教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

書籍ご紹介:『「探究」する学びをつくる』

 藤原さと さんの『「探究」する学びをつくる』を読みました。プロジェクト型学習、探究型学習で名前を聞くことが多い、アメリカのハイ・テック・ハイ。きちんとどんな学校かというのを勉強したくて読みました。

 ハイ・テック・ハイでどんなことを大事にしているのかということを知ることができます。関心があるところをメモとして公開します。

 最初に、ハイ・テック・ハイでは、「批評」のプロセスをとても大切にしている、というところです。日本の学校の授業でもICTを活用できるようになって、児童生徒が書いたアウトプットに対して先生がコメントをしたり、クラスメイト同士でピアレビューをしたりすることが容易になってきています。だからこそ、「どういう視点で批評をするのか」が重要です。

ハイ・テック・ハイではどのようにして「批評」のプロセスを支え、実施しているのだろうか。まず基本的な考え方は以下の3つである。(p.124)

  1. 優しく、具体的で、助けになる批評を行う(Kind, Specific and Helpful)。
  2. コンテンツに対しては厳しく、人には優しく。
  3. 自分も話し、人も話せるようにし、すべての人の「声」が受け取られるようにする。

 ハイ・テック・ハイでの「批評」における教師の規範4要素も紹介されていました。(p.126-127)

ハイ・テック・ハイでは、CAREという頭文字をとり、「批評」における教師の規範4要素を示している。

  • 「C」Create and Maintain an Environment of Trust(信頼の環境を醸成し保つ)
    クラスの一人ひとりが、「批評」を通じて思いやりを育てるようなクラス文化をつくり上げるように、教師は「批評」の規範を指し示すだけではなく、自らがそのモデルとなり、クラス内の「思いやり」や「協力」を実現する「批評」を行う。
  • 「A」Allow Students to See the Real You(生徒が本当の自分が見つけることを促す)
    教師は失敗から何を学んだかを身をもって示す。自らの失敗をさらけ出し、それがいかに学びにつながり、探究の旅につながったかを語り、「私も知らないのだ」と伝えることで、生徒たちは、はっとするような自己への認識の旅を歩み始める。
  • 「R」Respond to the Diversity in the Room(多様性に応える)
    クラスにいる一人ひとりはかけがえのない個性をもっている。「批評」のセッション時には、すべての子どもの「声」が聞き入れられ取り入れられるように、教師はすべての方策を尽くして、努力をしなければならない。
  • 「E」Encourage and Expect Growth from All Students(すべての生徒の成長を信じて援助する)
    落ちこぼれだと感じている生徒は、学びを諦め、批評の対象とされない。一方で、要領よく課題をすませる“成績”のよい子は簡単にA評価を与えられるが、そういう子も二度と「批評」の機会が与えられない。しかし、すべての生徒は、「批評」によって一人ひとりの学習の熟達や努力、成長がしっかりと尊重されなければならない。

 この批評における教師の規範4要素「CARE」を見てみると、ICTによって実現できることも多いように思いました。特に最後の「E」Encourage and Expect Growth from All Students(すべての生徒の成長を信じて援助する)は、教室で授業をさせてもらうときには意識していきたいな、と思います。

 探究型の学習を考えるときに、「どうやって評価をするのか?」ということは先生方にとっては大事な問題だと思います。ハイ・テック・ハイでは、自己評価とピア評価をしているということが書かれているのですが、そのなかにある「自己評価」についてのところ、賛同できる部分が多く、取り入れてみようかな、と思いました。

自己評価については、「形成的評価」が中心だとしても、三者面談の形態をとる「Student-led-conference」や、プロジェクト後や期末などに行われるPOL(学びのプレゼンテーション Presentation of Learning)というプレゼンテーション形式の総括的評価をある。POLでは、生徒はプロジェクトの過程でどのようなことを調べ、考えたか、などのプロセスをポートフォリオ(デジタルとアナログの両方ある)にまとめ、学んだことを総括して、クラスメイトや両親、保護者のいる前で発表する。(p.144)

 この学びのプレゼンテーション(POL: Presentation of Learning)は、学期の最後とか学年の最後にやってみたいな、と思いました。アナログ、デジタルを組み合わせてのポートフォリオも、GIGAスクールにより配備される一人1台端末があればもっとやりやすくなると思います。(すでに、ロイロノート・スクールやスクールタクトをポートフォリオ的に使っていることもありますし)

 また、「成績(Grade)」と「評価(Assessment)」の違いについても書かれていたので、ここもメモしておきます。

POLでは、「成績(Grade)」がつく。いわゆるABCD評価であり、大学受験にも提出されるものである。よって、POLは大学に行きたいと考える学生にとって非常に大事なものとなる。デジタルポートフォリオといって、自分の取り組んだ過程を個人のホームページにアップデートしたものも評価対象になるほか、プレゼンテーションの内容も評価対象になるため、生徒はとても緊張して臨むという。ちなみに、ハイ・テック・ハイは、「成績(Grade)」と「評価(Assessment)」は明確に切り分けて考えている。「評価」は各教師が実施する学びに合わせて設計していくものであり、「成績」は社会から求められるものである。(p.145)

 こうして「成績(Grade)」と「評価(Assessment)」が切り分けられてくると、テストのあり方も変わってくる、と書かれていました。

テストで成績がついてしまうというプレッシャーから生徒を解放することは重要だと、ハイ・テック・ハイは考えている。ハイ・テック・ハイでは、生徒はテストを受けるし、クラスメイトと一緒に点数もつけ、どこが悪くてどこが改善できるのかを振り返るが、その点数で成績がつくことはない。逆説的であるが、テストが直接成績に反映されないことで、生徒はテストの意味を感じ始めるという。さらに、プロジェクトを進めるなかで、テストがプロジェクトにも有益だと思えるようにいなると、生徒はテストに対して前向きに取り組むようになる。
ハイ・テック・ハイは評価(Assessment)と成績(Grade)を明確に区別して考えているが、この区別は非常に重要である。「成績」は大学受験のためにも必要であるが、あくまである時点における「能力の一部」を表したものにすぎない。「評価」は、自分の興味のあり方を把握し、自分のクラス、ひいては社会における立ち位置を確認し、どうすれば自分が成長するかを自ら考えていくためのものである。(p.160)

 GIGAスクール構想によって情報化が進む学校において実装できるようになってきている考え方がたくさん書かれている本だと思います。できるところから、取り組んでいこうと思いました。まずは、「CARE」を大事に、日々、子どもたちに接していこうと思いますし、先生方が「CARE」を大事にできるような授業ができる教材やサービスを広げるお手伝いをしていきたいと思います。

(為田)