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『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』 ひとり読書会 No.10 「第11章 多様な学び方を許容できる協同学習」(涌井恵 先生)

 奈須正裕 先生と伏木久始 先生の編著『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』をじっくり読んで、ひとり読書会として読書メモをまとめて公開しています。今回は涌井恵 先生が書かれた「第11章 多様な学び方を許容できる協同学習」です。

 この本を通して読んでいて、僕は「第3章 一体的な充実を実現する2つの在り方」「第4章 互恵的に深化・発展する個別最適な学びと協働的な学び」に書かれていたような、「多様な個人の学び方ができるようにする」という視点から「個別最適な学び」と「協働的な学び」を見ていなかったように思っています。だからこそ、もっと多様な学習者が学びに参加できる「協同学習」について書かれている今回の第11章は勉強になりました。

本章では、「協働的な学び」の1つの指導モデルとして、「協同学習(cooperative learning)」の基本的な考え方について記し、また発達障害などの特別な教育的ニーズのある子どもたちを含む多様な集団における実践を紹介する。(p.213)

 ときどき飛び込み授業をいろいろなところでさせていただくこともありますが、そのときに僕は「発達障害などの特別な教育的ニーズのある子どもたち」に学びの機会を与えられていない自分に気づくことが多いのです。だからこそ、いろいろなことを学びたいと思いながら、この章を読み進めました。

協同学習について

 最初に、「協同学習(cooperative learning)」とは何かについて書かれていました。

ジョンソンら(Johnson, Johnson & Holubec, 1993; 2002)は、協同学習とは、学習者を小集団に分け、その集団内の互恵的な相互依存関係をもとに協同的な学習活動を生起させる指導技法のことであると定義している。互恵的な相互依存関係とは、目標、報酬(賞やご褒美)、教材、役割などについて互いに協力を必要とするような関係のことを指す。(p.214)

 具体例としては、「全員が理解して課題について説明できるようにする」「全員で協力して正解を見つけることを目標にする」など、グループ活動の目標を設定したり、役割を分担して課題解決に取り組むなどの方法があります。
 グループ活動はうまくいくグループもあれば、なかなかうまくいかないことも多いと思います。僕自身も大学時代に多くのグループワークをしましたが、楽しく学び多いグループワークもあれば、「二度とグループワークやりたくない」と思うこともありました。
 グループで課題を共有するからこそ、みんなが貢献できないケースや、グループワークにただのり(フリーライド)するメンバーがいるとちょっと厳しくもあります。先生としては、どんなケースで協同学習を導入するか、気をつける必要があると思います。グループの中で貢献できていなかったりするメンバーに「非難や攻撃行動などのネガティブな副次的な効果が発生する場合も考えられる」(p.215)とも書かれています。

これらの知見を念頭におくと、特に発達障害のある子どものように、遂行成績の予測が難しい子どもが参加する集団においては、学習の成果ではなく、学習のプロセス如何によってグループへの報酬(賞賛、ご褒美)を与えるほうが望ましい指導方略であるといえるだろう。(p.215)

 学習の成果だけでなく、プロセスを評価し、それに報酬を与えるほうが望ましい、というのはたしかにそうだと思います(でも、難しそうです…)。参考文献として挙げられていた、協同学習入門の本2冊、気になったのでリンクを貼っておきます。チェックしたいと思います。

協同学習がうまく成立するための6つの要素

 続いて、協同学習がうまく成立するための6つの要素が紹介されていました。多数の協同学習に関する研究を行ってきたジョンソンらの言葉として、「単にグループで活動するだけでは協同学習とはいえず、真の“協同学習”を実現するために」(p.215)、6つの要素が必要だと書かれていました。以下、まとめます。

協同学習がうまく成立するための6つの要素(p.215-218

  1. 互恵的な相互依存性『運命の共同体』
    • お互いに恩恵を与え合ったり、お互いに役割を果たし合ったりしてこそチームの目標が達成されるなど、学習のめあてや教材、役割分担等に互恵的な相互依存性があること
  2. 互いに高め合うような対面的なやりとり
    • 子ども同士で互いに高め合うような対面的なやりとりの機会が十分にあること
  3. 個人の責任
  4. ソーシャルスキルや協同・協働スキル
    • ソーシャルスキルや協同・協働スキルが教えられ、頻繁に活用できる状況設定がされていること
  5. チームのふりかえり
    • 自分たちはどんなふうに協同がうまくいったか、どんな改善点が考えられるかといった、チームのふりかえりがなされること
  6. 多感覚またはマルチ知能を活用
    • 発達障害等の子ども等の認知特性の多様性に応え、誰もが積極的に参加し活躍できる学習にするために必要
    • 多重知能/マルチ知能(MI: Multiple Intelligences)を活用して学習活動や教材を言語的能力だけに偏らないものにすること

 ここで6つめの要素となっている多重知能/マルチ知能は、言語的知能、論理・数学的知能、視覚・空間的知能、身体運動的知能、音楽的知能、対人的知能、内省的知能、博物的知能の8つの知能のことですが、これをピザの形に配置し、小学生向けにわかるようにピザの形にして説明を加えたポスターがあります(p.217)。
 涌井先生のnoteで、このマルチピザを見ることができます。こういうのも教室のみんなで共有するといいなと思いました。
note.com

多様な子どもが活躍できる授業の実践例

 発達障害のある子どもなど、多様な子どもが参加する協同学習がうまく成立するためには、多重知能/マルチ知能を活用して、「書いたり読んだりといった言語的能力だけに偏らない多様な参加が可能な学習活動や教材を用意することが重要」(p.220)と書かれています。ここが、僕自身がすごく弱いところなのではないかな、と思っています。言語的能力に僕自身が偏っているのです、たぶん。自覚しないといけないですね。
 そのうえで、自分で学び方を学べるような授業をするにはどうすればいいのか、ということが続けて書かれていました。

学び方自己選択式協同学習による授業の骨子は、国語も算数も理科も社会も、どの教科も基本的には同じである。(p.220-221)

  1. 本日の学習課題(問題)について教師が説明する
  2. 学習課題(問題)を解決するために、どんなふうにマルチ知能等の力を活用できるか全体で複数方略例を出し合い、課題解決の手がかりや見通しを子どもに与える
  3. 課題解決に取り組む時間をとる(グループで取り組んでも、1人で取り組んでもよい)
    • 教師はあらかじめ、子どもたちから出そうな意見を想定して、それに対応した学習プリントや教材を複数用意しておく。また、同じ学習方略(学び方)を選んだ者同士の活動場所を指定したりして、ゆるやかにグループ活動をサポートする
    • 子どもたちは、友達と意見を交換したり、1人で取り組んだりしながら課題に取り組む
  4. 課題に対する解答について数名が代表で全体に発表する
  5. まとめとふりかえりを行う
    • 本時の学習のまとめをする
    • どのマルチ知能等の力を(どのように)使って課題解決したのかについてふりかえりをする

 「学び方自己選択式協同学習」、個別最適な学びをサポートするということは、準備を複線的に用意しておくが大事だな、と感じました。

個別最適な学びを実現するため、つまり、どの子にとってもできる、わかるユニバーサルデザインな授業を実現するためには、1つの指導方法を全員に当てはめるのではなく(One size fits all)、複数の学び方のアプローチを用意することが重要である。また、自分で学び方を選択することは、学習活動への動機づけや自己調整学習の観点からも重要なポイントとなっている。(p.221)

 ”One size fits all"じゃないのを目指そう、というのはいい表現だな、と思いました。

多様な子どもが参加する場合の工夫とインクルージョンへの視座

 最後に、多様な子どもが参加する協同学習の良さについても書かれていました。これまでの授業の形ではなかなかできなかったことが実現できるようにも思います。

マルチ知能や「やる・き・ちゅ(やる気・記憶・注意)」を活用した授業を通じて、「課題解決の方法はいろいろある」、「その人の得意なやり方・学び方は一人ひとり異なっている」、「他者それぞれのやり方がおもしろい」「皆ちがって皆いい」といった価値観を学級内で共有できるようになっていく。(p.227)

まとめ(というか、気づき)

 自分自身に欠けている視点をたくさん得られた、「第11章 多様な学び方を許容できる協同学習」でした。協同学習の設計をしっかりやってみたことがないので、トライしてみようと思います。

 No.11に続きます。

(為田)