカー技術を教室に導入することを検討するにあたっては、学習者のために設計したカリキュラム活動の文脈で機能するテクノロジーを用いて指導する能力」(p.169)が指導者に必要となる。 #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
「テクノロジー実施の成功への鍵となる要因は、指導者のテクノロジーを扱う能力と社会的認識、そして、教室で成功する革新を生むために彼らの教育学的信条をテクノロジーと整合させる能力である」(p.169) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
「文脈の組み立てに教授構造が伴わないと、豊かな文脈を持つだけでは不十分」→「指導者の責任は、対話的でかつ接続されている環境の中で学習者の興味とこれまでの経験とを念頭に置き、カリキュラムと教材を決定することである。」(p.169) #学習者中心のID理論とモデル
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「つまり、学習者には大きな自由度を与えながら、限りある環境の中で、興味を活かしながらメイカー文化を支える共通の専門性と価値を育んでいくのである」(p.169) #学習者中心のID理論とモデル
— 為田裕行 (@Hiroyuki_Tameda) August 22, 2020
多くの箇所で、「指導者」という言葉が出てきて、指導者がメイカー基盤で学ぶ場を、文脈の中に位置づけて、そこでどう学ぶかを設計し、さらに寄り添って作っていく、ということが書かれていました。
この章の最後の、「テクノロジー実施の成功への鍵となる要因は、指導者のテクノロジーを扱う能力と社会的認識、そして、教室で成功する革新を生むために彼らの教育学的信条をテクノロジーと整合させる能力である」というところ、すごく好きです。あちこちの研修で言いたいです。
メイカー基盤型インストラクションでFab Labなどの方を自分でやる予定は現在はないですが、ここで書かれている文脈をプログラミング教育の文脈に当てはめられないかな、と考えてみたいな、と思いました。非常に勉強になりました。
No.7に続きます。
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(為田)