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研究ご紹介:ピア・ラーニングの効果を高めるには能力差のあるペアを作るのが有効だ

 慶應義塾大学 教授の亀井憲樹 先生が独立行政法人経済産業研究所のサイトにSpecial Reportとして寄稿している「ピア・ラーニングの効果を高めるには能力差のあるペアを作るのが有効だ」を読みました。実はずっと読みたいと思っていたのですが、ようやく読めました(2023年1月31日に掲載されているので、なんと1年ごし…)。

www.rieti.go.jp

 詳細はぜひ読んでいただければと思うのですが、2人1組のペアになって学ぶときのピア・ラーニングの効果をイギリスのダラム大学で、亀井先生が担当していた授業科目「経済学入門」で実施したフィールド実験のレポートです。その結論が、「ピア・ラーニングの効果を高めるには能力差のあるペアを作るのが有効だ」です。

 僕は自分が小学校や中学校の授業でペアを組んでの活動をすることがありますが、そういうときにあまりに能力差があるペアは作らないようにしていると思います。でも、このレポートを読むと、「能力差のあるペアを作る方が有効」と書かれているのです。
 その理由として、社会的効果と相互学習効果の2つが挙げられていたのでまとめてみました。

  • 社会的効果(social effects)
    • ペアレポート課題を2人1組でお互いに採点・評価をするときに、学生が自らの低いパフォーマンスを認識する場合には負の社会的効果(=恥 shame)を受け、逆に高いと認識する場合には正の社会的効果(=プライド pride)を享受する。
    • このようなパフォーマンス情報がもたらす心理的効果は、学生にとって自主的学習を強化する動機となり得る。
  • 相互学習効果(mutual learning effects)
    • 能力が高いメンバーが強い社会的選好など非利己的選好を有する際に、能力の高いメンバーは、能力の低いメンバーの理解を助けるようにコストをかけてでも教育する動機を持つ。
    • このとき、ペア内での能力差が大きいペアほど高い効果が期待できる。

 イギリスの大学生による実証なので、僕がいつも授業を見ている小学校、中学校・高校の教室でも同じような効果が言えるのかはわかりません。でも、僕は教室で教えるときには、負の社会的効果(恥 shame)があまり生まれない方がいいな、と思っています。
 でも、それも実は先入観でそう思ってしまっているだけで、子どもたちの学習の効果を最大化できていないのかもしれないのか、とも思いました。科学とか研究はこうして自分を揺さぶってくれるものに出会う方が楽しいですね。

 現場でたくさんの子どもたちを見てきた先生方がどのようにこのレポートを読んで思われるのか、お話を聴いてみたいです。短いレポートですし、行った実験内容も詳しく書かれていますので、読んでみての感想など教えていただけるとうれしいです。

(為田)