年末年始の時間を使って復習しました、西川純『子どもによる子どものためのICT活用入門』を紹介します。
まえがきのところで、書かれているように、この本では、今までの類書では書いていなかった、とても簡単だけど強力な「たった3つのノウハウ」を知ることができます(p.2)
- 目指すべき子ども像をハッキリさせるというノウハウ
- 力まず力を抜くというノウハウ
- 子ども集団を信じるというノウハウ
実は、1をきちんと設定してICT導入をしていない学校は驚くほど多いです。ICT活用は目的ではなく手段ですので、当然なのですが、意外と忘れられがちです。また、2の「力まず力を抜いて」というのも、ICT活用を手段としてきちんと捉えれば、先生は先生の仕事をし続けていくということになるので、そう力まずともいい、というふうになりますが、1がしっかり議論されていないために、あまり言われていないようにも感じます。「ICTを使わなきゃ」と力む必要はない、ということですね。3は西川先生が提唱されている『学び合い』へと繋がるノウハウだと思います。
140ページ弱の本で、対談形式になっているのでサラリと読むことができる本です。サラリと読める文量でなければ、忙しい先生方が読めないでしょう?ということなのではないかな、と思います。サラリと全編読むのがいちばんいいと思いますが、僕なりに気になった点をメモし、コメントしていきたいと思います。僕なりの読み方なので、気になった方は、ぜひ原典にあたっていただければと思います。
子どもを教師の管理下で失敗させる
まず、子ども集団を信じるというノウハウから繋がるものですが、調べ学習をクラスでさせようと考えている田中先生と西川先生の会話です。先生がどれだけ準備をすべきか、どうすれば主体的に学べるか、ということについての部分です(p.34-35)。
田中:
確かに教え、教えられる子どもはかなりいると思います。しかし、そうできずに最後まで達成しない子どもやいい加減に終わってしまう子どもはかなりいると思います。
西川:
私もそう思う。
田中:
だから準備をすべきだと思います。
西川:
繰り返すけど、我々は子どもを大人に育てているんだよ。田中さんが準備すれば、おそらく失敗せずにすむ子どもはいるよ。でも、その子は大人になった時、失敗してしまう。だって、田中さんはそこにはいないのだから。
田中:
では、どうしたらいいのですか?
西川:
田中さんという教師の管理下で失敗させるんだよ。そして、教師の管理下で、子どもたち集団で乗り越えさせるんだよ。
田中:
失敗させるのですか?
西川:
軽重を考えよう。自動車産業が分からなくても子どもはちゃんとした大人になれる。しかし、分からないことがあったとき人に教えて貰えない人は大人になってから苦労する。また、分からない人がいるのに、助けてあげられない人は社会で活躍することは出来ない。どちらを優先すべきかを考えてみるべきだよ。
教室という場は、先生の目が届く範囲で、どんどん失敗してもらっていい場になるといいと思っています。そうした点で、後の方に出てくる調べ学習の型がだんだん変わってくるところを読むと、非常におもしろいと感じました。
調べ学習を、コンピュータを使ってやっていいよ、と言って学習を始める(p.54-56)
1.「丸写し型」
- ネットで検索して、記事を見つけてそのまま印刷して、模造紙にべたべたと貼り付けるだけの資料
↓
2.「模造紙まとめ型」
- 検索した情報から必要な部分を切り出し、それに自分たちのコメントをつけて資料をまとめる。
- 「なーんだ、丸写しなんだ~」とみんなに聞こえるようにつぶやくと、出てくる型。
- それを褒めると、丸写し型の班が偵察に行って、真似るようになる。
↓
3.「PCまとめ型」
これも、最初から「PCまとめ型」を教えることもできるわけですが、それでは「やらされている」ことになってしまい、卒業後もずっと使える、「どうまとめればいいのか」というスキルを腑に落ちる形で学ぶことはできません。一度、「丸写し型」でやらせてみて「あ、これはいまいちだ」と自分でわかってもらってこそのものなのかな、と感じます。
もちろん、全員がそうして簡単に腑に落ちるとはいかないので、そこには先生がどのように声をかけるか、児童生徒によって声の書け方を変えたり、というノウハウが必要になると思います。
普通のソフトの使い方を学ぶべき
どんなソフトを授業で学ぶべきかについての説明もあります(p.39-41)。ここでは、学校を卒業したら使うかどうかわからないソフトなど、使うべきではないという話が書かれています。まずは田中先生と西川先生の会話から見てみましょう。
西川:
ワードとか一太郎みたいなワープロソフト、エクセルみたいな表計算ソフトなどが思いつくね。
田中:
でも、それは教育用のソフトではないですよ。
西川:
その通り、教育用ではない。だからいいんだよ。
田中:
え?
西川:
普通のソフトだから、使える人は少なくない。保護者の中にも使える人がかなりいるよ。子どもが使いたいと思えば、家で教えて貰えるよ。なにより、田中さん自身が使えるでしょ?ことさら勉強する必要もない。それに素人にも分かりやすいマニュアルも本屋で溢れている。職員室にも置いてあるでしょ?
田中:
そうですね。
西川:
それにワード、エクセル、一太郎だったら、子どもたちは卒業後も使えるよ。(略)
田中:
でも、ごく普通のことしか出来ませんよ。
西川:
そう、ごく普通のことしか出来ない。それでいいんだよ。我々は子どもを大人に育てているんだよ。子どもたちが大人になった時を想像して。大人になった子どもたちはどんなソフトを使っているかな?ごく普通のソフトを使っているんじゃない?
田中:
しかし、あまりにも地味すぎて…
西川:
派手になることが目的ではないよね?
田中:
理屈はそうですが、子どもたちがワープロを使っているだけの授業では…
西川:
そうかな?実は子どもたち全員が機械を使いこなしている。それ自体が凄いことではない?
僕もこれには大賛成です。地味だけれども、しっかり思考や表現のサポートをしてくれるスキルを身につけることは大切だと思います。玉川学園高等部の登本先生とも、実は同じように話をしていて、「オフィスのスキルを身につけることはとても大事だと思う!」とお会いするたびにお話ししています。
blog.ict-in-education.jp
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クラスでブログを使うとき、保護者の理解を得る方法
ブログ利用についても書かれています。クラスでブログを立ち上げるときに、保護者の理解は必須(p.114)ということで、どういったプロセスで保護者に理解してもらうかが書かれています。
- ブログを立ち上げる意味をちゃんと説明
- 子どもたちがネット社会で生き残れる体験をすることの意味
- 多様な情報発信の手段があれば、多様に理解できるようになる
- 文章能力の向上。クラスの皆に読んでもらうモチベーション。短くとも毎日書けば能力は向上する
- ブログを立ち上げた際に起こるだろう問題点とそれに対する対応法を説明
- 子どもに対して環境を提供することを説明
- そのうえで、協力を依頼
- ブログにコメントを入れてもらう。
- 学級通信が、児童たちのブログが代替していく
- 先生は、ブログのコメント数をモニターし、極端なアンバランスがないかをチェックする
ブログやSNSなど、オンラインでコミュニケーションをする機会は、おそらくいまの児童生徒たちが社会に出る頃には、というか社会に出る前から、今よりも比べ物にならないくらい多くなるでしょう。いきなりそうしたオンラインでのコミュニケーションを多くするよりも、学校という場でクラスのブログがあり、先生やクラスメイトや保護者が見ているミニ公共の場でどのように振る舞うかを学ぶというのはとても意味があることだと思います。
これも、上記の「ワードやエクセルなど、普通のソフトを学べばいい」というのと同じではないかと思います。擬似的にどのくらいまでを公開範囲にするかというのは、ednity や edmodo や Yammer など、さまざまなツールがありますので、先生の方で自由に選べばいいと思います。ポイントは、先生がいつでも管理できるようにしておくこと、です。「荒れない文化」を創るために、最初は先生は大変ではないかと思うのですが、そこを過ぎて自主的に運営がされるようになっていくのが理想ではないでしょうか(そもそも、インターネット自体がそういった性格のものですし)。
まとめ
以上、僕が興味を持った部分についてだけ簡単にコメントをしてきましたが、これ以外にも、さまざまな話題が書かれていますので、興味を持った方は、ぜひ手にとってみていただければと思います。
(為田)