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近未来の学校教育体験セミナー「アダプティブ・ラーニングは算数/数学の教え方をどう変えるのか?」 イベントレポート No.5 (2019年8月24日)

 2019年8月24日に、仙台のNTTドコモ東北支社にて、近未来の学校教育体験セミナー「アダプティブ・ラーニングは算数/数学の教え方をどう変えるのか?」を開催しました。アダプティブ・ラーニングの3サービスを順に体験してもらった後で、リフレクションの時間をとりました。「アダプティブ・ラーニングに感じた可能性」と「アダプティブ・ラーニングで気になったこと」の2つのテーマを設定して、参加者にスクールタクトにログインしてもらい、それぞれのテーマで書いてもらいました。
 今回は、テーマ「アダプティブ・ラーニングに感じた可能性」をレポートします。
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 参加者の皆さんにたくさんのコメントを書いてもらったのですが、すべてのコメントについて会場で取り上げることができなかったので、ここではより多くのコメントを紹介していきたいと思います。

アダプティブ・ラーニングの良さ

 実際に、やるKey、Qubena、Libryの3つのサービスを体験してもらって、「どういう問題が出題されるのか」ということを中心に多くのコメントをもらいました。これは、「アダプティブに出題する仕組み」の説明もしてもらったことによる良さだと感じました。

  • 復習が簡単になること、先生は類題の準備の手間がなくなることなどメリットが先生・生徒双方にある。感覚的には塾でもメリットが大きそう。
    個人的にはLibryの忘却曲線を用いた復習レコメンドがぐっときた。
  • 授業以外の時間も学習として積み重ねができる。個人差に応じた学習ができる。
  • 一人でもどんどん進めることができるので、無駄な時間が減る。
  • 丸つけを手作業でしなくてもいいのは他のことに使える時間も増える。
  • 正解・不正解のフィードバックが即時なのも、子どもたちの意欲につながる。
  • 小学生は喜んで取り組むはず。
  • 子どもたちのモチベーションの継続性
  • 教員の時間短縮:プリントの印刷、回収、入力については圧倒的に楽になりそう。
  • 類似問題が表示される:文言が変わっただけで解けなくなる生徒もいる。さまざまな表現や問題に触れられるのが良い。
  • 解けなかったときの復習問題:今まで、教師の経験や勘で行っていたことを効率よくできる。
  • おせっかいな復習機能:一度解いたらおしまい、という生徒もいる。目的は「提出すること」ではなく、「できるようになること」「しっかりと定着すること」なので、時期をあけて繰り返し説かせたい。
  • 手書き文字の認識精度の高さ:複雑な数式が出てくる数学や物理では、OCRの精度の高さは非常にありがたい。
  • ある意味、教員以上に教材の分析がされていると感じた。個々の生徒の細かいつまずきポイントが明らかになるのはすごいと感じた。
  • これまで教員が担ってきた、生徒の思考活動把握、分析、支援をAIが行うことで、より的確な支援ができ、時間効率がよいと思いました。
  • 何が不得意、理解不十分かの認識は、特に小中学生には困難であろう。その点に対して機械の力は有用。
  • できる、わかる(知識・技能)の習熟定着の効率の向上に有用。
  • Libryがとても気に入りました。特にオフラインでの学習を形に残せる点が良いと思います。ノートだけでなく、動画や写真もアップできるようになるとさらに!

授業展開、カリキュラム・マネジメントとの組み合わせ

 アダプティブ・ラーニングの教材を活用するのは、ただ自学自習のために使うだけでなく、授業と組み合わせることによる可能性について書いているコメントもありました。

  • 一人一人の学習状態を見た上で(一定の短期間での評価に準じて)、授業の展開を調整したり、単元計画を変更したりして、子どもの状態に即した授業ができるようになりそう。
    • *思いつきで変更するのではなくて。
    • *教師の力量形成と両輪で。
  • 生徒の定着度に合わせて課題が出せるのはとても良いと思いました。特に数学は人によってつまずくところが違い、個々の対応が難しいところがあるので、個人の能力にあわせて活用してみたい。
  • アダプティブ・ラーニングは、学校現場では求められている。現実にはとてもできないと考えられているが、ITを使うことによって可能になると考えられる。しかし、公教育においては予算の問題もあり、なかなか進まない。
  • 一斉授業中心の授業から個に対応した学びへと変わっていける点。苦手意識のある生徒へ対応可能。補習の時間がなかなか取れないなか、時間を有効に使える。
  • 一斉授業での懸念である、習熟の差による問題が減りそう。とくにハイレベルな生徒にはとてもよい。
  • 児童の能力差が大きいので、アダプティブ・ラーニングを用いると、特に吹きこぼれの児童に効果的だと思った。児童のそれぞれの理解度に応じて取り組め、結果もリアルタイムで把握できるので、困っている児童のフォローができるので、予算が許せば導入してみたい。
  • 算数の学習では個人差への対応が永遠の課題とも言えます。子ども一人一人の誤答に対して、合った補充学習をアナログで提供するのは困難を極めます。そこをAIが解析し、補充学習を提供する、という方式は大変魅力的です。トークンも設定されており、小学生が意欲的に取り組む姿が目に浮かびます。
    ただ、授業デザインをどうしていくのかによって活用の仕方が変わっていくでしょう。一斉授業ベースで考えていくとどうしても無理が生じるので、個別化・協同化をベースにしてこうしたシステムを活用できれば効果が上がるでしょう。
  • 教育活動として導入した場合、授業の役割の再定義をしっかりとすることで、カリキュラムマネジメントを促進できる。授業の持つ本来の目的を考えることで、授業で学ぶことと各自の能力に合わせて演習することとを切り分けることができる。
  • アダプティブ・ラーニングでできることとできないことが明確になっている。表現力や協働性などは、別に身につけさせるべきというスタンスは重要。すべてをICTに変えるべき、というのは無理ですし、合理的ではない。

まとめ

 最後のコメントにあるとおり、「すべてをICTに変えるべき、というのは無理ですし、合理的ではない」というところは本当にそのとおりだと思います。参加されていた東北学院大学の稲垣忠 教授が、項目を整理してまとめてくださっていましたが、アダプティブ・ラーニングのサービスを比較する際に、こうして評価軸をまとめ、どのポイントで活用したいのかということを整理することが重要だと感じます。
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 No.6に続きます。
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(為田)