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『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』 ひとり読書会 No.8 「第9章 協同的な学習における子どもの学びと育ち」(金田裕子 先生)

 奈須正裕 先生と伏木久始 先生の編著『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』をじっくり読んで、ひとり読書会として読書メモをまとめていこうと思います。
 今回は金田裕子 先生が書かれた「第9章 協同的な学習における子どもの学びと育ち」です。

個の学びと協同的な学びの関係を問う

 最初に、個の学びと協同的な学びの関係について書かれていました。個別最適な学びと協働的な学びを目指している学校の公開授業などで授業を参観していて、ときどき感じる疑問が書かれていました。

個別最適な学びの実現を目指す方向性のなかで、子どもたち一人ひとりが学びの主人公となり個性的な学びを展開する可能性が開かれてきた。しかし教室の具体的な事実を見ていくと、個別最適な学びと協働的な学びが相互に半目し合うかのような局面に出会うこともある。(p.177)

 具体的に言うと、一人1台のタブレットが完備されたことによって、以下のようなことが起こるから、です。

子どもたちの視線や身体が個人の画面に固定されてしまい、子どもたちの学習に生まれていた細やかなやり取りが気づかれぬ間に阻害される事態も見受けられる。このように、ペアやグループでの活動の機会が過度に制限されたり、協同的な学びへの志向が減少したりすることも危惧されている。
一方で、協同的な学びの必要性への問い直しも要請されている。たとえば一人ひとりが個性的な学びを夢中になって追求しているとき、ある子どもの探究を教師が取りあげ教室全体で共有しようとすることは、教室でよく見られる場面である。しかしそのことで、個々の子どもたちが展開しはじめていた自由で多様な学びを止めてしまったり、特定の方向に収斂させてしまったりすることもあるだろう。(p.177-178)

 そのうえで、個の学びと協同的な学びの関係について考えていくという方針が書かれています。

個の学びの過程において、協同はどのような場面でなぜ、志向されるのだろうか。(p.178)

協同の意味を探るには、学びにおける協同を認知的な観点からだけでなく、社会的・倫理的な観点から捉えていく必要があるのではないか。
本稿では協同的な学びを基盤とする「学びの共同体」の理念と実践を見ることで、教室における協同の意味を多面的に示し、個の学びと協同的な学びが一体的に充実する学びの在り様を探ってみたい。(p.178-179)

「学び」の概念を対話的実践として捉える

 佐藤学 先生が提唱している「学びの共同体」についての説明がありました。

佐藤学が提唱した「学びの共同体」は、「子どもたちが学び育ちあう」こと、「教師たちも教育の専門家として学び育ちあう」こと、さらに「保護者や市民も学校の改革に協力し参加して学び育ちあう」ことをヴィジョンとする学校であり、「一人残らず子どもの学ぶ権利を保障し、その学びの質を高めること」と「民主主義社会を準備すること」を学校の公共的使命であるとする。(p.179)

 このあたりは、以前に取り上げた『学校を改革する 学びの共同体の構想と実践』が参考文献として挙げられていました。

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 ここから、佐藤学 先生の「学びの対話的実践の三位一体論」が紹介されます。

協同の意味を再考するには、まず「学び」の概念を対話的実践として捉えた佐藤の「学びの対話的実践の三位一体論」を確認する必要がある。佐藤は、学びを「対象世界との出会いと対話」「他者との出会いと対話」「自己との出会いと対話」の3つの対話的実践として再定義している。(略)学びはこの「世界づくり」と「仲間づくり」と「自分づくり」の3つの対話的実践の統合である。(p.179-180)

 学びが「世界づくり」と「仲間づくり」と「自分づくり」の3つの対話的実践の統合である、という表現はとても好きです。「世界づくり」と「仲間づくり」と「自分づくり」をデジタルでどんなふうに補強することができるのかを考えるの楽しそうです。
 学びのためのツールとして使うのはもちろん、コミュニケーションツールとして豊かで生産的なやりとりをできるようにもできると思うし、授業支援ツールを使って仲間とのやりとりをしたり、自分の思考や表現を深めることにも使えます。
 こうした観点からICTを活用しての「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を考えていきたいなと思いました。

学びの共同体の教室で機能している倫理的規範

 最後に学びの共同体の教室で機能している倫理的規範について書かれていました。

学びの共同体の教室で機能している倫理的規範として、「威厳(dignity)」「信頼(trust)」「互恵(reciprocity)」「共同(community)」の4つが、際立った特徴であるという。(p.195-196)

 「威厳(dignity)」「信頼(trust)」「互恵(reciprocity)」「共同(community)」についての説明(p.196)をまとめてみました。この4つが教室にどれくらいあるかについても、授業を見るときの観点として使えるかもしれないと思いました。

  • 尊厳:子ども一人ひとりの個人としての尊厳を重視する
  • 信頼:聴き合う関係と学び合う関係の根底にある倫理的規範。信頼関係に支えられて、子どもたちは学びに没頭する
  • 互恵:協同によって生まれる豊かな価値と幸福を享受し合う関係
  • 共同:誰ひとりとして1人になっていない共同性

 学びの共同体の教室づくりの第一歩は、個別最適な学びと協働的な学びの目指すところと同じだと思います。

誰もが教室で受け入れられ安心して学び、誰もが教室に居場所をもつことが、学びの共同体の教室づくりの第一歩となる。(p.196)

まとめ(というか、気づき)

 佐藤学 先生の「学びの共同体」については、ここ1~2年で関わらせていただいた学校で先生方からいろいろと教えてもらいました。デジタルでどのように学びの共同体をサポートできるのかについて、引き続き考えていきたいと思います。


 No.9に続きます。
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(為田)